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第27話
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「おかしい」
そうハミッシュが呟く前に霧島と京哉も気付いていた。村に明かりがないのだ。いや、精確にいえば明かりは幾つもあった、ちろちろと燃えるオレンジ色の火が。
「どうする?」
ハミッシュに判断を仰がれた霧島は地上を厳しい目で見つめて言った。
「あと一周旋回後、通りの入り口から少し離れた砂漠に降ろしてくれ。探ってくる」
けれど小型ヘリを一周させないうちに全員が事態を把握していた。霧島はランディングポイントの変更を告げ、小型ヘリは霧島のオーダー通りに村の中心にある井戸に正対して接地する。
霧島は京哉と二人で探るつもりだったが他の三人も降機した。
動く人影はなかった。村全体が焼き尽くされていた。
煤が日干しレンガの壁を覆った手近の小屋にキャラハンが持ち出してきたフラッシュライトで照らしながら入る。ドアは燃え落ちてなくなっていた。
中には触れば崩れるまで焼かれた人のなれの果てが三つ転がっていた。
小屋を出た五人は一旦村の端まで歩き、そこから一軒一軒の小屋を見て回った。しかし誰一人として生きた人間に出会うことはできなかった。
黒焦げでない村人も何人か倒れていたが、そのどれもに銃創があり息絶えていた。
足元に転がっていた空薬莢を京哉は蹴り飛ばして呟く。
「撃つだけじゃ飽き足らずに、ナパームをぶち込んだんですね」
村長のゼップル=クルマンの家も焼かれていて、壁は半ば崩壊していた。そこから屋内で燃え続ける熾火が黒い人型を照らし出しているのが見えた。
同じく燃えさかる炎に人影という取り合わせだが、つい二時間前に見とれていた女たちの躍動感溢れるシルエットとは何という違いだろう。
霧島は脳髄が白熱するほどの怒りを覚えて歯軋りする。あの村長も、苛つきながら砂を掻いていた女性も皆、殺されたのだ。
反政府ゲリラに協力したかどで政府軍に丸焼きにされた村を前に、五人は暫し立ち尽くしていた。そして深い溜息をついた医師が歩き出す。
「共用倉庫は半分無事だった。我々も生きてゆかなきゃならないからな」
ヘリを動かしに行ったハミッシュ以外の四人で移動し煙臭い倉庫を漁った。ハミッシュが傍に着けた小型ヘリに食料を運び出しては積み込む。
中には目的の医薬品もあったらしく、熱で使い物になるかどうかはともかくとして、取り敢えずそれもヘリに載せた。
「どうせなら中型ヘリでこれば良かったな」
「こんなことになってるなんて思わなかったですもんね」
荷は積みきれず半ば残すことになりそうだ。そのとき鋭くキャラハンが叫んだ。
「機の尾翼側、四十五度にヘリ!」
「ハミッシュは上がれ!」
皆が乗るヒマはない。叫んでおいて霧島は銃を抜き、同じく銃を手にした京哉と共にキャラハンと医師を倉庫に押し込んだ。勿論自分たちも身を潜める。
飛来したヘリも小型でハミッシュ機のあとは追わずに井戸の傍に接地した。そのヘリも軍用だったがかなりの旧式で降りてきた男ばかり三人組は辺りを見回している。彼らは小銃をスリングで担いでいて即時発射不能なのを見取った霧島は飛び出した。
「止まれ! ゆっくりと両手を挙げろ!」
凍りついたような数秒後、息まで詰めていた三人の男たちは霧島の英語を聞き取って手を挙げる。その頃には互いに事の次第が解りかけていた。霧島が訊く。
「そちらも取引に来たのか?」
「あ……ああ、そうだが」
くたびれた作業服に布を頭から巻き付けた格好はこちらと変わらず、この三人の男たちも反政府ゲリラグループで間違いないようだ。既に霧島の銃より燃える小屋を見ている。
「そのつもりだったんだが、やられたな」
安堵したキャラハンがハミッシュを呼び戻す間に霧島と京哉は銃を収めた。
