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第26話
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立哨を寡黙なオルコットに申し送った二人は喧噪を避け、大天幕の裏に小型天幕を張った。
他の者たちも役目のない間は自由に過ごしているようだったので、今のうちに不足した睡眠を補填だ。暑かったが疲れていたのか、すんなりと寝入ってしまう。
二時間ほど眠るとすっきりし、まだまだ続く長い昼を女たちの夕食の準備の手伝いや、ユーリンら新参者の射撃姿勢指導などで過ごした。
包丁から銃まで扱う二人は特に女性陣から重宝され、熱い視線まで送られて、あちこちから黄色い声が掛かり忙しくなる。
そんな風にして時間も忘れているうちに、いつの間にか夜が訪れていた。
月が輝き出すと大きな火が焚かれた。
薪として燃やされているのは移動間に集められた乾燥した茨だ。棘は鋭いが火持ちが良く、実は食用にもなるという有難い植物である。
夕食は小麦を練った団子が幾つか浮いた豆のスープだ。皆で分け合い一滴残らず食べてしまうと、今朝方死んだ仲間四人の弔いの儀式の始まりだった。
焚き火の傍に寝かせられた四人は丁寧に布でくるまれていた。男たちが彼らを一人一人オアシスの畔に深く掘った穴へと運んでゆく。あとに続くのは指先くらいの茨の実を握り締めたグループ全員と、アメディオが爪弾くギターの音だ。
「『アランフェス協奏曲』の第二楽章だな」
「ふうん。そういえばアメディオの鼻歌はこれでしたね」
啜り泣く者もいる中、二人も皆に倣い渡された茨の実を穴の中の死者に手向ける。
本当に小さな茨の実ひとつに七十余名それぞれが思いを込めているようだった。そんな長い長い葬送の列が一巡すると、皆でまた長い黙祷を捧げたのちに死者たちは砂で埋められる。盛られた砂の上に男が酒らしい杯を傾けて零した。
焚き火に皆が戻ったのを見計らい、アメディオが曲調を変える。哀しいような、愛しいような曲を聞きながら、焚き火の周りに輪を描いて砂に直に座った人々の間を、先程死者に手向けたひとつの杯が順に手渡されてゆく。
時折注ぎ足されながら回ってきたそれを京哉は受け取った。だが異常なほど敏感な嗅覚を突き刺すようにアルコール臭がきつく立ち上っていて、思わず一瞬、退く。
「あいつらと酌み交わす最後の酒だ、飲んでやってくれ」
赤い目をしたレズリーがそう言い、頷いた京哉は覚悟を決めて杯の白く濁った酒を口に含んだ。思わずむせそうになったのを堪えて飲み下す。茨の実を発酵させて作ったという液体の七割以上がアルコールであるように感じた。
喉から腹の底まで灼きながら液体が落ちていく。咳き込むのを我慢した直後、ただでさえ昼間の日焼けで火照った顔に一気に血が上ったような気がした。次に杯に平気で口をつけ、飲んでなお普段と変わらぬ涼しい顔つきの霧島が恨めしかった。
ともあれこれで儀式は終わりらしい。ざわめきの中で京哉は霧島に訊いてみる。
「このギターの曲、知ってますか?」
「ん、ああ。『Un Amor』という曲だ。意味は、そのものずばり『愛』だな」
「へえ、えらくストレートですね」
酔いが回ったからというのでもないだろうが、輪の中から一人、また一人と立ち上がった女性が、布をロングスカートのように腰に巻いてゆったりと踊り始めていた。
全員で杯を回し終えると今度は幾つも杯が配られた。飲みたい者が好きなだけ飲んでいいという。霧島も杯を確保していた。
炎をバックに踊る女たちがシルエットとなって浮かぶ。京哉は霧島から渡された杯を受け取って微笑み、ためらいなく干した。
パイロットは酒に強いという噂も聞くが、その通りなのかキャラハンがラッパ呑みしていた自分の水筒から京哉の持つ杯に濁った液体を注ぐ。
霧島が京哉を振り向いて言った。
「曲、変わったな。『Vamos a Bailar』、意味は『踊ろうよ』といったところか」
確かに情熱的で激しい曲調だ。そこで京哉が立ち上がり、その手首を霧島が掴んだ。
「どうした、ションベンか?」
