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第33話(注意・暴力描写を含む)
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船酔いよりも苦しい酔いに紫堂は苛まれていた。
口から飲まされただけでなく、衣服を全て引き剥がされて押さえつけられ、下からもウィスキー瓶を挿入されたのだ。
粘膜吸収であっという間に酔いが回り、そんな躰を男たちに責め抜かれて疲労の極致にあった。
苦しいのはそれだけではない。銃口に囲まれ嬲られ始めてからずっと、フラッシュバックが断続的に襲っているのだ。現実と過去の恐怖が積み重なって涙が溢れ、恥辱にまみれ果てたプライドなど、ずたずたに叩き折られて随分経っていた。
無理矢理這わされた躰にまたも太いものが押し分け入ってくる。強引な行為で傷つけられた上に、目茶苦茶に汚された下半身を掻き混ぜられて朦朧とした。
他の男が口元に己のものを突きつける。強引に口をこじ開けられ、喉まで突かれて吐いたが出てきたのは白く濁った胃液で余計に嘔吐感が増した。
歯が当たったらしく、口から抜いた男は紫堂の頬を激しく殴りつける。
「っく……つっ!」
「しゃぶり方くらい知ってんだろうが! 舌を使え!」
銃口が頭に食い込んで、仕方なく薄汚いものに機械的に舌を巻きつけた。同時に体内にねじ込まれたものが弾けてどっぷりと注ぎ込まれる。
だが休ませて貰える筈もなく、次の男が早速交代して腰を使い始めた。勢い良く突かれて血の混じった大量の粘液が内腿を伝い落ちる。
激しい眩暈に気を失えない自分を呪いたくなった。
あとどのくらいこの責めが続くのだろう。殺されることに対して恐怖などなかったつもりの紫堂だったが、ここまで最低の死に方をさせられるとは思ってもみなかったのだ。
殺すならさっさと殺して欲しかった。それまでの時間がこうして延長されるにつれて、愛しい声を思い出し、ほんの微かな期待を持ってしまうからである。
芽生えた期待は『在ったかも知れぬ生』を強く思わせた。これからも秋人と一緒に歩んでいく自分。二年間ずっと隣にあった端正な横顔と真っ直ぐな切れ長の目――。
だがその一方で貪るように嬲られ、汚し尽くされてゆく自分を受け入れられずに、自ら命を絶つことばかり考える。揺れ動く心は裂ける寸前だった。
勿論男たちは武器を携えていた。造りが粗悪で土曜の夜にチンピラが強盗や喧嘩に使用する、いわゆるサタデーナイトスペシャルと呼ばれる銃を手にしている。拉致したスーツ男たちは紫堂の携帯やキィと共にヴァーテックも『一緒に埋めろ』と置いていった。
それらのうち一丁を奪って自分の頭を撃ち抜くくらいは可能かも知れない。
けれど秋人と約束したのだ、二度と自殺などしないと。
男らに身を引きずられ、やっと殺してくれるのかと思えば、仰向けにされ机に両手首をまとめて結束バンドで縛り付けられた。膝を立てた脚を両側から思い切り引っ張られ、またウィスキー瓶での責めが始まる。
どうしようもなく液体が溢れて男たちはまた嗤った。酷い眩暈に急性アルコール中毒で死ねないものかとぼんやり考える。
窓外は暗くなっていた。過去と現在を行き来していた紫堂の思考は完全に時間の感覚を失っていた上に腕時計もしていなかったので今が何時頃なのか全く分からない。
お蔭で身に受ける執拗な嬲りようは永劫の責め苦にも感じられた。
「あうっ……くっ!」
ウィスキー瓶を引き抜かれて思わず声が洩れた。蹂躙を重ねられた粘膜にアルコールが沁みる。生温かい血が躰の下で広がり冷えてゆくのを感じた。
快感など何処にもない、ただの暴力だった。……思い出す。
低気圧によるものか強風で窓がたわんでいる。吐き気と眩暈が酷い。これならきっと自分は明日まで保たないだろう。
だがつらすぎて秋人の夢は見られないかも。
そう思って酷く哀しくなった。長めの前髪に触れ、温かな腕に抱き締められたかった。いや、もうそこまでは望まない。ただの夢でいい、低く甘く響いた声をもう一度だけ――。
ごく細い糸のような想いに縋り必死で手繰り寄せるも、男がのしかかり紫堂は現実の絶望に投げ落とされる。嫌悪感でまた嘔吐したが構わず激しく責められた。
