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第41話
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これらの通信を耳にして何を思っているのか、絨毯に直接座らされたダニロ=ブレッヒ大統領とセドリック=フランセ軍司令官は揃ってグレイの頭を垂れていて、表情は見えない。萎れたように肩を落とし、これも揃って神経質に膝を揺らしている。
こいつらがあまたの仲間や協力者たちを拷問にかけ、残虐非道な方法で殺し続けてきた張本人だと思うと八つ裂きにしてもし足りないくらいだろうが、今はそれをやってはならないのだと反政府ゲリラの皆も承知していた。
このあとには隣国ユベルが、そのバックには某大国が控えているのだ。それだけではない、最終的には国際社会の判断までが待ち受けていた。
革命の過程は武力を用いたとしても交渉の上で、自分たちがただの殺戮集団であってはならない。円卓に就くだけの価値があると認めさせた上で、できるだけ穏便に政権交代を成したい旨を表明するのだ。
牽いては貴重な砂の花を独占させず自由な輸出による富の再分配という当然の権利をこの国にもたらすことが必要なのである。
「二十三時か。この国は昼間も濃いが、夜も深いな」
窓の傍のデスクに腰を預けた霧島は冷え込む外気を透かして星空を見上げていた。
「日本国とは、いったいどんな所なんだ?」
「人がもっと多くて砂が少ない」
簡潔すぎる霧島の応えにクーンツは笑った。その笑みに霧島は訊き返してみる。
「ここではない国に生まれたかったか?」
「そうだな……いや、考えたこともなかった。そんなことを考える余地もなく『生』を自分で日々掴み取るここが、俺たちには似合っているのかも知れない」
「ああ、前にジョセが言っていたな。このプラーグの大地では『砂に削られない固い信念と誇りを持っていないと生きていけない』と」
「その通りだ。誇りなくしてはいられない、この砂の大地が俺たちの故郷なんだ」
「なるほど、そうか」
次々と官邸内のルームクリアリングを終え掃討及び投降者の捕縛をして、仲間が作戦司令室に集まりつつあった。一階に残した第二班の人員も何人かが指示を乞いに上ってきている。
上空の小型ヘリからも通信が入ってきていた。革命を成功させたはいいが誰もが成功してからの具体的なプランまでは練っていなかったらしい。
クーンツが霧島を見上げて携帯を振って見せる。
「さて。どうする、作戦本部長?」
「ここまできたら、あんたらが主導権を握るべきだろう」
「それはそうだが。じゃあ取り敢えず日が昇るまで皆を休ませたいが、いいか?」
「二時間交代で半分、いや、三分の一が立哨。ヘリでの哨戒も同様。どうだ京哉?」
「いいですよ、それで。あとヘリの給油時にも必ず護衛をつけさせて下さい」
「だそうだ、クーンツ」
第一班から第三班まで仮のリーダーを決めて集め、それぞれの持ち場を分担してしまうと、立哨当番以外の人員は官邸内の部屋を使って休むことになった。霧島と京哉の二人は作戦司令室の第一立哨だ。
隣の給湯室で熱いコーヒーと灰皿を手に入れ、並んで椅子に腰掛ける。クーンツたちは給湯室とは反対側の隣の控え室のソファで仮眠だ。
「一ノ瀬本部長にメールはしたんですか?」
「いや、まだだ。それこそ、ここまできたら見届けたいからな」
「見届けたいし、ずっと抱いてる疑問の答えも得たいんですよね?」
「まあな。お前は私の抱いている疑問自体を知っているのか?」
何気なく訊いた霧島に京哉はさらさらと答えた。
「砂の花とはいったい何なのか。もう少し平たく言えば他国では必要とされない砂の花がプラーグと某大国の間で果たしている役割について、ですよね」
それで思わず霧島は息を呑む。見開かれた灰色の目に京哉の方も驚いていた。
「えっ、僕、何か変なことを言いましたか? 全然見当違いだったとか?」
「いや、そうではない。お前は私の疑問を理解してくれていた。しかし言い方を変えただけで、ここまで恐ろしい予測が立つとは想像もしていなかった……そうか」
