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第16話
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レーザーでの巻き添えがいないのを見渡し確認すると、シドは腹を射たれて呻いている男を看る。この程度なら命に別状はないだろうと判断できて安堵した。
あとは連れの銃不法所持男らに手帳を見せてマル害、つまり被害者らしく逃げぬよう念を押す。だがこの場合は逃げるに逃げられないだろう。どう見ても撃たれたのは他星のマフィア幹部、銃刀法違反たちはその護衛といった風体だったからだ。
一方ではハイファがコイルの方を看ている。
そのウィンドウには派手にヒビが入り血飛沫がこびりついていた。
乗員のヒットマンは二名で一方が手動運転だか入力だかをする役目、もう一方がまともに狙っていたレーザーガン男だ。後者はパワーを落としたとはいえレールガンのフレシェット弾と九ミリパラとを同時に右肩に食らっている。もう一人も貫通したフレシェット弾で片腕がぶら下がった状態なのでこちらこそ逃げる心配はない。
既に出来上がった人の輪に囲まれて、緊急音が近づいてくるのを待った。
「ねえ、シド。これくらいで勤務のローテーションが繰り上がったりするの?」
「ホシもマル害も、たぶん動機も割れてるからな。実況見分で終わりだろ」
「ならいいけどサ」
全く以て良くはなかった。
敵味方の呉越同舟な救急機を見送り、緊急機でやってきた同輩らと銃刀法違反男二人を捕縛して実況見分、そのあとシドとハイファも一分署に足を運び、苦い顔をした課長の前のデスクで報告書だけでなく、仮一分署初の始末書A様式を書かされたのであった。
衆人環視の中での発砲、自分たちやヴィンティス課長は慣れているがここでの課長は慣れていない、警察官職務執行法違反である。
◇◇◇◇
「そういえば、シドと一緒にいると色んなことに出遭ったわよね」
「故障したコイルがテレーザガーデンズの食堂に突っ込んできたのは驚いたよな」
「BELが降ってきた方が吃驚したわ、わたしは」
「ハイキングに出掛けてアレを――」
「それ、食欲失くすからやめてよ、マックス」
「すまん、つい」
「ふうん。やっぱり昔っからだったんだね、シドのイヴェントストライクって」
四人揃って今日は官舎の方の食堂で夕食を摂っていた。
シド・ハイファ組が解放されたのは、つい一時間ほど前だ。キャスとマックスも今日は管内巡りをしていたらしい。他の班員のバディたち待機要員も皆が出払っていた中で発砲案件発生、一時は表在所組がビビッて全員に招集を掛けてしまったため、一分署でシドとハイファを知らない者はモグリという有名人にもなってしまった。
「イヴェントストライク、ねえ」
「職場での仇名です、イヴェントストライカ。たぶん昔よりパワーアップしてる」
「それじゃあバディも大変そうね。四六時中武装なんてわたしたちはありえないわ。この、リモータ搭載のスタンレーザーで充分。前に使ったのもいつだったかしら」
「いいなあ。お蔭で始末書、始まる前から課長に睨まれちゃった」
「だーかーら、俺のせいじゃねぇって! テメェらは勝手にべらべらと」
ムッとしてシドはフォークに刺したソーセージに噛み付く。本日のメニューはピラフとサラダ、ボイルドソーセージに卵スープ、フルーツのヨーグルト和えである。
プレートに自分で盛りつけたピラフをスプーンでかき寄せてハイファは反論した。
「否定したって現実としてそうなんだから仕方ないじゃない。その分、抜群の危機管理能力も伴ってるんだし、僕は絶対にバディは降りないしいいでしょ……あっ」
ハイファの小さな叫びと同時に僅かだが地が揺れた。窓がたわむ。テーブル上の食器がカタカタと小刻みに鳴った。妙に心細いような小声でキャスが呟く。
「……地震かしら?」
「タイタン・クウェイクなんて聞かないけど……」
小さくとも地震はその後の何かを予感させて人を不安にさせる。お陰で自然と食事も終えるまで静かなものとなった。
――と、食堂の人々がざわめく。ハイファが若草色の目を瞠った。
