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第二章 新たなる力と仲間
33.最も危険な土地
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33.最も危険な土地
俺たちはようやく、ガウールへと到着した。
「全員が無事に到着するなんて、何年振りのことだろう」
後ろについてきていた商隊の誰かがつぶやく。
そして彼らは口々にお礼を言いながら去って行った。
すべての商隊が無事に入村できたことを確認し、
俺たちもロンデルシア国王の別荘に向かった。
連絡に使用した鳥は妖鳥に襲われることなく
ちゃんと到着したらしい。
俺たちが来ることはちゃんとこちらに伝わっていた。
「ご挨拶させていただきます」
出迎えてくれた執事が、皆を集めて頭を下げた。
ここには年老いた執事と、その妻らしいメイド頭。
従僕はおらず、門番も兼ねていた下男が1人。
後は料理人とメイドの女性2人だ。
「庭師や力仕事はその都度、村の人に依頼しております」
これでまかなえてしまうのだから、
王族の別荘としてはかなり小さいものだと言えよう。
まあ、俺たちのアジトとしては過ぎるくらいだ。
「よろしく頼むな」
俺たちは挨拶し、簡単な自己紹介をすませる。
別荘は二階建てでL字型をしていた。
俺はメインルームに案内され
ジェラルドはその横にある近衛兵のための部屋。
エリザベートは賓客のための部屋で、
フィオナはその隣の客室だ。
それぞれが風呂に入り、
軽装に着替え食堂に集まる。
「気持ちばかりのものでございますが」
そういって提供されたのは、
焼きたてのパンと野菜がたくさん入ったスープ。
それにこんがり焼かれたジューシーなチキンと
新鮮なサラダが並んでいる。
シンプルだが、ものすごく美味しかった。
「この料理だけで充分に、
ガウールが食材に恵まれた土地だとわかるな」
俺が旨味の強い鶏肉をフォークで刺して言うと
「野菜が何もつけなくても美味しいわ」
と嬉しそうにエリザベートがサラダを食す。
充分に満たされ、俺たちはそれぞれの部屋へ戻り、
久々のベッドで眠った。
そうして、ガウールでの生活が始まったのだ。
************
朝起きて、ぼーっとしたまま、
なんとなく外を見て驚いた。
そこにはエメラルドグリーンとブルーの濃淡で彩られた
とんでもなく美しい海が広がっていたのだ。
俺はベランダに飛び出て叫ぶ。
「すごいな、絶景じゃないか!」
「本当ですよ。こんなに綺麗な海は初めて見ました」
横のベランダで、ジェラルドが笑っていた。
彼も起きてすぐにこの光景を目にし、
ベランダに飛び出したんだそうだ。
「到着は夜だったから気が付かなかったなあ」
清々しい気分のまま朝食を取り、
やる気に満ちた俺たちは作戦会議を始める。
「まずは近隣で狩り放題だな!」
俺がそう言うと、ジェラルドは緑板を見ながら笑う。
「しかも魔獣の宝庫ですよ。
ありとあらゆるモンスターに会えます」
「忌むべき魔獣は宝ではありません!」
フィオナがそう言って口をへの字にする。
エリザベートも厳しい顔でうなずく。
「そうよ。モンスターを狩るゲーム気分では困るわ」
「そうだよな」
「すみません、つい」
反省する俺たちに、フィオナはさらに強い調子で言う。
「すぐ目的を忘れてしまうんですね?!
いいですか? 私たちがここに来たのは!」
そういって立ち上がり、こぶしをあげた。
「羊とヤギと牛と猫と犬と鶏を飼って、
お魚釣って、果物を育てて、
醤油と味噌の製造をすることです!」
ソファーに座っていたエリザベートが
コテン! と真横に倒れた。
俺とジェラルドもガクッと力が抜ける。
……いや、こいつ、本当にブレないな。
「モンスター狩りじゃなくて、
飛び出したり集まったりする森のほうかよ」
俺がそう言うと、フィオナは素直にうなずき、
エリザベートも肩をすくめて笑っている。
呆れた顔のジェラルドの肩を叩き、
俺は苦笑いで立ち上がる。
「どちらにせよ、外に出ようぜ。
これはゲームじゃなくてリアルだからな」
************
俺たちはそのまま美しい海に向かう。
翡翠を溶かしたような温かいエメラルドグリーンと
クリアなブルーが混ざり合い、波も穏やかだ。
砂浜も真っ白で、ゴミ1つ落ちていない。
最初は足だけ、そう思っていたが、
水をかけあううち、ザブンと勢いよく潜ったり
すっかり海を楽しみ、意味もなく大笑いしていた。
異世界に来て初めて味わう、解放感と多幸感だった。
「お兄ちゃんたち誰?」
背後で声がしたので振り返ると、
そこには幼い兄妹の子どもが、
不思議そうにこちらを見ていた。
「あ! 記念すべき第一村人発見ですね!」
フィオナが嬉しそうに、子どもたちに手を振った。
ジェラルドが子どもの前でかがみ込んで挨拶する。
「君たちはこの村の子だね。
僕たちは昨日の晩、商隊と一緒にここに来たんだ。
このあたりの魔獣を倒すためにね」
誰に対しても誠実な彼は、子どもたちにも丁寧に説明する。
兄の方は”あ!”という顔で驚き、
「そう言えば、お父さんが言ってた!
