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第3話
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一方で詰め所を出た京哉は霧島に付き添われて階段で一階に降り、通路を辿って医務室のドアをノックした。
返事を待ってドアを開けると最近異動してきたのか新たに雇われたのか分からないが、変人でサドと噂の外科医が出迎えてくれる。
「おっ、本日最初の客は県警一有名なカップルかい。脳ミソ水洗いの予約か?」
「そうではない。鳴海が怪我をした。診てやってくれ」
「何だ、残念だな。あれはリフレッシュできるぞ。で、何処だ?」
京哉はしぶしぶ患者用の丸椅子に座った。左手を差し出すと自分でも様子を見る。人差し指と親指の間がバッサリと切れていて、医師は非常に嬉しげに言った。
「こいつは縫った方がいいな。もしかして麻酔は要るか?」
「当たり前でしょう。趣味に走らないで下さい、西中先生」
「仕方ねぇなあ、サーヴィスだ」
医師は立つと薬品棚からガチャガチャと必要なものを引っ張り出してくる。消毒すると麻酔を射ち手早く傷を縫い始めた。腕は確かであっという間に六針を縫い終わるとガーゼを当てて包帯を巻きつける。それで終わりらしかったが京哉に顎で示した。
「そこのコーヒーを三杯持ってきてくれるか?」
どうやら京哉たちを相手にヒマ潰しするらしい。点けっ放しのTV音声が響く中、霧島はベッドに腰を下ろし配給された紙コップのコーヒーを飲んだ。意外と旨い。
そこでコーヒー豆の蘊蓄を医師から聞き『県警本部版・抱かれたい男ランキング』の次期一位は霧島で固く、以下に京哉と小田切も食い込んできて今の機捜は何なんだと妙な因縁をつけられ、警務部と総務部の婦警が発祥の『鳴海巡査部長を護る会』の会員がとうとう六十名を超えたと医師から聞かされて霧島は機嫌を悪くする。
ご機嫌斜めの年上の愛しい男には当たらず触らずで京哉は何気なくTVに目を移した。するとTV画面には昼のニューストピックスでアフリカ大陸にある某小国への潜入取材と称し海外メディアの撮った映像が流されていた。
モザイクの掛かった内容は公開処刑というシロモノだ。いつの間にか霧島と西中医師も画面に視線を向けている。
「国際的にも認められた国が公開処刑なんて酷いですよね」
「ふん。何処だか知らんが殺伐としているな」
「そうは言うが中東辺りだと公開処刑は日常茶飯事だぞ。あんたらもネットで見たことがあるだろう。宗教観の違いじゃないですかね。まあご近所の国では宗教無関係でもやってるがな」
クールに医師は言って、剃り残しのヒゲを一本指先で引っこ抜いた。
あまり長居しても仕事が進まない。京哉と霧島は旨いコーヒーの礼を言って医務室から出る。機捜の詰め所に戻ると小田切が膝にミケを乗せて固まっていた。
京哉は冷蔵庫からタッパーウェアを出してミケの好物である竹輪をひとかけら取り出し、凶悪なケダモノを小田切の膝から降ろすのに成功する。
小田切は握ったままダッシュで手洗いに走って行った。
気ままなミケを眺めて京哉は却ってつれてきて良かったと思う。ここなら二十四時間、常に誰かは詰めていて無人になることはない。猫好き隊員たちの有志を募ってトイレ掃除やエサやりの当番表も出来ていた。責任者の京哉が出張でも大丈夫である。
「しかし特別任務もこのような、更なるおまけつきは勘弁だな」
低く呟いたのは横目で三色の毛皮を眺める霧島だ。
京哉が暗殺されかけた件で霧島は機捜を勝手に動かした責任を問われ、減給と停職なる殆どあり得ないダブル懲戒処分を食らった。当時の県警本部長が暗殺肯定派だったせいで八つ当たりのダブル懲戒だ。
