20 / 47
第20話
しおりを挟む
呟いたシドの背を隣からヘイワード警部補が肘でつつく。
「おい、旦那。これ以上やらせると天井が落っこちるんじゃないか?」
「何で俺に言うんですか、課長か主任に訊いて下さいよ」
ゴーダ主任はヴィンティス課長を見た。見られた課長はブルーアイを哀しみに曇らせたものの、酔った勢いかヤケクソなのか知らないが、おもむろに部下に頷く。
「頃合いだ、許可する」
途端に一団は両手で耳に栓をした。同時に立ち上がったシドとハイファが銃を抜き撃つ。レールガン特有の「ガシュッ!」という発射音に旧式銃特有の「ガォン!」という撃発音が重なった。それぞれが一発に聞こえるほどの速射で二発、更に連射で四発を撃ち込んでいる。
最初の四発が男たちの手にした銃の機関部を粉砕してガラクタに変え、あとは二発ずつが四人の右上腕に着弾していた。ガラクタを持ったまま四本の腕がゴトリと地に落ちる。派手に血飛沫が舞い、数少ない客が甲高い悲鳴を上げた。
それより大声でゴーダ主任が叫ぶ。
「確保だ~っ!」
シドとハイファとマイヤー警部補以外の、その場を立った全員がテロリストたちのテーブルに駆け寄り、ザッとシリルM220を男たちに突きつけていた。
だがもう必要ないのは誰の目から見ても明らかだった。腕をちぎられた男四人は泡を吹いて気絶している。
「ここも高度文明圏ということで、ナンバは同じでしょうか?」
「たぶんそうじゃないかと思いますけど」
マイヤー警部補とハイファが救急と緊急にリモータ発振を入れている間に、シドはベルトに着けたリングから捕縛用の樹脂製結束バンドを抜き出した。ナカムラとヤマサキにも手伝わせ、男たちの腕を縛り上げて止血処置をし始める。
「何だよ課長の野郎、結局俺たち任せじゃねぇか!」
「まあまあ、始末書が降るでもなし、いいじゃない」
愚痴るバディをハイファが宥めているうちに、外から緊急音が響いてきた。
BELはホテルの屋上に駐まったらしく、すぐに白ヘルメットと作業服の救急隊員らが自走担架を伴って現着する。心臓を吹き飛ばされても処置さえ早ければ助かるのが現代医療だ。再生槽にボチャンと放り込み、腕の培養移植をすれば二週間も待たずに取り調べが可能になるだろう。
次にやってきたのは濃緑色の制服を着た一団で、どう見てもテラ連邦軍人だった。
「ふうん、ここでの官憲は軍なのか」
「みたいだね。狭いから基地や駐屯地がある訳じゃないとは思うけど」
「どっちにしろ、話の分かる奴らならいいけどな」
テロリストどもが腕と共に運び出されてゆく傍、軍人たちは胡散臭そうな目でシドたちを油断なく見張っている。皆、シリルは仕舞っていたものの、プロに執銃はバレバレだ。
ゴーダ主任とヴィンティス課長が身分を明らかにして状況説明を始めたが、それに対してなされたのは全員のID及び身分証と武器所持許可証提示要求にコピーの提出だった。
作業を進める間も他星の同輩に対し軍人たちの態度は非常に横柄でミュリアルちゃんがキリキリと眉を吊り上げるのを、男たちは必死で気付かないフリをする。
電子情報だけでなくハイファのテミスコピーのライフルマークや九ミリパラの現物に、シドのフレシェット弾もサンプルとして採取され、同じ話を五、六回は語らされて、ようやくその場の責任者らしい小隊長クラスが頷くに至った。
「あーあ、慰安旅行にきてまで実況見分に参加とは、ムゴいよなあ」
「俺のせいじゃありませんよ、ヘイワード警部補」
「シド、あんたのせいとは言ってない。ただ、何かこう……もういい」
ヘイワード警部補の気分は良く分かった。勝手の違う実況見分はやたらと時間が掛かり、全員が釈放となったのは二十二時になろうという頃で、シドはタマのトイレが心配だった。
