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第10話
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キィロックを解いて入ると、窓に面した室内は少し埃臭かった。
だが綺麗に掃除されていて、応接セットとデスク二台にパソコンと電話やFAXの他、二系統の無線機とコーヒーメーカまで鎮座していた。パーテーションの向こうにロッカーも二台。これらをたった二人で使用するのはデカ部屋より好待遇だ。
「さてと、まずは何処から手を付けるかだね。やっぱり予告状?」
「ああ。あの予告状の文面にヤクザ臭はなかった。得物を入手可能な筆頭は密輸ルートを持つ暴力団とはいえ、最初から主力として組対が出張るだけの何かがあるんだ。まだ俺たちの見てない何かが、な」
「じゃあ、もうすぐ夕食の時間だし、僕が食堂に例の婦警を呼び出すから」
ためらいなく紫堂は警電を取ると交換室を介し秘書室に繋いで貰う。首尾良く約束を取り付けたらしくドアから出て行く間際に秋人の前髪をクシャリと掴んでいった。
取り残された秋人は溜息をついて黒髪を撫でつけ、自分も夕食を摂るため部屋を出てロックする。食堂は七階、喫茶室が五階にあった。迷った末に七階に向かう。婦警と紫堂の会食を覗き見するようで悪趣味な気がしたが、それも却って自意識過剰かと思い直したのだ。
初めて足を踏み入れた食堂は広大だった。利用者も多く混み合っている。
これなら互いに分かるまいと秋人は思ったが、食券を購入して振り向いた矢先に婦警と並んで腰掛けた紫堂を発見してしまう。同時に向こうもこちらを見つけたのが分かってアイコンタクトのみで合図し、ビュッフェ形式の夕食を適当に盛りつけた。
トレイを手に長テーブルの一角を確保すると、努めて紫堂たちの方を見ないようにしながら一人飯に没頭する。あらかた平らげてふと気配に気づき顔を上げると、長テーブルを制服婦警が隙間なく埋めていて少々驚いた。何だかチェックメイトでもされたような気分だ。
何事なのかと思い、見回すと黄色い声が上がる。
「あのう、ご迷惑だったらすみません。何処に所属されてるんですか?」
「あー、研修でよそから来てるだけなんで」
それ以上突っ込まれないよう、秋人は刑事の早食いで全てをさらえると、「お先に」とだけ言い残してトレイを返し食堂を出た。
囲んでいた婦警の中にはそそるタイプの女性もいて僅かながら勿体ないと思ったのは事実だが、今は目の保養だけで我慢だ。前の彼女と綺麗に別れてまだ半月、ここで仕事を忘れるほど飢えてはいない。
第五倉庫に戻ると咥え煙草で何気なく室内のあらゆる箇所を検めてみた。腰巾着警視正などという存在やSM巡査長を思い浮かべたからだが、何処にも盗聴器らしきブツは見当たらなかった。尤もその気で仕掛ければ発見は不可能だろう。
だが二台のスチールロッカーを開けてみたところ、片方にずっしりと重い手提げ鞄が入っていて『爆弾じゃないだろうな?』と馬鹿なことを考えつつ中を見る。
中には二丁の銃が収まっていた。それもフルサイズのセミオートだ。
組対が噛んでいる以上は暴力団事案の可能性があり、それなりに捜査には危険が伴うことも考えられたが、まさかここまでとは思わずに暫し考え込む。
普通の刑事は拳銃の常時携帯などしていない。常に銃を携帯しているのは凶悪犯と出くわす確率の高い初動捜査専門の機動捜査隊か、テロなどの標的にされやすい制服警官、あとは要人警護のSPくらいのものだ。それらの他は危険なガサ入れ時や凶悪犯が逃亡している場合などに適宜、拳銃携帯許可がようやく下りるシステムである。
一丁をデスクに置いて二本目の煙草を吸いながらじっと眺めた。
イタリアのピエトロ・ベレッタ社が法執行機関用に開発したベレッタ92ヴァーテックという日本の警察でもごく一部が採用しているものだ。
薬室一発マガジン十五発の合計十六発を発射可能なセミ・オートマチック・ピストルで使用弾は九ミリパラベラムである。