そして普通は懲戒を食らうと以降の昇任の道が閉ざされるため、誰もが依願退職するのが不文律だが霧島は辞めなかった。
サッチョウ上層部の秘密も握ったのだ。辞めた日には何が身に降りかかるか分からなかったというのもある。辞めねばならない理由など自分にはないという強い信念もあった。だが何より自分で描いたシナリオを内側から見守ろうとしたのが大きい。
京哉の暗殺スナイプ現場に出くわしたことをきっかけに霧島は暗殺肯定派を瓦解させ関わった者たち全員を検挙する計画を独断で立てた。そのシナリオの中には自分も高みの見物ではなく機捜として動くことや懲戒処分を食らうことまでもが織り込み済みだった。
そうして弾みをつけて計画は上手く転がった。
結局、霧島カンパニーへのガサ入れは勿論、警視庁による暗殺肯定派の議員連中やサッチョウ上層部を含む暗殺肯定派の一斉検挙、県警本部長の実質的辞任と暗殺反対派の急先鋒を新本部長に据えるところまで、全て霧島の描いたシナリオ通りに動いたのだ。
ただ京哉のことがバレると拙いので検挙理由は『汚職』だったが。
ともかくたった独りで作戦立案し、とんでもない人数・無数に枝分かれするシチュエーション、その他の膨大なファクタを全て考慮し尽くしてプランを練り上げたのである。恐ろしいまでの計算能力を発揮して霧島は己の処分をも組み込み、望んだ結果を得たのだった。
このシナリオの存在を知るのは京哉のみで、関わった誰もが自発的に動いたと今でも思い込んでいる筈だ。それでいい、すべて上手くいった……と思っていたのだが、しかしそこにおまけがついてきたのだ。たびたびの特別任務というおまけが。
つらつらと思い出していたら思考がうつったか、それともミケを見て思い出したのか、京哉が煙草を咥えてオイルライターで火を点けたのち、申し訳なさそうな顔をして頭を下げて見せた。そして何十回目かの科白を繰り返す。
「すみません、霧島警視。僕のせいで特別任務なんかに就かされることになって」
「お前のせいではないから気にするなと何度言えば分かる。それに大体だな、県警本部長が下す特別任務は県警内の案件であるべきだろう。それなのに最近は南米だ欧州だ国連だと、おかしいと思わんか?」
生真面目な秘書の京哉は中断していた仕事も忘れず進めながら、珍しい霧島の愚痴を聞いた。目前のノートパソコンで本日の仕事の進捗具合をチェックすると、これも非常に珍しいことに本日分の書類が出来上がっている。
動くに動けない小田切が気を紛らわせるのに熱中したのだと思われた。
普段は警視や警部の書類を巡査部長である京哉が代書しても間に合わないくらい、督促メールが溜まっているのが常なのだ。有難く書類を関係各所にメールで送る。今日は定時に上がれるかも知れない。そう霧島隊長に報告すると霧島の機嫌も僅かながら上方修正されたようだ。
熱心に何か始める。おそらくオンライン麻雀だろう。
急ぎの仕事がないので京哉も今は文句を言わず上司を放置しておいてやる。
京哉は自分の仕事が一段落つくと煙草を消して立ち給湯室に出向いて在庁者に茶を淹れた。お茶汲みも秘書たる京哉の大事な仕事である。配給し終えたところで霧島のデスク上で警電が鳴った。
デジタル表示を見て思い切り嫌な顔をした霧島は音声オープンで警電を取る。
「はい、こちら機捜の霧島」
《わたしだ。小田切くんと鳴海くんも一緒にわたしの部屋に来てくれたまえ》
それだけで切った相手は一ノ瀬県警本部長その人だった。
「うわあ、前回の特別任務から幾らも経ってないのに、まさか……?」
「仕方ない、蹴飛ばせる相手ではないからな。話だけは聞いてやろう」
戻って来てこちらも煙草を吸っていた小田切を促し、霧島は京哉を伴って詰め所を出る。エレベーターで十六階建ての最上階へ。