一堂はハイファの視線を辿る。キャス・マックス組は背中側、肩越しに視た広い食堂の天井近くの中空に大きく映像を浮かばせた3DホロTVを仰いだ。その画面には強力なライトで照らされ燃え続ける瓦礫が映っている。テロップが出た。
《テラ連邦軍少年工科学校タイタン分校及び軍募集案内所、爆破される》
「管内だ、行くぞ!」
立ち上がったシドが声を掛けると同時に、食堂のあちこちでリモータが一斉に震えだしていた。真っ先にシドたち四人は食堂を出て官舎のエントランスを駆け抜ける。
そこら中のタクシーが総動員され、運良く先んじて捕まえたそれに四人は乗り込んで、署ではなく直接爆破現場へと向かった。
居住区とハイウェイに挟まれた現場は未だ火が出ているのと、通報・指令より速かったTVクルーの手にした照明とで視界は明るかった。上空のメディア取材BELからのライトも照りつけている。そのせいで広大な土地に折り重なった瓦礫が爆破の凄まじさを目の当たりにできた。
おそらく破片と衝撃波で近隣の建物にも被害が出ているに違いない。
「くそう、やりやがって……」
「でも今、工科学校の全生徒は演習でタイタン基地に行ってる。それだけは幸い」
「募集所や、学校管理者は? 近場の住民はどうなんだよ?」
「分かってるから当たらないでよ、ボーッと見てるよりマシなことするから!」
カスタムメイドリモータの別室システムを立ち上げると、ハイファはこの施設や周辺情報をピンポイントで拾い出し始めた。だがそれも徒労であるのは目前の瓦礫、周辺施設の壁や窓まで吹き飛ばした爆破の勢いを見れば解る。はっきり言って手がつけられない。
結局は自分で言ったように『ボーッと見ている』以外の何もできないのだった。
次々と現着した同輩たちも目視で人であったモノを探すのみ、それもまもなく始まった消防の消火活動で一度退かざるを得なかった。
襲ったショックウェブによる壊れた窓等で居住区や周辺施設でもやはり怪我人が出たらしく、搬送する救急機の往来で、やがて辺りは一層騒然とする。
まもなくシドたちは簡単な班割りをされ、一応周辺捜索をしたものの、この手の事件で犯行グループないし犯人が、今頃のうのうとそこらを歩いている筈もなく、野次馬の一人一人のID及び目撃情報を訊き、問い合わせる作業に終始するのみだった。
タイタン基地から大型BELが飛来する頃にはその作業も終わり、瓦礫の中から被害者を掘り当て回収するという陰惨な仕事にシドたちも手を貸そうとしたが、上の者同士で話がついているらしく、それに携わることはなく一旦の解散となった。
翌日からは表在署をもう一班繰り上げて二班態勢、そう現場で告げられた。シドたちは自宅待機の裏在署予定が吹っ飛び、明日から表在署で出勤という訳だ。
聞き込み結果は五ミリ角の外部メモリであるMB――メディアブロック――に収めて深夜番に渡し、結局何もできなかった徒労感を引きずって官舎とホテルに戻った。
◇◇◇◇
「これで本格的に軍も乗り出すんじゃねぇか?」
「そうだね。調べたら最低でも十六人は殺られた計算だったよ」
「そうか。演習で良かったと言うべきなんだろうな」
コーヒーを淹れながらシドは煙草を振り出して咥える。
「演習じゃなかったら数百人が死んでた……でも」
シドに続いてリフレッシャを浴びて煤を落とし、ハイファはソファに身を沈めた。
「『でも』って、何だよ」
「何って、手加減。おかしいでしょ、あのドラクロワ=メイディーン、ヴィクトル星系解放旅団が数百人を見逃したってことだよ。そんな手心加えるように思える?」
「確かに、どうせやるなら大量爆殺だよな……」
「そう。だって工科学校の生徒は明日の午後には戻ってくるんだよ。なのに何で今晩だったのかなあって。ほら、お得意の犯行声明もまだだしサ」
情報収集用にホロTVは低音量で点けっ放しにしてあった。今回のように内部からの情報よりマスコミの方が情報伝達が速いことが往々にしてある。
シドはコーヒーのカップを二つ手にしてきて片方をハイファの前に置いてやった。
「元・一分署は未だに瓦礫の山だっつーのに、軍は仕事が早いな」
TVに映るのは先程まで自分たちもいた現場、学校と募集所という広大な敷地を埋め尽くす瓦礫が片端から集められて山となり一部はもう更地になりかけていた。
溜息と共に紫煙を吐き出しかけたとき、画面がスタジオに切り替わった。
