砂中で咲く石Ⅰ~Barter.11~

志賀雅基

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第40話

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「全く見事な腕前だな。それと第二から第四駐屯地の陽動は今のところ問題なしだ。だが第二班と第三班で二人ずつ撃たれたらしい。作戦行動に支障はないようだ」
「そうか。最後まで気を抜くな。行くぞ」

 残り数十メートル、弧を描くように散開して敵を倒しながら進み一気に官邸までの距離を詰める。途中で本部庁舎側から突入した第二班と合流した。霧島が訊く。

「撃たれたのは?」
「バルビエとクレリー、どちらも腕をやられただけだ」

 布を裂いて腕を縛った二人はまだ銃を手放さず、やる気満々のようだった。アドレナリンが大量分泌されて体内を駆け巡り、あまり痛みも感じていないらしい。

 そうして官邸エントランス前で第三班とも落ち合う。一旦皆が下がるとRPG二射で防弾ガラス製のドアをぶち破った。全員が官邸内になだれ込む。
 中に入ると霧島が指示を出し照明を落としておいて、一番残弾が多い第二班をその場に残した。外からの攻撃に対処するためである。

 予想通り勝つにしろ、この人数で挟撃されたら損害は大きい。

「背後からの親衛隊にも気を付けろ」

 そう言い置いて霧島は京哉と二階への階段を上り始めた。お約束とばかりに踊り場の手すりの陰から銃弾が降ってくる。一瞬、前に出た霧島は手すりの間を狙って撃った。フルオートのような速射で敵の脚を砕く。男二人が声もなく斃れた。先を急ぐ。

「大統領執務室と軍司令官室は二階だったな」

 二階に辿り着くと思ったよりも反撃は少なかった。左右に分かれて飛び出しざま大統領執務室と軍司令官室前にいた護衛らを撃つ。本気の殺気に対して誰も容赦はしない。

 彼らを除けておいて執務室の開かないドアに向けレズリーが無反動砲をぶち込んだ。こなごなに吹っ飛んだドアから四人ずつ二組が執務室に飛び込む。
 反撃なしを見取り全員があとに続いたが大統領の姿は何処にも見当たらなかった。

 軍司令官室も同様でもぬけの殻である。クーンツが叫んだ。

「何処に行きやがったんだ、逃げられたのか!?」
「落ち着け、クーンツ。まだ三階の作戦司令室がある」

 まずは全員で二階の部屋という部屋をルームクリアリング、つまり敵がいないか隅から隅まで点検し安全を確認したが空っぽだった。だがこれは挟撃されないためのセオリーというだけなので皆に落胆しないよう霧島は落ち着いた低い声で告げる。

 そして今度こそ上階を目指した。ここにきて火線が激しくなった。全員で弾幕を張り、立ち塞がるものを薙ぎ倒しながら進む。味方の何人かは撃たれてうずくまった。しかしこれだけの反撃はそこに目的の人物がいると確信させるに充分だった。

 二階と同様に左右の廊下の護衛たちを倒し作戦司令室の前に全員が立つ。ここまでで脱落者は僅か三名。やはり風はこちらから吹いている。
 
 いや、煽いで風を起こしている奴は何を考えている、何が目的だと答えを渇望しながら霧島は三班の人員からショットガンを借りると作戦司令室のドアの上下の蝶番を散弾で吹き飛ばした。

 外れたドアを蹴り飛ばしてクーンツとレズリー、バイヨルが室内に躍り込む。

「誰も動くな!」

 蒼白となったダニロ=ブレッヒ大統領とセドリック=フランセ軍司令官は、椅子に腰掛けたまま動きを止めた。大統領補佐官と司令官の副官に護衛三名は凍ったように立ち尽くす。同時にショットガンを手にした霧島も身の動きを止め、京哉の無事を確認した。

 護衛を武装解除し室内にいた全員の身体検査を済ませると、クーンツらは趣味の良くないカーテンを裂いて大統領以下七名の両手首を縛り上げた。そして作戦司令室に付属した通信機器で第一だけでなく第二、第三、第四駐屯地全体に向けて放送した。

「我々反政府軍はダニロ=ブレッヒ大統領とセドリック=フランセ軍司令官を拘束した。革命は成った。これ以上の犠牲は無意味だ。武器を捨て我々に下れ」

 数度繰り返してからクーンツは大統領にマイクと銃とを突きつけた。己の城たる大統領府を落とされるとは想定外だったのがありありと分かる顔色で、力尽きたように肩を落としたダニロ=ブレッヒは鈍い動きでマイクに近づくとしぶしぶ口を開く。

「諸君、これまでだ。投降したまえ……」

 放送を終えると今度はクーンツが脱力し、のろのろと椅子に座り込んでしまった。

「おい、まだこれからが勝負だぞ?」
「分かってるんだが、夢のようでな」
「現実だ。現実にするんだ、してくれ、あんたたちで」

 残った殆どの人員はこの官邸内に潜む親衛隊の掃討に出ている。更に連絡係の持つ携帯のスピーカー機能で、続々と各陽動部隊からの状況報告がなされていた。

《第三駐屯地からの反撃が止んだわ!》
《第二、内部が沈黙した!》
《第四駐屯地、投降者多数。攻撃中止します!》
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