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第28話
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「決まりだな。で、ヨルズの民の町だか村は何ヶ所ある?」
マクレーン副長がリモータ操作して中空に浮かんだホロを切り替えた。線描されたのはこのユミル星系第二惑星マーニの全容、そこに赤い輝点が現れる。数えてみると丁度二十ヶ所だ。
「くそう、思ったよりも多いな」
「では私とバディも仲介役及び交渉係として参加しましょう」
マイヤー警部補とヤマサキに続いてヘイワード警部補とケヴィン警部、ゴーダ主任とナカムラが立候補した。シドとハイファを含め四組、五ヶ所ずつ回ればいい訳だ。
「けどさ、このテュールは東に向かってずっと飛んでるんだろ。二十の村から一斉に電力を受けられないんじゃねぇのか?」
ここでもマクレーン副長が答える。
「それは心配無用、ヨルズの持つ発電機同士で電力をやり取りさせますからな」
「各村の発電機をレピータとして使うってことか」
副長は頷く。つまり地上の電力は村をリレー形式で経由し、テュールに照射されるのだ。
「ふうん、ならいい。電力リレーのプログラムも組んでくれ」
「勿論です。しかし本当に有難い。光明が見えてきましたな、行政長」
「そのようだ。あとは細部を詰めて、書面の雛型を早速作成して――」
話し込み始めた長と副長にシドは思いついて訊く。
「で、まさかと思うがBELは飛ぶんだろうな?」
「そのまさかだよ、シド君。BELは地上に降りるのが精一杯、あとはアネモイ族に頼んで運んで貰うしかないのだ」
「アネモイ族って、まだ地上に住んでる奴がいるのかよ?」
「ああ。アネモイ族は風を渡る技術を持っている特殊な民族でね」
「すぐに連絡を取ります。捕まればいいのですが」
あたふたとマクレーン副長が小会議室を出て行った。
その間にシドたちは打ち合わせだ。電力リレーのタイムテーブルやヨーゼフ=シャハト行政長からのヨルズの民への正式書面をリモータに受け取り、あらかたの打ち合わせを終える頃になって、協力してくれるアネモイ族が捕まり、第二宙港で落ち合えるとの情報がもたらされた。
「いやいや、有難い賓客だけでなく、アネモイ族まで上手く捕まるとは僥倖ですな」
「僥倖は結構だが、このテュールの何処にアラキバ抵抗運動旅団が潜んでるかも知れねぇからな。浮島下面のアンテナは何が何でも死守してくれ」
二人の署長が重々しく頷く。
「それは我々、軍警察に任せてくれたまえ。電力を受け取るまでは誰にも手出しさせない」
「そうか、頼むぜ」
そこでヨーゼフ=シャハト行政長が何気ない風に口を挟んだ。
「このテュールに三名は留まるんだね?」
「ああ、課長以下三名は残る」
「そうか。その三名の賓客は丁重にもてなしさせて貰うので、こちらも心配無用だ」
じっとシドは行政長の顔を見つめる。見られたまま行政長は言葉を継いだ。
「不案内で困ることもあるかも知れん。BELのパイロットたちも各組に一人ずつ付けよう」
リモータ発振で呼んだのはタッカーとヘイデンに、初めて見る男女のペアだった。
「タッカーとヘイデンは知っているね。あとはサフィアとアレックスだ」
タッカーがマイヤー警部補とヤマサキ組、ヘイデンがヘイワード警部補とケヴィン警部組に付くことになった。女性ながら腕利きパイロットだというサフィアはゴーダ警部とナカムラに付き、アレックスがシドとハイファの面倒を見てくれるという。
あとは細々とした打ち合わせをして、一旦みんなでホテルに戻り準備をすることとなった。数少ないBELを出して貰ってホテルの屋上に着け、皆が部屋へと戻る。
二七〇五号室に帰ってハイファがシドに首を傾げた。
「タマはどうするのサ?」
「ミュリアルにでも預けて……こら、タマ、やめろって!」
