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第30話
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猛烈な砂嵐の中を三機のヘリは超低空飛行する。
視界は三メートルもない。いつ砂丘に突っ込み大破するかと霧島と京哉は意識せず呼吸を速くしていた。戦闘より心臓に悪い。
おまけに砂嵐に煽られて機体はゆらゆらと揺れ、不気味にローターが軋む。
だが身の細るような思いは数分で済み、目的地に到達した中型ヘリは滞空待機した。
右側の班に組み込まれた霧島と京哉は砂嵐が止み次第、もう一組のグレネードとRPG要員と共に飛び出して行かなければならない。反撃を許す前に撤退できればいいが、仲間が増えた分だけ機動性にやや難が発生した感があるのも否めなかった。
機内の数名の携帯が震える。上空の小型ヘリからの合図だ。
携帯を持たない者にも伝える。側面スライドドアを引き開けて真っ先に霧島が、続いて京哉が飛び出した。途端にまだ収まっていない砂嵐に息を詰まらせたが僅か数秒で唐突に風が止む。
暗い中で砂に煙る街がぼんやりと視界に映った。その入り口左側、約二百五十メートル先に何とか目標を視認。戻ってきた星明かりを頼りに地上班が走り出すと同時に上空の小型ヘリも戦闘機動でチェーンガンの唸りを上げた。
チェーンガンは軍に制空権を取らせぬよう格納庫のヘリ狙いで、旋回しては地上を掃射してゆく。その合間にドアガンの射手は実弾数発に一発混じった曳光弾と手投げ式の照明弾で、主要施設と覚しき建物の位置を地上班に知らせた。
背後から飛来した迫撃砲弾が駐屯地内に着弾、黒煙とオレンジ色の炎が上がる。
日干しレンガの塀の切れ目からこちらに銃を向けた立哨を、霧島が迷わずアサルトライフルの二射で撃ち倒した。セレクタはフルオートや三点バーストにもセットできるが敢えて単発、ガードが先に弾切れでは意味がない。
マン・ストッピングパワーの足らない小口径ライフルなのでダブルタップを京哉からアドヴァイスされていた。
その京哉は曳光弾で示された位置を見定めると、グレネードランチャーのリーフサイトで仰角を取り照準、擲弾を発射。素早く太い銃身の手前側を下げて排莢し、次弾装填すると、僅かに照準を調整し直して再度トリガを引く。
グレネードランチャーと違ってレズリーとバイヨルのRPGは直射しかできない。だが威力はこちらが上で、次々と放たれるロケット弾は見える範囲のプレハブ建築の壁を中にいる兵士もろともこなごなに吹き飛ばしてゆく。
H&K社製MP5サブマシンガン担当のオルコットも奮戦、既にワンマガジン撃ち尽くしてマグチェンジし兵を薙ぎ倒していた。
その間にも迫撃砲弾は轟音を立てて、ありとあらゆるものを粉砕していく。
「あと一発」
呟いた京哉は最後のグレネード弾を放つとランチャーのトリガを離し、バトルライフル側のトリガに指を掛け替えた。曳光弾三発で照準調整し、散発的に始まった反撃に対して霧島と共に応射し始める。そこから数秒と経たずにジョセが大声で告げた。
「ロケット弾、終わり。撤退よ!」
撃ち終えたRPG発射筒を担いだレズリーらを先に行かせ、背後でジョセとユーリンに霧島と京哉が弾幕を張りつつ後退する。左の班も同様に撤収にかかっていた。
小型ヘリのドアガンが上空から援護射撃をしてくれる中に、一旦上がっていた中型ヘリ二機が降下してくる。側面スライドドアを開け放したままのそれにランディングを待たず殆どの者が乗り込み、あとはユーリンとしんがりを受け持った霧島と京哉のみとなった。
二人はユーリンが乗るまで外で待つ。
けれどユーリンは残弾を全部バラ撒こうと更に粘った。
