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第17話
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翌日の午後になって坂上警視監が自宅の庭で、まさかの焼身自殺をしたという報が流れた。つまりそれは既に警察庁からの圧力が故人に掛けられていたということだった。
職務と脅しの板挟みになっていたことが裏付けられたも同然である。
ともあれ将来を嘱望されていた県警トップが制服を着用した上にガソリンを被って自らに火をつけたというのは、その日の夕方のニュースでも大きく取り上げられた。
躍起になって警察庁は本人が病気を苦にした遺書を残していたこと、責任感の強さ故に職務を全うできないと判断したらしいことを強調したが、そんな人間が焼身自殺という方法で命を絶つ筈もなく、誰もが死者の声なき訴えに苦い思いを味わうことになった。
更には通常なら県警本部長代理として部長クラスの中の最上級者が暫くは座るべき椅子に、翌々日にはもう警察庁長官の懐刀とされる人物が新たな県警本部長として据えられたことで、人間一人の死まで組み込んだ出来レースという感が否めず、残された者の戸惑いも大きかった。
葬儀は密葬だった。残された夫人と二人の息子の意向で親族以外の参列は丁重に断られたが、葬儀を営んだ寺院の周囲には喪章をつけた制服の男女が、せめてもの見送りをせんと引きも切らなかった。
そういった話を秋人と紫堂は食堂で知り合った婦警たちから聞いた。
だが二人に苦い思いを噛み締める余裕はなかった。紫堂の躁が昂進し苛立ちを抑えつけすぎた挙げ句、今や微笑み仮面も不自然に歪んで砕け散る寸前だったからだ。
あれから一週間近くが経過するも、捜査は何ら進まず完全に詰んでいた。
帳場の松尾たちに秋人は探りを入れてみたが、情報統制していた県警トップが代わって帳場がまともに機能し始めても、殆ど捜査に進展は見られないという話だった。死者まで出した事件だが、既にメディアも飽きて報道すらしなくなっていた。
ここはとにかく動くしかないと思い、秋人は紫堂と城島の実家の建設会社を訪れて地元ヤクザ、それも水野組の二次団体・横田組との癒着を確認した。更にその横田組の組長が死んだ園田の後釜、つまり水野組の若頭の地位を狙っているという噂も聞き込んだ。
だがそこから先には進めず、今は元・辰明会の幹部を訪ね歩いている。刑務所を巡り歩き、あとは逮捕を逃れた幹部のA号照会を元に、何処かにヒントがないものか話を聞いて回った。関係者は七年も前のことを殆ど忘れていたが、それでも粘り強く歩き続けた。
外回りで躰を動かしていれば紫堂も疲れて僅かでも夜、眠れる。
元はといえば自殺した坂上警視監が堰き止めていた情報欲しさに署長たちが秋人と紫堂を独自捜査なるスパイに就けたのだ。本部長が代わった現在に至って二人が特別捜査を続ける必要はないといえる。
だがそれを上申せずにいるのは、やはり周囲の目がある篠宮署のデカ部屋で紫堂に負担をかけたくないという秋人の思いからだった。
当の紫堂は歩道の模様を形作るブロックの同じ色ばかりを歩きたがって、殆ど飛び跳ねている状態だ。同輩の目のない外に出ると引き攣りこわばった微笑み仮面も素直に外せるらしい。
そして両手は脳内を流れるリズムに合わせているのか、またも指揮者のように見えないタクトを振っている。
紫堂は抜糸し、秋人はギプスを外した翌日だった。
元・辰明会幹部からもたらされた、白尾組をバックにつけた総会屋に会いに行く道すがらである。白尾組は辰明会の下部組織だったが解散をいち早く知って上手く独立し、総会屋を引き入れることで小さいながらも旨いシノギにありついている組だ。
その白尾組お抱えの総会屋とアポが取れ、江前市内でも郊外の住宅地にある喫茶店に向かっているのだが、紫堂の上機嫌に反して空は怪しく曇っていた。
