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第11話
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つらつらと考えている間に紫堂は内部点検した銃を組み上げるとベルトの腹、やや左側に差し込んでセーターで隠した。秋人も倣って腹に得物を呑む。
「明日は買い物してから、本部長を恨んでる人物のピックアップだ」
「生きてるのが不思議なほど出てくる方に千円賭けるよ」
「まあ、そいつとセムテックスを入手可能って条件を掛け合わせれば、ある程度まで絞り込めるかも知れん」
「一万人が五千人くらいにはなるかもね」
聞き流して腕時計を見ると二十時過ぎだった。第五倉庫を出てロックするとエレベーターで一階に降りる。県警上層部に対するスパイでもある二人は遠慮がちに一番人の出入りの少ない裏口から出た。
官舎の手前にはコンビニがあって、煌々と明るく外灯の役目も果たしている。そこでウィスキーやコーヒーに明日の朝食用の握り飯などを購入してから初帰宅した。
部屋の備品の電気ポットを洗ってセットし、沸くまでの間にまだシャワーしか使えないという紫堂を先にバスルームに追いやった。
のんびりとコーヒーを飲み、煙草を吸っているうちに紫堂が出てくる。その顔を一瞥して秋人は思わず立ち上がった。すました顔をしていたが、普段と僅かに違う表情を秋人は見逃さない。
そこで長袖Tシャツにジャージの下を身に着けた紫堂と揉み合いとなる。
「やめろって、秋人! あんたはゲイじゃないだろう!」
「いいから誤魔化さずに脱げ! 傷を見せろ!」
身長こそ数センチしか違わないが、ウェイト差から力は秋人の方が断然上だ。案の定、身を捩る紫堂のTシャツを引っぺがしてみると三ヶ所の防水ガーゼが全て剥がれ縫った傷が赤く腫れ上がっていた。
「馬鹿野郎、どうして言わねぇんだ! テメェは病院に戻れ、入院してろ!」
「入院なんかしてられるか。こんなもの、ウィスキーでもぶっかけとけば治る」
言い放った紫堂がニヤニヤし始めたので、秋人は溜息をつくしかなかった。だからといって本当にウィスキーをぶっかける訳にはいかない。仕方がないのでもう一度外出してコンビニに走った。消毒薬だのガーゼだの体温計や熱冷まし用のシートなどを買い漁って駆け戻る。
すると思った通り、紫堂は椅子に座って毛布を被り、凍えていた。
有無を言わさずベッドに寝かせてTシャツを捲り上げる。黒いTシャツに白く滑らかな肌が青ざめて見えた。赤く腫れた傷に消毒薬をかけると紫堂は身を震わせる。乾くのを待つ間、ようやく諦めたか紫堂は大人しくなって手を伸ばし秋人の長めの前髪に触れた。
大人しいのは都合がいいので、くすぐったさを我慢して好きにさせる。
大体こいつは弱ると、よりスキンシップを求めたがる。そんなことは二年の付き合いで知っている上に、妙に無性的なお蔭で秋人は大したことには捉えていなかった。だが熱い吐息を繰り返す紫堂は、いきなり両腕で秋人の首をかき抱くと自分の胸に押しつける。
「こら、やめ……紫堂、おい!」
秋人は藻掻いたが殆ど抵抗できない。
胸を押し返す訳にはいかないからだ。離れようとギプスを巻いていない右腕一本をベッドに押しつけ身を持ち上げる。だが首に腕を巻きつけたまま紫堂も一緒に持ち上がってきて、熱を持って乾いた唇が秋人の頬を滑った。
気付いたときには紫堂の唇が秋人の唇に触れたあとだった。
しかし事故的偶然ではなかったと知りながら、それがキスという行為だと秋人は思わなかった。ほんの一瞬だけ紫堂が求めた、いつもより過剰なスキンシップくらいにしか受け取らなかったために、秋人は落ち着いていられた。
これでも本人にはまるで性的な意図などないのだろう。特殊な育ち方をした紫堂がスキンシップの程度というものを学ぶことなく現在まできてしまったのを秋人は知っていた。
腕を解いて動きを止めた紫堂は色素の薄い瞳で秋人の目をじっと見つめている。ここは敢えて文句を垂れてみせるべきなのかと考えたが何故か言葉にならず、ただいつも通りに紫堂が笑い飛ばしてくれるのを待った。