「違いますっ! 何でそんなに情緒がないんですか、霧島カンパニー会長御曹司の名が泣きますよ。忍さんが今、『踊ろうよ』って言ってくれたんじゃないですか?」
「お前独りでか?」
「ふうん。そこまで忍さんが嫌ならいいですよ、お姉さんたちと踊ってきますから」
「何も嫌とは言っていない」
素早く腰を上げた霧島に京哉はにっこり微笑む。乗せられてやった霧島も笑った。
「酔ったお前を野放しにできるか。だが承知の通り社交ダンスしか踊れんからな」
「いいですよ、僕も貴方とワルツを踊っただけですから」
「嘘をつけ、捜一や所轄の前で私とタンゴも踊っただろうが」
「あっ、そうでした。何にしろここで踊る分には週刊誌に載りませんよ」
「それは気軽にドジョウ掬いでも踊れるな。行こう」
手を繋いで輪から抜け出た。すると意外な飛び入り参加に拍手と口笛が湧く。二人は顔を見合わせまた笑い合い、京哉は袈裟懸けにしていた布を解いて細い腰に巻きつけた。
そして二人は裾を翻す女性たちに混ざりラテン調のリズムに乗って踊り出す。
元々体術に長けた上にダンスの基本を知っているからだろうか、霧島のステップは様になっているどころか見事に京哉をリードした。ときに両手を繋ぎ、背中合わせにリズムを刻み、細い腰を抱き寄せられて京哉は逞しい胸に寄り添う。
霧島に片手を取られ、京哉はくるくるとターンして布を翻した。並んでステップを踏みながら京哉が囁く。
「忍さん、上手いじゃないですか。若い頃によっぽど遊んだんですね」
「本気で言っていないだろうな? それよりお前こそ大したものだ、誰より上手い」
「え、そうですか? 何だかすごく動きやすくて、貴方のリードのお蔭でしょう」
「ふむ、珍しくリラックスしているのか。だが飲んで調子に乗るとあとがつらいぞ」
「大丈夫です、酔ってませんよ」
「酔っ払いの常套句だな」
それでも霧島は手を離さず京哉に付き合った。二曲分を踊り切るとラストはお約束とばかりに霧島は繋いだ片手を高く上げ細い腰を支えて京哉を大きく仰け反らせた。
やんや、やんやの大喝采を受けた二人は揃って何処の貴族かと思うほど優雅な礼を披露する。そうしてすたすたと輪に戻って腰を下ろし、杯を手にすると注がれた酒を飲んだ。
いつ果てるともない宴の空気に身を浸し、激しくなった女性たちの踊りのシルエットを眺め手拍子を打っていると、ハミッシュがやってきて二人に声を掛けてくる。
「どうだ、ここの酒は。酔ったか?」
「いや、私は。バディは怪しいが」
「僕も大丈夫ですって。それでどうかしたんですか?」
「昨日村から受け取った物資の中に約束していた抗生物質が入っていなかったらしい。怪我人も出たことだし、この分じゃ心許ないとジャン医師の仰せだ」
「取りに行くんだな?」
「ヘリを出す。だが今朝の今日で掃討部隊が張ってる可能性も捨て切れん。上空から敵が見えたら諦める。地上でのガードを腕の立つあんたらに頼みたい。行けるか?」
「私は構わん。京哉?」
「はい、平気です。ここで嘘は言いません」
「なら行こう」
パイロットのハミッシュに続いて、コ・パイのキャラハンがジャン医師らしき男と小型ヘリに向かった。霧島と京哉は側面のドアを開けて乗り込む。ヘリのスキッドが地を蹴る前に二人はそれぞれ銃を抜き、九ミリパラのフルロードを確かめた。
「吹っ飛ばすからな、二時間で着く」
ハミッシュが宣言し、心臓に悪い超低空飛行を開始する。
前照灯で照らし出せるのはせいぜい五十メートル、それを時速二百キロ近いスピードで飛翔しながら地形を読み、地上約十メートルに機を維持しているのだ。地上は荒れた大海の波の如く砂丘のうねりが連続している。これもまた芸術の域だった。
「他国だったら引く手あまたのパイロットですよね」
「しかしここでこそ真価が発揮されるという気もするな」
エンジンとローターの騒音に負けじと京哉と霧島が喋っていると、ふいにくるりとハミッシュが振り向いた。
「この国でも砂嵐の中で機を飛ばせる奴は、そうそういないぞ」
「「集中! 集中!!」」
笑い転げるコ・パイ席のキャラハンが飲んでいる水筒は確か酒ではなかったかと思いながら二時間の緊張を二人は強いられた。医師は慣れているのか舟を漕いでいる。