このタイプを扱うのは秋人も初めてだったが、ときに命を預ける自分の銃を自分で整備するのは鉄則だ。煙草を慎重に消し、満タンに装填されたマガジンを抜くとチャンバに装填してあった一発も取り出し、完全にアンロードする。
フィールドストリッピングという簡易分解をしてみると、パーツには硝煙もスラッグという金属屑も付着していなくて新品同様だと分かった。
こんな代物を二丁も都合つけるのはヤクザの世界より難しい筈である。
またも自分がどんなに危険なことに足を突っ込んでしまったのかに思いを馳せたのち、手早く組み上げてダブルカラムマガジンを叩き込み、スライドを引いてチャンバにまで装填すると、減ったマガジンの一発も足してフルロードに戻す。
弾薬をフルロードしっ放しだと弾倉のスプリングが弱って肝心な時に弾詰まりを起こす可能性もあるが、短期間だけ自分の身を護れたらいいのだと割り切ってフル装填したまま弾薬は抜かなかった。
あとは鞄にショルダーホルスタが一緒に入っていた。故に今のセーターという格好では銃を携行できない。明日の最初の仕事はジャケットを買いに行くことに決まりだった。
腕組みして再びデスク上の銃を眺めていると紫堂が帰ってくる。部屋に入って来るなり珍しくも勢い込んで喋り出した。
「収穫ありだよ。県警本部長の奥さんの弟が西宝金属工業の社長なんだけど、その自宅倉庫が爆発して、駆けつけて現場の調査に当たった消防署員が一人、数日後に交通事故で死んだって……何だ、それ?」
「ベレッタ、ヴァーテック」
「90-Two?」
「いや、M9だ」
「うわ、旧いね。大丈夫?」
「俺に訊かれても困るが、おそらくは。ブツは新品みたいだしな、アメちゃんの払い下げじゃなく」
「それは却ってレアかもね。んで、何処からパチってきたのかな」
「パチってねぇよ。お前の分もあるぞ、ロッカーの鞄の中。それより爆発がどうしたって?」
「ガス爆発ってことで収めたらしいけど、消防署員が轢き逃げされて死んでる」
「ふん。その消防士は見ちゃならねぇものでも見たのか?」
「さあね。でも爆発繋がりでホシのターゲットは県警本部長って線が浮上したよ」
現在の県警本部長もキャリア組だが元はマル暴畑から始まって一転し、警察庁警備局の公安を経て現在の地位に上り詰めた人物である。つまり暴力団と過激派、大雑把にいえば右翼と左翼の両方から恨みを買っているということだ。
親戚の倉庫だけならともかく、ATMと赤馬学生の爆破がどのように絡むのかは分からないが、暴力団からの脅迫もしくは左翼の報復というのはあり得る。
「新川の説を取り上げるなら、暴力団系列じゃねぇかも知れんな」
「確かに現代の日本でテロをやらかすような極右なんて殆ど存在しないからね」
「街宣車を乗り回す右翼だの、その思想を支持してバックを務める組関係者だのが、左翼系の十八番である爆破予告に時限爆弾っつーのもしっくりこねぇもんな」
「けど県警本部長ターゲット説は外せないよ」
涼しい顔ながら紫堂は早速一歩前進して機嫌がいいようだ。食後の煙草も一本で切り上げ、ロッカーから銃を取り出すとフィールドストリッピングを始める。
滑らかな紫堂の指の動きを見ながら秋人は考えた。
本部に爆破予告状が届いただけでなく、本部長個人に対しても脅迫状が送られていたのかも知れず、そのため本部長直々の命令で上層部が保秘に奔走しているとも考えられる。
何れにせよこの分では本部組であっても現場は何ひとつ知らされていないと思われた。必要な情報なくしてマル被の検挙などあり得ない。不毛な帳場の同輩たちは気の毒な限りだった。いっそ戻って爆破予告状だけでも晒してやろうかと思う。
しかし喩え全ての情報がもたらされたとしても、自分たちが総合的見地から事件を俯瞰することはない。自分たち現場組は単なるパーツに過ぎない。
樹木でいえば一枚の葉っぱのような存在だ。晴れやかに咲き誇ることもなく、職務を忠実にこなして、そこにただ有り続ける。