「帰りはタクシーかも知れないな」
独り言のように呟いた紫堂に頷いてやる。
「もうすぐ梅雨だもんな。銃ぶら下げて傘も差せねぇし」
もしものことを考えると、手を塞ぎ視界も遮る傘など差すことはできない。
「梅雨か。気圧が下がるのが怖いなあ」
低気圧は紫堂のような病気に多大な影響を与える。時期的にも梅雨の頃には鬱に落ち込んでいるのが予想できた。躁や鬱の長さやパターンにも個人差があるが、紫堂に限って言えばこれまで通りなら低気圧に弱い。
しかしその前に現在の躁である。本人としては鬱より躁の方が生きやすいのかも知れないが、傍で見守る身としてはどちらも難儀なのに変わりはない。
精神的に昂揚しているからといって常に気分がいい訳ではないのだ。急激に止めようもなく激昂することもあり、目が離せないのは同じことだった。
待ち合わせの喫茶店『ミルキィ』には約束の十五時丁度に着いた。
ドアの造りも華奢な店に足を踏み入れる。
軽やかなピアノ曲を耳にしながら見回すと、窓際のテーブル席から手を振る恰幅のいい中年男がいた。一見して店の様相にそぐわない吊しのスーツにノータイのこの男が、白尾組に甘い汁を吸わせる代わりに億単位のカネを動かしながらも大手を振って街を歩ける総会屋らしい。
「どうも、お時間を割いて頂いて申し訳ありません」
「いやいや、構わんですよ。それにお若い上に、お二人揃ってこんなに見目麗しいとは思ってもみなかったです。目の保養ですなあ」
喋りながら中年男はウェイトレスをハンドサインで呼びつけ、自分はコーヒーのおかわりを頼んだ。駅から歩いてきた二人はアイスティーを注文してから着席する。
お絞りで手を拭き、出されたアイスティーにストローを差した。秋人は自分のガムシロップも紫堂に押しやる。二人が喉を潤したところで宇野という総会屋が口火を切った。
「そろそろ私のような者にも繁忙期がやってきますのでね」
「株主総会ですね。そこで伺いますがご職業を同じくされながら、最近に至ってこれまでと違う手法で企業との関係を深めている人物にお心当たりはありませんか?」
訊いた秋人に宇野は肩を揺すって笑い始める。
「遠回しに仰らなくても我々の仕事は恐喝ですよ、但し合法ですがね。そのやり方も千差万別、私も毎回同じ手法で同じ企業と関係を維持している訳じゃない。絵画に土地に建物や石。その時々で転がすものは違います。何度も言うが合法ですけどね」
単に利益供与されたら供与した企業ともども商法違反で罰せられるが、抜け道は幾らでもあるという見本であった。面の皮の厚い相手に秋人は言い募る。
「別に宇野さんや白尾組を別件でどうこうしようとは思っていません。我々が欲しいのは企業が明らかに違法な恐喝をされているという事実です」
「ほう、今度はなかなかに直截的な物言いをなさる。やはりお若いですなあ」
「どうでしょう、情報を頂くことはできませんか?」
「しかし代わりに私は何を得るのでしょうな?」
そう言った宇野は明らかに一般人と異なる目つきをしていた。真性のヤクザとも違う、完全に自己の利のみを追求する、まるで欲情したような目だ。そんな目で秋人をじっと見つめる。見られて秋人はすぐさまカードを切るかどうか迷った。
今は刑務所入りしている元・辰明会の幹部から得られたネタで宇野が一時期シャブの売買に手を染めて株の元手を貯めていたのを知っていたからだ。
だが数秒間の迷いは唐突な紫堂の行動によって断ち切られた。
ふいに立ち上がった紫堂が飲みかけのアイスティーを宇野のスーツにぶちまけたのだ。それだけではない、ニヤニヤ笑いながら懐に手を入れたのである。白尾組などという暴力団をバックに持つ宇野だ、紫堂の銃に当然気付いたことだろう。
周囲の客が騒ぎを知ってざわめくのも意に介さず、紫堂は朗らかに言い放った。
「代わりに得るのはあんた自身の命だ」