やがてヘリは機速を落としランディング態勢に入った。接地場所を見極めるのに少しだけ高度を取り、村の小屋群の屋根を見下ろす形で緩やかに旋回する。
他の者たちも役目のない間は自由に過ごしているようだったので、今のうちに不足した睡眠を補填だ。暑かったが疲れていたのか、すんなりと寝入ってしまう。
二時間ほど眠るとすっきりし、まだまだ続く長い昼を女たちの夕食の準備の手伝いや、ユーリンら新参者の射撃姿勢指導などで過ごした。
包丁から銃まで扱う二人は特に女性陣から重宝され、熱い視線まで送られて、あちこちから黄色い声が掛かり忙しくなる。
そんな風にして時間も忘れているうちに、いつの間にか夜が訪れていた。
月が輝き出すと大きな火が焚かれた。
薪として燃やされているのは移動間に集められた乾燥した茨だ。棘は鋭いが火持ちが良く、実は食用にもなるという有難い植物である。
夕食は小麦を練った団子が幾つか浮いた豆のスープだ。皆で分け合い一滴残らず食べてしまうと、今朝方死んだ仲間四人の弔いの儀式の始まりだった。
焚き火の傍に寝かせられた四人は丁寧に布でくるまれていた。男たちが彼らを一人一人オアシスの畔に深く掘った穴へと運んでゆく。あとに続くのは指先くらいの茨の実を握り締めたグループ全員と、アメディオが爪弾くギターの音だ。
「『アランフェス協奏曲』の第二楽章だな」
「ふうん。そういえばアメディオの鼻歌はこれでしたね」
啜り泣く者もいる中、二人も皆に倣い渡された茨の実を穴の中の死者に手向ける。
本当に小さな茨の実ひとつに七十余名それぞれが思いを込めているようだった。そんな長い長い葬送の列が一巡すると、皆でまた長い黙祷を捧げたのちに死者たちは砂で埋められる。盛られた砂の上に男が酒らしい杯を傾けて零した。
焚き火に皆が戻ったのを見計らい、アメディオが曲調を変える。哀しいような、愛しいような曲を聞きながら、焚き火の周りに輪を描いて砂に直に座った人々の間を、先程死者に手向けたひとつの杯が順に手渡されてゆく。
時折注ぎ足されながら回ってきたそれを京哉は受け取った。だが異常なほど敏感な嗅覚を突き刺すようにアルコール臭がきつく立ち上っていて、思わず一瞬、退く。
「あいつらと酌み交わす最後の酒だ、飲んでやってくれ」
赤い目をしたレズリーがそう言い、頷いた京哉は覚悟を決めて杯の白く濁った酒を口に含んだ。思わずむせそうになったのを堪えて飲み下す。茨の実を発酵させて作ったという液体の七割以上がアルコールであるように感じた。
喉から腹の底まで灼きながら液体が落ちていく。咳き込むのを我慢した直後、ただでさえ昼間の日焼けで火照った顔に一気に血が上ったような気がした。次に杯に平気で口をつけ、飲んでなお普段と変わらぬ涼しい顔つきの霧島が恨めしかった。
ともあれこれで儀式は終わりらしい。ざわめきの中で京哉は霧島に訊いてみる。
「このギターの曲、知ってますか?」
「ん、ああ。『Un Amor』という曲だ。意味は、そのものずばり『愛』だな」
「へえ、えらくストレートですね」
酔いが回ったからというのでもないだろうが、輪の中から一人、また一人と立ち上がった女性が、布をロングスカートのように腰に巻いてゆったりと踊り始めていた。
全員で杯を回し終えると今度は幾つも杯が配られた。飲みたい者が好きなだけ飲んでいいという。霧島も杯を確保していた。
炎をバックに踊る女たちがシルエットとなって浮かぶ。京哉は霧島から渡された杯を受け取って微笑み、ためらいなく干した。
パイロットは酒に強いという噂も聞くが、その通りなのかキャラハンがラッパ呑みしていた自分の水筒から京哉の持つ杯に濁った液体を注ぐ。
霧島が京哉を振り向いて言った。
「曲、変わったな。『Vamos a Bailar』、意味は『踊ろうよ』といったところか」
確かに情熱的で激しい曲調だ。そこで京哉が立ち上がり、その手首を霧島が掴んだ。
「どうした、ションベンか?」
「違いますっ! 何でそんなに情緒がないんですか、霧島カンパニー会長御曹司の名が泣きますよ。忍さんが今、『踊ろうよ』って言ってくれたんじゃないですか?」