「独りで納得してないで、ここは教えてくれますよね?」
「ただの私の予想にすぎんが聞いてくれるか――」
静かに話を聞いた京哉は咥え煙草でコーヒーのおかわりをカップ二つに淹れてくると、今は眠っているのか俯いてピクリともしない大統領らを眺める。
「でも某大国の思惑通りに事が運んだとしても、向こうは直接軍を送り込んだりしなかった訳ですし、それって多少は国際社会の目を気にしてるんじゃないでしょうか」
「どうだろうな。内情はどうあれプラーグを独立国という体裁のまま置こうとしていると思いたい。もしそうなら新政権の担い手として認められる可能性もあるからな」
「認めなくてもは成功はしたでしょう?」
「そこなんだ。認められるまで暫定政権を維持するしかない。はっきり言えばクーンツら反政府ゲリラたちは自らを追い込み、背水の陣を敷いたのだ。暫定政権の在りようを見て国際社会も判断する。その審判が下るまでハミッシュたちは政権を維持せねばならん。今までのような強力なバックも持たずにな」
「厳しいですね。今度は誰が大統領になるんでしょうか?」
「誰であっても誇りを持った者がなるだろう……なるほど、新大統領か、ふむ」
「あ、また企んでますね。まあ、別にいいですけど」
「今回の特別任務も長くなったな。それも完遂せずに終わるが」
「作戦本部長と参謀で撃ち合う訳にいきませんしね」
微笑んだ京哉が眩しいくらいに綺麗で、霧島は誰も見ていないのを確認すると唇を奪った。最初はソフトキスのつもりだったが応えられて思わず深くなり、京哉が喘ぎ声を洩らさないギリギリのラインまで舌を差し入れ、絡めて思い切り吸い上げてから離れる。
二時間が経った頃、クーンツと男の一人が起きだしてきて交代した。
隣室で二人は寝ようとしたがレズリーとバイヨルの高低二重奏のイビキに閉口して更に隣の部屋に移る。四時間後に腕時計のアラームをセットした霧島はテーブルと椅子しかない室内を見回したのち、毛足の長い絨毯の上に直接横になって腕枕を差し出した。
「砂嵐で全身じゃりじゃりだ。床で構わんな?」
「みんないい人だけど、この砂とは早くお別れしたいですよね」
「それもこれも今日明日でケリがつくだろう」
「そうですね。ちょっと怖いけど二人で見届けましょう。おやすみなさい、忍さん」
こいつらがあまたの仲間や協力者たちを拷問にかけ、残虐非道な方法で殺し続けてきた張本人だと思うと八つ裂きにしてもし足りないくらいだろうが、今はそれをやってはならないのだと反政府ゲリラの皆も承知していた。
このあとには隣国ユベルが、そのバックには某大国が控えているのだ。それだけではない、最終的には国際社会の判断までが待ち受けていた。
革命の過程は武力を用いたとしても交渉の上で、自分たちがただの殺戮集団であってはならない。円卓に就くだけの価値があると認めさせた上で、できるだけ穏便に政権交代を成したい旨を表明するのだ。
牽いては貴重な砂の花を独占させず自由な輸出による富の再分配という当然の権利をこの国にもたらすことが必要なのである。
「二十三時か。この国は昼間も濃いが、夜も深いな」
窓の傍のデスクに腰を預けた霧島は冷え込む外気を透かして星空を見上げていた。
「日本国とは、いったいどんな所なんだ?」
「人がもっと多くて砂が少ない」
簡潔すぎる霧島の応えにクーンツは笑った。その笑みに霧島は訊き返してみる。
「ここではない国に生まれたかったか?」
「そうだな……いや、考えたこともなかった。そんなことを考える余地もなく『生』を自分で日々掴み取るここが、俺たちには似合っているのかも知れない」
「ああ、前にジョセが言っていたな。このプラーグの大地では『砂に削られない固い信念と誇りを持っていないと生きていけない』と」
「その通りだ。誇りなくしてはいられない、この砂の大地が俺たちの故郷なんだ」
「なるほど、そうか」
次々と官邸内のルームクリアリングを終え掃討及び投降者の捕縛をして、仲間が作戦司令室に集まりつつあった。一階に残した第二班の人員も何人かが指示を乞いに上ってきている。