まずは秘書室で入室許可を取り、三人は県警本部長室の前に立った。分厚い一枚板のドアに霧島が低く通る声をかける。
「霧島警視以下三名、入ります」
返事を待ってドアを開けると最近異動してきたのか新たに雇われたのか分からないが、変人でサドと噂の外科医が出迎えてくれる。
「おっ、本日最初の客は県警一有名なカップルかい。脳ミソ水洗いの予約か?」
「そうではない。鳴海が怪我をした。診てやってくれ」
「何だ、残念だな。あれはリフレッシュできるぞ。で、何処だ?」
京哉はしぶしぶ患者用の丸椅子に座った。左手を差し出すと自分でも様子を見る。人差し指と親指の間がバッサリと切れていて、医師は非常に嬉しげに言った。
「こいつは縫った方がいいな。もしかして麻酔は要るか?」
「当たり前でしょう。趣味に走らないで下さい、西中先生」
「仕方ねぇなあ、サーヴィスだ」
医師は立つと薬品棚からガチャガチャと必要なものを引っ張り出してくる。消毒すると麻酔を射ち手早く傷を縫い始めた。腕は確かであっという間に六針を縫い終わるとガーゼを当てて包帯を巻きつける。それで終わりらしかったが京哉に顎で示した。
「そこのコーヒーを三杯持ってきてくれるか?」
どうやら京哉たちを相手にヒマ潰しするらしい。点けっ放しのTV音声が響く中、霧島はベッドに腰を下ろし配給された紙コップのコーヒーを飲んだ。意外と旨い。
そこでコーヒー豆の蘊蓄を医師から聞き『県警本部版・抱かれたい男ランキング』の次期一位は霧島で固く、以下に京哉と小田切も食い込んできて今の機捜は何なんだと妙な因縁をつけられ、警務部と総務部の婦警が発祥の『鳴海巡査部長を護る会』の会員がとうとう六十名を超えたと医師から聞かされて霧島は機嫌を悪くする。
ご機嫌斜めの年上の愛しい男には当たらず触らずで京哉は何気なくTVに目を移した。するとTV画面には昼のニューストピックスでアフリカ大陸にある某小国への潜入取材と称し海外メディアの撮った映像が流されていた。
モザイクの掛かった内容は公開処刑というシロモノだ。いつの間にか霧島と西中医師も画面に視線を向けている。
「国際的にも認められた国が公開処刑なんて酷いですよね」
「ふん。何処だか知らんが殺伐としているな」
「そうは言うが中東辺りだと公開処刑は日常茶飯事だぞ。あんたらもネットで見たことがあるだろう。宗教観の違いじゃないですかね。まあご近所の国では宗教無関係でもやってるがな」
クールに医師は言って、剃り残しのヒゲを一本指先で引っこ抜いた。
あまり長居しても仕事が進まない。京哉と霧島は旨いコーヒーの礼を言って医務室から出る。機捜の詰め所に戻ると小田切が膝にミケを乗せて固まっていた。
京哉は冷蔵庫からタッパーウェアを出してミケの好物である竹輪をひとかけら取り出し、凶悪なケダモノを小田切の膝から降ろすのに成功する。
小田切は握ったままダッシュで手洗いに走って行った。
気ままなミケを眺めて京哉は却ってつれてきて良かったと思う。ここなら二十四時間、常に誰かは詰めていて無人になることはない。猫好き隊員たちの有志を募ってトイレ掃除やエサやりの当番表も出来ていた。責任者の京哉が出張でも大丈夫である。
「しかし特別任務もこのような、更なるおまけつきは勘弁だな」
低く呟いたのは横目で三色の毛皮を眺める霧島だ。
京哉が暗殺されかけた件で霧島は機捜を勝手に動かした責任を問われ、減給と停職なる殆どあり得ないダブル懲戒処分を食らった。当時の県警本部長が暗殺肯定派だったせいで八つ当たりのダブル懲戒だ。
そして普通は懲戒を食らうと以降の昇任の道が閉ざされるため、誰もが依願退職するのが不文律だが霧島は辞めなかった。
