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第39話
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数瞬の沈黙の後、キャスが悲鳴じみた声を上げた。
「何故? 何でマックスがそんな……そんなことをしても意味がないじゃない! それにそんな工作なんかする暇も――」
「なかったかな、お嬢さん?」
軍施設爆破の日、午前中はマックスとキャスは別行動だった。それにシャトル便爆破ではシドたちも同行していたものの『爆発物の処理』をしていると思っていた間、マックスがどういう動きをしていたか逐一知っている訳ではない。
「我々としても動機という動機が未だに見当たらないもので少々ためらいはあった。だがそのまま本星へ帰すのはあまりに危険だと上が判断したのでね。どうかな、軍施設爆破はきみの予定より一日早くて驚いただろうし、ここで動機を聞かせて貰えないだろうか」
静かな物言いのフォッカーに対して一瞬の沈黙の後、マックスは歯の隙間から押し出すような声で言った。
「動機が見当たらない? 嘘だな。『指令』はいつもと同じ頭痛の素、あの波長で流れてきた。俺たちヴィクトルで生まれた子供の脳に響くあの声で、だ」
「マックス!」
顔色を蒼白にして膝を折りそうになったキャスをシドとハイファはソファに座らせる。キャスは受け入れがたい現実を直視できず、両手で顔を覆っていた。
その間もマックスの低く押し殺したような声は独白を続ける。
「俺の左の耳許、脳には、ある周波帯のノイズを人の声、百から九百ヘルツへと変換する機器が埋め込まれている。そいつがずっと、ずっと俺に囁き続けてきたんだ」
「それに爆破の指令も内包されていた、と?」
「ああ、そうだ。今回のドラクロワ=メイディーンの決起文だけじゃない。日頃TVで流される音楽・コマーシャル・ドラマ、色んなものにメッセージが混ざり常日頃から流されていた。そのたびに頭が割れそうな頭痛がするほど俺は抗ってきた――」
透徹としたスチルブルーの瞳が完全に笑みを消しマックスを更に促す。今やシドですらマックスの独白を呆然として聴いているしかない。
「――あれを聴くたびに思い出すよ。衛生環境も劣悪なあそこで俺と同じような年頃のガキが並ばされて手術を受けた。あとで感染症で死んだ奴もいた。でもそれを羨ましいとさえ思ったよ、俺は。この脳内で囁く声から逃れられたあいつらを、な」
「それを別室は知ってて……逆手にとって今回利用したのか?」
シドの問いにフォッカーは肩を竦めて見せた。
「そうらしいね」
「ニセはニセであり、ニセじゃなかったと?」
「そのように、つい昨日、私も聞かされたよ」
「囮を本物らしく仕立て上げるために爆破の舞台を作り上げて『最後の仕上げはお前がやれ』とばかりに、わざわざマックスに手を下させて嵌めたのかよっ!?」
非情な別室の手口は知ってはいたとはいえ、マックスの境遇を利用したこれは自分たちの想像を遙かに超えた非道さだった。
「マックス、お前だってそんなモノ、何で今まで取り出さなかったんだよ!」
「街の病院で検査を受けた時、構成物に有機物も使われた機器はもう脳と完全に同化していて取り出すのは不可能と言われたよ。無理に取り出すと記憶が飛ぶ、と」
無表情で己を語るマックスは棒のように突っ立ったまま、それでも僅かに片頬に歪んだ笑みらしきものを浮かべて見せた。
「愉しかった思い出を全部捨ててやり直す自信が、勇気が俺にはなかった。ヴィクトルで死んでいった奴らには与えられなかった夢のように美しく豊かな世界。この約束の地に来られただけで俺は幸せなんだと……その分、我慢してればいいことだと思ってきた。平和なテラ本星で何があるとも思えなかったしな」
「なら、何で罠に乗ったんだ?」
「あの『指令』に抗える奴がいるなら、お目に掛かりたいね。本当に頭が壊れそうなほどの、それまでなかったような強烈な『指令』だったんだ――」
そんなもので操った別室に吐き気がし、そこに自分自身与している事実が信じがたいほどの嫌悪を生んでシドは言葉を失う。
「――ずっと我慢し続けてきた。なのに何よりも大事なものを手に入れた途端に『指令』が降ってきて、あっという間に犯罪者の出来上がりだ。軍施設の爆弾には俺が信管とタイマーを着けに行ったんだ。『声』が指定した場所には材料と道具一式が揃っていたよ。それが丸一日も早い爆発、正直焦ったさ」
「シャトル便爆破も『声』の指令ってか? それならお前は心神耗弱の上、教唆されたことになる。テラ連邦の刑法上は減刑もしくは無罪だ」
「すまないな、シド。それは俺自身が意志でやったんだ」