「それにしても殺して埋めちまうには勿体ない躰してやがるな」
「契約は『今晩中』だろ、暗い間は愉しもうぜ。もう死にそうな面してるけどな」
「死ぬまでよがらせてやるぜ。ほら、腰を振れよ、サツの犬には似合いだろうが!」
嗤いながら男たちは口々に囃し立てたが、もう紫堂には何を言っているのか理解できなかった。徐々に視界を灰色のドットが埋め、やがて紫堂は意識を途切れさせた。
◇◇◇◇
神原本部長と相談し、秋人は徳瀬島に水野組が武器弾薬を隠匿しているという強引な別件で捜索差押許可状なる、いわゆるガサ令状を当直判事からもぎ取った。
更にキャリア同士の繋がりから海上保安庁第三管区海上保安本部に話を通して貰い、全面的な協力を取り付けることにも成功した。
さすがは警察庁長官の元・懐刀、日付が変わって約一時間後には準備が整う。
それらを携帯で手配しながら逸る秋人は横浜海上保安部に移動し、巡視船あきつしま搭載の中型ヘリコプターEC225LPシュペルピューマに乗り込んでテイクオフさせた。足の速い巡視艇でも三時間は掛かる距離をヘリは約四十分に短縮する。
同乗しているのはパイロットとコ・パイの他、黒い戦闘服を身に着けてヘッケラー&コッホ社製サブマシンガンMP5の消音タイプであるSD6を携えた海保の特殊警備隊SSTのメンバー六名と医師免許を持った救護要員だ。
秋人だけが軽装の異分子だったが、訓練された人員は実戦に就いた今、余計な口を利かない。
黙ってヘリのターボシャフトエンジンとローターの騒音を聞きながら、秋人は努めて頭を空にして過ごす。もはや時間的に紫堂の生存が難しいのは分かっていた。
敵は必ず紫堂を殺す。そうでなければ危ない橋を渡った意味がない。
それでも荒天のさなか、渋る海保の幹部を神原本部長に粘り強く説得して貰い、半ば強引にヘリを出させたのは、喩え冷たくなっていたとしても紫堂を一刻も早く抱き締めてやらなければという想いからだった。
抱き締めて、キスをして、今まで誰よりも頑張って生きたあいつを休ませてやる。
それから敵に紫堂の無念をじっくりと思い知らせてやるのだ。
やがて四十分近くが経過し、徳瀬島上空に辿り着く。
窓から見下ろして目を凝らしたが真っ暗な上に雨も手伝って、海と島の境も分からなかった。ただひとつポツリと小さな人工光が灯っているのがやっと判別できる。
無論パイロットはマップで島の全容を把握しているだろうが星もないナイトフライトだ。島の上空を幾度か旋回したのち結局は人工光の灯った四階建てコンクリート造りの建物屋上にギアを接地した。
ローター音と下方を照らすライトで敵にヘリの存在を知られるのはマイナスだったが、他にランディングポイントがなかったのだから、仕方ない。
けれど建物二階の一室に人工光を煌々と灯した敵が襲撃に対して気を配っているかどうかは疑問だった。自分たちの居場所を大声で知らせているも同然である。更に秋人は敵が水野組のチンピラ五名と知っていてSSTにもそれとなく伝えてあった。
だが敵の手中には紫堂がいる。もし生きていたなら何をおいても救出しなくてはならない。降機すると七名で階段を下り、ごく密やかに二階の廊下を辿った。
フラッシュライトを頼りに進み、明かりのついた部屋の前に立つ。SSTのリーダーがハンドサインで指示を出し、すぐさまガサ入れという建前の救出活動を始めた。
隊員が手にしたのはフラッシュバンという音響閃光手榴弾である。スタングレネードともいうこれはその名の通り、大音響と眩い閃光を発して敵の聴覚と視覚を一時的に封じるもので、不発も考えて二個投げ入れるのが基本だと秋人も知っていた。
別の隊員がドアノブを回す。だがロックが掛かっていた。そこでドアの上下の蝶番に向け、MP5で九ミリパラを複数撃ち込む。ドアを蹴り飛ばして出来た隙間から間髪を入れずにピンを抜いたフラッシュバンを投げ込んだ。
今度こそ隊員二名がドアを蹴破る。秋人も隊員たちと共に室内に躍り込んだ。中には半裸の男が五人。立ち尽くした彼らが粗悪拳銃を握ったままなのを見取り、SSTは容赦なくサブマシンガンを連射する。桁違いの火力の中で秋人も二射を放った。
