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第15話
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「こうもずっと暗いと表在署の日勤も、万年深夜番みたいだよな」
「僕は本星でもシドといる限り交代制じゃなかったから、こういうのって新鮮かも」
「新鮮ってお前、分かってるだろうが、何もテロじゃなくても殺しや強盗レヴェルのヤマが起これば一週間は掛かり切りで全てが吹っ飛ぶんだぞ」
「知ってるよ、それくらい。捜査一課に申し送るまで一週間の初動捜査期間、帳場が立って機捜課も組み込まれたらそれ以上だよね。たまにヤマサキさんたち、目、真っ赤にしてるもん。それもシドが持ち込んだ案件でサ」
「だから、俺がやってる訳じゃねぇんだがな」
制服を脱いでシドは綿のシャツにコットンパンツ、ハイファはドレスシャツとソフトスーツのスラックスに着替えて部屋でくつろぐ。
ホテルのツインといえばワンルームでもう少し狭いのを予想していたが、部屋には広めのベッドルームやリフレッシャブースとは別に、小さいながらもリビングが付いており、ソファセットと、これは嬉しい誤算でコーヒーメーカーやカップ類も完備されていた。
官品にシブいテラ連邦、安ビジネスホテルのようなのを勝手に想像していたのだ。
それこそ何があるか分からないのでホロTVを点けっ放しにして、取り敢えず部屋にサーヴィスで置いてあったインスタントコーヒーをハイファは淹れる。
「部屋、禁煙じゃなくって良かったね」
既にソファで紫煙を吐いているシドの前にハイファはカップを置きながら笑った。
煙草からニコチン・タールなどの有害物質が消えて久しいが、企業努力として依存物質は含まれる。まんまと嵌った中毒患者はチェーンスモークしつつ頷いた。
「ああ。最悪これとコーヒーがあれば、三日は稼働できる」
「良くないよ、胃袋が鉄で出来てるのは分かるけど」
「スパイの胃袋は鉄どころかステンレスだろ。で、お前はその様子だとここにはかなり詳しいみたいだな。ということで何もなければ三日間の休み、明日からツアーガイドに任命してやる」
「えっ、イヴェントストライカがタイタンで観光?」
「何だ、文句あんのかよ?」
「病識がないってある意味最強だよね。まあ、三日もここで缶詰も嫌かもだけど」
「サイキだ病気だって俺には普通の人間並みの愉しみを得る権利すらねぇのかよ」
「そこまで言ってないでしょ。分かったから管内の案内くらいはするよ。いつも足で捜査する人が自分の受け持ち管内を知らないのは落ち着かないって、素直に言えばいいじゃない。僕が貴方に言うワーカホリックは一応誉め言葉なんだからね」
図星を指されて咥え煙草のシドは諸手を挙げる。
リモータに流された捜査戦術コンからの地図は別室戦術コンから引き出したものを重ねて更に詳しくしてあった。だが実際に歩いてみないと分からない街の雰囲気や匂いといったものがある。それらを把握せず日勤の表在署に回るのがシドは嫌なのだ。
事実、この休みを利用して歩く課員は多い筈である。いきなり今日から表に就いた組には爆破を免れた一分署員や三分署から仮異動になった一分署経験者が混ぜられている。
仕事をしにきた以上、いい加減なことはしたくないシドだった。
「ねえ。そろそろ屋上階のレストラン、席、取っておいた方が良くない?」
ハイファが言った途端、シドのリモータにキャスから発振が入る。
素早く二人は執銃しシドは対衝撃ジャケットをハイファはソフトスーツの上衣を着て十階の部屋を出た。エレベーターホールには自分たちと同じく制服を脱ぎ、ラフな格好に着替えたマックスとキャスの姿があった。
職務上のクセだろうか、約束の五分前という律儀さだ。
四人で最上階のレストランに上がると客の入りは八分くらいで結構な盛況だった。ちらほらと見た顔もある。
自分たち官品組のために設置されたのか、入り口付近にチェックパネルがあり、リモータを翳してから、上手く空いた席を確保した。
テーブル上に、これも官品組仕様らしいメニュー表がせり上がってきて、そこから各々がセットメニューを入力する。
「ビュッフェ形式の官舎食堂も慣れてる分、気が楽だけれど、ここは少なくともメニューが選べるのがいいわね。クレジットを足せばデザートも食べられるし二十四時間営業だそうだし」