「俺はアーサー、アーサー=クーンツだ。あんたはそっちのリーダーか?」
男たちの一人が霧島に訊いた。それでその男がグループのリーダーだと知れる。
「いや、私はリーダーではない。シノブ=キリシマだ。脅して悪かった」
「出会い頭に撃たれなくて良かったよ。しかしこれは酷いな。今日は珍しく処刑の放送がなかったと思ったらこんな所でジェノサイドとはやってくれる」
さすがに軍もこの仕打ちは放送しても益より害が大きいと判断したのだろう。
「後味は悪いかも知れないが、この倉庫に物資の燻製が残っている」
医師のブラックすぎるジョークに男の一人が肩を竦めてからヘリを取りに行った。入れ違いに小型ヘリを駐めたハミッシュは降機し戻ってくると、また惨状を見渡して深々と溜息をつく。
「埋葬してやりたいが、これだけの人数はとても無理だな」
「昨日の俺たちへの掃討部隊派遣といい、妙に軍の動きが活発じゃないか?」
キャラハンが言うとクーンツが目を瞬かせた。
「そっちもか? 俺たちは一昨日銃撃を受けた。仲間を五人もぶち殺してくれたよ」
そう言って悔しげな顔をした。それを見たキャラハンが唸るように訊く。
「アタックするつもりか?」
「当然だ。あいつらの弔いの花火を派手に打ち上げてやるつもりだ」
「どうせやるなら共同戦線を張る手もあるんじゃないのか?」
ふいに横から口を出した霧島の言葉を聞き、男たちが思案しながら相談を始めた。
「俺たちの狙いは第四駐屯地だ。今回は『デポ』から砲を出させて貰う」
と、クーンツ。ハミッシュは頷く。
「それは本格的だな。ならこちらも乗せて貰う方向で考えてみよう。構わないか?」
「ああ。それではあんたらも『デポ』か?」
「そちらがその気なら、こちらも合わせて得物を準備するさ」
「ならば細部は通信で詰めよう。まずは荷物優先だ」
政府軍の動きが活発というなら早く荷を積んで飛び去るのが正解だ。作業を進めながらクーンツたちと携帯ナンバー及びメアドを交換し、荷物を満載にした小型ヘリに給油すると京哉たちは再び機上の人となった。
そうハミッシュが呟く前に霧島と京哉も気付いていた。村に明かりがないのだ。いや、精確にいえば明かりは幾つもあった、ちろちろと燃えるオレンジ色の火が。
「どうする?」
ハミッシュに判断を仰がれた霧島は地上を厳しい目で見つめて言った。
「あと一周旋回後、通りの入り口から少し離れた砂漠に降ろしてくれ。探ってくる」
けれど小型ヘリを一周させないうちに全員が事態を把握していた。霧島はランディングポイントの変更を告げ、小型ヘリは霧島のオーダー通りに村の中心にある井戸に正対して接地する。
霧島は京哉と二人で探るつもりだったが他の三人も降機した。
動く人影はなかった。村全体が焼き尽くされていた。
煤が日干しレンガの壁を覆った手近の小屋にキャラハンが持ち出してきたフラッシュライトで照らしながら入る。ドアは燃え落ちてなくなっていた。
中には触れば崩れるまで焼かれた人のなれの果てが三つ転がっていた。
小屋を出た五人は一旦村の端まで歩き、そこから一軒一軒の小屋を見て回った。しかし誰一人として生きた人間に出会うことはできなかった。
黒焦げでない村人も何人か倒れていたが、そのどれもに銃創があり息絶えていた。
足元に転がっていた空薬莢を京哉は蹴り飛ばして呟く。
「撃つだけじゃ飽き足らずに、ナパームをぶち込んだんですね」
村長のゼップル=クルマンの家も焼かれていて、壁は半ば崩壊していた。そこから屋内で燃え続ける熾火が黒い人型を照らし出しているのが見えた。
同じく燃えさかる炎に人影という取り合わせだが、つい二時間前に見とれていた女たちの躍動感溢れるシルエットとは何という違いだろう。
霧島は脳髄が白熱するほどの怒りを覚えて歯軋りする。あの村長も、苛つきながら砂を掻いていた女性も皆、殺されたのだ。
反政府ゲリラに協力したかどで政府軍に丸焼きにされた村を前に、五人は暫し立ち尽くしていた。そして深い溜息をついた医師が歩き出す。