ドアオープンからたった三秒足らず、一切反撃させることなく制圧は完了する。
テロリストの制圧に特化したSSTにはお手軽すぎる仕事だった。
口から飲まされただけでなく、衣服を全て引き剥がされて押さえつけられ、下からもウィスキー瓶を挿入されたのだ。
粘膜吸収であっという間に酔いが回り、そんな躰を男たちに責め抜かれて疲労の極致にあった。
苦しいのはそれだけではない。銃口に囲まれ嬲られ始めてからずっと、フラッシュバックが断続的に襲っているのだ。現実と過去の恐怖が積み重なって涙が溢れ、恥辱にまみれ果てたプライドなど、ずたずたに叩き折られて随分経っていた。
無理矢理這わされた躰にまたも太いものが押し分け入ってくる。強引な行為で傷つけられた上に、目茶苦茶に汚された下半身を掻き混ぜられて朦朧とした。
他の男が口元に己のものを突きつける。強引に口をこじ開けられ、喉まで突かれて吐いたが出てきたのは白く濁った胃液で余計に嘔吐感が増した。
歯が当たったらしく、口から抜いた男は紫堂の頬を激しく殴りつける。
「っく……つっ!」
「しゃぶり方くらい知ってんだろうが! 舌を使え!」
銃口が頭に食い込んで、仕方なく薄汚いものに機械的に舌を巻きつけた。同時に体内にねじ込まれたものが弾けてどっぷりと注ぎ込まれる。
だが休ませて貰える筈もなく、次の男が早速交代して腰を使い始めた。勢い良く突かれて血の混じった大量の粘液が内腿を伝い落ちる。
激しい眩暈に気を失えない自分を呪いたくなった。
あとどのくらいこの責めが続くのだろう。殺されることに対して恐怖などなかったつもりの紫堂だったが、ここまで最低の死に方をさせられるとは思ってもみなかったのだ。
殺すならさっさと殺して欲しかった。それまでの時間がこうして延長されるにつれて、愛しい声を思い出し、ほんの微かな期待を持ってしまうからである。
芽生えた期待は『在ったかも知れぬ生』を強く思わせた。これからも秋人と一緒に歩んでいく自分。二年間ずっと隣にあった端正な横顔と真っ直ぐな切れ長の目――。
だがその一方で貪るように嬲られ、汚し尽くされてゆく自分を受け入れられずに、自ら命を絶つことばかり考える。揺れ動く心は裂ける寸前だった。
勿論男たちは武器を携えていた。造りが粗悪で土曜の夜にチンピラが強盗や喧嘩に使用する、いわゆるサタデーナイトスペシャルと呼ばれる銃を手にしている。拉致したスーツ男たちは紫堂の携帯やキィと共にヴァーテックも『一緒に埋めろ』と置いていった。
それらのうち一丁を奪って自分の頭を撃ち抜くくらいは可能かも知れない。
けれど秋人と約束したのだ、二度と自殺などしないと。
男らに身を引きずられ、やっと殺してくれるのかと思えば、仰向けにされ机に両手首をまとめて結束バンドで縛り付けられた。膝を立てた脚を両側から思い切り引っ張られ、またウィスキー瓶での責めが始まる。
どうしようもなく液体が溢れて男たちはまた嗤った。酷い眩暈に急性アルコール中毒で死ねないものかとぼんやり考える。
窓外は暗くなっていた。過去と現在を行き来していた紫堂の思考は完全に時間の感覚を失っていた上に腕時計もしていなかったので今が何時頃なのか全く分からない。
お蔭で身に受ける執拗な嬲りようは永劫の責め苦にも感じられた。
「あうっ……くっ!」
ウィスキー瓶を引き抜かれて思わず声が洩れた。蹂躙を重ねられた粘膜にアルコールが沁みる。生温かい血が躰の下で広がり冷えてゆくのを感じた。
快感など何処にもない、ただの暴力だった。……思い出す。
低気圧によるものか強風で窓がたわんでいる。吐き気と眩暈が酷い。これならきっと自分は明日まで保たないだろう。
だがつらすぎて秋人の夢は見られないかも。
そう思って酷く哀しくなった。長めの前髪に触れ、温かな腕に抱き締められたかった。いや、もうそこまでは望まない。ただの夢でいい、低く甘く響いた声をもう一度だけ――。
ごく細い糸のような想いに縋り必死で手繰り寄せるも、男がのしかかり紫堂は現実の絶望に投げ落とされる。嫌悪感でまた嘔吐したが構わず激しく責められた。
「それにしても殺して埋めちまうには勿体ない躰してやがるな」
「契約は『今晩中』だろ、暗い間は愉しもうぜ。もう死にそうな面してるけどな」