《ここで臨時ニュースです。たった今、テラ連邦軍少年工科学校タイタン分校及び軍募集案内所爆破について、犯行声明が送られてきました。どうやらヴィクトル星系解放旅団とは違うグループの模様です。では、その全文をお聞き下さい》
「え、マジで第二の犯行グループかよ?」
「何だろうね、コピーキャットが犯行声明じゃコピーでもなくなる……」
再び映像は瓦礫の山に変わり、それを背景に女性アナウンサーの読み上げる声と同期してテロップでも犯行声明が流された。
《――これは報復であり罰である。我らの星が流し続ける血から目を背け忘れ去り、享楽を貪りしテラ連邦よ。己の罪深さを認め悔い改め、我らに慈悲を乞うまでは、鞭を振り下ろし続ける手を決して我らは緩めぬであろう。……清冽なる陽・テレーザガーデンズ》
ブホッとシドがコーヒーを吹きかけた。
「何なんだよっ、この犯行グループ名は!」
「テレーザガーデンズって、シドたちが育った施設の名前だったよね、確か」
TVではアナウンサーとアナリストが適当な憶測を述べている。
《死者二十名を出したこの爆破ですが、ここにきて新たな犯行グループからの声明とは、模倣犯ですかね?》
《無論コピーキャットの可能性もありますが、自ら名乗っての犯行声明ですからね。手口がほぼ同じところから見て、ヴィクトル星系解放旅団が分裂した可能性もあり得ますよ。それに何と言っても初めて直接的に軍施設を狙った犯行という部分に注目したいです。これは完全なテラ連邦議会への挑戦で――》
などとひとくさり談議したのち、女性アナが『一旦、コマーシャルです』と言って番組が途絶えた。だがCMになるかと思いきや、次に流れ出したのは平坦な口調の男性の声だった。その映像にシドの切れ長の目は釘付けになる。
《この輝かしき日、我が熾した聖なる火に集え……清冽なる陽の下へ――》
「シド、電波ジャックだ!」
「……ああ、視てるさ。チクショウ、そういうことかよ」
CMが流される筈の数十秒、その画面には一人の男が映り喋っていた。いかにも合成臭い男の上半身像であり、自らを名乗りもしなかったが、その特徴はシドとハイファが知る人間と酷似していた。いや、そのものだといってもいい。
――明るい金髪に灰色の目。
電波ジャックは始まったときと同じく唐突に終わる。
相対的に異様に明るく聞こえるCMを忌々しく感じながら、シドは急いでリモータ操作した。し終える前に、相手から発信が入る。
あとは連れの銃不法所持男らに手帳を見せてマル害、つまり被害者らしく逃げぬよう念を押す。だがこの場合は逃げるに逃げられないだろう。どう見ても撃たれたのは他星のマフィア幹部、銃刀法違反たちはその護衛といった風体だったからだ。
一方ではハイファがコイルの方を看ている。
そのウィンドウには派手にヒビが入り血飛沫がこびりついていた。
乗員のヒットマンは二名で一方が手動運転だか入力だかをする役目、もう一方がまともに狙っていたレーザーガン男だ。後者はパワーを落としたとはいえレールガンのフレシェット弾と九ミリパラとを同時に右肩に食らっている。もう一人も貫通したフレシェット弾で片腕がぶら下がった状態なのでこちらこそ逃げる心配はない。
既に出来上がった人の輪に囲まれて、緊急音が近づいてくるのを待った。
「ねえ、シド。これくらいで勤務のローテーションが繰り上がったりするの?」
「ホシもマル害も、たぶん動機も割れてるからな。実況見分で終わりだろ」
「ならいいけどサ」
全く以て良くはなかった。
敵味方の呉越同舟な救急機を見送り、緊急機でやってきた同輩らと銃刀法違反男二人を捕縛して実況見分、そのあとシドとハイファも一分署に足を運び、苦い顔をした課長の前のデスクで報告書だけでなく、仮一分署初の始末書A様式を書かされたのであった。
衆人環視の中での発砲、自分たちやヴィンティス課長は慣れているがここでの課長は慣れていない、警察官職務執行法違反である。
◇◇◇◇
「そういえば、シドと一緒にいると色んなことに出遭ったわよね」
「故障したコイルがテレーザガーデンズの食堂に突っ込んできたのは驚いたよな」
「BELが降ってきた方が吃驚したわ、わたしは」
「ハイキングに出掛けてアレを――」
「それ、食欲失くすからやめてよ、マックス」
「すまん、つい」
「ふうん。やっぱり昔っからだったんだね、シドのイヴェントストライクって」