笑いながらも薄い色の瞳が本気だと告げていて、宇野は震え上がって喋り出す。
「と、東栄会の新会長が水野組の若頭になるための資金調達に奔走している。そこで今までバックを持たなかった総会屋崩れを集めていたと聞いた。それしか知らん!」
職務と脅しの板挟みになっていたことが裏付けられたも同然である。
ともあれ将来を嘱望されていた県警トップが制服を着用した上にガソリンを被って自らに火をつけたというのは、その日の夕方のニュースでも大きく取り上げられた。
躍起になって警察庁は本人が病気を苦にした遺書を残していたこと、責任感の強さ故に職務を全うできないと判断したらしいことを強調したが、そんな人間が焼身自殺という方法で命を絶つ筈もなく、誰もが死者の声なき訴えに苦い思いを味わうことになった。
更には通常なら県警本部長代理として部長クラスの中の最上級者が暫くは座るべき椅子に、翌々日にはもう警察庁長官の懐刀とされる人物が新たな県警本部長として据えられたことで、人間一人の死まで組み込んだ出来レースという感が否めず、残された者の戸惑いも大きかった。
葬儀は密葬だった。残された夫人と二人の息子の意向で親族以外の参列は丁重に断られたが、葬儀を営んだ寺院の周囲には喪章をつけた制服の男女が、せめてもの見送りをせんと引きも切らなかった。
そういった話を秋人と紫堂は食堂で知り合った婦警たちから聞いた。
だが二人に苦い思いを噛み締める余裕はなかった。紫堂の躁が昂進し苛立ちを抑えつけすぎた挙げ句、今や微笑み仮面も不自然に歪んで砕け散る寸前だったからだ。
あれから一週間近くが経過するも、捜査は何ら進まず完全に詰んでいた。
帳場の松尾たちに秋人は探りを入れてみたが、情報統制していた県警トップが代わって帳場がまともに機能し始めても、殆ど捜査に進展は見られないという話だった。死者まで出した事件だが、既にメディアも飽きて報道すらしなくなっていた。
ここはとにかく動くしかないと思い、秋人は紫堂と城島の実家の建設会社を訪れて地元ヤクザ、それも水野組の二次団体・横田組との癒着を確認した。更にその横田組の組長が死んだ園田の後釜、つまり水野組の若頭の地位を狙っているという噂も聞き込んだ。
だがそこから先には進めず、今は元・辰明会の幹部を訪ね歩いている。刑務所を巡り歩き、あとは逮捕を逃れた幹部のA号照会を元に、何処かにヒントがないものか話を聞いて回った。関係者は七年も前のことを殆ど忘れていたが、それでも粘り強く歩き続けた。
外回りで躰を動かしていれば紫堂も疲れて僅かでも夜、眠れる。
元はといえば自殺した坂上警視監が堰き止めていた情報欲しさに署長たちが秋人と紫堂を独自捜査なるスパイに就けたのだ。本部長が代わった現在に至って二人が特別捜査を続ける必要はないといえる。
だがそれを上申せずにいるのは、やはり周囲の目がある篠宮署のデカ部屋で紫堂に負担をかけたくないという秋人の思いからだった。
当の紫堂は歩道の模様を形作るブロックの同じ色ばかりを歩きたがって、殆ど飛び跳ねている状態だ。同輩の目のない外に出ると引き攣りこわばった微笑み仮面も素直に外せるらしい。
そして両手は脳内を流れるリズムに合わせているのか、またも指揮者のように見えないタクトを振っている。
紫堂は抜糸し、秋人はギプスを外した翌日だった。
元・辰明会幹部からもたらされた、白尾組をバックにつけた総会屋に会いに行く道すがらである。白尾組は辰明会の下部組織だったが解散をいち早く知って上手く独立し、総会屋を引き入れることで小さいながらも旨いシノギにありついている組だ。
その白尾組お抱えの総会屋とアポが取れ、江前市内でも郊外の住宅地にある喫茶店に向かっているのだが、紫堂の上機嫌に反して空は怪しく曇っていた。
「帰りはタクシーかも知れないな」
独り言のように呟いた紫堂に頷いてやる。
「もうすぐ梅雨だもんな。銃ぶら下げて傘も差せねぇし」