全員が無事に村に着いたのは2年ぶりだって!
守ってくれた兵士って、お兄さんのこと?」
ジェラルドが何か言う前に、俺が答える。
「そうだよ、このお兄さんだよ」
この世界すべての”騎士の称号”をジェラルドが得るために、
俺は未来の有権者へのアピールも欠かさない。
「うわあ、すっげー!」
「魔獣が減ったら、お医者さんも増えるかな」
妹の方も嬉しそうな声をあげる。
そういやあの強欲商人クピダスも言っていたな。
”ガウールは医者不足の薬不足”だって。
「ここのお医者さん、そんなに大変そう?」
フィオナが心配そうに尋ねると、
兄の方は怒った顔で吐き捨てるように言う。
「全然! マーサおばさんに診てもらうくらいなら
みんな薬草に頼るからね!」
思っていた状況とは違い、俺はとまどう。
思い出したように、ジェラルドが俺に向いて言った。
「そういやクピダス氏は火傷を負ってましたよね?
病院に行ったのでは?」
あ、あいつ。そういやここに駐在する憲兵に
クピダスをつきださないと。
逃げ出す心配はないから放置してたが、
アイツがやったことは犯罪だからな。
俺は兄と妹に頼んだ。
「その病院に案内してくれないか?」
そして近くの井戸で水を浴びて塩水を流した後、
エリザベートに魔法で服を乾かしてもらう。
その一連を兄妹は目を輝かせてみていた。
そして妹が期待しながら尋ねてくる。
「病気は治せないの?」
俺が言いかける前に、フィオナが叫ぶ。
「病気はねー、難しいかなぁー!」
「ふーん」
フィオナの悲し気な目を見て、俺は気が付いた。
彼女は自分の力の弱さを、とても悩み苦しんできた。
もし過剰に期待され、頼られてしまったら、
とてもじゃないが応えられない、そう思ったのだろう。
聖女として祀り上げられ、過大な期待と、
疑惑をかけられる重圧に苦しんできた彼女。
フィオナの今後について考えながら歩いていたら。
「う、うるさい! だから金は払うと」
あ、クピダスの声だ、と思ったら。
「金? お金なんて十分にありますから。
貴方に必要なのは礼儀でしょう?
それから治療してもらえるという感謝の気持ち!
あとそれを行う私に対する尊敬の念もね!」
甲高い女の声がまくし立てて叫ぶ。
角を曲がりのぞいて見ると、
そこにはクピダスとその従者が門前で立たされており、
家の扉の前で中年の女が、
彼らを見下しながら仁王立ちしていた。
「良い? 私はこの村の唯一の医者よ?
誰よりも偉くて、貴重な存在なの、お分かり?
知識も技術も、お金だって充分にあるのよ!
お金しかない貴方のような人に比べたら
ずっと立場が上に決まってるでしょう!」
また、とんでもないのが現れたな。
ぼうぜんと見ている俺に、フィオナがささやく。
「本当にモンスターの宝庫なんですね、この周辺って」
俺たちは動物園で珍しい生き物を見るような目で見てしまう。
しかし不快さは少なかった。
宮廷なぞ上品で優し気な会話の陰で
権謀術数が渦巻いている場所だったしな。
「あそこまでハッキリと攻撃的だなんて
むしろありがたく思っちゃいますね」
フィオナが目を細めて言う。
「不意を突かれることも、
裏切りを感じさせることもないですからね」
ジェラルドもうなずく。
「何を見てるのよ!」
俺たちの生暖かい視線に気が付いたらしく、
マーサはキッ! とこちらに顔を向けて大声を出した。
「これは失礼しました。
我々はシュニエンダールより魔獣の討伐に参りました。
何卒宜しくお願い……」
ジェラルドが挨拶しかけるが、
医者は横目で見ながら片手でさえぎって叫ぶ。
「ああ、あの嘘だらけの国ね?