そんなサツカンが全国で二十六万人ほどもいて日本の警察は成り立っているのだ。
プライドを持っていなければとても務まらない仕事だった。
だが綺麗に掃除されていて、応接セットとデスク二台にパソコンと電話やFAXの他、二系統の無線機とコーヒーメーカまで鎮座していた。パーテーションの向こうにロッカーも二台。これらをたった二人で使用するのはデカ部屋より好待遇だ。
「さてと、まずは何処から手を付けるかだね。やっぱり予告状?」
「ああ。あの予告状の文面にヤクザ臭はなかった。得物を入手可能な筆頭は密輸ルートを持つ暴力団とはいえ、最初から主力として組対が出張るだけの何かがあるんだ。まだ俺たちの見てない何かが、な」
「じゃあ、もうすぐ夕食の時間だし、僕が食堂に例の婦警を呼び出すから」
ためらいなく紫堂は警電を取ると交換室を介し秘書室に繋いで貰う。首尾良く約束を取り付けたらしくドアから出て行く間際に秋人の前髪をクシャリと掴んでいった。
取り残された秋人は溜息をついて黒髪を撫でつけ、自分も夕食を摂るため部屋を出てロックする。食堂は七階、喫茶室が五階にあった。迷った末に七階に向かう。婦警と紫堂の会食を覗き見するようで悪趣味な気がしたが、それも却って自意識過剰かと思い直したのだ。
初めて足を踏み入れた食堂は広大だった。利用者も多く混み合っている。
これなら互いに分かるまいと秋人は思ったが、食券を購入して振り向いた矢先に婦警と並んで腰掛けた紫堂を発見してしまう。同時に向こうもこちらを見つけたのが分かってアイコンタクトのみで合図し、ビュッフェ形式の夕食を適当に盛りつけた。
トレイを手に長テーブルの一角を確保すると、努めて紫堂たちの方を見ないようにしながら一人飯に没頭する。あらかた平らげてふと気配に気づき顔を上げると、長テーブルを制服婦警が隙間なく埋めていて少々驚いた。何だかチェックメイトでもされたような気分だ。
何事なのかと思い、見回すと黄色い声が上がる。
「あのう、ご迷惑だったらすみません。何処に所属されてるんですか?」
「あー、研修でよそから来てるだけなんで」
それ以上突っ込まれないよう、秋人は刑事の早食いで全てをさらえると、「お先に」とだけ言い残してトレイを返し食堂を出た。
囲んでいた婦警の中にはそそるタイプの女性もいて僅かながら勿体ないと思ったのは事実だが、今は目の保養だけで我慢だ。前の彼女と綺麗に別れてまだ半月、ここで仕事を忘れるほど飢えてはいない。
第五倉庫に戻ると咥え煙草で何気なく室内のあらゆる箇所を検めてみた。腰巾着警視正などという存在やSM巡査長を思い浮かべたからだが、何処にも盗聴器らしきブツは見当たらなかった。尤もその気で仕掛ければ発見は不可能だろう。
だが二台のスチールロッカーを開けてみたところ、片方にずっしりと重い手提げ鞄が入っていて『爆弾じゃないだろうな?』と馬鹿なことを考えつつ中を見る。
中には二丁の銃が収まっていた。それもフルサイズのセミオートだ。
組対が噛んでいる以上は暴力団事案の可能性があり、それなりに捜査には危険が伴うことも考えられたが、まさかここまでとは思わずに暫し考え込む。
普通の刑事は拳銃の常時携帯などしていない。常に銃を携帯しているのは凶悪犯と出くわす確率の高い初動捜査専門の機動捜査隊か、テロなどの標的にされやすい制服警官、あとは要人警護のSPくらいのものだ。それらの他は危険なガサ入れ時や凶悪犯が逃亡している場合などに適宜、拳銃携帯許可がようやく下りるシステムである。
一丁をデスクに置いて二本目の煙草を吸いながらじっと眺めた。
イタリアのピエトロ・ベレッタ社が法執行機関用に開発したベレッタ92ヴァーテックという日本の警察でもごく一部が採用しているものだ。
薬室一発マガジン十五発の合計十六発を発射可能なセミ・オートマチック・ピストルで使用弾は九ミリパラベラムである。
