小さなお嬢様が繋ぐ、エリート医師とのお隣生活 

ささきさき

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31:互いの想いを

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 夕食を済ませてボードゲームで遊び、乃蒼が先に寝るために自室へと向かっていった。
 武流にぎゅっと抱き着いて「お父様、おやすみなさい」と告げる姿と言葉の可愛さと言ったらない。

 そうして二人きりになり、ソファに移動して並んで座る。
 今日のことを思い出して良かったと安堵すれば、武流が改めるように感謝の言葉を口にしてきた。

「乃蒼を見つけられたのは凪咲さんのおかげです。乃蒼が施設に向かった事に気付いていなかったらどうなっていたか……。本当にありがとうございました」
「そんなに改まらないでください。私はただ自分の昔のことを思い出して、もしかしたらと思っただけです」
「それだけじゃない、凪咲さんが居てくれたから俺も落ち着いて乃蒼を探すことが出来たんです。乃蒼を見つけた後も直ぐに連絡をしてくれて助かりました」

 まっすぐに見つめて感謝を告げてくる武流に、凪咲は照れ臭さを覚えてしまった。
 確かに乃蒼を見つけるのに一役買った。だが常に冷静に考えて対応したわけではなく、焦る気持ちを必死で押さえ、そして過去の自分と重ねただけだ。
 そこまでの事では、と謙遜するも武流は止まらず、そのうえ凪咲の手を握ってきた。彼の色濃い瞳がじっと凪咲を見つめる。

「凪咲さん……、病院で乃蒼が言ったことを覚えていますか」
「病院でって、それは……」

 武流が言わんとしている事は、乃蒼が凪咲に告げた言葉のことだろう。
『武流お父様と結婚して乃蒼のお母様になってくれるのね!!』と、乃蒼は瞳を輝かせて凪咲を見上げて告げてきた。あの時の乃蒼の声も、期待に輝いた瞳も覚えている。……それと、言われた時にドキリとしてしまった事も。

「あ、あれは……、乃蒼ちゃん、きっと武流さんがお父さんになってくれて嬉しかったんですね」

 緊張と気まずさと早くなる鼓動を押さえるために笑って誤魔化す。
 だが武流はいまだ真剣みを帯びた瞳で凪咲を見つめ、そのうえ落ち着いた声で呼んできた。
 普段と変わらぬ穏やかな声。それでいて空気が少しだけ張り詰めたような、凪咲の体にゆっくりと纏わりつき動きを制するような言い知れぬ雰囲気がある。

 彼の声に、纏う空気に、元より早鐘を打っていた凪咲の鼓動が更に加速する。
 緊張するあまり「はい」と返す声が少し裏返ってしまった。

「乃蒼は凪咲さんに母親になって欲しいと思っています。俺も同じ気持ちです」
「武流さん……」
「だけどそれは乃蒼のためだけじゃない。凪咲さん、貴女のことが好きです。愛しています」

 武流がはっきりと愛の言葉を告げてくる。穏やかな声色、だが真剣味を帯びており、彼の心からの言葉だと分かる。
 凪咲は自分の心臓が暴れるくらいに鼓動を速めるのを感じていた。体の中で心音が響く。顔が熱い。肌を重ねる時と同じくらい、否、あの時は快感に翻弄されるからそれ以上に緊張と熱が高まっていく。

「もっと早く伝えるべきでした。それなのに、俺はこの関係が壊れるかもしれないと考えると怖くて、受け入れてもらっている状況に甘えていました。順番はおかしくなってしまったけれど、どうか結婚を前提に俺と付き合ってください」

 武流の言葉は直球で、まるで彼の胸から凪咲の胸に直接流し込んでいるかのように熱い。
 この言葉に対して笑って誤魔化すことなど出来るわけがなく、凪咲は声が震えそうになるのをぐっと堪えて口を開いた。

「わ、私も、武流さんの事が好きです。乃蒼ちゃんのことも大好きだし、母親になりたい。それと同じくらいに武流さんが好きで、だから結婚してほしいです」

 自分の胸の内を言葉にする。少したどたどしくなってしまうが、それでも「好き」という気持ちははっきりしている。

 武流のことが好きだ。
 幼くして両親を亡くした乃蒼を引き取る責任感、乃蒼のために慣れぬ子育てと仕事を両立させようとする真面目さ。
 乃蒼を見つめる時の優しい瞳、話しかける暖かく優しい声、見ているだけで愛が伝わってくる。

 そんな武流のことを気付けば愛していた。
 いつからかは分からない。だけどきっと、だいぶ早い時期から彼のことを想っていた。

「凪咲さん、愛してます」
「私も……」

 改めて告げられる愛の言葉。それと同時に武流の手がそっと頬に触れてくる。
 彼の色濃い瞳がゆっくりと細められるのを見て、凪咲もまた目を瞑って応えた。

 柔らかく軽いキス。
 密事の最中のような深さや快感はないが、心が緩やかに温められるような心地良さがある。
 その感覚に凪咲はうっとりと酔いしれ……、

「チューしてる!!」

 という声に、ぎょっとして慌てて身を引いた。

 見ればリビングの入り口に乃蒼が立っている。ピンク色のパジャマを纏った乃蒼はあんぐりと口を開けており、もう一度「チューしてた!」と声をあげた。
 しまった、見られた、と凪咲の中で危機感が増す。先程の暖かさは冷や水を被せられたかのように一瞬で引いていった。
 武流も同様、見て分かるほどに「しまった」と言いたげな表情をしていた。

「の、乃蒼、これは……」
「武流お父様と凪咲お姉様がチューしてた!」
「そ、それはそうなんだけど、とりあえず夜遅いから声は小さめにな。そもそも、どうして起きて来たんだ?」
「おトイレ! でも武流お父様と凪咲お姉様がチューしてた!」

 寝ていたがトイレのために起き、リビングに明かりがついていることに気付いて覗いたのだという。
 そこで武流と凪咲がキスをしているのを見て驚いて声をあげた……と。
 ちょこちょこと近付きながら話す乃蒼に対して、凪咲と武流はなんと説明していいのか分からなくなってしまう。「これは」だの「えっと」だのと二人揃えて的を得ない言葉しか紡げない。
 だがそんな二人を他所に、乃蒼は二人を交互に見やったのち「チューしたってことは……」と考えを巡らせはじめた。

「……武流お父様と凪咲お姉様の間に赤ちゃんができるのね」

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