YAMASAKIは今日も××だった~楽園16~

志賀雅基

文字の大きさ
23 / 47

第23話

しおりを挟む
 三十二階では昨夜のフレンチレストランを回り込み、和風レストランへと一団は足を運ぶ。そこはテーブル席がフロアの半分、残りを畳敷きの大広間が占めていた。

 キモノにたすき掛けの結構美人な店員に促され、皆は靴を脱いで大広間に上がる。
 座敷には既に朱塗りの膳が二列に十二、並んでいた。それぞれが好きな場所に陣取ってザブトンの上に着地する。

「わあ、純和風だね。タマにまでお膳が並んでるよ」
「やっぱりカリカリ少なめで正解だったな」

 温かなライスが茶碗に盛られ熱いミソスープの椀が配られると、行儀よく皆で手を合わせてから頂く。シドとハイファは魚のほぐし身を食べるタマの様子を見ながら、だし巻き卵を頬張り、魚の照り焼きを味わった。

 その間にカジノツアー組が昨夜の戦果を報告する。

「ミュリアルちゃんのスロットマシン大当たり二連打は凄かったスよね」
「そう言うヤマサキは結構な散財をしたんじゃないですか?」
「嫁さんと娘に土産を買うクレジットは別に取ってあるんで大丈夫っスよ」

 そこで珍しくナカムラが口を開いた。

「ディーラーのイカサマを見破ったケヴィン警部は、すごく格好良かったですね」
「ケヴィンはいつもデカ部屋でイカサマする方だからな」

 ヨシノ警部が口を挟み、ケヴィン警部がニヤリと笑って応える。

「人聞きの悪いことを言わないでくれ。イカサマは見破られなきゃ、イカサマじゃないんだ」
「その割に戦果はイマイチだったようですね、ケヴィンさん」
「ヘイワード警部補はどれくらいやられたんだ?」
「俺はプラマイ、僅かにプラスってとこですかね」

 悔しそう、だが愉しそうにケヴィン警部は息巻いた。

「ふん、今晩こそは負けないからな」
「勝ち逃げさせて貰いますよ。デカい風呂も魅力ですからね」

 シジミのミソスープで生き返った顔をして風呂で一杯組は頷いた。

「色んな風呂があって面白かったぞ。金の風呂にプラチナ風呂まであってだな」

 ゴーダ警部の言葉にハイファは苦笑する。

「わあ、すんごい成金チックですね」
「ハイファス、お前さんも旦那と行ってくるといい。泳げるくらいデカい風呂だぞ」
「はあ、そのうちに」

 暢気に喋りながらも刑事たちは食事を進め、殆どの者がおかわりまでして膳のものを綺麗に平らげた。常日頃から部下の行状に悩まされて胃薬の世話になっているヴィンティス課長はともかく、基本的に刑事たちは胃腸も丈夫である。

「で、昼間の予定はどうなっているのかね?」

 湯飲みの茶を啜りながらヴィンティス課長が幹事のバディに訊いた。

「特に決めてはいませんので、朝風呂もいいかと思われます」
「それにカジノは昼間もやってるって話っスよ」

 めいめいが風呂だカジノだと騒ぐ中、ヴィンティス課長のブルーアイがシドを注視する。イヴェントストライカの動向が気になって堪らない様子だ。

 そこでシドは高らかに言い放つ。

「足をなまらせたくないんで、勿論外を歩きに行きますよ」

 青い目が哀しみを湛えるのを見て、してやったりとばかりにシドはポーカーフェイスながら心の中でほくそ笑んだ。他星でドえらい目に遭う部下の気持ちを、たまには課長も思い知ればいいのだ。そのくらいの考えでシドが少々の溜飲を下げたとき、それはやってきた。

 覚えのあるパターンでシドの左手首が震えだしたのだ。

 数秒遅れてハイファのリモータにも発振が入る。硬直した二人は首から上だけ動かして顔を見合わせた。発振パターンは別室、つまり任務が降ってきたのである。

◇◇◇◇

 急いでいるように見えないように急いで、シドとハイファは二七〇五号室に戻った。シドはタマをキャリーバッグから解放し、遠い目をしたハイファに対し吼える。

「お前ハイファ、何で別室にまで慰安旅行の届けを出すんだよ!」
「だって僕らがテラ本星から消えたら別室戦術コンが『別室員二名ロスト』で鳴り出すもん」
「俺まで別室員にするな!」
「いちいち怒鳴らないで欲しいんだけど……」

 さすがにハイファの抵抗も弱々しい。行き先を告げたのは確かだが、まさか軍機である筈の任務が慰安旅行中に同僚の前で降ってくるとは思いも寄らなかったのだ。
 喩えある程度は悟られていても、この状況で別室員として動くのはキツい。

「それでも送ってきたんだから、それもダイレクトワープ通信でだよ?」

 電波も光の速さでしかないので通常通信はワープする宙艦でリレーして運ばれる。ワープの分だけ光速より速いからだ。だが通常航行の分だけタイムラグが発生するのは仕方ない。
 しかしダイレクトワープ通信は亜空間レピータを使用してリアルタイムで届く。

 けれどいいことばかりではない。亜空間にレピータを設置し保守管理する技術は非常に難度が高いのだ。それ故ダイレクトワープ通信は莫大なコストの掛かる通信方法として知られ、伝統ある耐乏官品のハイファは毎回容量を小さくしようと四苦八苦するのである。

「ダイレクトだから何だって?」
「クレジットの掛かるダイレクトってことは、急ぎの任務の可能性ありってこと」
「くそう……俺の慰安を返せ、別室長ユアン=ガードナーの妖怪野郎!」
「お互い慰安はいつも目の前にいるでしょ。ほら、ゴネないで見ようよ」

 ポーカーフェイスの眉間に不機嫌を溜めたシドはもう黙り込んでしまっている。命令書を見たが最後フィードバックされ、自動的に命令受領となるのだ。拒否権もなく無給で。

「はい、じゃあいくよ。……三、二、一、ポチッと」

 しぶしぶシドはハイファに倣ってリモータ操作し、小さな画面を注視した。

【中央情報局発:ユミル星系第二惑星マーニにおいて上空の発電衛星が三基爆破され浮島都市テュールの電力供給アンテナが一部破壊された模様。事実関係を調査した上で今後の破壊工作活動及び浮島都市テュールの沈没を防止せよ。選出任務対応者・第二部別室より一名。ハイファス=ファサルート二等陸尉。太陽系広域惑星警察より一名・若宮志度巡査部長】
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...