「お前独りでか?」
「ふうん。そこまで忍さんが嫌ならいいですよ、お姉さんたちと踊ってきますから」
「何も嫌とは言っていない」
素早く腰を上げた霧島に京哉はにっこり微笑む。乗せられてやった霧島も笑った。
「酔ったお前を野放しにできるか。だが承知の通り社交ダンスしか踊れんからな」
「いいですよ、僕も貴方とワルツを踊っただけですから」
「嘘をつけ、捜一や所轄の前で私とタンゴも踊っただろうが」
「あっ、そうでした。何にしろここで踊る分には週刊誌に載りませんよ」
「それは気軽にドジョウ掬いでも踊れるな。行こう」
手を繋いで輪から抜け出た。すると意外な飛び入り参加に拍手と口笛が湧く。二人は顔を見合わせまた笑い合い、京哉は袈裟懸けにしていた布を解いて細い腰に巻きつけた。
そして二人は裾を翻す女性たちに混ざりラテン調のリズムに乗って踊り出す。
元々体術に長けた上にダンスの基本を知っているからだろうか、霧島のステップは様になっているどころか見事に京哉をリードした。ときに両手を繋ぎ、背中合わせにリズムを刻み、細い腰を抱き寄せられて京哉は逞しい胸に寄り添う。
霧島に片手を取られ、京哉はくるくるとターンして布を翻した。並んでステップを踏みながら京哉が囁く。
「忍さん、上手いじゃないですか。若い頃によっぽど遊んだんですね」
「本気で言っていないだろうな? それよりお前こそ大したものだ、誰より上手い」
「え、そうですか? 何だかすごく動きやすくて、貴方のリードのお蔭でしょう」
「ふむ、珍しくリラックスしているのか。だが飲んで調子に乗るとあとがつらいぞ」
「大丈夫です、酔ってませんよ」
「酔っ払いの常套句だな」
それでも霧島は手を離さず京哉に付き合った。二曲分を踊り切るとラストはお約束とばかりに霧島は繋いだ片手を高く上げ細い腰を支えて京哉を大きく仰け反らせた。
やんや、やんやの大喝采を受けた二人は揃って何処の貴族かと思うほど優雅な礼を披露する。そうしてすたすたと輪に戻って腰を下ろし、杯を手にすると注がれた酒を飲んだ。
いつ果てるともない宴の空気に身を浸し、激しくなった女性たちの踊りのシルエットを眺め手拍子を打っていると、ハミッシュがやってきて二人に声を掛けてくる。
「どうだ、ここの酒は。酔ったか?」
「いや、私は。バディは怪しいが」
「僕も大丈夫ですって。それでどうかしたんですか?」
「昨日村から受け取った物資の中に約束していた抗生物質が入っていなかったらしい。怪我人も出たことだし、この分じゃ心許ないとジャン医師の仰せだ」
「取りに行くんだな?」
「ヘリを出す。だが今朝の今日で掃討部隊が張ってる可能性も捨て切れん。上空から敵が見えたら諦める。地上でのガードを腕の立つあんたらに頼みたい。行けるか?」
「私は構わん。京哉?」
「はい、平気です。ここで嘘は言いません」
「なら行こう」
パイロットのハミッシュに続いて、コ・パイのキャラハンがジャン医師らしき男と小型ヘリに向かった。霧島と京哉は側面のドアを開けて乗り込む。ヘリのスキッドが地を蹴る前に二人はそれぞれ銃を抜き、九ミリパラのフルロードを確かめた。
「吹っ飛ばすからな、二時間で着く」
ハミッシュが宣言し、心臓に悪い超低空飛行を開始する。
前照灯で照らし出せるのはせいぜい五十メートル、それを時速二百キロ近いスピードで飛翔しながら地形を読み、地上約十メートルに機を維持しているのだ。地上は荒れた大海の波の如く砂丘のうねりが連続している。これもまた芸術の域だった。
「他国だったら引く手あまたのパイロットですよね」
「しかしここでこそ真価が発揮されるという気もするな」
エンジンとローターの騒音に負けじと京哉と霧島が喋っていると、ふいにくるりとハミッシュが振り向いた。
「この国でも砂嵐の中で機を飛ばせる奴は、そうそういないぞ」
「「集中! 集中!!」」
笑い転げるコ・パイ席のキャラハンが飲んでいる水筒は確か酒ではなかったかと思いながら二時間の緊張を二人は強いられた。医師は慣れているのか舟を漕いでいる。
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