「キャス、二十四時間も食い続けるつもりかよ。太るぜ?」
不用意な言葉を放ったシドを残りのフェミニスト二名は目で牽制する。だがキャス自身はお構いなしで、デザートのメニュー表を本気で眺め始めた。
「このレアチーズケーキ、美味しそうじゃない?」
「ケーキホール、別腹ってヤツか」
「そう。食後、頼んじゃおうっと。えいっ」
まもなく出てきたメインのセットメニューはこれも官品仕様なのか、警察官を軍の特殊部隊員と勘違いしているような盛りの良さで皆、キャスの選択は失敗だろうとばかり思っていた。
だが何とか食べきったハンバーグだのビーフカツだののセットメニューのあとでコーヒーを飲みながらケーキをぱくつくキャスに男性陣は呆れる。
「本当に最近良く食べるな、キャス」
「その小柄な躰の何処に入るんだ? まるでブラックホールだな」
「そうよ。はくちょう座X‐1とわたしの胃袋は繋がってるの。……うん、美味しい。みんな、ひとくちずつあげようか?」
「……いや、いい」
ハイファは言葉を失くしたかのように、じっとキャスを見つめていた。
◇◇◇◇
翌日、シドとハイファは朝食を摂ると、そのまま一階エントランスに降りて数台待機している無人コイルタクシーに乗り込んだ。
「全部歩きたいんだろうけど、いっぺんに無理なのは分かってるよね」
そう言ったツアーガイド・ハイファの提案は、まず居住区全体をタクシーで流し、そのあと歓楽街を歩いてみるというスケジュールだ。
タイタンに初めて作られた宙港である第一宙港まではコイルで十五分ほど、ここ一分署管内に一番多く宙港関係者の居住施設は集中している。故に福利厚生施設も充実し、病院のレヴェルもトップクラスだ。
さすがにテラ本星セントラルエリアまでとはいかないが、大都市としての機能をそれなりに全て満たしている。故にホテルなども多く他星系からの人々の流出入も激しい。歓楽街にしてもそうだ。そんな中で日常的に起こる些細なトラブルは異邦人との文化の違いなどもあり、本星よりも発生率が高いということだった。
そうはいっても住むのは元々本星人だった人間が殆どで、機動捜査課の一班全員が出張るような凶悪犯罪こそ起こることは稀らしい。
リモータの別室基礎資料でそんな情報を得ながら、ゆっくりとタクシーで巡る。
マックスとキャスが割り当てられた官舎ビルの五十階建てを筆頭に高層建築が集中している居住区を暗い中、シドはつぶさに観察し、地理を脳裏に叩き込んでゆく。
コイルの走れる通りは碁盤の目のように整備され、ほぼ一ブロックごとに二棟ずつのビルが建ち並んでいた。それぞれ一階は店舗のテナントが入っていることが多い。
そこに住んでいる者は、せいぜい二、三棟先のビルまで歩けば日常生活に必要な物資が大抵手に入るというシステムだ。勿論、通販だって普通に普及しているが。
それら居住区の真ん中付近に我らが一分署はある。爆破はそれこそ一般人をも巻き込みかねない非道なものであったのだ。
居住区の向こうは学校に病院や役所などの区画がある。この都市全体が建設当初から極めて計画的だったことを伺わせる作りだった。
ここも地面は全てテラ本星と同じファイバ、歩道の脇にはスライドロードと、あと、これは本星より光量の大きい外灯が間隔を狭くして並んでいる。
だがこれら高度文明圏の様相も都市や宙港その他のエリアだけだ。あとは完全テラフォーミングといえども広大すぎる衛星一個、テラ本星の六分の一もの表面積全てを覆うものではない。単に呼吸していられるというだけの土地でしかない。特に土星に向いている側はあまり開発されてはいないのだ。
二人の乗ったタクシーは居住区を抜けるとハイウェイを越え、対岸の歓楽街に入った。時間的には朝とはいえ宙港は二十四時間稼働、自分たちではないが交代制の人員が殆どである。
そういった人々だけでなく他星からの来訪者も多い街は居住区のような高層建築こそあまり見かけなかったが、大層な賑わいをみせていた。
歓楽街のふちでタクシーを駐め、リモータリンクでクレジット精算し降車する。
「へえ、こっちの中身は計画的には行かなかったらしいな」
呟きつつシドが足を踏み入れた歓楽街は、一種、独特な雰囲気が充満していた。