案の定、解放されてエレベーターに乗った途端にタマは切羽詰まった声でニャーニャー鳴き出し、シドとハイファはダッシュで部屋に帰ってギリギリ事なきを得る。
上着を脱いで執銃を解きながらハイファが自ら気を取りなそうと言った。
「僕らが引っ張られなかったのはヴィンティス課長が頑張ってくれたからだよね」
「ここなら事件発生率が上昇しねぇからって、ゴーサイン出したのは課長だぜ?」
「また、課長には辛口なんだから」
「そうは言うが全員武装してるんだぞ。なのに何で俺たち二人がだな……」
「はいはい、もう終わったんだからいいじゃない。ね?」
まだ機嫌の悪いシドをハイファはソフトキスで黙らせた。
「で、せっかくの慰安旅行を貴方は愉しまないの?」
「警務課の綺麗どころもナシじゃあな――」
と、言いかけてハイファの目が険しくなったのを察知、シドは強引に話を変える。
「あー、課長はゴーダ主任と大浴場で一杯、残りは全員タッカーたちとカジノツアーだ。お前は遊びに行かなくて良かったのか?」
「貴方が行かないのに僕が行く訳ないでしょ」
シドは博打に非常に強い。というよりもイヴェントストライカは、まるで集金マシンの様相を呈するのだ。だが博打のような人生を歩まされているのでシド自身は博打があまり好きではなかった。それで敢えてホテルに残ったのである。
ベッドに腰掛けたハイファの明るい金髪を撫でてシドは若草色の瞳を覗き込む。
「せっかく任務のない他星だぞ?」
「じゃあ僕、主任たちと大浴場に――」
「却下。そいつはだめだ。お前のことは誰にも見せねぇからな!」
「怒らなくても冗談だってば。ここにもお風呂は付いてるし」
「それなら二人で広いバスルームとやらを堪能するか」
頬を染めて頷いたハイファが酷く愛しく、シドは細い躰を抱き寄せて白い額に唇を押し付けた。ハイファは照れて目を逸らしたまま立ち上がり、バスルームに向かう。
「お湯、溜めてくるね」
「おい、旦那。これ以上やらせると天井が落っこちるんじゃないか?」
「何で俺に言うんですか、課長か主任に訊いて下さいよ」
ゴーダ主任はヴィンティス課長を見た。見られた課長はブルーアイを哀しみに曇らせたものの、酔った勢いかヤケクソなのか知らないが、おもむろに部下に頷く。
「頃合いだ、許可する」
途端に一団は両手で耳に栓をした。同時に立ち上がったシドとハイファが銃を抜き撃つ。レールガン特有の「ガシュッ!」という発射音に旧式銃特有の「ガォン!」という撃発音が重なった。それぞれが一発に聞こえるほどの速射で二発、更に連射で四発を撃ち込んでいる。
最初の四発が男たちの手にした銃の機関部を粉砕してガラクタに変え、あとは二発ずつが四人の右上腕に着弾していた。ガラクタを持ったまま四本の腕がゴトリと地に落ちる。派手に血飛沫が舞い、数少ない客が甲高い悲鳴を上げた。
それより大声でゴーダ主任が叫ぶ。
「確保だ~っ!」
シドとハイファとマイヤー警部補以外の、その場を立った全員がテロリストたちのテーブルに駆け寄り、ザッとシリルM220を男たちに突きつけていた。
だがもう必要ないのは誰の目から見ても明らかだった。腕をちぎられた男四人は泡を吹いて気絶している。
「ここも高度文明圏ということで、ナンバは同じでしょうか?」
「たぶんそうじゃないかと思いますけど」
マイヤー警部補とハイファが救急と緊急にリモータ発振を入れている間に、シドはベルトに着けたリングから捕縛用の樹脂製結束バンドを抜き出した。ナカムラとヤマサキにも手伝わせ、男たちの腕を縛り上げて止血処置をし始める。
「何だよ課長の野郎、結局俺たち任せじゃねぇか!」
「まあまあ、始末書が降るでもなし、いいじゃない」
愚痴るバディをハイファが宥めているうちに、外から緊急音が響いてきた。
