葉桜

志賀雅基

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第5話

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 現場に戻ると既に二十三時四十五分、秋人と松尾は機捜の覆面に便乗させて貰い、篠宮署に戻る。篠宮署の三階大会議室は警務課が電話や無線機その他の増設作業中で秋人たちは皆川課長に命じられ長机やパイプ椅子を並べる力仕事だ。

 ようやく作業を終えると真っ先に捜一がやってきて、秋人らが運んできたばかりの椅子にどっかり腰掛ける。更に威嚇的な目をした組対の人員までが一角に陣取った。

 何もかも明日に持ち越しだというのに、朝一番ではなくこんな時間に総員揃って捜査会議になだれ込むのも異例といえば異例だった。嗅ぎつけたメディアのカメラが署のエントランスに張り付いているため窓外がライトでやたらと眩しい。

 そうして捜査本部長である篠宮署長と、実際に帳場を仕切る県警の管理官が姿を見せ、壇上のデスクに就いて帳場の体裁が整う。
 だが続いて県警捜査一課長や組対の課長二名に例の刑事部長までが登壇し、オブザーバーなる名目で着席した。通常なら考えられない面子に所轄組はざわめく。

 学生一人が爆死して冷たいようだが、この顔ぶれは豪華すぎた。
 これでは連続で起こった爆破事件を関係アリと認めているようなものである。

 きっちり本部組と所轄組が分かれて腰掛けた大会議室に皆川課長が号令を掛けた。

「気を付け! 敬礼!」

 それから長々とお偉方の紹介が続き、やっと本題に入ると同時に秋人と松尾が呼ばれて起立する。秋人は殆どの説明を松尾に任せて、言葉足らずな分だけ補完するに留まった。
 ミンチになった赤馬が私立三沢みさわ大学経済学部三回生の城島健一だと告げると、既に敷鑑の初手をものにしている事実に、県警組が囁き合いつつ穏やかでない目を向けてくる。

 次に鑑識による現在判明している範囲内での報告が始まった。

 爆破はセムテックスに信管とリードを繋ぎ、電池をセットしたリードを直結させて信管に着火させるというごく簡単な方式でなされており、松尾の証言からリードの長さは推定約五十センチとされた。
 僅かでも常識的判断力があれば、五十センチ先で起こる爆発から自分が逃げ切れないことくらいは分かる筈である。誰もが溜息をつくしかなかった。

 だが赤馬の城島なら『もっと派手に花火を打ち上げよう』、『これは時限式で一分後に起爆する』などと言われれば、疑いもせず受け取るかも知れないと秋人は思う。

 ここ三日の行確で夜間に怪しい人物との接触はなかった。すると昼間か四日以上前ということになる。先々週から四日前の晩までに放火は三回。その事実を脳内で転がしながら現代の日本であり得ない末路を辿った城島の幼顔を思い浮かべ、悔しさを再燃させた。

「先輩、秋人先輩!」
「んあ、何だ、どうした?」
「『何だ』じゃないっスよ。明日からの地取りと敷鑑の区割りで一旦解散です」

 妙に遠慮がちな松尾の声で目を上げると、ホワイトボードに拡大された住宅地図と三沢大学周辺の地図が貼られ、カラーペンで担当エリアが区切られていて、それぞれ二人一組で名前が書き込まれていた。だがその何処にも秋人の名前は見当たらない。

 本来松尾は沢木係長のバディであり、夕月秋人のバディは病院のベッドで寝ている雪村紫堂だ。つまりバディがいない。
 だがこういった場合は本部の人員と所轄の人員を組ませるのが普通である。それなのに行確までしていた秋人が外されたのは、もしかして県警刑事部長の警視長に対してあのような所業に及んだことと何か関係があるのだろうか。

 何れにせよ秋人は捜査本部に組み込まれることなく完全に蚊帳の外に置かれたということだった。気の抜けたような思いで大会議室を出てゆく帳場要員の背を眺める。

 彼らの大部分は階段を上がって行く。捜査を長期化させずマル被を検挙する目的で最初の約三週間は泊まり込みになるのだ。そのため四階の武道場にはシャワーが完備され、布団も敷かれて宿泊所になっていた。

 だが暢気に眠れる訳もなく昼夜関係なく動かねばならない日が殆どである。彼らを見送った秋人は夜討ち朝駆けにならずラッキィという気持ちが一割、残り九割は悔しさと侘びしさで石でも呑んだようだった。

 だからといって遊んではいられない。今日の城島の件を報告書類にして提出しなければならないのは当然のことながら他にも事件は山積している。一人で何ができるか知れないが、僅かずつでも進めておかなければならない。

 ともかく帳場要員でない秋人は身の置き所がない気分で二階のデカ部屋に戻った。一日二日の徹夜でへばるほどヤワではなく、自宅アパートも歩いて帰れる距離だったが、自室に帰っても安穏と眠れそうになかったので、パイプ椅子を三脚並べて横になった。

 刑事を暫くやると大抵の場所で眠ることが可能になる。幸い季候も悪くない。
 それでも捜査本部から外された意味を考え、地面にべっとり張り付いた人間一人を思い浮かべて、悔しさと鼻孔に残る異臭とがいつまでも秋人の眠りを妨害していた。

◇◇◇◇

 ざわめきで目を覚ますと朝一発目の捜査会議を控えた帳場要員たちが不味く泥水並みのコーヒーにありついて、デカ部屋内を煙草の煙でいっぱいにしていた。朝っぱらから帳場の世話役である皆川課長の手配した近所のコンビニ弁当を頬張っている猛者もいる。

 だが誰一人として秋人に話し掛けてくる者はいない。

 まるで懲戒でも食らったようだと思いながら咥え煙草でマグカップにコーヒーを淹れた。煙草二本目で頭のロクロが回り出し、まずは紫堂の見舞いに行こうと決める。この自分を助けようとしたために負傷したのだ、一度くらい顔を見せても罰は当たるまい。

 午後からなら面会可能だろうと思い、それまで城島の件を報告書類に起こそうと、パソコンのファイルからプリンタで書類を打ち出した。
 山盛りになった灰皿の吸い殻を捨て、二杯目のコーヒーを淹れる。その頃には潮が引いたように帳場要員は消えていた。
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