ばりばりとコットンパンツをよじ登ったタマは、対衝撃ジャケットの左肩に鎮座して「シャーッ!」と辺りを威嚇した。引き剥がしてキャリーバッグに入れようとするも、シドの肩から離れない。仕方なくシドはキャリーバッグに水のボトルと猫缶、カリカリを放り込んだ。
ショルダーバッグをハイファが担ぐと準備は完了、二人はソフトキスを交わしてから部屋を出る。廊下には交渉組だけではない、ヨシノ警部とミュリアルちゃんの見送り組も出てきていた。一刻も早く動かなければならない。交渉組は頷き合う。
だがそこでヴィンティス課長の姿がないことにシドが気付いた。
「見送りくらい出てこいってんだよな。……課長、ヴィンティス課長!」
シングルルームのリモータチェッカ、パネルの音声素子が埋め込まれた辺りに声を掛け、何度もシドはノックした。だが返事がない。
「便所じゃねぇのかい?」
「胃腸が弱いからプレッシャーっスかね?」
ゴーダ警部とヤマサキの意見になるほどと思ってドアを離れようとしたとき、内側から二度、音が聞こえた。
音声素子を通さないドアを叩くような音は完全防音の造りからいって通常、有り得ない。シドはレールガンを抜く。親指でセレクタレバーを弾き上げ、マックスパワーへ。
「みんな、下がってろ!」
言うなりドアの上下の蝶番に一発ずつをぶちかました。建材に直径五十センチほどの大穴が空く。ドアを蹴り飛ばして中に躍り込んだのはハイファもほぼ同時、コンマ数秒の乱れもなくバディ同士背中合わせで全方位警戒。途端にシドが嗅いだのは硝煙の匂い。
ヴィンティス課長がソファに座ったまま室内に向けてシリルを構えていた。銃口から白く硝煙が立ち上っている。室内奥に人影が二。人影が手にした銃口がこちらを向く。咄嗟にハイファを庇ってシドが前に出た。対衝撃ジャケットの胸を斜めに一連射が通過。
衝撃に息を詰まらせながらも二歩後退して耐え、シドはサブマシンガンの機関部を撃ち抜いた。マックスパワーで放たれたフレシェット弾はサブマシンガンをこなごなにした上に、構えていた男のみぞおちにも大穴を空ける。男は吹っ飛んで背後の壁に背を叩きつけた。
同時にハイファもシドの肩越しにテミスコピーのトリガを引いている。速射で三発はもう一人の男が手にした旧式ハンドガンを弾き飛ばし、両肩から血飛沫を上げさせていた。
そこに飛び込んできたのがタマ、ジャンプしてハンドガン男の顔に鋭利な爪を打ち込む。思わぬ攻撃に叫び声を上げながら、ハンドガン男は手にしていた小さなものを取り落とした。
「大丈夫ですか、シド!」
「課長は死んだのか!」
「まだ動いてるぞ!」
口々に叫びつつ、皆がシングルルームになだれ込んだ。
ゴーダ主任が課長の無事を確認し、ヨシノ警部とヘイワード警部補が襲撃者たちの許に駆け寄って、ガラクタになった銃を蹴り飛ばす。
そのまま男たちを素早く身体検査して、ハンドガン男の腹にガムテープで貼り付けられた爆弾と思しきものを発見した。落ちていた起爆装置も拾い上げる。
「シド、お前さん、爆弾撃たなくてよかったな、おい」
「大丈夫ですよヘイワード警部補。イヴェントストライカは二分の一を外しません」
涼しい口調のマイヤー警部補が指示を出しヤマサキが軍警察にリモータ発振した。
青い顔をしたヴィンティス課長によると男二人はバスルームに潜んでいたらしい。腹に大穴の男は意識がなく、もう一人の肩を撃たれた男にゴーダ主任が詰め寄った。
「てめぇら、何処の組織のモンだ?」
鬼瓦のような顔と低音で凄まれては大概のホシは落ちる。
「あ、あ、アラキバ抵抗運動旅団、です」
「仲間はまだいるんかい?」
「……」
「さっさと言え! てめぇもこいつみてぇになりたいのか!」
胸ぐらを掴まれて持ち上げられ、仲間の血塗れの腹を見せつけられて男は震え上がった。
「べ、別々に潜入したので……たぶん、あと何人かは……うっ!」
失血で気を失った男をゴーダ主任はドサリと放り捨てる。