BELはホテルの屋上に駐まったらしく、すぐに白ヘルメットと作業服の救急隊員らが自走担架を伴って現着する。心臓を吹き飛ばされても処置さえ早ければ助かるのが現代医療だ。再生槽にボチャンと放り込み、腕の培養移植をすれば二週間も待たずに取り調べが可能になるだろう。
次にやってきたのは濃緑色の制服を着た一団で、どう見てもテラ連邦軍人だった。
「ふうん、ここでの官憲は軍なのか」
「みたいだね。狭いから基地や駐屯地がある訳じゃないとは思うけど」
「どっちにしろ、話の分かる奴らならいいけどな」
テロリストどもが腕と共に運び出されてゆく傍、軍人たちは胡散臭そうな目でシドたちを油断なく見張っている。皆、シリルは仕舞っていたものの、プロに執銃はバレバレだ。
ゴーダ主任とヴィンティス課長が身分を明らかにして状況説明を始めたが、それに対してなされたのは全員のID及び身分証と武器所持許可証提示要求にコピーの提出だった。
作業を進める間も他星の同輩に対し軍人たちの態度は非常に横柄でミュリアルちゃんがキリキリと眉を吊り上げるのを、男たちは必死で気付かないフリをする。
電子情報だけでなくハイファのテミスコピーのライフルマークや九ミリパラの現物に、シドのフレシェット弾もサンプルとして採取され、同じ話を五、六回は語らされて、ようやくその場の責任者らしい小隊長クラスが頷くに至った。
「あーあ、慰安旅行にきてまで実況見分に参加とは、ムゴいよなあ」
「俺のせいじゃありませんよ、ヘイワード警部補」
「シド、あんたのせいとは言ってない。ただ、何かこう……もういい」
ヘイワード警部補の気分は良く分かった。勝手の違う実況見分はやたらと時間が掛かり、全員が釈放となったのは二十二時になろうという頃で、シドはタマのトイレが心配だった。
案の定、解放されてエレベーターに乗った途端にタマは切羽詰まった声でニャーニャー鳴き出し、シドとハイファはダッシュで部屋に帰ってギリギリ事なきを得る。
上着を脱いで執銃を解きながらハイファが自ら気を取りなそうと言った。
「僕らが引っ張られなかったのはヴィンティス課長が頑張ってくれたからだよね」
「ここなら事件発生率が上昇しねぇからって、ゴーサイン出したのは課長だぜ?」
「また、課長には辛口なんだから」
「そうは言うが全員武装してるんだぞ。なのに何で俺たち二人がだな……」
「はいはい、もう終わったんだからいいじゃない。ね?」
まだ機嫌の悪いシドをハイファはソフトキスで黙らせた。
「で、せっかくの慰安旅行を貴方は愉しまないの?」
「警務課の綺麗どころもナシじゃあな――」
と、言いかけてハイファの目が険しくなったのを察知、シドは強引に話を変える。
「あー、課長はゴーダ主任と大浴場で一杯、残りは全員タッカーたちとカジノツアーだ。お前は遊びに行かなくて良かったのか?」
「貴方が行かないのに僕が行く訳ないでしょ」
シドは博打に非常に強い。というよりもイヴェントストライカは、まるで集金マシンの様相を呈するのだ。だが博打のような人生を歩まされているのでシド自身は博打があまり好きではなかった。それで敢えてホテルに残ったのである。
ベッドに腰掛けたハイファの明るい金髪を撫でてシドは若草色の瞳を覗き込む。
「せっかく任務のない他星だぞ?」
「じゃあ僕、主任たちと大浴場に――」
「却下。そいつはだめだ。お前のことは誰にも見せねぇからな!」
「怒らなくても冗談だってば。ここにもお風呂は付いてるし」
「それなら二人で広いバスルームとやらを堪能するか」
頬を染めて頷いたハイファが酷く愛しく、シドは細い躰を抱き寄せて白い額に唇を押し付けた。ハイファは照れて目を逸らしたまま立ち上がり、バスルームに向かう。
「お湯、溜めてくるね」
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる