砂中で咲く石Ⅰ~Barter.11~

志賀雅基

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第20話

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 放心したような時を二人は共有し、息が整った霧島はそっと硬いベッドから滑り降りると、ぐったりとした京哉を覗き込んだ。
 乱れ切った髪を梳いてやると掻き上げた前髪の下で黒い瞳が涙を零していた。その涙を舐め取り白い額にキスを落とす。

「欲しいものはあるか?」
「少しだけ、水、飲みたいです」
「分かった、待っていろ」

 携帯のバックライトのみを頼りに、霧島は台所で自身の後始末を手早く終えると、濡らして絞った布と水の入ったコップとを持って寝室に戻った。

 まずは京哉の背を支えて欠けた陶器製のコップを口にあてがってやる。半分ほどに減った残りを自分で飲み干し、ベッドサイドの銃の傍に置いた。今度は躰を拭いてやる。自分より余程丁寧に拭ってやると霧島は自分も横になり、いつもと同じく左腕で腕枕した。 

 右手で再び京哉の髪を梳き整えてやると白い顔を覗き込む。

「京哉お前、何処か痛くしていないか? 痛いなら遠慮せず申告しろ」

 躰を通して響く低い声に京哉は微笑んで見せた。 

「大丈夫です。忍さんに惚れられて僕はすんごい幸せ者かも」
「私はお前を世界一幸せな妻にしてやるつもりで生きているからな」
「その割にさっき誰か理性を失くしていたような気が……」
「だから私は責任を取るつもりで痛くないか訊いたんだ。それにお前も――」

「ああ、はいはい、すみませんでした。それより痛くはないけど動けないかも」
「それこそ毎度のことだ。想定内だが何か支障があるのか?」
「支障はないですが、お昼ご飯が遅くなるだけです」

 飯の話で霧島の腹が豪快な音を立てる。京哉は溜息をついた。

「温めるだけですから、先に食べてきてもいいですよ?」
「代わり映えしない豆のスープだ、お前と一緒に食った方が旨い」

「代わり映えに関しては貴方が文句をつけるべきではないと思いますけどね。コンビニならいつも海苔弁当だし、機捜の仕出し弁当は夜食も含めて四食とも三百六十五日ずううっと幕の内弁当だし」
「さっきから褒めているのか貶しているのか、どっちなんだ?」

 馬鹿話をしているうちに何とか京哉は起き上がり、霧島と共に衣服を身に着けて昼食にした。京哉が作った昼食のメニューは豆入りショートパスタのカレー風味スープだった。

「やはり豆のスープか。この国に来てから豆ばかりだな」
「隣のユベルで鳩を沢山飼ってて、その飼料の余剰品らしいですよ」
「何だ、それは本当か?」
「ううん、嘘ですよ」
「夫を虚仮にするのか?」

「わあ、撃たないで! 手間はかかるけど豆は栄養豊富な保存食ですし。スープにするのは水分と塩分をきちんと摂れるから。ホテルでもクリフの家でも同じだったでしょう?」
「確かに栄養はありそうだな。植物性蛋白で畑の肉というヤツか」
「でもこの食事もここに長くはいないのを前提で作ってますからね。本当ならもっと質素なんだと思いますよ、豆だけのスープのみとか。干し肉とか贅沢品じゃないですかね」

「なるほど。まあ、鳩になる前には反政府ゲリラ入りしたいものだ」
「ゲリラはもっと食糧難じゃないでしょうか?」
「有難い予想だな。それより外を覗いて見るか」

 さっさと食い終えた霧島は立ち上がりドアを僅かに開けて外を見た。井戸の向こうに軍用大型輸送ヘリが駐機しているのが目に入る。人の気配も濃厚でドアを閉めた。

「真っ最中だ、今は拙い」
「そうですか。ゲリラがくるのは今晩以降でしたよね?」
「ああ。ゲリラ入りして……本当にるのか?」

「そのためにこんな国まできたんですもん。ゲリラ入りしてリーダーが誰か分かり次第『ズドン!』。そしたら一秒でも早く貴方と僕は日本に帰るんです。部屋にエアコンも近所にコンビニもあって機捜のみんなもいる日常に。きっとすぐにこんな国なんか忘れられますよ」

「……すまん、京哉。悪かった」
「何も悪くありません。忍さんらしくて、優しくて、僕は大好きですけれど?」

 微笑む年下の恋人の方が余程優しさに溢れていた。また触れたくなるのを抑える。

「だがそう上手く行くと思っているのか?」
「行かせなきゃですよ。クルックーとか鳴き出したくなければね」
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