四人揃って今日は官舎の方の食堂で夕食を摂っていた。
シド・ハイファ組が解放されたのは、つい一時間ほど前だ。キャスとマックスも今日は管内巡りをしていたらしい。他の班員のバディたち待機要員も皆が出払っていた中で発砲案件発生、一時は表在所組がビビッて全員に招集を掛けてしまったため、一分署でシドとハイファを知らない者はモグリという有名人にもなってしまった。
「イヴェントストライク、ねえ」
「職場での仇名です、イヴェントストライカ。たぶん昔よりパワーアップしてる」
「それじゃあバディも大変そうね。四六時中武装なんてわたしたちはありえないわ。この、リモータ搭載のスタンレーザーで充分。前に使ったのもいつだったかしら」
「いいなあ。お蔭で始末書、始まる前から課長に睨まれちゃった」
「だーかーら、俺のせいじゃねぇって! テメェらは勝手にべらべらと」
ムッとしてシドはフォークに刺したソーセージに噛み付く。本日のメニューはピラフとサラダ、ボイルドソーセージに卵スープ、フルーツのヨーグルト和えである。
プレートに自分で盛りつけたピラフをスプーンでかき寄せてハイファは反論した。
「否定したって現実としてそうなんだから仕方ないじゃない。その分、抜群の危機管理能力も伴ってるんだし、僕は絶対にバディは降りないしいいでしょ……あっ」
ハイファの小さな叫びと同時に僅かだが地が揺れた。窓がたわむ。テーブル上の食器がカタカタと小刻みに鳴った。妙に心細いような小声でキャスが呟く。
「……地震かしら?」
「タイタン・クウェイクなんて聞かないけど……」
小さくとも地震はその後の何かを予感させて人を不安にさせる。お陰で自然と食事も終えるまで静かなものとなった。
――と、食堂の人々がざわめく。ハイファが若草色の目を瞠った。
一堂はハイファの視線を辿る。キャス・マックス組は背中側、肩越しに視た広い食堂の天井近くの中空に大きく映像を浮かばせた3DホロTVを仰いだ。その画面には強力なライトで照らされ燃え続ける瓦礫が映っている。テロップが出た。
《テラ連邦軍少年工科学校タイタン分校及び軍募集案内所、爆破される》
「管内だ、行くぞ!」
立ち上がったシドが声を掛けると同時に、食堂のあちこちでリモータが一斉に震えだしていた。真っ先にシドたち四人は食堂を出て官舎のエントランスを駆け抜ける。
そこら中のタクシーが総動員され、運良く先んじて捕まえたそれに四人は乗り込んで、署ではなく直接爆破現場へと向かった。
居住区とハイウェイに挟まれた現場は未だ火が出ているのと、通報・指令より速かったTVクルーの手にした照明とで視界は明るかった。上空のメディア取材BELからのライトも照りつけている。そのせいで広大な土地に折り重なった瓦礫が爆破の凄まじさを目の当たりにできた。
おそらく破片と衝撃波で近隣の建物にも被害が出ているに違いない。
「くそう、やりやがって……」
「でも今、工科学校の全生徒は演習でタイタン基地に行ってる。それだけは幸い」
「募集所や、学校管理者は? 近場の住民はどうなんだよ?」
「分かってるから当たらないでよ、ボーッと見てるよりマシなことするから!」
カスタムメイドリモータの別室システムを立ち上げると、ハイファはこの施設や周辺情報をピンポイントで拾い出し始めた。だがそれも徒労であるのは目前の瓦礫、周辺施設の壁や窓まで吹き飛ばした爆破の勢いを見れば解る。はっきり言って手がつけられない。
結局は自分で言ったように『ボーッと見ている』以外の何もできないのだった。
次々と現着した同輩たちも目視で人であったモノを探すのみ、それもまもなく始まった消防の消火活動で一度退かざるを得なかった。
襲ったショックウェブによる壊れた窓等で居住区や周辺施設でもやはり怪我人が出たらしく、搬送する救急機の往来で、やがて辺りは一層騒然とする。
まもなくシドたちは簡単な班割りをされ、一応周辺捜索をしたものの、この手の事件で犯行グループないし犯人が、今頃のうのうとそこらを歩いている筈もなく、野次馬の一人一人のID及び目撃情報を訊き、問い合わせる作業に終始するのみだった。