「共用倉庫は半分無事だった。我々も生きてゆかなきゃならないからな」
ヘリを動かしに行ったハミッシュ以外の四人で移動し煙臭い倉庫を漁った。ハミッシュが傍に着けた小型ヘリに食料を運び出しては積み込む。
中には目的の医薬品もあったらしく、熱で使い物になるかどうかはともかくとして、取り敢えずそれもヘリに載せた。
「どうせなら中型ヘリでこれば良かったな」
「こんなことになってるなんて思わなかったですもんね」
荷は積みきれず半ば残すことになりそうだ。そのとき鋭くキャラハンが叫んだ。
「機の尾翼側、四十五度にヘリ!」
「ハミッシュは上がれ!」
皆が乗るヒマはない。叫んでおいて霧島は銃を抜き、同じく銃を手にした京哉と共にキャラハンと医師を倉庫に押し込んだ。勿論自分たちも身を潜める。
飛来したヘリも小型でハミッシュ機のあとは追わずに井戸の傍に接地した。そのヘリも軍用だったがかなりの旧式で降りてきた男ばかり三人組は辺りを見回している。彼らは小銃をスリングで担いでいて即時発射不能なのを見取った霧島は飛び出した。
「止まれ! ゆっくりと両手を挙げろ!」
凍りついたような数秒後、息まで詰めていた三人の男たちは霧島の英語を聞き取って手を挙げる。その頃には互いに事の次第が解りかけていた。霧島が訊く。
「そちらも取引に来たのか?」
「あ……ああ、そうだが」
くたびれた作業服に布を頭から巻き付けた格好はこちらと変わらず、この三人の男たちも反政府ゲリラグループで間違いないようだ。既に霧島の銃より燃える小屋を見ている。
「そのつもりだったんだが、やられたな」
安堵したキャラハンがハミッシュを呼び戻す間に霧島と京哉は銃を収めた。
「俺はアーサー、アーサー=クーンツだ。あんたはそっちのリーダーか?」
男たちの一人が霧島に訊いた。それでその男がグループのリーダーだと知れる。
「いや、私はリーダーではない。シノブ=キリシマだ。脅して悪かった」
「出会い頭に撃たれなくて良かったよ。しかしこれは酷いな。今日は珍しく処刑の放送がなかったと思ったらこんな所でジェノサイドとはやってくれる」
さすがに軍もこの仕打ちは放送しても益より害が大きいと判断したのだろう。
「後味は悪いかも知れないが、この倉庫に物資の燻製が残っている」
医師のブラックすぎるジョークに男の一人が肩を竦めてからヘリを取りに行った。入れ違いに小型ヘリを駐めたハミッシュは降機し戻ってくると、また惨状を見渡して深々と溜息をつく。
「埋葬してやりたいが、これだけの人数はとても無理だな」
「昨日の俺たちへの掃討部隊派遣といい、妙に軍の動きが活発じゃないか?」
キャラハンが言うとクーンツが目を瞬かせた。
「そっちもか? 俺たちは一昨日銃撃を受けた。仲間を五人もぶち殺してくれたよ」
そう言って悔しげな顔をした。それを見たキャラハンが唸るように訊く。
「アタックするつもりか?」
「当然だ。あいつらの弔いの花火を派手に打ち上げてやるつもりだ」
「どうせやるなら共同戦線を張る手もあるんじゃないのか?」
ふいに横から口を出した霧島の言葉を聞き、男たちが思案しながら相談を始めた。
「俺たちの狙いは第四駐屯地だ。今回は『デポ』から砲を出させて貰う」
と、クーンツ。ハミッシュは頷く。
「それは本格的だな。ならこちらも乗せて貰う方向で考えてみよう。構わないか?」
「ああ。それではあんたらも『デポ』か?」
「そちらがその気なら、こちらも合わせて得物を準備するさ」
「ならば細部は通信で詰めよう。まずは荷物優先だ」
政府軍の動きが活発というなら早く荷を積んで飛び去るのが正解だ。作業を進めながらクーンツたちと携帯ナンバー及びメアドを交換し、荷物を満載にした小型ヘリに給油すると京哉たちは再び機上の人となった。
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