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第4話
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天井を仰いだ係長はデスクで未解決事案のファイルを繰り始める。係長が帰らないのに秋人が帰る訳にいかない。先日来、追い続けている連続放火の張り込みに出掛けるべく、気の毒だが紫堂の代打として係長のバディである松尾を借りた。
まずはアームホルダーを外してデスクに放り出す。連続放火は既にホシらしき学生に目を付けて行確、行動確認の段階である。腕を吊っていては目立ちすぎた。
手首の僅かな痛みを他人事のように無視し、松尾とデカ部屋を出て階段を駆け下りる。署を出て放火のあった近所の住宅街まで軽く二十分ほど走った。住宅街では先々週から三回の放火がなされている。幸い燃えたのはゴミ集積所ばかりだったが放置はできない。
外灯で照らされた住宅街に入ると歩調を緩めた。通行人を装って行確対象の住むアパートに辿り着くと窓から見られないよう向かいのアパートの陰に潜む。
時刻は二十二時前、何もかもを本部に取り上げられて爆破での実況見分や聴取などに時間を食われなかったことだけは有難いと思いながら、秋人は吸い殻パック片手に煙草を吸いつつ松尾にこの件の概要を説明した。
バイクに乗った警官が二名、目前を通り過ぎてゆく。行確も三日目ともなれば警邏も既に心得ていて、声も掛けてこない。
一本を吸い終えて吸い殻パックに突っ込んだとき、行確対象の部屋の明かりが消えた。眠るのには少々早い。こいつはきたかも知れないと思う。松尾が緊張した目で頷いた。
学生の借りたアパートにしては上等な建物を注視して待つ。まもなくエントランスのオートロックが外されガラスのドアが開いた。姿を現したのはデイパックを担いだ男が一人だ。黒っぽいウィンドブレーカーを着込んでいる。
もう馴染みとなった顔は幼さを残しているが、立派な成人で二十一歳だった。城島健一という姓名も割れている。
城島は窺うような目をして辺りを見渡すと秋人たちの潜むアパート側とは反対方向に歩き始めた。この辺りは割と造りのいいアパートと、やけに敷地の広い一軒家が混在する地区である。そんな土地を歩きながら秋人は城島の後ろ姿をじっと見つめた。
実家は会社経営で一人暮らしをしながらもアルバイトひとつせず、私大に通っている。故に苦学生が金持ちへの妬みという線もない。それでも何かと理由を見つけてはストレスに置き換えたがるのが人間だ。だが軽い気持ちで焼死体など出されては堪らない。
二十メートルほど空けて尾行してゆくと駐車場に行き当たった。
秋人たちは密やかに城島との距離を詰める。全部で六台しか駐められない小さな駐車場には軽自動車ばかりが三台、外灯にボンネットを反射させていた。あとは自転車が数台、整然と並んでいる。その片隅にゴミ集積所があるのが見えた。
緑色をしたプラスチックの囲いがされ、ゴミには猫やカラスよけに網が被せてあった。
立ち止まった城島は少々迷っているようだ。置かれたゴミが少ないからだろうか。
だが心を決めたかデイパックを降ろして中から何やら取り出し始める。その手にしたものがライターよりかなり大きいと気付いて秋人の脳内で警鐘が鳴り出した。外灯で見たそれはレンガくらいの大きさで長いコードがついていた。
コードに繋がっているのが信管だと思い至って吸い込んだ息を止めた。駐車場はアパートに囲まれていてそこには勿論人が暮らしている。しかし声すら出せず秋人は松尾の腕を引っ掴んで今歩いてきたばかりの道を全速力で駆け戻ることしかできない。
桁違いの爆音は殆ど聞こえなかった。代わりに背を熱い固体のような空気が叩く。前のめりに吹っ飛ばされそうになり、咳き込みながら思わず松尾の腕を離した。アスファルトの道路に這ったまま地面に爪を立てる。バラバラと固い雨が降り注いだ。
気付くと小さな声で松尾が何か喋っていた。自分は大声で返したが互いによく聞き取れない。それで秋人は一時的に鼓膜をやられたことを知る。異物の雨がやんで膝立ちになり、携帯で署に連絡及び救急要請した。受理されたかどうか確認するまで苦労する。
ようやく通話を切って秋人と松尾が大声で喋っていると無事だった周辺の住宅から何事かと人々が駆け出してきてこちらも大声を上げ始めた。
