砂中で咲く石Ⅰ~Barter.11~

志賀雅基

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第24話

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 こちらはヘリを盾にしているとはいえ、背後の天幕で目立つ。不利な場所から思い切って霧島は飛び出し、牽制の数発を発射しながらヘリの尾翼付近まで走り出た。
 出ると同時に研ぎ澄ませた勘で兵士の気配に対し二射発砲。呻き声が聞こえ、背を護る京哉が四駆の向こうから頭を出した敵を撃ったのを最後に沈黙が訪れた。

 約十秒のサイレントタイムののち、霧島と京哉は敵がやってきた方向へと歩き出す。

 ほどなく強風が巻き起こり砂が暴れ始めた。腕で庇いながら目を上げると軍用大型ヘリが上空十五メートルほどに滞空して星空を黒く切り取っていた。ダウンウォッシュの砂嵐を透かして開け放たれたドアから機銃が覗いているのも見取る。

 掃射される前に二人揃って九ミリパラを仰角発射。銃手ガナーがヘリから転がり落ちた。軍用ヘリは急速上昇して夜空に消え去った。砂を吐き出して霧島が低く呟く。

「こっちと表で挟撃か。かなり大掛かりなオペレーションだったらしいな」
「ジョセたち、大丈夫でしょうか?」
「それより京哉、お前は大丈夫なのか?」

 スナイプで人を殺すたびにPTSDから酷い高熱を発していた京哉だ。それを知っている霧島は白い額に素早く手を当てた。だがその手を払って京哉が頭を下げる。

「忍さん、すみません。貴方には撃たせないって決めてたのに、僕の力不足で……」

「ちょっと待て。私は以前に言っただろう、この先、お前独りにトリガは引かせないと。それは物の喩えではない、私も戦うべき時にはお前と一緒に戦うという意味だ。私の心をガードしたいお前の気持ちは尊重するが、私をバディと認めているのなら謝るな。大体、この話は出る前の晩に終わらせた筈だぞ?」

 月と星明かりで煌く灰色の目を見上げて京哉はふっと息をついた。

「そう……でした。僕らはバディで対等です。でも貴方は納得できたんですか?」
「襲撃した兵士たちは悪くない、命令に従っただけだ。けれどお前は教えてくれただろう、銃は殺傷するための道具以外の何でもないと。それを手にした時点で殺す覚悟をしていなければならないと」

「言いました。言いましたけど、それで納得できるかどうかは別でしょう?」

「何をそんなに哀しい顔をする? 少なくとも私にはそれなりの覚悟があり、お前というバディがいた。お蔭で生きる側に回れたのだし、それを良かったと思うのは単純だが悪い納得の仕方ではないだろう。無論、命令ひとつで死地に赴いた兵士たちは憐れだとしか今は言えん。ただ、何をどう感じようと最低限、私は生き残った自分を憐れんではいけないと思う」

「僕も、それは絶対にありません」
「ならいい。京哉、私の心が傷つくのを怖がるな。傷ついて当然という点でも私は納得しているのだ。今、撃った兵士も忘れず背負って生きて行く。お前と二人でな」

「忍さん、貴方は本当に強いですね。僕は五年かけても呑み込めなかったのに」
「二人で二人分背負うと決めたからだ。それに原動力は至ってシンプルだぞ、お前と一緒の一生は邪魔するものを叩き折ってでも先を見るに値する。だがまあ、格好つけても消化不良だったのは確かだな」

 溜息をつくと霧島は再び白い額に手を当てる。幸い熱は出ていないようだった。

「明確に自分と忍さんの命を狙う敵だったから、熱も出なかったのかも知れません」
「なるほど。けれどやはり私も『消化不良な』覚悟しかできていなかった。すまん」
「でも忍さんらしくて僕は安心しましたけれど」

「そうか。しかしこの先それでは通じまい。今もお前がらなければ二人とも殺られていたのは確実だ。ここはジャスティスショットなど通用しない戦場だと肝に銘じよう」
「そう気負わなくてもバディで得意分野の役割分担もアリでしょう」

 喋りながら戻ってみると戦闘は終息していた。二人の姿を見てM4カービンを持ったままジョセが駆けてくる。霧島が訊く前に硬い顔をしたジョセが口を開いた。

「やられたわ。貴方たちも乗ってきた食料便をトレースされたのかも知れない」

 軍事衛星を甘く見たそれはどうかと思ったがそこには触れず霧島は低い声で訊く。

「裏の立哨以外に死人が出たのか?」

 すうっと息を呑むと、ジョセは悔しげに唇を噛んだ。

「……ブラマンも死んだのね。あとはイートン、ダルク、アイム。貴方がメールしてくれたから四人で済んだというべきかしら。怪我人は軽傷が何人か。手当てと敵の埋葬が済んだら予定を繰り上げて即、移動するわよ。追加のお客が来ないうちにね」

 これは霧島の通訳を聞いてから京哉がジョセを見て首を傾げる。

「敵も埋めるんですか?」
「イートンたちは移動してからだけど、そうよ、文句ある?」
「文句はありません。でも裏に怪我人が六名と死体が六体転がってます」

 目を見開いたジョセを置いて小型天幕に戻った。天幕を畳み、ショルダーバッグや水筒にジャケットを確保する。大天幕ふたつも畳まれ、機材がヘリに載せられた。
 味方の死者もヘリに乗せると、焚き火の傍に掘った大きな穴に敵を埋める。怪我をした敵兵六人はつれてゆく訳にもいかないので応急処置だけして布の上に寝かせた。

 誰からともなく敵を埋めた跡に短い黙祷を捧げ、終えた者からヘリに乗り込み始めた。自分たちはどうしたものかとヘリと四駆の間で京哉たちが佇んでいると、ライフルを下げたアメディオとオグルビーの白黒コンビが四駆のサイドウィンドウから声を掛けてくる。

「ヘリもいいが、砂漠を満喫するにはこいつが一番だぞ」
「俺たちのドライビングテクニックは芸術だぜ?」

 安全性が芸術に食われてなけりゃいいがと思ったが、せっかくの誘いだ。二人は四駆の後部座席に収まった。同時にヘリと四駆に分散したのを数えていた京哉は、このグループが七十数名だというのを知る。

 やがて大移動が始まった。
 銀青色の月と降るような星々の下、ヘリが地から離れ、四駆も走り始める。夜明けまで一時間ある砂漠に影を落としつつ、人々は静かに渡ってゆく。数機のヘリは超低速・超低空で四駆と併走飛行していた。

 一際低空ながらギリギリで砂塵を巻き上げない高度を維持しているハミッシュ・キャラハン機を窓外に仰ぎながら二人は四駆を運転しているアメディオの鼻歌を聞く。

 アメディオの鼻歌は死者を悼んでか、淋しいメロディだった。

 移動する間も何度か四駆は停止しそのたびにスコップを振るい砂の花を採掘した。霧島と京哉も当然のようにスコップを持たされたが面白そうだと思っていたのは大間違いで、慣れない道具と流れる砂に振り回され腰が入っていないと皆から笑われる。

 夜が明けてからも数時間移動は続き、停止して砂の花を掘るたびに汗みどろになった。四駆の車内はエアコンが利いていたが砂混じりのべたつきは取れない。

「これで水浴びもできなかったら精神的に死にそうですよ」

 京哉の控えめな呟きを霧島が訳すと、運転を代わった白髪のオグルビーが笑った。

「大丈夫だ、今日のキャンプはあそこだからな」

 地平線の向こうの陽炎に溶け、蜃気楼のように見えていたのはオアシスだった。
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