砂中で咲く石Ⅰ~Barter.11~

志賀雅基

文字の大きさ
21 / 49

第21話

しおりを挟む
 砂の花を積んだ反政府ゲリラの中型ヘリがやってきたのは配給の翌日の夜だった。

 いつにも増して寒さが厳しい夜で月と星は冴え冴えと輝き、村の小屋の影も濃い。

 まずはヘリから百個以上あるという砂の花を降ろし、村長以下数名が運んできた食料や医薬品などが入った箱をヘリの後部区画に積み込んだ。
 そうした荷物の取引が済み、中型ヘリが村の給油所で燃料補給してからヘリに乗ってきた男ばかり四人の反政府ゲリラに対し、村長が霧島と京哉の話を切り出した。

 寒さに固くなった躰をなるべくリラックスさせ霧島は被っていた布を取る。

「私はシノブ=キリシマ、こっちはキョウヤ=ナルミだ。日本で陸上自衛隊にいたが水が合わずに辞め、あとはずっと傭兵をしていた」

 滑らかな英語で言ったが、長身で鍛えた体躯の霧島はともかく傍に寄り添った京哉のなよやかな外見と、それにそぐわぬ経歴に男たちは首を傾げた。

「無報酬でよそ者が飛び込んでも、得るものなんか何もないぜ?」
「様々な国で私たちは戦ってきたが、ここまで本格的な砂漠戦闘は初めてでな。その経験こそが得難い報酬だと思ったからやってきた。だが足は引っ張らないつもりだ。邪魔だと判断したら、その時点で斬り捨ててくれて構わない」

 京哉に双方向通訳してやりながら霧島が言うと、四人の男たちは暫く話し合ったのちに二人の方を向く。さっきとは違う男の一人が霧島と京哉に頷いた。

「えらく男前のあんたといい、そっちの眼鏡の美人といい、懐に得物を呑んでいるところを見ると銃の扱いは慣れてるな。ようこそ、歓迎するよ。皆が喜びそうだ」

 握手はせず霧島と京哉は側面スライドドアから中型ヘリに乗り込んだ。

 四人のうち二人は同様にスライドドアから乗り、残った二人はパイロット席とコ・パイロット席に座る。相当古そうなヘリだったがスムーズにターボシャフトエンジンが回り出した。メインローターも回転を始め、回転数が充分になると酷い騒音を発しながらテイクオフする。

 浮き上がったヘリは一旦高度を取って村を出たのち、今度は急降下して超低空を砂漠すれすれに飛翔し始めた。パイロットとコ・パイロットのシート以外は外されていて、後部に積まれている荷物の木箱に腰掛けた霧島と京哉はコクピットを覗き込む。

「人工物が何もないこの辺りで高度を取ると軍用機のルックダウンレーダーに映るからな。だが数分で変わる砂漠の地形だ、視力と判断力が試される飛行って訳さ」

 パイロットに全てを任せてヒマらしいコ・パイが自慢げに解説した。

「それにしても見事な操縦ですね」

 霧島に訳して貰いつつ京哉は褒め称えながらも、ヘリが今にも砂丘に突っ込むのではないかと内心ひやひやして前方を見ていた。窓から後方を見ると回転するローターの風圧で砂塵が巻き上げられるほどの低空である。

 さすがにこれだけの超低空飛行だとこのタイプのヘリが出せる時速二百キロ超は無理だろうが、それにしても大した腕と度胸だった。

「俺はキャラハン、操縦してる相棒はハミッシュと呼んでくれ」

 ハミッシュというパイロットは茶髪、話し好きらしいコ・パイのキャラハンは薄い金髪だ。後ろの二人も寄ってきて自己紹介を始める。

「俺はレズリーだ。こいつはオルコット、一週間前に仲間に加わったばかりだ」

 赤毛の大男のレズリーはオルコットの背を遠慮なく叩いて見せた。常人なら吹っ飛びそうな勢いだが、がっちりとした筋肉質のオルコットは寡黙な性質のようで笑って耐えた。

「ところであんたらのグループは全部で何人くらいなんだ?」

 床にあぐらをかいた霧島が訊くと、反政府ゲリラの男四人が四人とも首を捻る。せめてパイロットのハミッシュには前を向いていて欲しいと京哉は切に願った。しかし願いは叶わずハミッシュがまともに振り返る。首を傾げたまま霧島に答えのような疑問を呈した。

