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第38話
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「二人とも、式には必ず来てね」
「ご招待に与れるなら、是非」
「俺はキャスの親父役だってよ」
「落ち着いてるし、いいんじゃない。落ち着いてるし」
「何でリピートするんだ? また暗に老けてるって言いてぇのかよ」
「や、貴重だと思うよ。何なら面白グッズのヅラでも被って演じ切るとか」
「ハゲヅラか? 何で俺だけ躰を張ったギャグに走らなきゃならねぇんだよ」
「ギャグならいいよね。シドって猫っ毛だし、気になるお年頃なの知ってるんだから」
「テメェも同い年だろうが! このふさふさの何処が気になるって?」
このまま互いの首筋に銃口を捻じ込む恐れがあったが、男二人はギリギリでキャスの腹の子のことを思い出す。
「大体、何でこんな話に……ふん、親父役でも神父役でも、新郎役以外なら何でもやってやるさ」
「有難う、誰に頼もうか悩んでたのよ。代わりに貴方たちの結婚式にも呼ばれてあげるから。籍さえ入れなきゃバディは続けられるんだもの、式くらい考えてないの?」
「考えてないっていうか――」
「――考えたくねぇな」
セントラル地方七分署機捜課の面々を思い出して二人は溜息をつく。そこに料理が出てきて暫しそれぞれが腹を満たすことに専念した。職業柄か皆、食べるペースも速い。食後のコーヒーを飲みながらシドは初めてマックスが煙草を吸うのを見た。
もの言いたげなハイファをシドとキャスが目で牽制する。
紫煙を吐きながらマックスが呟く。
「次の本星行きの便は十四時二十分か」
あと四十分のヒマを宙港で潰そうと決め、それぞれが荷物を持って席を立った。
チェックはまとめてシドが終え律儀に返そうとするキャスらをハイファが止める。
「意外だろうけど、結構お金持ちだから」
「本当に意外……って、失礼よね。じゃあ素直に御馳走になっておくわ」
以前の別室任務で手に入れた宝クジ三枚が一等前後賞にストライク、イヴェントストライカは事実、テラ連邦直轄銀行の高額預金者で大金持ちであった。
普通なら刑事なんてやっているのがアホ臭くなるようなクレジットを手にしているのだ。普通じゃないので、このざまなのだが。
階下に降りてホテルを出、タクシーに乗り込む。マックスとキャスが前、シドとハイファが後部座席だ。走り始めて暫くもしないうちにハイファがシドに訊いた。
「どうしたのサ、シド。何かあった?」
後方ばかりを気にするバディにハイファが首を傾げる。
「それほどあからさまじゃねぇし、よくあるコースを辿ってる以上、一概に言えねぇんだが……レストランから尾行られてる」
「行動確認? それこそ同じ便に乗る人も多いし、気のせいじゃないの?」
「ならいいが……何処かで見たような顔なんだがな」
「それなら尚更、同じく本星帰り組かも知れないじゃない」
「そうか、だよな」
応えながらも刑事の勘が働き、シドはひとつの答えを既に得ていた。だが間違いであって欲しい、杞憂であればいいと願いつつ十三時五十五分、宙港に着いてしまう。
一階ロビーにもある端末でシートをリザーブしてしまうと今少しの余裕があった。チケット自体は惑星警察からリモータに流されている。
それらの作業を終えるとシドはA区画の別室員・フォッカー=リンデマン一等特務技官の許へと足を運んだ。勘違い、杞憂を期待しながらも捨て置くことができなかったのだ。
おそらくシドでなければ誰も気付かなかったほど技術に長けた行確は、自爆テロ未遂の一件でマックスと共に爆弾へと足を運んだ宙港警備部員だと思い出していた。
いや、宙港警備部員という隠蔽を持つ別室員だとシドは確信する。その男とフォッカー=リンデマンが今まさに接触し話し込んでいたからだ。
男が去るとフォッカーはニューズペーパーを丁寧に畳みながら微笑みを浮かべた。
「そちらから来てくれるとは手間が省けて助かったよ」
シドについてきただけの残りの面々に対しても別室員は言葉と笑顔を向ける。
フォッカーは一人一人をゆっくり見渡すとニューズペーパーを脇に置き、両手指を組んだ。今日は焦げ茶色のスーツにブルーストライプのクレリックシャツ、パールグレイのタイに同色のポケットチーフという衣装である。
変わらぬ隙のない出で立ちに変わらぬ微笑み……だが透徹としたスチルブルーの瞳にハイファが問いかけるようとした、その前にフォッカーは口を開く。
シドはその瞬間、フォッカーを撃ってでも口を塞ぎ、いや、自身の耳を塞ぎたい衝動と非常な努力をして戦わねばならなかった。自分の勘が最悪の形で的を射ていたのを瞬時に悟ったからだ。
「もう、シドは分かっているようだが……」
と、優雅な手つきでマックスを指した。
「そちらのきみはそのまま本星に帰す訳にはいかないようでね」
ハイファとキャスの視線がフォッカーとマックスの間を往き来する中で、サイキ持ちの別室エージェントは更に言葉を継いだ。
「テラ連邦軍少年工科学校タイタン分校及び軍募集案内所爆破未遂、それと軍港での宙艦シャトル爆破の容疑でマクシミリアン=ダベンポート、きみを逮捕しなければならない」