ちょっと高級そうなブティックがあるかと思えば隣がスーパーマーケット、また隣が居酒屋だったりする。本星なら裏通りにある合法ドラッグ店やバーが並んでいると思ったら隣では幾つもの水槽に色とりどりの熱帯魚が泳いでいたりと、なかなか飽きない配置だ。
とにかく商売っ気のある奴が早い者勝ちで開店したような塩梅である。
限られた環境下で限られた土地を奪い合った結果、この混沌が生まれたのだろう。見ている分にはそれぞれの電子看板も眩しく、まるで祭りの屋台のようで昂揚感を煽られた。
「これなら小競り合いも起こるだろうな」
「でも血の気の多い年頃の人は殆ど本星の学校に通わせられてるからいないし、他星からの来訪者は必ず通関を経てきてるからね。この状態の割に犯罪は少ない方だよ」
「ふうん。でもマジでこれは独特だよな。……おっ、何星人だ、あれ?」
「長命系っぽい……綺麗だね」
人混みの中で小さな顔と長い四肢を持ったスキンヘッドの性別不明な人間とすれ違う。そういった異星系人までもが紛れた人波は、同調していないと肩が触れ合うような距離感だ。言葉すら通じるか分からない相手との揉め事はできれば避けたいところである。
だが本星セントラルを日頃から歩き回っている二人は、しなやかな足取りで難なく人々を縫って先へと進んだ。だからといって全ての路地を歩くのは無理、自然と人の群れる広めの通りを検分して回る。そして映画館の前を通りかかった時だった。
反対側の中華料理店から出てきた三人の男をシドは避ける。そこに前方から人波を押し分けてゆるゆるとコイルがやってきた。シドたちとすれ違う寸前で停車ギリギリまで速度を落としたコイルはサイドウィンドウを半分ほど下げる。
覗いたのは紛れもなく銃口、反射的にシドとハイファはウィンドウ越しにコイルの乗員を抜き撃っていた。轟音が周囲をどよめかせ、悲鳴を上げさせる。
が、直前に発射されていた一条のレーザーは中華屋から出てきた男のうち、貫禄のある一人の腹を貫き薙いでいた。声もなく男は頽れる。
残った男二人がスーツの懐に手をやった。抜き出しコイルに向けたのはハンドガン、その二丁をシドとハイファは撃たせる前に撃つ。
旧式銃は両方、バラバラのガラクタになって弾け飛んだ。
「ハイファ!」
「救急機と緊急機、要請したよ」
「僕は本星でもシドといる限り交代制じゃなかったから、こういうのって新鮮かも」
「新鮮ってお前、分かってるだろうが、何もテロじゃなくても殺しや強盗レヴェルのヤマが起これば一週間は掛かり切りで全てが吹っ飛ぶんだぞ」
「知ってるよ、それくらい。捜査一課に申し送るまで一週間の初動捜査期間、帳場が立って機捜課も組み込まれたらそれ以上だよね。たまにヤマサキさんたち、目、真っ赤にしてるもん。それもシドが持ち込んだ案件でサ」
「だから、俺がやってる訳じゃねぇんだがな」
制服を脱いでシドは綿のシャツにコットンパンツ、ハイファはドレスシャツとソフトスーツのスラックスに着替えて部屋でくつろぐ。
ホテルのツインといえばワンルームでもう少し狭いのを予想していたが、部屋には広めのベッドルームやリフレッシャブースとは別に、小さいながらもリビングが付いており、ソファセットと、これは嬉しい誤算でコーヒーメーカーやカップ類も完備されていた。
官品にシブいテラ連邦、安ビジネスホテルのようなのを勝手に想像していたのだ。
それこそ何があるか分からないのでホロTVを点けっ放しにして、取り敢えず部屋にサーヴィスで置いてあったインスタントコーヒーをハイファは淹れる。
「部屋、禁煙じゃなくって良かったね」
既にソファで紫煙を吐いているシドの前にハイファはカップを置きながら笑った。
煙草からニコチン・タールなどの有害物質が消えて久しいが、企業努力として依存物質は含まれる。まんまと嵌った中毒患者はチェーンスモークしつつ頷いた。
「ああ。最悪これとコーヒーがあれば、三日は稼働できる」
「良くないよ、胃袋が鉄で出来てるのは分かるけど」
「スパイの胃袋は鉄どころかステンレスだろ。で、お前はその様子だとここにはかなり詳しいみたいだな。ということで何もなければ三日間の休み、明日からツアーガイドに任命してやる」
「えっ、イヴェントストライカがタイタンで観光?」
「何だ、文句あんのかよ?」
「病識がないってある意味最強だよね。まあ、三日もここで缶詰も嫌かもだけど」