秋人と松尾も互いの無事を目視確認して現場に戻る。三台の軽自動車は目茶苦茶に壊れ、周囲のアパートの窓は吹き飛んでいた。
近くの部屋は先程まで点いていた明かりさえ破壊されたようで真っ暗だ。
それだけではない。ゴミ集積所だったアスファルトには大穴が空いて赤馬、つまり放火魔である城島健一の末路だろう赤黒い液体が地面にべったりこびりついている。
「赤馬が何だって自爆なんスかね?」
「さあな。プラスチック爆薬に信管にリード。ただの学生の持ち物じゃねぇよ」
「それにしても一日に二度も爆破は勘弁っスよねえ」
秋人と松尾は地面に空いた大穴を覗き込んで頭を振った。未だに耳が痛い。
二人が半ば呆然としているうちにバイクの警邏二名と機動捜査隊が現着する。次に篠宮署の鑑識を含む刑事課員と救急車二台がやってきた。緊急音を聞いて周辺アパートからガラスなどで怪我をした住民が続々と出てくる。
悲鳴と怒号が辺りを席捲し、現場は一時混乱を極めた。救急車が追加で現着し、秋人たちも救急隊員に混じって誘導に奔走する。
結局怪我人は十五名にも及んだ。そんな騒動のさなかにガス会社の緊急車両までが地下パイプのガス漏れ点検にやってくる。
現場には黄色いバリケードテープで規制線が張られていたが、お蔭で一段落ついてみると殆ど固体でなくなった放火学生は人々に踏みしだかれたあとだった。
悔しさから秋人は却って無表情となり、松尾も話し掛けるのをためらっている。
更に現着したのは県警捜一の一団だったが社会的影響が大きな事件の場合、捜一の臨場はおかしいことではない。今回は死者も出ているのだ。
だが夕方のパチンコ店ATMに続く爆弾騒ぎである。情報の保秘が云々などという県警刑事部長の舌の根も乾かぬうちにこれだ。誰一人としてATM爆破と無関係だと思う奴はいないだろう。
どう関係しているのか、県警上層部は掴んでいるのか。掴んでいる、または掴んだとしても情報は『末端』まで降りてくるのか。そんなことを考えて秋人は奥歯を噛み締める。
そのため秋人は現場組が悪い訳ではないのだと承知しながらも捜一の質問に対して完黙し、うろたえた松尾が秋人の顔色を窺いつつ要領を得ない説明に終始することになった。
一方でようやくブルーシートを張って強力なライトを設置した鑑識が這いつくばってローラーをかけ、リードと信管の欠片を発見した上に得物は可塑性爆薬を使用した爆弾だということまで探り出している。
「ふあーあ。これで捜査本部が立つのは必至ってことですね」
「たぶんな。あーあ、帳場が立つのか。暫くウチの布団ともおさらばだな」
非常呼集で呼ばれた遠山と箱崎の巡査コンビが暢気に欠伸をかましていると、沢木係長が二人の頭を張り飛ばした。二人とも寝ぐせ頭にジャージ姿だったからだ。
「アホか、貴様らは! 零時ジャストに署に集合、それまでに着替えてこい!」
騒いでいる間に捜一が現場を確認し終え、鑑識が採取するべきをしたのちに地面から遺体を引っぺがす陰惨な作業に取り掛かっている。こんなブツを解剖可能なのだろうかと秋人は思いながら無言で捜一や機捜に鑑識を城島のアパートまで案内した。
アパートの壁に貼られたプレートを見て管理会社に連絡し、鍵を調達するよう依頼して暫し待つ。十五分ほど経って車でやってきた社員は緊張した面持ちで二階の二〇三号室のロックを解いた。捜査員が靴袋を履いて室内を覗き込む。
まだ鑑識作業前ということで室内の何処にも触れることはできないが、雰囲気は掴めた。
軒下には洗濯物がぶら下がっていて、城島が自死覚悟で部屋を空けたとは思えない。デスク上のノートパソコンもスリープのままである。
私立大学経済学部のテキスト類が並んだデスクとノーパソを見ると、まさかここから数百メートルしか離れていない所で木っ端微塵のスプレッドになったとは思えず、今にも主が帰ってきそうな気すらした。
ざっと室内を見てしまうと、あとは鑑識に任せて残りの人員は部屋から出る。
管理会社の男からスペアキィを二本貰い、一本は当然ながら鑑識が、もう一本は捜一の警部補が受け取った。ここでも所轄刑事課はないがしろにされたようなものだがこれに関しては文句を言っても始まらないので秋人も無言で鉄面皮を通し抜く。
そこで受令機を通して正式に【署に集合】命令が下った。