だがふいに声もなくユーリンが銃を取り落として砂の上に頽れる。
反射的に霧島が抱き支えて京哉も手伝いヘリに引きずり込んでみると、ユーリン自身が両手で押さえた作業服の左脇腹から血が染み出していた。血は溢れて床に広がっていく。
既にキャンプに向かって飛行し始めた中型ヘリの機内はしんと静まり返った。
「キャンプまで三時間以上……持たないかも」
みるみる白くなってゆくユーリンの顔色に、囁き声で言ったジョセが唇を噛む。
「街の病院に運びましょうよ」
京哉の片言英語に全員が溜息をつき、首を横に振った。
「あそこは軍の統括、街の人間と政府関係者御用達よ。とても無理だわ」
「旅行者として入国している私たちが何とかする。とにかく病院まで運んでくれ」
霧島も言ったがジョセたち現地組は溜息を深くするばかりである。
「どうせだめなら、わたしたちで看取ってやりたいのよ」
「看取るだと? ふざけるな、まだ生きているだろうが!」
「だってこんな……現実を見て」
「あんたと同じく見ている、だから言っているんだ! 頼む、私たちに任せてくれ」
真剣な霧島の灰色の目に折れたジョセはパイロットに告げ無線連絡を取った。砂漠に各機をランディングさせる。霧島と京哉にレズリーとオルコットで意識のないユーリンを小型ヘリのベンチシートに移動し寝かせた。鋭く霧島がハミッシュを見る。
「病院の屋上に着けてくれるだけでいい。行けるか?」
「第一駐屯地から対空砲のプレゼントがあるだろうから、少々手荒になるが」
「構わんから行ってくれ。ジョセ、あとで連絡する」
「ユーリンを頼むわ。お願い、助けて!」
「分かっているから落ち着け。そして無事に帰ってくれ」
小型ヘリはこれまでになく高度を取ると一直線に街に向かって飛翔した。ものの数分で街の上空に辿り着き、今度は蜜蜂のように8の字を描くビーパターンで徐々に降下していく。対空砲火が二度、機体を掠めた。急機動でやり過ごし何とか病院の屋上に着ける。
「あんたらも気を付けて帰ってくれ。撃ち墜とされるなよ」
「誰にもの言ってるんだ? そっちこそ捕まって処刑なんてご免だからな」
ぐったりしたユーリンを抱えた霧島は京哉と共に小型ヘリを見送り、階下に繋がるドアから病院内に足を踏み入れた。最初に目に映った階段で一階まで一気に降りる。
すると処置室のある一階はまさに戦場だった。
第四駐屯地から運ばれてきた兵士で埋め尽くされている。そのどさくさに紛れてストレッチャから兵士の死体を降ろすとユーリンを乗せた。
血だらけの白衣を着て足早に歩く男をすれ違いざまに捕まえる。
「急患だ、最優先で診てやってくれ」
疲れた顔の男は胡散臭そうに霧島と京哉を眺め、ストレッチャのユーリンと見比べてから鼻を鳴らして去ろうとする。この状況下で兵士ではないのに明らかな銃創だ。
面倒事と関わり合いたくなかったのかも知れないし、この医者なりの優先順位があるのかも知れない。
だが霧島はその肩を掴んで引き留めた。
つい今しがた兵士を撃ち斃しておいて、今度はユーリンを助けたいと主張するのは傲慢極まりない考えだと承知している。
だからといって聞き分け良く引き下がれはしない。言い訳も何もかも超えたところで、今の霧島にとっては見知らぬ兵士よりも、ヘリの中での立哨当番中にコーヒーの差し入れを持ってきてくれて、二人のキスを見て頬を染めていたユーリンの方が大事だったのだ。
男の血だらけの白衣の胸ぐらを掴んで霧島は低い声で迫った。
「院長を呼んで貰おうか」
「忙しいんだ、与太は止めてくれ」
「ならば、さっさと院長を呼んで来い!」
霧島の醸す異様に剣呑な雰囲気にビビった男は院長のマクフォール大佐に携帯連絡し、電話を替わった霧島から直接、『国連査察団先遣隊員』の身分証がここに二枚存在する事実と、その知人が流れ弾で重体だと告げられたマクフォール大佐はすっ飛んできた。