サッチョウ上層部の秘密も握ったのだ。辞めた日には何が身に降りかかるか分からなかったというのもある。辞めねばならない理由など自分にはないという強い信念もあった。だが何より自分で描いたシナリオを内側から見守ろうとしたのが大きい。
京哉の暗殺スナイプ現場に出くわしたことをきっかけに霧島は暗殺肯定派を瓦解させ関わった者たち全員を検挙する計画を独断で立てた。そのシナリオの中には自分も高みの見物ではなく機捜として動くことや懲戒処分を食らうことまでもが織り込み済みだった。
そうして弾みをつけて計画は上手く転がった。
結局、霧島カンパニーへのガサ入れは勿論、警視庁による暗殺肯定派の議員連中やサッチョウ上層部を含む暗殺肯定派の一斉検挙、県警本部長の実質的辞任と暗殺反対派の急先鋒を新本部長に据えるところまで、全て霧島の描いたシナリオ通りに動いたのだ。
ただ京哉のことがバレると拙いので検挙理由は『汚職』だったが。
ともかくたった独りで作戦立案し、とんでもない人数・無数に枝分かれするシチュエーション、その他の膨大なファクタを全て考慮し尽くしてプランを練り上げたのである。恐ろしいまでの計算能力を発揮して霧島は己の処分をも組み込み、望んだ結果を得たのだった。
このシナリオの存在を知るのは京哉のみで、関わった誰もが自発的に動いたと今でも思い込んでいる筈だ。それでいい、すべて上手くいった……と思っていたのだが、しかしそこにおまけがついてきたのだ。たびたびの特別任務というおまけが。
つらつらと思い出していたら思考がうつったか、それともミケを見て思い出したのか、京哉が煙草を咥えてオイルライターで火を点けたのち、申し訳なさそうな顔をして頭を下げて見せた。そして何十回目かの科白を繰り返す。
「すみません、霧島警視。僕のせいで特別任務なんかに就かされることになって」
「お前のせいではないから気にするなと何度言えば分かる。それに大体だな、県警本部長が下す特別任務は県警内の案件であるべきだろう。それなのに最近は南米だ欧州だ国連だと、おかしいと思わんか?」
生真面目な秘書の京哉は中断していた仕事も忘れず進めながら、珍しい霧島の愚痴を聞いた。目前のノートパソコンで本日の仕事の進捗具合をチェックすると、これも非常に珍しいことに本日分の書類が出来上がっている。
動くに動けない小田切が気を紛らわせるのに熱中したのだと思われた。
普段は警視や警部の書類を巡査部長である京哉が代書しても間に合わないくらい、督促メールが溜まっているのが常なのだ。有難く書類を関係各所にメールで送る。今日は定時に上がれるかも知れない。そう霧島隊長に報告すると霧島の機嫌も僅かながら上方修正されたようだ。
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京哉は自分の仕事が一段落つくと煙草を消して立ち給湯室に出向いて在庁者に茶を淹れた。お茶汲みも秘書たる京哉の大事な仕事である。配給し終えたところで霧島のデスク上で警電が鳴った。
デジタル表示を見て思い切り嫌な顔をした霧島は音声オープンで警電を取る。
「はい、こちら機捜の霧島」
《わたしだ。小田切くんと鳴海くんも一緒にわたしの部屋に来てくれたまえ》
それだけで切った相手は一ノ瀬県警本部長その人だった。
「うわあ、前回の特別任務から幾らも経ってないのに、まさか……?」
「仕方ない、蹴飛ばせる相手ではないからな。話だけは聞いてやろう」
戻って来てこちらも煙草を吸っていた小田切を促し、霧島は京哉を伴って詰め所を出る。エレベーターで十六階建ての最上階へ。
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