まあ見るからに弱そうじゃない。
魔獣退治っていうのも嘘なんじゃない?」
そういって口の端をゆがめて笑う。
俺たちが一番、あの国が嘘つきだと知っているので、
4人全員ムカつくどころか、
”わかってるねキミ☆”といった親近感溢れる笑顔を浮かべる。
クピダスの従者だけが焦ったように、
「と、とんでもない! この方たちは本当に強くて、
たくさんの魔物を倒してくれたのです!
2年ぶりですよ? 全員無事に着いたのは!」
と、マーサに向かって反論してくれる。
それを聞いた彼女はフン! と鼻で笑い
「それで今回、うちに来た患者は
礼儀を知らない肥満体だけなのね。
いつもはもっと儲かるのに、商売あがったりだわ!」
おいおい、さっきは”金なら充分にある”って言ってたじゃないか。
思考が取っ散らかっているところを見ると
何か精神的な悩みや問題を抱えているのかもしれない。
クピダスがそれを聞き、財布を取り出して言う。
「いつもの儲け分くらい払ってやるから、さっさと診ろ!」
マーサは一瞬ムッとしたが、黙って家に戻っていく。
そしてドアを開けたままにしてクピダスに言った。
「……さっさとお入りなさい!」
ブツブツ文句を言いながら入っていくクピダスと従者。
それを見ながら、案内してくれた兄妹があきれ顔で言う。
「あーあ。マーサおばさんは、診てもらってからが大変なのに」
「ずーっと言われるの。”ありがとうは?”って何回も。
全然放してくれなくて、おうちに帰れないの」
とんでもない承認欲求だが、何がそんなに不満なんだろう。
「薬屋さんは? 優しいの?」
エリザベートの問いに、
兄弟は見事なシンクロを見せて首を横に振った。
「いつも暗いんだ。何も言わずにお薬を出してくる」
うーん、こっちも問題あり、か。
考え込む俺たちに、兄妹はさらに衝撃的な事を言う。
「まあ、牧場のマイクおじさんよりマシだよね。
殴りかかってこないだけでも」
「えー、私は漁師のジャンのほうがコワイ~
一日中お酒飲んで、ずっと独り言で怒鳴ってるんだもん」
「そんなの、ピート兄ちゃんがブツブツ言いながら
トマトを握りつぶしてるほうがゾッとするだろ」
あっけにとられ声も出ない俺たちの前で、
兄弟はこの村の人々の暗黒面を
子どもの無邪気さ丸出しに、延々と披露していく。
「……嘘でしょ! 見て!」
エリザベートが突然、緑板を片手につぶやく。
俺たちはいっせいにそれを覗き込む。
そこにはかつて、俺たちの悲惨な末路が書かれていた。
しかし”勇者”というキーワードが出たとたん、
全て消失した、はずだったのだが。
「あらすじが……また変わってるの!」
俺たちは新しく浮き出たあらすじを目で追った。
”勇者の息子レオナルドは、
暗黒の魔女と聖女、
そして護衛の兵士とともに、
閉ざされた村ガウールに魔獣退治のため訪れた。
しかしそこは呪われた地であった。
人々は苦しみを抱え、嘆き、憂いている。
そしてレオナルドたちもその憤怒と悲嘆に巻き込まれ
あえなくその命をガウールに捧げることとなった”
黙り込む4人。
さっきまで輝いていた風景が、
なんだか空々しい作り物に思えてくる。
そして俺たちはこの村が
綺麗で豊かなだけではない、
ということを思い知ることになるのだ。
俺たちはようやく、ガウールへと到着した。
「全員が無事に到着するなんて、何年振りのことだろう」
後ろについてきていた商隊の誰かがつぶやく。
そして彼らは口々にお礼を言いながら去って行った。
すべての商隊が無事に入村できたことを確認し、
俺たちもロンデルシア国王の別荘に向かった。
連絡に使用した鳥は妖鳥に襲われることなく
ちゃんと到着したらしい。
俺たちが来ることはちゃんとこちらに伝わっていた。
「ご挨拶させていただきます」
出迎えてくれた執事が、皆を集めて頭を下げた。
ここには年老いた執事と、その妻らしいメイド頭。
従僕はおらず、門番も兼ねていた下男が1人。
後は料理人とメイドの女性2人だ。
「庭師や力仕事はその都度、村の人に依頼しております」
これでまかなえてしまうのだから、
王族の別荘としてはかなり小さいものだと言えよう。
まあ、俺たちのアジトとしては過ぎるくらいだ。
「よろしく頼むな」
俺たちは挨拶し、簡単な自己紹介をすませる。
別荘は二階建てでL字型をしていた。
俺はメインルームに案内され
ジェラルドはその横にある近衛兵のための部屋。