思いが通じたか、紫堂がさも可笑しそうに声を上げて笑い出す。
その声を聞いて安堵すると同時に秋人の中で獰猛なまでの腹立たしさが湧き起こった。自分は紫堂のオモチャではない。本気の心配をした分、思い切り頭にきたのだ。
けれどここで怪我人をぶん殴るほど自分を失くしてもいない。
無言でもう一度傷を消毒し、ガーゼを貼ってTシャツを着せ直した。次に体温計で熱を測らせる。三十八度五分。白い額に熱冷まし用シートを貼り付けた。毛布をキッチリと被せて自分が暑いのを我慢し、エアコンを入れて温度を高めに設定する。
ベッドの傍にあぐらをかき、規則正しい寝息が聞こえ始めるまで監視した。紫堂が眠ったのを確認するとキッチンに移動する。
冷凍庫からいつ凍らせたのか分からない氷を発見し、マグカップにウィスキーを注いでロックで飲んだ。煙草を吸いながらノートパソコンを立ち上げて、県警本部長の嫁さんの弟とやらの倉庫爆発について検索する。
倉庫爆発は簡単に出てきたが、やはり扱いはガス爆発だ。その地方紙には三日後に消防士長が一人、大型トラックに轢き逃げされて死んだという記事も載っていた。
トラックの運転手は出頭したが、供述はありきたりの『何かがぶつかったが人間とは思わなかった』である。サスペンスドラマでもあるまいし、これが偶然ではなく口封じということなどあり得るのだろうか。
ただ轢き逃げを演じたトラック運転手の勤める会社は地元でも有名な暴力団の二次団体が采配を振るう企業舎弟である。これは頭に置いておくべきだろう。
次に湧いた大きな疑問は、脅迫ないし報復のターゲットが県警本部長なら、何故本部長はそれを公表しないのかということだった。
メディアに対しては『全力で犯人を追い詰める所存』などという、これもありきたりな発表はなされたが、標的が本部長本人だということには言及していない。それとも本部長がターゲットというのは読み違いなのか。
そこで本部長について調べ始めた。これも意外と簡単に個人情報が出てくる。
坂上義郎警視監。捜四や組対といったマル暴畑から転進し、警備局の出世街道を順調に駆け抜けたキャリアで、若い頃は『ドーザー坂上』などと仇名されたほど、かなり強引な捜査をするので有名だったらしい。
つまり警察内部でも敵の少なくない人物である。
その勢い故か現在において五十代前半という若さだ。つまり先があるのは確実だった。県警本部長を一、二年務めたのちは、警察庁にでも召還されて更に上に昇る階段が残されているということである。
家族構成は妻に息子が二人。そしてここで目を惹くのが閨閥で妻は元首相の娘、その兄は現職参議院議員だ。他にも政治家や企業役員を輩出してきた名門の家系。
秋人は考えてみる。警察官にとって犯罪者から敵と見做され狙われるほどの仕事を成せば、ある意味勲章かも知れないが、政治家や企業役員にしてみれば爆破されるほど他人の恨みを買うのは不名誉なことに違いない。
もしこの考えが的を射ているのなら最大の謎は解ける。
本部長がホシのターゲットという紫堂の仮説が正しいとして、本部長本人はともかく閨閥としては爆弾魔などに狙われる訳にはいかず、それが公表されるとすれば、めでたく犯人逮捕の報がもたらされた暁でしかないということだ。
本部長は身内を誘拐されたかの如く、スキャンダルが御法度である閨閥の『名誉』を質に取られて脅迫されている、もしくは既に脅迫に屈したのかも知れない。
何れにせよ予想通りなら、ただでさえ警察内部に敵が多く足をすくわれかねない状況で、今は薄氷を踏む思いをしていることだろう。
どうやらスパイ初日にして知りたくないことまで知ってしまったようで、秋人は溜息をつくと一旦調べ物を中断し、紫堂の様子を見に行った。引き戸を開けた音で紫堂は目を覚ましたらしかった。常夜灯の下、汗をかいて薄い色の髪が今は濃く見える。
いつもどこかしら『作っている』男が無防備な様相を晒していて、ついさっきぶん殴りたいほど腹が立ったのも忘れた秋人は、一言断って紫堂の着替えを出した。