「死ぬまでよがらせてやるぜ。ほら、腰を振れよ、サツの犬には似合いだろうが!」
嗤いながら男たちは口々に囃し立てたが、もう紫堂には何を言っているのか理解できなかった。徐々に視界を灰色のドットが埋め、やがて紫堂は意識を途切れさせた。
◇◇◇◇
神原本部長と相談し、秋人は徳瀬島に水野組が武器弾薬を隠匿しているという強引な別件で捜索差押許可状なる、いわゆるガサ令状を当直判事からもぎ取った。
更にキャリア同士の繋がりから海上保安庁第三管区海上保安本部に話を通して貰い、全面的な協力を取り付けることにも成功した。
さすがは警察庁長官の元・懐刀、日付が変わって約一時間後には準備が整う。
それらを携帯で手配しながら逸る秋人は横浜海上保安部に移動し、巡視船あきつしま搭載の中型ヘリコプターEC225LPシュペルピューマに乗り込んでテイクオフさせた。足の速い巡視艇でも三時間は掛かる距離をヘリは約四十分に短縮する。
同乗しているのはパイロットとコ・パイの他、黒い戦闘服を身に着けてヘッケラー&コッホ社製サブマシンガンMP5の消音タイプであるSD6を携えた海保の特殊警備隊SSTのメンバー六名と医師免許を持った救護要員だ。
秋人だけが軽装の異分子だったが、訓練された人員は実戦に就いた今、余計な口を利かない。
黙ってヘリのターボシャフトエンジンとローターの騒音を聞きながら、秋人は努めて頭を空にして過ごす。もはや時間的に紫堂の生存が難しいのは分かっていた。
敵は必ず紫堂を殺す。そうでなければ危ない橋を渡った意味がない。
それでも荒天のさなか、渋る海保の幹部を神原本部長に粘り強く説得して貰い、半ば強引にヘリを出させたのは、喩え冷たくなっていたとしても紫堂を一刻も早く抱き締めてやらなければという想いからだった。
抱き締めて、キスをして、今まで誰よりも頑張って生きたあいつを休ませてやる。
それから敵に紫堂の無念をじっくりと思い知らせてやるのだ。
やがて四十分近くが経過し、徳瀬島上空に辿り着く。
窓から見下ろして目を凝らしたが真っ暗な上に雨も手伝って、海と島の境も分からなかった。ただひとつポツリと小さな人工光が灯っているのがやっと判別できる。
無論パイロットはマップで島の全容を把握しているだろうが星もないナイトフライトだ。島の上空を幾度か旋回したのち結局は人工光の灯った四階建てコンクリート造りの建物屋上にギアを接地した。
ローター音と下方を照らすライトで敵にヘリの存在を知られるのはマイナスだったが、他にランディングポイントがなかったのだから、仕方ない。
けれど建物二階の一室に人工光を煌々と灯した敵が襲撃に対して気を配っているかどうかは疑問だった。自分たちの居場所を大声で知らせているも同然である。更に秋人は敵が水野組のチンピラ五名と知っていてSSTにもそれとなく伝えてあった。
だが敵の手中には紫堂がいる。もし生きていたなら何をおいても救出しなくてはならない。降機すると七名で階段を下り、ごく密やかに二階の廊下を辿った。
フラッシュライトを頼りに進み、明かりのついた部屋の前に立つ。SSTのリーダーがハンドサインで指示を出し、すぐさまガサ入れという建前の救出活動を始めた。
隊員が手にしたのはフラッシュバンという音響閃光手榴弾である。スタングレネードともいうこれはその名の通り、大音響と眩い閃光を発して敵の聴覚と視覚を一時的に封じるもので、不発も考えて二個投げ入れるのが基本だと秋人も知っていた。
別の隊員がドアノブを回す。だがロックが掛かっていた。そこでドアの上下の蝶番に向け、MP5で九ミリパラを複数撃ち込む。ドアを蹴り飛ばして出来た隙間から間髪を入れずにピンを抜いたフラッシュバンを投げ込んだ。
今度こそ隊員二名がドアを蹴破る。秋人も隊員たちと共に室内に躍り込んだ。中には半裸の男が五人。立ち尽くした彼らが粗悪拳銃を握ったままなのを見取り、SSTは容赦なくサブマシンガンを連射する。桁違いの火力の中で秋人も二射を放った。
ドアオープンからたった三秒足らず、一切反撃させることなく制圧は完了する。
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