「ご招待に与れるなら、是非」
「俺はキャスの親父役だってよ」
「落ち着いてるし、いいんじゃない。落ち着いてるし」
「何でリピートするんだ? また暗に老けてるって言いてぇのかよ」
「や、貴重だと思うよ。何なら面白グッズのヅラでも被って演じ切るとか」
「ハゲヅラか? 何で俺だけ躰を張ったギャグに走らなきゃならねぇんだよ」
「ギャグならいいよね。シドって猫っ毛だし、気になるお年頃なの知ってるんだから」
「テメェも同い年だろうが! このふさふさの何処が気になるって?」
このまま互いの首筋に銃口を捻じ込む恐れがあったが、男二人はギリギリでキャスの腹の子のことを思い出す。
「大体、何でこんな話に……ふん、親父役でも神父役でも、新郎役以外なら何でもやってやるさ」
「有難う、誰に頼もうか悩んでたのよ。代わりに貴方たちの結婚式にも呼ばれてあげるから。籍さえ入れなきゃバディは続けられるんだもの、式くらい考えてないの?」
「考えてないっていうか――」
「――考えたくねぇな」
セントラル地方七分署機捜課の面々を思い出して二人は溜息をつく。そこに料理が出てきて暫しそれぞれが腹を満たすことに専念した。職業柄か皆、食べるペースも速い。食後のコーヒーを飲みながらシドは初めてマックスが煙草を吸うのを見た。
もの言いたげなハイファをシドとキャスが目で牽制する。
紫煙を吐きながらマックスが呟く。
「次の本星行きの便は十四時二十分か」
あと四十分のヒマを宙港で潰そうと決め、それぞれが荷物を持って席を立った。
チェックはまとめてシドが終え律儀に返そうとするキャスらをハイファが止める。
「意外だろうけど、結構お金持ちだから」
「本当に意外……って、失礼よね。じゃあ素直に御馳走になっておくわ」
以前の別室任務で手に入れた宝クジ三枚が一等前後賞にストライク、イヴェントストライカは事実、テラ連邦直轄銀行の高額預金者で大金持ちであった。
普通なら刑事なんてやっているのがアホ臭くなるようなクレジットを手にしているのだ。普通じゃないので、このざまなのだが。
階下に降りてホテルを出、タクシーに乗り込む。マックスとキャスが前、シドとハイファが後部座席だ。走り始めて暫くもしないうちにハイファがシドに訊いた。
「どうしたのサ、シド。何かあった?」
後方ばかりを気にするバディにハイファが首を傾げる。
「それほどあからさまじゃねぇし、よくあるコースを辿ってる以上、一概に言えねぇんだが……レストランから尾行られてる」
「行動確認? それこそ同じ便に乗る人も多いし、気のせいじゃないの?」
「ならいいが……何処かで見たような顔なんだがな」
「それなら尚更、同じく本星帰り組かも知れないじゃない」
「そうか、だよな」
応えながらも刑事の勘が働き、シドはひとつの答えを既に得ていた。だが間違いであって欲しい、杞憂であればいいと願いつつ十三時五十五分、宙港に着いてしまう。
一階ロビーにもある端末でシートをリザーブしてしまうと今少しの余裕があった。チケット自体は惑星警察からリモータに流されている。
それらの作業を終えるとシドはA区画の別室員・フォッカー=リンデマン一等特務技官の許へと足を運んだ。勘違い、杞憂を期待しながらも捨て置くことができなかったのだ。
おそらくシドでなければ誰も気付かなかったほど技術に長けた行確は、自爆テロ未遂の一件でマックスと共に爆弾へと足を運んだ宙港警備部員だと思い出していた。
いや、宙港警備部員という隠蔽を持つ別室員だとシドは確信する。その男とフォッカー=リンデマンが今まさに接触し話し込んでいたからだ。
男が去るとフォッカーはニューズペーパーを丁寧に畳みながら微笑みを浮かべた。
「そちらから来てくれるとは手間が省けて助かったよ」
シドについてきただけの残りの面々に対しても別室員は言葉と笑顔を向ける。
フォッカーは一人一人をゆっくり見渡すとニューズペーパーを脇に置き、両手指を組んだ。今日は焦げ茶色のスーツにブルーストライプのクレリックシャツ、パールグレイのタイに同色のポケットチーフという衣装である。
変わらぬ隙のない出で立ちに変わらぬ微笑み……だが透徹としたスチルブルーの瞳にハイファが問いかけるようとした、その前にフォッカーは口を開く。
シドはその瞬間、フォッカーを撃ってでも口を塞ぎ、いや、自身の耳を塞ぎたい衝動と非常な努力をして戦わねばならなかった。自分の勘が最悪の形で的を射ていたのを瞬時に悟ったからだ。
「もう、シドは分かっているようだが……」
と、優雅な手つきでマックスを指した。
「そちらのきみはそのまま本星に帰す訳にはいかないようでね」
ハイファとキャスの視線がフォッカーとマックスの間を往き来する中で、サイキ持ちの別室エージェントは更に言葉を継いだ。
「テラ連邦軍少年工科学校タイタン分校及び軍募集案内所爆破未遂、それと軍港での宙艦シャトル爆破の容疑でマクシミリアン=ダベンポート、きみを逮捕しなければならない」
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