「起きられるなら着替えて、今度はこっちのベッドに移れ」
「なあ、喉、渇いた」
「スポーツドリンク買ってあるぞ。ちょっと待ってろ」
「明日は買い物してから、本部長を恨んでる人物のピックアップだ」
「生きてるのが不思議なほど出てくる方に千円賭けるよ」
「まあ、そいつとセムテックスを入手可能って条件を掛け合わせれば、ある程度まで絞り込めるかも知れん」
「一万人が五千人くらいにはなるかもね」
聞き流して腕時計を見ると二十時過ぎだった。第五倉庫を出てロックするとエレベーターで一階に降りる。県警上層部に対するスパイでもある二人は遠慮がちに一番人の出入りの少ない裏口から出た。
官舎の手前にはコンビニがあって、煌々と明るく外灯の役目も果たしている。そこでウィスキーやコーヒーに明日の朝食用の握り飯などを購入してから初帰宅した。
部屋の備品の電気ポットを洗ってセットし、沸くまでの間にまだシャワーしか使えないという紫堂を先にバスルームに追いやった。
のんびりとコーヒーを飲み、煙草を吸っているうちに紫堂が出てくる。その顔を一瞥して秋人は思わず立ち上がった。すました顔をしていたが、普段と僅かに違う表情を秋人は見逃さない。
そこで長袖Tシャツにジャージの下を身に着けた紫堂と揉み合いとなる。
「やめろって、秋人! あんたはゲイじゃないだろう!」
「いいから誤魔化さずに脱げ! 傷を見せろ!」
身長こそ数センチしか違わないが、ウェイト差から力は秋人の方が断然上だ。案の定、身を捩る紫堂のTシャツを引っぺがしてみると三ヶ所の防水ガーゼが全て剥がれ縫った傷が赤く腫れ上がっていた。
「馬鹿野郎、どうして言わねぇんだ! テメェは病院に戻れ、入院してろ!」
「入院なんかしてられるか。こんなもの、ウィスキーでもぶっかけとけば治る」
言い放った紫堂がニヤニヤし始めたので、秋人は溜息をつくしかなかった。だからといって本当にウィスキーをぶっかける訳にはいかない。仕方がないのでもう一度外出してコンビニに走った。消毒薬だのガーゼだの体温計や熱冷まし用のシートなどを買い漁って駆け戻る。
すると思った通り、紫堂は椅子に座って毛布を被り、凍えていた。
有無を言わさずベッドに寝かせてTシャツを捲り上げる。黒いTシャツに白く滑らかな肌が青ざめて見えた。赤く腫れた傷に消毒薬をかけると紫堂は身を震わせる。乾くのを待つ間、ようやく諦めたか紫堂は大人しくなって手を伸ばし秋人の長めの前髪に触れた。
大人しいのは都合がいいので、くすぐったさを我慢して好きにさせる。
大体こいつは弱ると、よりスキンシップを求めたがる。そんなことは二年の付き合いで知っている上に、妙に無性的なお蔭で秋人は大したことには捉えていなかった。だが熱い吐息を繰り返す紫堂は、いきなり両腕で秋人の首をかき抱くと自分の胸に押しつける。
「こら、やめ……紫堂、おい!」
秋人は藻掻いたが殆ど抵抗できない。
胸を押し返す訳にはいかないからだ。離れようとギプスを巻いていない右腕一本をベッドに押しつけ身を持ち上げる。だが首に腕を巻きつけたまま紫堂も一緒に持ち上がってきて、熱を持って乾いた唇が秋人の頬を滑った。
気付いたときには紫堂の唇が秋人の唇に触れたあとだった。
しかし事故的偶然ではなかったと知りながら、それがキスという行為だと秋人は思わなかった。ほんの一瞬だけ紫堂が求めた、いつもより過剰なスキンシップくらいにしか受け取らなかったために、秋人は落ち着いていられた。
これでも本人にはまるで性的な意図などないのだろう。特殊な育ち方をした紫堂がスキンシップの程度というものを学ぶことなく現在まできてしまったのを秋人は知っていた。
腕を解いて動きを止めた紫堂は色素の薄い瞳で秋人の目をじっと見つめている。ここは敢えて文句を垂れてみせるべきなのかと考えたが何故か言葉にならず、ただいつも通りに紫堂が笑い飛ばしてくれるのを待った。
思いが通じたか、紫堂がさも可笑しそうに声を上げて笑い出す。