無事にユーリンは緊急手術を受けることができた。
視界は三メートルもない。いつ砂丘に突っ込み大破するかと霧島と京哉は意識せず呼吸を速くしていた。戦闘より心臓に悪い。
おまけに砂嵐に煽られて機体はゆらゆらと揺れ、不気味にローターが軋む。
だが身の細るような思いは数分で済み、目的地に到達した中型ヘリは滞空待機した。
右側の班に組み込まれた霧島と京哉は砂嵐が止み次第、もう一組のグレネードとRPG要員と共に飛び出して行かなければならない。反撃を許す前に撤退できればいいが、仲間が増えた分だけ機動性にやや難が発生した感があるのも否めなかった。
機内の数名の携帯が震える。上空の小型ヘリからの合図だ。
携帯を持たない者にも伝える。側面スライドドアを引き開けて真っ先に霧島が、続いて京哉が飛び出した。途端にまだ収まっていない砂嵐に息を詰まらせたが僅か数秒で唐突に風が止む。
暗い中で砂に煙る街がぼんやりと視界に映った。その入り口左側、約二百五十メートル先に何とか目標を視認。戻ってきた星明かりを頼りに地上班が走り出すと同時に上空の小型ヘリも戦闘機動でチェーンガンの唸りを上げた。
チェーンガンは軍に制空権を取らせぬよう格納庫のヘリ狙いで、旋回しては地上を掃射してゆく。その合間にドアガンの射手は実弾数発に一発混じった曳光弾と手投げ式の照明弾で、主要施設と覚しき建物の位置を地上班に知らせた。
背後から飛来した迫撃砲弾が駐屯地内に着弾、黒煙とオレンジ色の炎が上がる。
日干しレンガの塀の切れ目からこちらに銃を向けた立哨を、霧島が迷わずアサルトライフルの二射で撃ち倒した。セレクタはフルオートや三点バーストにもセットできるが敢えて単発、ガードが先に弾切れでは意味がない。
マン・ストッピングパワーの足らない小口径ライフルなのでダブルタップを京哉からアドヴァイスされていた。
その京哉は曳光弾で示された位置を見定めると、グレネードランチャーのリーフサイトで仰角を取り照準、擲弾を発射。素早く太い銃身の手前側を下げて排莢し、次弾装填すると、僅かに照準を調整し直して再度トリガを引く。
グレネードランチャーと違ってレズリーとバイヨルのRPGは直射しかできない。だが威力はこちらが上で、次々と放たれるロケット弾は見える範囲のプレハブ建築の壁を中にいる兵士もろともこなごなに吹き飛ばしてゆく。
H&K社製MP5サブマシンガン担当のオルコットも奮戦、既にワンマガジン撃ち尽くしてマグチェンジし兵を薙ぎ倒していた。
その間にも迫撃砲弾は轟音を立てて、ありとあらゆるものを粉砕していく。
「あと一発」
呟いた京哉は最後のグレネード弾を放つとランチャーのトリガを離し、バトルライフル側のトリガに指を掛け替えた。曳光弾三発で照準調整し、散発的に始まった反撃に対して霧島と共に応射し始める。そこから数秒と経たずにジョセが大声で告げた。
「ロケット弾、終わり。撤退よ!」
撃ち終えたRPG発射筒を担いだレズリーらを先に行かせ、背後でジョセとユーリンに霧島と京哉が弾幕を張りつつ後退する。左の班も同様に撤収にかかっていた。
小型ヘリのドアガンが上空から援護射撃をしてくれる中に、一旦上がっていた中型ヘリ二機が降下してくる。側面スライドドアを開け放したままのそれにランディングを待たず殆どの者が乗り込み、あとはユーリンとしんがりを受け持った霧島と京哉のみとなった。
二人はユーリンが乗るまで外で待つ。
けれどユーリンは残弾を全部バラ撒こうと更に粘った。
だがふいに声もなくユーリンが銃を取り落として砂の上に頽れる。
反射的に霧島が抱き支えて京哉も手伝いヘリに引きずり込んでみると、ユーリン自身が両手で押さえた作業服の左脇腹から血が染み出していた。血は溢れて床に広がっていく。