ミュリアルちゃんが気を利かせてグラスの水をヴィンティス課長に飲ませた。命の危機に晒されたのは本日二度目、ヴィンティス課長のブルーアイは一層哀しげにシドを見る。ムッとしたシドはポーカーフェイスの眉間に不機嫌を溜めた。
そのシドも皆に押さえ付けられハイファに衣服の前を開けられて、こちらも身体検査だ。
「酷い、アザになってるよ。骨に何ともなければいいけど」
「平気だ、何ともねぇよ」
シドの言葉は受け入れられず、素早くナカムラがファーストエイドキットを持ってくる。消炎スプレーをイヤというほど吹きつけられて、取り敢えずこの場は釈放になった。そこで軍警察の一団が救急隊員を伴って駆け込んでくる。
先頭を切ってやってきたのは二分署のルーファス副署長で、交渉役の無事を知って安堵したようだった。一分一秒でも早い方がいいオペレーションを背負ったシドたちは、そのまま速やかに現場を離脱する。
廊下に出るとそれぞれが放り出した荷物を再び手にし、シドは起爆装置を作動させなかったお手柄タマを撫でてやってからキャリーバッグに収めて担いだ。
一階に降りるとタッカーたちとリアム=マクレーン行政副長が待っていた。
交渉組はヴィンティス課長以下三名と挙手敬礼して別れ、コイル三台に分乗して出発する。向かったのは昨日の格納庫エリアだ。テュールの都市内を十分ほどで抜け、BEL格納庫に繋がるエレベーターにコイルごと乗り込んだ。
エレベーターで下り、細い通路を走って格納庫に辿り着いて全員が降車する。
立体駐機場から出されていたのは小型BELが二機、シドとハイファにゴーダ警部とナカムラのバディは、サフィア・アレックスの機に乗り込んだ。マイヤー警部補やヘイワード警部補たちはヘイデン・タッカー組のBELだ。
皆がシートに着くなりBELは反重力装置を起動する。
そこでハイファがシドに囁く。
「エル・ドラドって黄金郷とは別に『金メッキの男』って意味もあるんだよ」
「ふうん。今やテュールは金メッキの剥がれかけたエル・ドラド、か……」
シドの呟きが合図だったかのように、BELは浮島の腹から生み落とされた。
マクレーン副長がリモータ操作して中空に浮かんだホロを切り替えた。線描されたのはこのユミル星系第二惑星マーニの全容、そこに赤い輝点が現れる。数えてみると丁度二十ヶ所だ。
「くそう、思ったよりも多いな」
「では私とバディも仲介役及び交渉係として参加しましょう」
マイヤー警部補とヤマサキに続いてヘイワード警部補とケヴィン警部、ゴーダ主任とナカムラが立候補した。シドとハイファを含め四組、五ヶ所ずつ回ればいい訳だ。
「けどさ、このテュールは東に向かってずっと飛んでるんだろ。二十の村から一斉に電力を受けられないんじゃねぇのか?」
ここでもマクレーン副長が答える。
「それは心配無用、ヨルズの持つ発電機同士で電力をやり取りさせますからな」
「各村の発電機をレピータとして使うってことか」
副長は頷く。つまり地上の電力は村をリレー形式で経由し、テュールに照射されるのだ。
「ふうん、ならいい。電力リレーのプログラムも組んでくれ」
「勿論です。しかし本当に有難い。光明が見えてきましたな、行政長」
「そのようだ。あとは細部を詰めて、書面の雛型を早速作成して――」
話し込み始めた長と副長にシドは思いついて訊く。
「で、まさかと思うがBELは飛ぶんだろうな?」
「そのまさかだよ、シド君。BELは地上に降りるのが精一杯、あとはアネモイ族に頼んで運んで貰うしかないのだ」
「アネモイ族って、まだ地上に住んでる奴がいるのかよ?」
「ああ。アネモイ族は風を渡る技術を持っている特殊な民族でね」
「すぐに連絡を取ります。捕まればいいのですが」
あたふたとマクレーン副長が小会議室を出て行った。