その声を聞いて安堵すると同時に秋人の中で獰猛なまでの腹立たしさが湧き起こった。自分は紫堂のオモチャではない。本気の心配をした分、思い切り頭にきたのだ。
けれどここで怪我人をぶん殴るほど自分を失くしてもいない。
無言でもう一度傷を消毒し、ガーゼを貼ってTシャツを着せ直した。次に体温計で熱を測らせる。三十八度五分。白い額に熱冷まし用シートを貼り付けた。毛布をキッチリと被せて自分が暑いのを我慢し、エアコンを入れて温度を高めに設定する。
ベッドの傍にあぐらをかき、規則正しい寝息が聞こえ始めるまで監視した。紫堂が眠ったのを確認するとキッチンに移動する。
冷凍庫からいつ凍らせたのか分からない氷を発見し、マグカップにウィスキーを注いでロックで飲んだ。煙草を吸いながらノートパソコンを立ち上げて、県警本部長の嫁さんの弟とやらの倉庫爆発について検索する。
倉庫爆発は簡単に出てきたが、やはり扱いはガス爆発だ。その地方紙には三日後に消防士長が一人、大型トラックに轢き逃げされて死んだという記事も載っていた。
トラックの運転手は出頭したが、供述はありきたりの『何かがぶつかったが人間とは思わなかった』である。サスペンスドラマでもあるまいし、これが偶然ではなく口封じということなどあり得るのだろうか。
ただ轢き逃げを演じたトラック運転手の勤める会社は地元でも有名な暴力団の二次団体が采配を振るう企業舎弟である。これは頭に置いておくべきだろう。
次に湧いた大きな疑問は、脅迫ないし報復のターゲットが県警本部長なら、何故本部長はそれを公表しないのかということだった。
メディアに対しては『全力で犯人を追い詰める所存』などという、これもありきたりな発表はなされたが、標的が本部長本人だということには言及していない。それとも本部長がターゲットというのは読み違いなのか。
そこで本部長について調べ始めた。これも意外と簡単に個人情報が出てくる。
坂上義郎警視監。捜四や組対といったマル暴畑から転進し、警備局の出世街道を順調に駆け抜けたキャリアで、若い頃は『ドーザー坂上』などと仇名されたほど、かなり強引な捜査をするので有名だったらしい。
つまり警察内部でも敵の少なくない人物である。
その勢い故か現在において五十代前半という若さだ。つまり先があるのは確実だった。県警本部長を一、二年務めたのちは、警察庁にでも召還されて更に上に昇る階段が残されているということである。
家族構成は妻に息子が二人。そしてここで目を惹くのが閨閥で妻は元首相の娘、その兄は現職参議院議員だ。他にも政治家や企業役員を輩出してきた名門の家系。
秋人は考えてみる。警察官にとって犯罪者から敵と見做され狙われるほどの仕事を成せば、ある意味勲章かも知れないが、政治家や企業役員にしてみれば爆破されるほど他人の恨みを買うのは不名誉なことに違いない。
もしこの考えが的を射ているのなら最大の謎は解ける。
本部長がホシのターゲットという紫堂の仮説が正しいとして、本部長本人はともかく閨閥としては爆弾魔などに狙われる訳にはいかず、それが公表されるとすれば、めでたく犯人逮捕の報がもたらされた暁でしかないということだ。
本部長は身内を誘拐されたかの如く、スキャンダルが御法度である閨閥の『名誉』を質に取られて脅迫されている、もしくは既に脅迫に屈したのかも知れない。
何れにせよ予想通りなら、ただでさえ警察内部に敵が多く足をすくわれかねない状況で、今は薄氷を踏む思いをしていることだろう。
どうやらスパイ初日にして知りたくないことまで知ってしまったようで、秋人は溜息をつくと一旦調べ物を中断し、紫堂の様子を見に行った。引き戸を開けた音で紫堂は目を覚ましたらしかった。常夜灯の下、汗をかいて薄い色の髪が今は濃く見える。
いつもどこかしら『作っている』男が無防備な様相を晒していて、ついさっきぶん殴りたいほど腹が立ったのも忘れた秋人は、一言断って紫堂の着替えを出した。
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