「サイキだ病気だって俺には普通の人間並みの愉しみを得る権利すらねぇのかよ」
「そこまで言ってないでしょ。分かったから管内の案内くらいはするよ。いつも足で捜査する人が自分の受け持ち管内を知らないのは落ち着かないって、素直に言えばいいじゃない。僕が貴方に言うワーカホリックは一応誉め言葉なんだからね」
図星を指されて咥え煙草のシドは諸手を挙げる。
リモータに流された捜査戦術コンからの地図は別室戦術コンから引き出したものを重ねて更に詳しくしてあった。だが実際に歩いてみないと分からない街の雰囲気や匂いといったものがある。それらを把握せず日勤の表在署に回るのがシドは嫌なのだ。
事実、この休みを利用して歩く課員は多い筈である。いきなり今日から表に就いた組には爆破を免れた一分署員や三分署から仮異動になった一分署経験者が混ぜられている。
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「ねえ。そろそろ屋上階のレストラン、席、取っておいた方が良くない?」
ハイファが言った途端、シドのリモータにキャスから発振が入る。
素早く二人は執銃しシドは対衝撃ジャケットをハイファはソフトスーツの上衣を着て十階の部屋を出た。エレベーターホールには自分たちと同じく制服を脱ぎ、ラフな格好に着替えたマックスとキャスの姿があった。
職務上のクセだろうか、約束の五分前という律儀さだ。
四人で最上階のレストランに上がると客の入りは八分くらいで結構な盛況だった。ちらほらと見た顔もある。
自分たち官品組のために設置されたのか、入り口付近にチェックパネルがあり、リモータを翳してから、上手く空いた席を確保した。
テーブル上に、これも官品組仕様らしいメニュー表がせり上がってきて、そこから各々がセットメニューを入力する。
「ビュッフェ形式の官舎食堂も慣れてる分、気が楽だけれど、ここは少なくともメニューが選べるのがいいわね。クレジットを足せばデザートも食べられるし二十四時間営業だそうだし」
「キャス、二十四時間も食い続けるつもりかよ。太るぜ?」
不用意な言葉を放ったシドを残りのフェミニスト二名は目で牽制する。だがキャス自身はお構いなしで、デザートのメニュー表を本気で眺め始めた。
「このレアチーズケーキ、美味しそうじゃない?」
「ケーキホール、別腹ってヤツか」
「そう。食後、頼んじゃおうっと。えいっ」
まもなく出てきたメインのセットメニューはこれも官品仕様なのか、警察官を軍の特殊部隊員と勘違いしているような盛りの良さで皆、キャスの選択は失敗だろうとばかり思っていた。
だが何とか食べきったハンバーグだのビーフカツだののセットメニューのあとでコーヒーを飲みながらケーキをぱくつくキャスに男性陣は呆れる。
「本当に最近良く食べるな、キャス」
「その小柄な躰の何処に入るんだ? まるでブラックホールだな」
「そうよ。はくちょう座X‐1とわたしの胃袋は繋がってるの。……うん、美味しい。みんな、ひとくちずつあげようか?」
「……いや、いい」
ハイファは言葉を失くしたかのように、じっとキャスを見つめていた。
◇◇◇◇
翌日、シドとハイファは朝食を摂ると、そのまま一階エントランスに降りて数台待機している無人コイルタクシーに乗り込んだ。
「全部歩きたいんだろうけど、いっぺんに無理なのは分かってるよね」
そう言ったツアーガイド・ハイファの提案は、まず居住区全体をタクシーで流し、そのあと歓楽街を歩いてみるというスケジュールだ。
タイタンに初めて作られた宙港である第一宙港まではコイルで十五分ほど、ここ一分署管内に一番多く宙港関係者の居住施設は集中している。故に福利厚生施設も充実し、病院のレヴェルもトップクラスだ。
さすがにテラ本星セントラルエリアまでとはいかないが、大都市としての機能をそれなりに全て満たしている。故にホテルなども多く他星系からの人々の流出入も激しい。歓楽街にしてもそうだ。そんな中で日常的に起こる些細なトラブルは異邦人との文化の違いなどもあり、本星よりも発生率が高いということだった。
そうはいっても住むのは元々本星人だった人間が殆どで、機動捜査課の一班全員が出張るような凶悪犯罪こそ起こることは稀らしい。
リモータの別室基礎資料でそんな情報を得ながら、ゆっくりとタクシーで巡る。