それこそ耳を疑い、シドはマックスの制服の胸元を掴んで揺さぶった。
「どうしてそんなことをした……何故だ!?」
「何故? 何でマックスがそんな……そんなことをしても意味がないじゃない! それにそんな工作なんかする暇も――」
「なかったかな、お嬢さん?」
軍施設爆破の日、午前中はマックスとキャスは別行動だった。それにシャトル便爆破ではシドたちも同行していたものの『爆発物の処理』をしていると思っていた間、マックスがどういう動きをしていたか逐一知っている訳ではない。
「我々としても動機という動機が未だに見当たらないもので少々ためらいはあった。だがそのまま本星へ帰すのはあまりに危険だと上が判断したのでね。どうかな、軍施設爆破はきみの予定より一日早くて驚いただろうし、ここで動機を聞かせて貰えないだろうか」
静かな物言いのフォッカーに対して一瞬の沈黙の後、マックスは歯の隙間から押し出すような声で言った。
「動機が見当たらない? 嘘だな。『指令』はいつもと同じ頭痛の素、あの波長で流れてきた。俺たちヴィクトルで生まれた子供の脳に響くあの声で、だ」
「マックス!」
顔色を蒼白にして膝を折りそうになったキャスをシドとハイファはソファに座らせる。キャスは受け入れがたい現実を直視できず、両手で顔を覆っていた。
その間もマックスの低く押し殺したような声は独白を続ける。
「俺の左の耳許、脳には、ある周波帯のノイズを人の声、百から九百ヘルツへと変換する機器が埋め込まれている。そいつがずっと、ずっと俺に囁き続けてきたんだ」
「それに爆破の指令も内包されていた、と?」
「ああ、そうだ。今回のドラクロワ=メイディーンの決起文だけじゃない。日頃TVで流される音楽・コマーシャル・ドラマ、色んなものにメッセージが混ざり常日頃から流されていた。そのたびに頭が割れそうな頭痛がするほど俺は抗ってきた――」
透徹としたスチルブルーの瞳が完全に笑みを消しマックスを更に促す。今やシドですらマックスの独白を呆然として聴いているしかない。
「――あれを聴くたびに思い出すよ。衛生環境も劣悪なあそこで俺と同じような年頃のガキが並ばされて手術を受けた。あとで感染症で死んだ奴もいた。でもそれを羨ましいとさえ思ったよ、俺は。この脳内で囁く声から逃れられたあいつらを、な」
「それを別室は知ってて……逆手にとって今回利用したのか?」
シドの問いにフォッカーは肩を竦めて見せた。
「そうらしいね」
「ニセはニセであり、ニセじゃなかったと?」
「そのように、つい昨日、私も聞かされたよ」
「囮を本物らしく仕立て上げるために爆破の舞台を作り上げて『最後の仕上げはお前がやれ』とばかりに、わざわざマックスに手を下させて嵌めたのかよっ!?」
非情な別室の手口は知ってはいたとはいえ、マックスの境遇を利用したこれは自分たちの想像を遙かに超えた非道さだった。
「マックス、お前だってそんなモノ、何で今まで取り出さなかったんだよ!」
「街の病院で検査を受けた時、構成物に有機物も使われた機器はもう脳と完全に同化していて取り出すのは不可能と言われたよ。無理に取り出すと記憶が飛ぶ、と」
無表情で己を語るマックスは棒のように突っ立ったまま、それでも僅かに片頬に歪んだ笑みらしきものを浮かべて見せた。
「愉しかった思い出を全部捨ててやり直す自信が、勇気が俺にはなかった。ヴィクトルで死んでいった奴らには与えられなかった夢のように美しく豊かな世界。この約束の地に来られただけで俺は幸せなんだと……その分、我慢してればいいことだと思ってきた。平和なテラ本星で何があるとも思えなかったしな」
「なら、何で罠に乗ったんだ?」
「あの『指令』に抗える奴がいるなら、お目に掛かりたいね。本当に頭が壊れそうなほどの、それまでなかったような強烈な『指令』だったんだ――」
そんなもので操った別室に吐き気がし、そこに自分自身与している事実が信じがたいほどの嫌悪を生んでシドは言葉を失う。
「――ずっと我慢し続けてきた。なのに何よりも大事なものを手に入れた途端に『指令』が降ってきて、あっという間に犯罪者の出来上がりだ。軍施設の爆弾には俺が信管とタイマーを着けに行ったんだ。『声』が指定した場所には材料と道具一式が揃っていたよ。それが丸一日も早い爆発、正直焦ったさ」
「シャトル便爆破も『声』の指令ってか? それならお前は心神耗弱の上、教唆されたことになる。テラ連邦の刑法上は減刑もしくは無罪だ」
「すまないな、シド。それは俺自身が意志でやったんだ」
それこそ耳を疑い、シドはマックスの制服の胸元を掴んで揺さぶった。
「どうしてそんなことをした……何故だ!?」
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