既にキャンプに向かって飛行し始めた中型ヘリの機内はしんと静まり返った。
「キャンプまで三時間以上……持たないかも」
みるみる白くなってゆくユーリンの顔色に、囁き声で言ったジョセが唇を噛む。
「街の病院に運びましょうよ」
京哉の片言英語に全員が溜息をつき、首を横に振った。
「あそこは軍の統括、街の人間と政府関係者御用達よ。とても無理だわ」
「旅行者として入国している私たちが何とかする。とにかく病院まで運んでくれ」
霧島も言ったがジョセたち現地組は溜息を深くするばかりである。
「どうせだめなら、わたしたちで看取ってやりたいのよ」
「看取るだと? ふざけるな、まだ生きているだろうが!」
「だってこんな……現実を見て」
「あんたと同じく見ている、だから言っているんだ! 頼む、私たちに任せてくれ」
真剣な霧島の灰色の目に折れたジョセはパイロットに告げ無線連絡を取った。砂漠に各機をランディングさせる。霧島と京哉にレズリーとオルコットで意識のないユーリンを小型ヘリのベンチシートに移動し寝かせた。鋭く霧島がハミッシュを見る。
「病院の屋上に着けてくれるだけでいい。行けるか?」
「第一駐屯地から対空砲のプレゼントがあるだろうから、少々手荒になるが」
「構わんから行ってくれ。ジョセ、あとで連絡する」
「ユーリンを頼むわ。お願い、助けて!」
「分かっているから落ち着け。そして無事に帰ってくれ」
小型ヘリはこれまでになく高度を取ると一直線に街に向かって飛翔した。ものの数分で街の上空に辿り着き、今度は蜜蜂のように8の字を描くビーパターンで徐々に降下していく。対空砲火が二度、機体を掠めた。急機動でやり過ごし何とか病院の屋上に着ける。
「あんたらも気を付けて帰ってくれ。撃ち墜とされるなよ」
「誰にもの言ってるんだ? そっちこそ捕まって処刑なんてご免だからな」
ぐったりしたユーリンを抱えた霧島は京哉と共に小型ヘリを見送り、階下に繋がるドアから病院内に足を踏み入れた。最初に目に映った階段で一階まで一気に降りる。
すると処置室のある一階はまさに戦場だった。
第四駐屯地から運ばれてきた兵士で埋め尽くされている。そのどさくさに紛れてストレッチャから兵士の死体を降ろすとユーリンを乗せた。
血だらけの白衣を着て足早に歩く男をすれ違いざまに捕まえる。
「急患だ、最優先で診てやってくれ」
疲れた顔の男は胡散臭そうに霧島と京哉を眺め、ストレッチャのユーリンと見比べてから鼻を鳴らして去ろうとする。この状況下で兵士ではないのに明らかな銃創だ。
面倒事と関わり合いたくなかったのかも知れないし、この医者なりの優先順位があるのかも知れない。
だが霧島はその肩を掴んで引き留めた。
つい今しがた兵士を撃ち斃しておいて、今度はユーリンを助けたいと主張するのは傲慢極まりない考えだと承知している。
だからといって聞き分け良く引き下がれはしない。言い訳も何もかも超えたところで、今の霧島にとっては見知らぬ兵士よりも、ヘリの中での立哨当番中にコーヒーの差し入れを持ってきてくれて、二人のキスを見て頬を染めていたユーリンの方が大事だったのだ。
男の血だらけの白衣の胸ぐらを掴んで霧島は低い声で迫った。
「院長を呼んで貰おうか」
「忙しいんだ、与太は止めてくれ」
「ならば、さっさと院長を呼んで来い!」
霧島の醸す異様に剣呑な雰囲気にビビった男は院長のマクフォール大佐に携帯連絡し、電話を替わった霧島から直接、『国連査察団先遣隊員』の身分証がここに二枚存在する事実と、その知人が流れ弾で重体だと告げられたマクフォール大佐はすっ飛んできた。
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