その間にシドたちは打ち合わせだ。電力リレーのタイムテーブルやヨーゼフ=シャハト行政長からのヨルズの民への正式書面をリモータに受け取り、あらかたの打ち合わせを終える頃になって、協力してくれるアネモイ族が捕まり、第二宙港で落ち合えるとの情報がもたらされた。
「いやいや、有難い賓客だけでなく、アネモイ族まで上手く捕まるとは僥倖ですな」
「僥倖は結構だが、このテュールの何処にアラキバ抵抗運動旅団が潜んでるかも知れねぇからな。浮島下面のアンテナは何が何でも死守してくれ」
二人の署長が重々しく頷く。
「それは我々、軍警察に任せてくれたまえ。電力を受け取るまでは誰にも手出しさせない」
「そうか、頼むぜ」
そこでヨーゼフ=シャハト行政長が何気ない風に口を挟んだ。
「このテュールに三名は留まるんだね?」
「ああ、課長以下三名は残る」
「そうか。その三名の賓客は丁重にもてなしさせて貰うので、こちらも心配無用だ」
じっとシドは行政長の顔を見つめる。見られたまま行政長は言葉を継いだ。
「不案内で困ることもあるかも知れん。BELのパイロットたちも各組に一人ずつ付けよう」
リモータ発振で呼んだのはタッカーとヘイデンに、初めて見る男女のペアだった。
「タッカーとヘイデンは知っているね。あとはサフィアとアレックスだ」
タッカーがマイヤー警部補とヤマサキ組、ヘイデンがヘイワード警部補とケヴィン警部組に付くことになった。女性ながら腕利きパイロットだというサフィアはゴーダ警部とナカムラに付き、アレックスがシドとハイファの面倒を見てくれるという。
あとは細々とした打ち合わせをして、一旦みんなでホテルに戻り準備をすることとなった。数少ないBELを出して貰ってホテルの屋上に着け、皆が部屋へと戻る。
二七〇五号室に帰ってハイファがシドに首を傾げた。
「タマはどうするのサ?」
「ミュリアルにでも預けて……こら、タマ、やめろって!」
ばりばりとコットンパンツをよじ登ったタマは、対衝撃ジャケットの左肩に鎮座して「シャーッ!」と辺りを威嚇した。引き剥がしてキャリーバッグに入れようとするも、シドの肩から離れない。仕方なくシドはキャリーバッグに水のボトルと猫缶、カリカリを放り込んだ。
ショルダーバッグをハイファが担ぐと準備は完了、二人はソフトキスを交わしてから部屋を出る。廊下には交渉組だけではない、ヨシノ警部とミュリアルちゃんの見送り組も出てきていた。一刻も早く動かなければならない。交渉組は頷き合う。
だがそこでヴィンティス課長の姿がないことにシドが気付いた。
「見送りくらい出てこいってんだよな。……課長、ヴィンティス課長!」
シングルルームのリモータチェッカ、パネルの音声素子が埋め込まれた辺りに声を掛け、何度もシドはノックした。だが返事がない。
「便所じゃねぇのかい?」
「胃腸が弱いからプレッシャーっスかね?」
ゴーダ警部とヤマサキの意見になるほどと思ってドアを離れようとしたとき、内側から二度、音が聞こえた。
音声素子を通さないドアを叩くような音は完全防音の造りからいって通常、有り得ない。シドはレールガンを抜く。親指でセレクタレバーを弾き上げ、マックスパワーへ。
「みんな、下がってろ!」
言うなりドアの上下の蝶番に一発ずつをぶちかました。建材に直径五十センチほどの大穴が空く。ドアを蹴り飛ばして中に躍り込んだのはハイファもほぼ同時、コンマ数秒の乱れもなくバディ同士背中合わせで全方位警戒。途端にシドが嗅いだのは硝煙の匂い。
ヴィンティス課長がソファに座ったまま室内に向けてシリルを構えていた。銃口から白く硝煙が立ち上っている。室内奥に人影が二。人影が手にした銃口がこちらを向く。咄嗟にハイファを庇ってシドが前に出た。対衝撃ジャケットの胸を斜めに一連射が通過。
衝撃に息を詰まらせながらも二歩後退して耐え、シドはサブマシンガンの機関部を撃ち抜いた。マックスパワーで放たれたフレシェット弾はサブマシンガンをこなごなにした上に、構えていた男のみぞおちにも大穴を空ける。男は吹っ飛んで背後の壁に背を叩きつけた。