上空の小型ヘリからも通信が入ってきていた。革命を成功させたはいいが誰もが成功してからの具体的なプランまでは練っていなかったらしい。
クーンツが霧島を見上げて携帯を振って見せる。
「さて。どうする、作戦本部長?」
「ここまできたら、あんたらが主導権を握るべきだろう」
「それはそうだが。じゃあ取り敢えず日が昇るまで皆を休ませたいが、いいか?」
「二時間交代で半分、いや、三分の一が立哨。ヘリでの哨戒も同様。どうだ京哉?」
「いいですよ、それで。あとヘリの給油時にも必ず護衛をつけさせて下さい」
「だそうだ、クーンツ」
第一班から第三班まで仮のリーダーを決めて集め、それぞれの持ち場を分担してしまうと、立哨当番以外の人員は官邸内の部屋を使って休むことになった。霧島と京哉の二人は作戦司令室の第一立哨だ。
隣の給湯室で熱いコーヒーと灰皿を手に入れ、並んで椅子に腰掛ける。クーンツたちは給湯室とは反対側の隣の控え室のソファで仮眠だ。
「一ノ瀬本部長にメールはしたんですか?」
「いや、まだだ。それこそ、ここまできたら見届けたいからな」
「見届けたいし、ずっと抱いてる疑問の答えも得たいんですよね?」
「まあな。お前は私の抱いている疑問自体を知っているのか?」
何気なく訊いた霧島に京哉はさらさらと答えた。
「砂の花とはいったい何なのか。もう少し平たく言えば他国では必要とされない砂の花がプラーグと某大国の間で果たしている役割について、ですよね」
それで思わず霧島は息を呑む。見開かれた灰色の目に京哉の方も驚いていた。
「えっ、僕、何か変なことを言いましたか? 全然見当違いだったとか?」
「いや、そうではない。お前は私の疑問を理解してくれていた。しかし言い方を変えただけで、ここまで恐ろしい予測が立つとは想像もしていなかった……そうか」
「独りで納得してないで、ここは教えてくれますよね?」
「ただの私の予想にすぎんが聞いてくれるか――」
静かに話を聞いた京哉は咥え煙草でコーヒーのおかわりをカップ二つに淹れてくると、今は眠っているのか俯いてピクリともしない大統領らを眺める。
「でも某大国の思惑通りに事が運んだとしても、向こうは直接軍を送り込んだりしなかった訳ですし、それって多少は国際社会の目を気にしてるんじゃないでしょうか」
「どうだろうな。内情はどうあれプラーグを独立国という体裁のまま置こうとしていると思いたい。もしそうなら新政権の担い手として認められる可能性もあるからな」
「認めなくてもは成功はしたでしょう?」
「そこなんだ。認められるまで暫定政権を維持するしかない。はっきり言えばクーンツら反政府ゲリラたちは自らを追い込み、背水の陣を敷いたのだ。暫定政権の在りようを見て国際社会も判断する。その審判が下るまでハミッシュたちは政権を維持せねばならん。今までのような強力なバックも持たずにな」
「厳しいですね。今度は誰が大統領になるんでしょうか?」
「誰であっても誇りを持った者がなるだろう……なるほど、新大統領か、ふむ」
「あ、また企んでますね。まあ、別にいいですけど」
「今回の特別任務も長くなったな。それも完遂せずに終わるが」
「作戦本部長と参謀で撃ち合う訳にいきませんしね」
微笑んだ京哉が眩しいくらいに綺麗で、霧島は誰も見ていないのを確認すると唇を奪った。最初はソフトキスのつもりだったが応えられて思わず深くなり、京哉が喘ぎ声を洩らさないギリギリのラインまで舌を差し入れ、絡めて思い切り吸い上げてから離れる。
二時間が経った頃、クーンツと男の一人が起きだしてきて交代した。
隣室で二人は寝ようとしたがレズリーとバイヨルの高低二重奏のイビキに閉口して更に隣の部屋に移る。四時間後に腕時計のアラームをセットした霧島はテーブルと椅子しかない室内を見回したのち、毛足の長い絨毯の上に直接横になって腕枕を差し出した。
「砂嵐で全身じゃりじゃりだ。床で構わんな?」
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