「さあ、全部で五、六十人か?」
「いや、八十人くらいじゃないか?」
「そうか? この中型ヘリと小型ヘリ二機、四駆に荷物と人員載せて……」

 考え込む反政府ゲリラに、葬式で集まった遠い親戚でもあるまいし、それくらい把握していろと霧島は内心苛つく。どうも想像していた反政府ゲリラのイメージとかけ離れていた。

「じゃあ百人まではいないってとこですか?」

 口を挟んだ京哉の言葉を訳されて四人の男は頷く。

「でもあれだけの食料でそんな人員を養うのは厳しそうですよね」

 背後の荷物の少なさに京哉は少々心配になった。ただでさえ細すぎる躰はコンプレックスなのだ。豪華な食事など望まないが要らぬダイエットもしたくない。

「他にも同じような村に渡りはつけてあるんだ、心配するな。それに仲間の中には砂の花を持って、街のバザールに買い出しに行く強心臓の奴もいるんだぜ」

 言って大男のレズリーはまたオルコットの背を叩いた。だんだん気の毒になる。

「それでこのヘリや車の燃料は、ああいった村で補給するだけなんですか?」
「村の連中も砂の花を探して駆け回る上に軍も足は主にヘリだからな。砂漠のあちこちに燃料をストックした無人給油所がある。そこで拝借するって寸法だ」

 振り向いて答えたのはキャラハンだ。霧島は京哉に訳しつつ、なるほどと思った。

 それだけ親切なシステムがあれば、反政府武装勢力も機動性を保てる訳である。唯一の財源である砂の花を掘るために必要なのかも知れないが、どうにもマヌケな話だった。

 一時間半くらいで前方の闇に明かりが出現する。人工的なライトではない、燃えさかる炎のようだ。そこに向けてまっしぐらにヘリは飛翔し、やがて減速する。

 無事ナイトフライトは終わり中型ヘリは砂漠の上にランディングした。途端に側面のスライドドアが外から開き何人もの男女が荷物をあっという間に運び出してゆく。

 レズリーとオルコットに続いて霧島と京哉は降機し、砂漠に足を踏み出した。

「うわあ、寒ーい! 目が覚めますね」
「本物の砂漠は寒さも本格的だな」

 辺りを見渡してまず目についたのは幾つかの焚き火と、大きなテントが二張りだった。テントは日本でレジャーに使うようなペラペラなものではなく、霧島が眺めるにモンゴル辺りでパオやゲルなどと呼ばれているものに似ている気がした。

 幾重にも重なった布の天井と壁をしっかりとした骨組みが支え、内部では煮炊きまでが可能な移動式住居である。これなら砂嵐にも耐えられそうだ。
 他にも少し離れて小型テントが幾つか張られていた。これは個室といった風か。

 結構な数の男女がテントを行き来している。焚き火に掛かった大鍋の中身を掻き回している者、水のタンクを運ぶ者、火の傍に腰を下ろして語り合っている者もいた。

 そうして眺めていると何か足りないような気がして霧島は考えを巡らせた。そして気付いたのは子供の姿がないということだった。仮にも反政府ゲリラなのだから当然かも知れないが、どうも家族的な雰囲気が蔓延していたので不思議に感じたのだ。

 何れにせよ思い描いていた戦闘集団のイメージとは随分と違う。

「で、どうするんだ?」
「さあ……?」

 先刻まで一緒だった四人も何処かに消え、二人はポツリと取り残されて悩んだ。

「寒いから、取り敢えず火に当たりたいですね」
「お前は薄っぺらいから余計に寒そうだな」
「骨まで凍りそうです。もう小骨は凍っちゃってるかも」

 ショルダーバッグを肩に掛けた京哉と一緒に霧島は本物の砂漠を歩きづらく感じながら、早く京哉の小骨を溶かすべく一番大きく燃えさかっている焚き火に近づく。

「あー、溶けて痒いよーっ」
「それでさっきの質問だが、これからどうするんだ?」
「ここのリーダーとご対面だと思ったんですけど……ねえ?」

 二人が悩みながら表面を温め終わり、裏面を炙り始めた頃になって周囲に人が集まってきた。決められた連絡網でもあるのか、それとも自然派生的なものかは分からないが、とにかく数十人はいるだろう集団に二人は焚き火と共に取り囲まれる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

令嬢失格な私なので

あんど もあ
ファンタジー
貴族の令息令嬢が学ぶ王都学園。 そこのカースト最下位と思われている寮生の中でも、最も令嬢らしからぬディアナ。 しかしその正体は……。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...