同時にハイファもシドの肩越しにテミスコピーのトリガを引いている。速射で三発はもう一人の男が手にした旧式ハンドガンを弾き飛ばし、両肩から血飛沫を上げさせていた。
そこに飛び込んできたのがタマ、ジャンプしてハンドガン男の顔に鋭利な爪を打ち込む。思わぬ攻撃に叫び声を上げながら、ハンドガン男は手にしていた小さなものを取り落とした。
「大丈夫ですか、シド!」
「課長は死んだのか!」
「まだ動いてるぞ!」
口々に叫びつつ、皆がシングルルームになだれ込んだ。
ゴーダ主任が課長の無事を確認し、ヨシノ警部とヘイワード警部補が襲撃者たちの許に駆け寄って、ガラクタになった銃を蹴り飛ばす。
そのまま男たちを素早く身体検査して、ハンドガン男の腹にガムテープで貼り付けられた爆弾と思しきものを発見した。落ちていた起爆装置も拾い上げる。
「シド、お前さん、爆弾撃たなくてよかったな、おい」
「大丈夫ですよヘイワード警部補。イヴェントストライカは二分の一を外しません」
涼しい口調のマイヤー警部補が指示を出しヤマサキが軍警察にリモータ発振した。
青い顔をしたヴィンティス課長によると男二人はバスルームに潜んでいたらしい。腹に大穴の男は意識がなく、もう一人の肩を撃たれた男にゴーダ主任が詰め寄った。
「てめぇら、何処の組織のモンだ?」
鬼瓦のような顔と低音で凄まれては大概のホシは落ちる。
「あ、あ、アラキバ抵抗運動旅団、です」
「仲間はまだいるんかい?」
「……」
「さっさと言え! てめぇもこいつみてぇになりたいのか!」
胸ぐらを掴まれて持ち上げられ、仲間の血塗れの腹を見せつけられて男は震え上がった。
「べ、別々に潜入したので……たぶん、あと何人かは……うっ!」
失血で気を失った男をゴーダ主任はドサリと放り捨てる。
ミュリアルちゃんが気を利かせてグラスの水をヴィンティス課長に飲ませた。命の危機に晒されたのは本日二度目、ヴィンティス課長のブルーアイは一層哀しげにシドを見る。ムッとしたシドはポーカーフェイスの眉間に不機嫌を溜めた。
そのシドも皆に押さえ付けられハイファに衣服の前を開けられて、こちらも身体検査だ。
「酷い、アザになってるよ。骨に何ともなければいいけど」
「平気だ、何ともねぇよ」
シドの言葉は受け入れられず、素早くナカムラがファーストエイドキットを持ってくる。消炎スプレーをイヤというほど吹きつけられて、取り敢えずこの場は釈放になった。そこで軍警察の一団が救急隊員を伴って駆け込んでくる。
先頭を切ってやってきたのは二分署のルーファス副署長で、交渉役の無事を知って安堵したようだった。一分一秒でも早い方がいいオペレーションを背負ったシドたちは、そのまま速やかに現場を離脱する。
廊下に出るとそれぞれが放り出した荷物を再び手にし、シドは起爆装置を作動させなかったお手柄タマを撫でてやってからキャリーバッグに収めて担いだ。
一階に降りるとタッカーたちとリアム=マクレーン行政副長が待っていた。
交渉組はヴィンティス課長以下三名と挙手敬礼して別れ、コイル三台に分乗して出発する。向かったのは昨日の格納庫エリアだ。テュールの都市内を十分ほどで抜け、BEL格納庫に繋がるエレベーターにコイルごと乗り込んだ。
エレベーターで下り、細い通路を走って格納庫に辿り着いて全員が降車する。
立体駐機場から出されていたのは小型BELが二機、シドとハイファにゴーダ警部とナカムラのバディは、サフィア・アレックスの機に乗り込んだ。マイヤー警部補やヘイワード警部補たちはヘイデン・タッカー組のBELだ。
皆がシートに着くなりBELは反重力装置を起動する。
そこでハイファがシドに囁く。
「エル・ドラドって黄金郷とは別に『金メッキの男』って意味もあるんだよ」
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