本来なら真っ先に現場責任者が地区割りをして捜査員は一斉に地取り、つまり現場周辺の聞き込みに出るところだが、時間が時間で住宅街を練り歩く訳にもいかない。同じくミンチになった城島の敷鑑、いわゆる人間関係を洗うのも明日からということだ。
まずはアームホルダーを外してデスクに放り出す。連続放火は既にホシらしき学生に目を付けて行確、行動確認の段階である。腕を吊っていては目立ちすぎた。
手首の僅かな痛みを他人事のように無視し、松尾とデカ部屋を出て階段を駆け下りる。署を出て放火のあった近所の住宅街まで軽く二十分ほど走った。住宅街では先々週から三回の放火がなされている。幸い燃えたのはゴミ集積所ばかりだったが放置はできない。
外灯で照らされた住宅街に入ると歩調を緩めた。通行人を装って行確対象の住むアパートに辿り着くと窓から見られないよう向かいのアパートの陰に潜む。
時刻は二十二時前、何もかもを本部に取り上げられて爆破での実況見分や聴取などに時間を食われなかったことだけは有難いと思いながら、秋人は吸い殻パック片手に煙草を吸いつつ松尾にこの件の概要を説明した。
バイクに乗った警官が二名、目前を通り過ぎてゆく。行確も三日目ともなれば警邏も既に心得ていて、声も掛けてこない。
一本を吸い終えて吸い殻パックに突っ込んだとき、行確対象の部屋の明かりが消えた。眠るのには少々早い。こいつはきたかも知れないと思う。松尾が緊張した目で頷いた。
学生の借りたアパートにしては上等な建物を注視して待つ。まもなくエントランスのオートロックが外されガラスのドアが開いた。姿を現したのはデイパックを担いだ男が一人だ。黒っぽいウィンドブレーカーを着込んでいる。
もう馴染みとなった顔は幼さを残しているが、立派な成人で二十一歳だった。城島健一という姓名も割れている。
城島は窺うような目をして辺りを見渡すと秋人たちの潜むアパート側とは反対方向に歩き始めた。この辺りは割と造りのいいアパートと、やけに敷地の広い一軒家が混在する地区である。そんな土地を歩きながら秋人は城島の後ろ姿をじっと見つめた。
実家は会社経営で一人暮らしをしながらもアルバイトひとつせず、私大に通っている。故に苦学生が金持ちへの妬みという線もない。それでも何かと理由を見つけてはストレスに置き換えたがるのが人間だ。だが軽い気持ちで焼死体など出されては堪らない。
二十メートルほど空けて尾行してゆくと駐車場に行き当たった。
秋人たちは密やかに城島との距離を詰める。全部で六台しか駐められない小さな駐車場には軽自動車ばかりが三台、外灯にボンネットを反射させていた。あとは自転車が数台、整然と並んでいる。その片隅にゴミ集積所があるのが見えた。
緑色をしたプラスチックの囲いがされ、ゴミには猫やカラスよけに網が被せてあった。
立ち止まった城島は少々迷っているようだ。置かれたゴミが少ないからだろうか。
だが心を決めたかデイパックを降ろして中から何やら取り出し始める。その手にしたものがライターよりかなり大きいと気付いて秋人の脳内で警鐘が鳴り出した。外灯で見たそれはレンガくらいの大きさで長いコードがついていた。
コードに繋がっているのが信管だと思い至って吸い込んだ息を止めた。駐車場はアパートに囲まれていてそこには勿論人が暮らしている。しかし声すら出せず秋人は松尾の腕を引っ掴んで今歩いてきたばかりの道を全速力で駆け戻ることしかできない。
桁違いの爆音は殆ど聞こえなかった。代わりに背を熱い固体のような空気が叩く。前のめりに吹っ飛ばされそうになり、咳き込みながら思わず松尾の腕を離した。アスファルトの道路に這ったまま地面に爪を立てる。バラバラと固い雨が降り注いだ。
気付くと小さな声で松尾が何か喋っていた。自分は大声で返したが互いによく聞き取れない。それで秋人は一時的に鼓膜をやられたことを知る。異物の雨がやんで膝立ちになり、携帯で署に連絡及び救急要請した。受理されたかどうか確認するまで苦労する。
ようやく通話を切って秋人と松尾が大声で喋っていると無事だった周辺の住宅から何事かと人々が駆け出してきてこちらも大声を上げ始めた。
秋人と松尾も互いの無事を目視確認して現場に戻る。三台の軽自動車は目茶苦茶に壊れ、周囲のアパートの窓は吹き飛んでいた。
近くの部屋は先程まで点いていた明かりさえ破壊されたようで真っ暗だ。