このタイプを扱うのは秋人も初めてだったが、ときに命を預ける自分の銃を自分で整備するのは鉄則だ。煙草を慎重に消し、満タンに装填されたマガジンを抜くとチャンバに装填してあった一発も取り出し、完全にアンロードする。
フィールドストリッピングという簡易分解をしてみると、パーツには硝煙もスラッグという金属屑も付着していなくて新品同様だと分かった。
こんな代物を二丁も都合つけるのはヤクザの世界より難しい筈である。
またも自分がどんなに危険なことに足を突っ込んでしまったのかに思いを馳せたのち、手早く組み上げてダブルカラムマガジンを叩き込み、スライドを引いてチャンバにまで装填すると、減ったマガジンの一発も足してフルロードに戻す。
弾薬をフルロードしっ放しだと弾倉のスプリングが弱って肝心な時に弾詰まりを起こす可能性もあるが、短期間だけ自分の身を護れたらいいのだと割り切ってフル装填したまま弾薬は抜かなかった。
あとは鞄にショルダーホルスタが一緒に入っていた。故に今のセーターという格好では銃を携行できない。明日の最初の仕事はジャケットを買いに行くことに決まりだった。
腕組みして再びデスク上の銃を眺めていると紫堂が帰ってくる。部屋に入って来るなり珍しくも勢い込んで喋り出した。
「収穫ありだよ。県警本部長の奥さんの弟が西宝金属工業の社長なんだけど、その自宅倉庫が爆発して、駆けつけて現場の調査に当たった消防署員が一人、数日後に交通事故で死んだって……何だ、それ?」
「ベレッタ、ヴァーテック」
「90-Two?」
「いや、M9だ」
「うわ、旧いね。大丈夫?」
「俺に訊かれても困るが、おそらくは。ブツは新品みたいだしな、アメちゃんの払い下げじゃなく」
「それは却ってレアかもね。んで、何処からパチってきたのかな」
「パチってねぇよ。お前の分もあるぞ、ロッカーの鞄の中。それより爆発がどうしたって?」
「ガス爆発ってことで収めたらしいけど、消防署員が轢き逃げされて死んでる」
「ふん。その消防士は見ちゃならねぇものでも見たのか?」
「さあね。でも爆発繋がりでホシのターゲットは県警本部長って線が浮上したよ」
現在の県警本部長もキャリア組だが元はマル暴畑から始まって一転し、警察庁警備局の公安を経て現在の地位に上り詰めた人物である。つまり暴力団と過激派、大雑把にいえば右翼と左翼の両方から恨みを買っているということだ。
親戚の倉庫だけならともかく、ATMと赤馬学生の爆破がどのように絡むのかは分からないが、暴力団からの脅迫もしくは左翼の報復というのはあり得る。
「新川の説を取り上げるなら、暴力団系列じゃねぇかも知れんな」
「確かに現代の日本でテロをやらかすような極右なんて殆ど存在しないからね」
「街宣車を乗り回す右翼だの、その思想を支持してバックを務める組関係者だのが、左翼系の十八番である爆破予告に時限爆弾っつーのもしっくりこねぇもんな」
「けど県警本部長ターゲット説は外せないよ」
涼しい顔ながら紫堂は早速一歩前進して機嫌がいいようだ。食後の煙草も一本で切り上げ、ロッカーから銃を取り出すとフィールドストリッピングを始める。
滑らかな紫堂の指の動きを見ながら秋人は考えた。
本部に爆破予告状が届いただけでなく、本部長個人に対しても脅迫状が送られていたのかも知れず、そのため本部長直々の命令で上層部が保秘に奔走しているとも考えられる。
何れにせよこの分では本部組であっても現場は何ひとつ知らされていないと思われた。必要な情報なくしてマル被の検挙などあり得ない。不毛な帳場の同輩たちは気の毒な限りだった。いっそ戻って爆破予告状だけでも晒してやろうかと思う。
しかし喩え全ての情報がもたらされたとしても、自分たちが総合的見地から事件を俯瞰することはない。自分たち現場組は単なるパーツに過ぎない。
樹木でいえば一枚の葉っぱのような存在だ。晴れやかに咲き誇ることもなく、職務を忠実にこなして、そこにただ有り続ける。
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