マックスとキャスが割り当てられた官舎ビルの五十階建てを筆頭に高層建築が集中している居住区を暗い中、シドはつぶさに観察し、地理を脳裏に叩き込んでゆく。
コイルの走れる通りは碁盤の目のように整備され、ほぼ一ブロックごとに二棟ずつのビルが建ち並んでいた。それぞれ一階は店舗のテナントが入っていることが多い。
そこに住んでいる者は、せいぜい二、三棟先のビルまで歩けば日常生活に必要な物資が大抵手に入るというシステムだ。勿論、通販だって普通に普及しているが。
それら居住区の真ん中付近に我らが一分署はある。爆破はそれこそ一般人をも巻き込みかねない非道なものであったのだ。
居住区の向こうは学校に病院や役所などの区画がある。この都市全体が建設当初から極めて計画的だったことを伺わせる作りだった。
ここも地面は全てテラ本星と同じファイバ、歩道の脇にはスライドロードと、あと、これは本星より光量の大きい外灯が間隔を狭くして並んでいる。
だがこれら高度文明圏の様相も都市や宙港その他のエリアだけだ。あとは完全テラフォーミングといえども広大すぎる衛星一個、テラ本星の六分の一もの表面積全てを覆うものではない。単に呼吸していられるというだけの土地でしかない。特に土星に向いている側はあまり開発されてはいないのだ。
二人の乗ったタクシーは居住区を抜けるとハイウェイを越え、対岸の歓楽街に入った。時間的には朝とはいえ宙港は二十四時間稼働、自分たちではないが交代制の人員が殆どである。
そういった人々だけでなく他星からの来訪者も多い街は居住区のような高層建築こそあまり見かけなかったが、大層な賑わいをみせていた。
歓楽街のふちでタクシーを駐め、リモータリンクでクレジット精算し降車する。
「へえ、こっちの中身は計画的には行かなかったらしいな」
呟きつつシドが足を踏み入れた歓楽街は、一種、独特な雰囲気が充満していた。
ちょっと高級そうなブティックがあるかと思えば隣がスーパーマーケット、また隣が居酒屋だったりする。本星なら裏通りにある合法ドラッグ店やバーが並んでいると思ったら隣では幾つもの水槽に色とりどりの熱帯魚が泳いでいたりと、なかなか飽きない配置だ。
とにかく商売っ気のある奴が早い者勝ちで開店したような塩梅である。
限られた環境下で限られた土地を奪い合った結果、この混沌が生まれたのだろう。見ている分にはそれぞれの電子看板も眩しく、まるで祭りの屋台のようで昂揚感を煽られた。
「これなら小競り合いも起こるだろうな」
「でも血の気の多い年頃の人は殆ど本星の学校に通わせられてるからいないし、他星からの来訪者は必ず通関を経てきてるからね。この状態の割に犯罪は少ない方だよ」
「ふうん。でもマジでこれは独特だよな。……おっ、何星人だ、あれ?」
「長命系っぽい……綺麗だね」
人混みの中で小さな顔と長い四肢を持ったスキンヘッドの性別不明な人間とすれ違う。そういった異星系人までもが紛れた人波は、同調していないと肩が触れ合うような距離感だ。言葉すら通じるか分からない相手との揉め事はできれば避けたいところである。
だが本星セントラルを日頃から歩き回っている二人は、しなやかな足取りで難なく人々を縫って先へと進んだ。だからといって全ての路地を歩くのは無理、自然と人の群れる広めの通りを検分して回る。そして映画館の前を通りかかった時だった。
反対側の中華料理店から出てきた三人の男をシドは避ける。そこに前方から人波を押し分けてゆるゆるとコイルがやってきた。シドたちとすれ違う寸前で停車ギリギリまで速度を落としたコイルはサイドウィンドウを半分ほど下げる。
覗いたのは紛れもなく銃口、反射的にシドとハイファはウィンドウ越しにコイルの乗員を抜き撃っていた。轟音が周囲をどよめかせ、悲鳴を上げさせる。
が、直前に発射されていた一条のレーザーは中華屋から出てきた男のうち、貫禄のある一人の腹を貫き薙いでいた。声もなく男は頽れる。
残った男二人がスーツの懐に手をやった。抜き出しコイルに向けたのはハンドガン、その二丁をシドとハイファは撃たせる前に撃つ。
旧式銃は両方、バラバラのガラクタになって弾け飛んだ。
「ハイファ!」
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