もしものことを考えると、手を塞ぎ視界も遮る傘など差すことはできない。
「梅雨か。気圧が下がるのが怖いなあ」
低気圧は紫堂のような病気に多大な影響を与える。時期的にも梅雨の頃には鬱に落ち込んでいるのが予想できた。躁や鬱の長さやパターンにも個人差があるが、紫堂に限って言えばこれまで通りなら低気圧に弱い。
しかしその前に現在の躁である。本人としては鬱より躁の方が生きやすいのかも知れないが、傍で見守る身としてはどちらも難儀なのに変わりはない。
精神的に昂揚しているからといって常に気分がいい訳ではないのだ。急激に止めようもなく激昂することもあり、目が離せないのは同じことだった。
待ち合わせの喫茶店『ミルキィ』には約束の十五時丁度に着いた。
ドアの造りも華奢な店に足を踏み入れる。
軽やかなピアノ曲を耳にしながら見回すと、窓際のテーブル席から手を振る恰幅のいい中年男がいた。一見して店の様相にそぐわない吊しのスーツにノータイのこの男が、白尾組に甘い汁を吸わせる代わりに億単位のカネを動かしながらも大手を振って街を歩ける総会屋らしい。
「どうも、お時間を割いて頂いて申し訳ありません」
「いやいや、構わんですよ。それにお若い上に、お二人揃ってこんなに見目麗しいとは思ってもみなかったです。目の保養ですなあ」
喋りながら中年男はウェイトレスをハンドサインで呼びつけ、自分はコーヒーのおかわりを頼んだ。駅から歩いてきた二人はアイスティーを注文してから着席する。
お絞りで手を拭き、出されたアイスティーにストローを差した。秋人は自分のガムシロップも紫堂に押しやる。二人が喉を潤したところで宇野という総会屋が口火を切った。
「そろそろ私のような者にも繁忙期がやってきますのでね」
「株主総会ですね。そこで伺いますがご職業を同じくされながら、最近に至ってこれまでと違う手法で企業との関係を深めている人物にお心当たりはありませんか?」
訊いた秋人に宇野は肩を揺すって笑い始める。
「遠回しに仰らなくても我々の仕事は恐喝ですよ、但し合法ですがね。そのやり方も千差万別、私も毎回同じ手法で同じ企業と関係を維持している訳じゃない。絵画に土地に建物や石。その時々で転がすものは違います。何度も言うが合法ですけどね」
単に利益供与されたら供与した企業ともども商法違反で罰せられるが、抜け道は幾らでもあるという見本であった。面の皮の厚い相手に秋人は言い募る。
「別に宇野さんや白尾組を別件でどうこうしようとは思っていません。我々が欲しいのは企業が明らかに違法な恐喝をされているという事実です」
「ほう、今度はなかなかに直截的な物言いをなさる。やはりお若いですなあ」
「どうでしょう、情報を頂くことはできませんか?」
「しかし代わりに私は何を得るのでしょうな?」
そう言った宇野は明らかに一般人と異なる目つきをしていた。真性のヤクザとも違う、完全に自己の利のみを追求する、まるで欲情したような目だ。そんな目で秋人をじっと見つめる。見られて秋人はすぐさまカードを切るかどうか迷った。
今は刑務所入りしている元・辰明会の幹部から得られたネタで宇野が一時期シャブの売買に手を染めて株の元手を貯めていたのを知っていたからだ。
だが数秒間の迷いは唐突な紫堂の行動によって断ち切られた。
ふいに立ち上がった紫堂が飲みかけのアイスティーを宇野のスーツにぶちまけたのだ。それだけではない、ニヤニヤ笑いながら懐に手を入れたのである。白尾組などという暴力団をバックに持つ宇野だ、紫堂の銃に当然気付いたことだろう。
周囲の客が騒ぎを知ってざわめくのも意に介さず、紫堂は朗らかに言い放った。
「代わりに得るのはあんた自身の命だ」
笑いながらも薄い色の瞳が本気だと告げていて、宇野は震え上がって喋り出す。
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