それだけではない。ゴミ集積所だったアスファルトには大穴が空いて赤馬、つまり放火魔である城島健一の末路だろう赤黒い液体が地面にべったりこびりついている。
「赤馬が何だって自爆なんスかね?」
「さあな。プラスチック爆薬に信管にリード。ただの学生の持ち物じゃねぇよ」
「それにしても一日に二度も爆破は勘弁っスよねえ」
秋人と松尾は地面に空いた大穴を覗き込んで頭を振った。未だに耳が痛い。
二人が半ば呆然としているうちにバイクの警邏二名と機動捜査隊が現着する。次に篠宮署の鑑識を含む刑事課員と救急車二台がやってきた。緊急音を聞いて周辺アパートからガラスなどで怪我をした住民が続々と出てくる。
悲鳴と怒号が辺りを席捲し、現場は一時混乱を極めた。救急車が追加で現着し、秋人たちも救急隊員に混じって誘導に奔走する。
結局怪我人は十五名にも及んだ。そんな騒動のさなかにガス会社の緊急車両までが地下パイプのガス漏れ点検にやってくる。
現場には黄色いバリケードテープで規制線が張られていたが、お蔭で一段落ついてみると殆ど固体でなくなった放火学生は人々に踏みしだかれたあとだった。
悔しさから秋人は却って無表情となり、松尾も話し掛けるのをためらっている。
更に現着したのは県警捜一の一団だったが社会的影響が大きな事件の場合、捜一の臨場はおかしいことではない。今回は死者も出ているのだ。
だが夕方のパチンコ店ATMに続く爆弾騒ぎである。情報の保秘が云々などという県警刑事部長の舌の根も乾かぬうちにこれだ。誰一人としてATM爆破と無関係だと思う奴はいないだろう。
どう関係しているのか、県警上層部は掴んでいるのか。掴んでいる、または掴んだとしても情報は『末端』まで降りてくるのか。そんなことを考えて秋人は奥歯を噛み締める。
そのため秋人は現場組が悪い訳ではないのだと承知しながらも捜一の質問に対して完黙し、うろたえた松尾が秋人の顔色を窺いつつ要領を得ない説明に終始することになった。
一方でようやくブルーシートを張って強力なライトを設置した鑑識が這いつくばってローラーをかけ、リードと信管の欠片を発見した上に得物は可塑性爆薬を使用した爆弾だということまで探り出している。
「ふあーあ。これで捜査本部が立つのは必至ってことですね」
「たぶんな。あーあ、帳場が立つのか。暫くウチの布団ともおさらばだな」
非常呼集で呼ばれた遠山と箱崎の巡査コンビが暢気に欠伸をかましていると、沢木係長が二人の頭を張り飛ばした。二人とも寝ぐせ頭にジャージ姿だったからだ。
「アホか、貴様らは! 零時ジャストに署に集合、それまでに着替えてこい!」
騒いでいる間に捜一が現場を確認し終え、鑑識が採取するべきをしたのちに地面から遺体を引っぺがす陰惨な作業に取り掛かっている。こんなブツを解剖可能なのだろうかと秋人は思いながら無言で捜一や機捜に鑑識を城島のアパートまで案内した。
アパートの壁に貼られたプレートを見て管理会社に連絡し、鍵を調達するよう依頼して暫し待つ。十五分ほど経って車でやってきた社員は緊張した面持ちで二階の二〇三号室のロックを解いた。捜査員が靴袋を履いて室内を覗き込む。
まだ鑑識作業前ということで室内の何処にも触れることはできないが、雰囲気は掴めた。
軒下には洗濯物がぶら下がっていて、城島が自死覚悟で部屋を空けたとは思えない。デスク上のノートパソコンもスリープのままである。
私立大学経済学部のテキスト類が並んだデスクとノーパソを見ると、まさかここから数百メートルしか離れていない所で木っ端微塵のスプレッドになったとは思えず、今にも主が帰ってきそうな気すらした。
ざっと室内を見てしまうと、あとは鑑識に任せて残りの人員は部屋から出る。
管理会社の男からスペアキィを二本貰い、一本は当然ながら鑑識が、もう一本は捜一の警部補が受け取った。ここでも所轄刑事課はないがしろにされたようなものだがこれに関しては文句を言っても始まらないので秋人も無言で鉄面皮を通し抜く。
そこで受令機を通して正式に【署に集合】命令が下った。
本来なら真っ先に現場責任者が地区割りをして捜査員は一斉に地取り、つまり現場周辺の聞き込みに出るところだが、時間が時間で住宅街を練り歩く訳にもいかない。同じくミンチになった城島の敷鑑、いわゆる人間関係を洗うのも明日からということだ。
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