タイタン基地から大型BELが飛来する頃にはその作業も終わり、瓦礫の中から被害者を掘り当て回収するという陰惨な仕事にシドたちも手を貸そうとしたが、上の者同士で話がついているらしく、それに携わることはなく一旦の解散となった。
翌日からは表在署をもう一班繰り上げて二班態勢、そう現場で告げられた。シドたちは自宅待機の裏在署予定が吹っ飛び、明日から表在署で出勤という訳だ。
聞き込み結果は五ミリ角の外部メモリであるMB――メディアブロック――に収めて深夜番に渡し、結局何もできなかった徒労感を引きずって官舎とホテルに戻った。
◇◇◇◇
「これで本格的に軍も乗り出すんじゃねぇか?」
「そうだね。調べたら最低でも十六人は殺られた計算だったよ」
「そうか。演習で良かったと言うべきなんだろうな」
コーヒーを淹れながらシドは煙草を振り出して咥える。
「演習じゃなかったら数百人が死んでた……でも」
シドに続いてリフレッシャを浴びて煤を落とし、ハイファはソファに身を沈めた。
「『でも』って、何だよ」
「何って、手加減。おかしいでしょ、あのドラクロワ=メイディーン、ヴィクトル星系解放旅団が数百人を見逃したってことだよ。そんな手心加えるように思える?」
「確かに、どうせやるなら大量爆殺だよな……」
「そう。だって工科学校の生徒は明日の午後には戻ってくるんだよ。なのに何で今晩だったのかなあって。ほら、お得意の犯行声明もまだだしサ」
情報収集用にホロTVは低音量で点けっ放しにしてあった。今回のように内部からの情報よりマスコミの方が情報伝達が速いことが往々にしてある。
シドはコーヒーのカップを二つ手にしてきて片方をハイファの前に置いてやった。
「元・一分署は未だに瓦礫の山だっつーのに、軍は仕事が早いな」
TVに映るのは先程まで自分たちもいた現場、学校と募集所という広大な敷地を埋め尽くす瓦礫が片端から集められて山となり一部はもう更地になりかけていた。
溜息と共に紫煙を吐き出しかけたとき、画面がスタジオに切り替わった。
《ここで臨時ニュースです。たった今、テラ連邦軍少年工科学校タイタン分校及び軍募集案内所爆破について、犯行声明が送られてきました。どうやらヴィクトル星系解放旅団とは違うグループの模様です。では、その全文をお聞き下さい》
「え、マジで第二の犯行グループかよ?」
「何だろうね、コピーキャットが犯行声明じゃコピーでもなくなる……」
再び映像は瓦礫の山に変わり、それを背景に女性アナウンサーの読み上げる声と同期してテロップでも犯行声明が流された。
《――これは報復であり罰である。我らの星が流し続ける血から目を背け忘れ去り、享楽を貪りしテラ連邦よ。己の罪深さを認め悔い改め、我らに慈悲を乞うまでは、鞭を振り下ろし続ける手を決して我らは緩めぬであろう。……清冽なる陽・テレーザガーデンズ》
ブホッとシドがコーヒーを吹きかけた。
「何なんだよっ、この犯行グループ名は!」
「テレーザガーデンズって、シドたちが育った施設の名前だったよね、確か」
TVではアナウンサーとアナリストが適当な憶測を述べている。
《死者二十名を出したこの爆破ですが、ここにきて新たな犯行グループからの声明とは、模倣犯ですかね?》
《無論コピーキャットの可能性もありますが、自ら名乗っての犯行声明ですからね。手口がほぼ同じところから見て、ヴィクトル星系解放旅団が分裂した可能性もあり得ますよ。それに何と言っても初めて直接的に軍施設を狙った犯行という部分に注目したいです。これは完全なテラ連邦議会への挑戦で――》
などとひとくさり談議したのち、女性アナが『一旦、コマーシャルです』と言って番組が途絶えた。だがCMになるかと思いきや、次に流れ出したのは平坦な口調の男性の声だった。その映像にシドの切れ長の目は釘付けになる。
《この輝かしき日、我が熾した聖なる火に集え……清冽なる陽の下へ――》
「シド、電波ジャックだ!」
「……ああ、視てるさ。チクショウ、そういうことかよ」
CMが流される筈の数十秒、その画面には一人の男が映り喋っていた。いかにも合成臭い男の上半身像であり、自らを名乗りもしなかったが、その特徴はシドとハイファが知る人間と酷似していた。いや、そのものだといってもいい。
――明るい金髪に灰色の目。
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