エリザベートは賓客のための部屋で、
フィオナはその隣の客室だ。
それぞれが風呂に入り、
軽装に着替え食堂に集まる。
「気持ちばかりのものでございますが」
そういって提供されたのは、
焼きたてのパンと野菜がたくさん入ったスープ。
それにこんがり焼かれたジューシーなチキンと
新鮮なサラダが並んでいる。
シンプルだが、ものすごく美味しかった。
「この料理だけで充分に、
ガウールが食材に恵まれた土地だとわかるな」
俺が旨味の強い鶏肉をフォークで刺して言うと
「野菜が何もつけなくても美味しいわ」
と嬉しそうにエリザベートがサラダを食す。
充分に満たされ、俺たちはそれぞれの部屋へ戻り、
久々のベッドで眠った。
そうして、ガウールでの生活が始まったのだ。
************
朝起きて、ぼーっとしたまま、
なんとなく外を見て驚いた。
そこにはエメラルドグリーンとブルーの濃淡で彩られた
とんでもなく美しい海が広がっていたのだ。
俺はベランダに飛び出て叫ぶ。
「すごいな、絶景じゃないか!」
「本当ですよ。こんなに綺麗な海は初めて見ました」
横のベランダで、ジェラルドが笑っていた。
彼も起きてすぐにこの光景を目にし、
ベランダに飛び出したんだそうだ。
「到着は夜だったから気が付かなかったなあ」
清々しい気分のまま朝食を取り、
やる気に満ちた俺たちは作戦会議を始める。
「まずは近隣で狩り放題だな!」
俺がそう言うと、ジェラルドは緑板を見ながら笑う。
「しかも魔獣の宝庫ですよ。
ありとあらゆるモンスターに会えます」
「忌むべき魔獣は宝ではありません!」
フィオナがそう言って口をへの字にする。
エリザベートも厳しい顔でうなずく。
「そうよ。モンスターを狩るゲーム気分では困るわ」
「そうだよな」
「すみません、つい」
反省する俺たちに、フィオナはさらに強い調子で言う。
「すぐ目的を忘れてしまうんですね?!
いいですか? 私たちがここに来たのは!」
そういって立ち上がり、こぶしをあげた。
「羊とヤギと牛と猫と犬と鶏を飼って、
お魚釣って、果物を育てて、
醤油と味噌の製造をすることです!」
ソファーに座っていたエリザベートが
コテン! と真横に倒れた。
俺とジェラルドもガクッと力が抜ける。
……いや、こいつ、本当にブレないな。
「モンスター狩りじゃなくて、
飛び出したり集まったりする森のほうかよ」
俺がそう言うと、フィオナは素直にうなずき、
エリザベートも肩をすくめて笑っている。
呆れた顔のジェラルドの肩を叩き、
俺は苦笑いで立ち上がる。
「どちらにせよ、外に出ようぜ。
これはゲームじゃなくてリアルだからな」
************
俺たちはそのまま美しい海に向かう。
翡翠を溶かしたような温かいエメラルドグリーンと
クリアなブルーが混ざり合い、波も穏やかだ。
砂浜も真っ白で、ゴミ1つ落ちていない。
最初は足だけ、そう思っていたが、
水をかけあううち、ザブンと勢いよく潜ったり
すっかり海を楽しみ、意味もなく大笑いしていた。
異世界に来て初めて味わう、解放感と多幸感だった。
「お兄ちゃんたち誰?」
背後で声がしたので振り返ると、
そこには幼い兄妹の子どもが、
不思議そうにこちらを見ていた。
「あ! 記念すべき第一村人発見ですね!」
フィオナが嬉しそうに、子どもたちに手を振った。
ジェラルドが子どもの前でかがみ込んで挨拶する。
「君たちはこの村の子だね。
僕たちは昨日の晩、商隊と一緒にここに来たんだ。
このあたりの魔獣を倒すためにね」
誰に対しても誠実な彼は、子どもたちにも丁寧に説明する。
兄の方は”あ!”という顔で驚き、
「そう言えば、お父さんが言ってた!
全員が無事に村に着いたのは2年ぶりだって!
守ってくれた兵士って、お兄さんのこと?」
ジェラルドが何か言う前に、俺が答える。
「そうだよ、このお兄さんだよ」
この世界すべての”騎士の称号”をジェラルドが得るために、
俺は未来の有権者へのアピールも欠かさない。
「うわあ、すっげー!」
「魔獣が減ったら、お医者さんも増えるかな」
妹の方も嬉しそうな声をあげる。
そういやあの強欲商人クピダスも言っていたな。
”ガウールは医者不足の薬不足”だって。
「ここのお医者さん、そんなに大変そう?」
フィオナが心配そうに尋ねると、
兄の方は怒った顔で吐き捨てるように言う。
「全然! マーサおばさんに診てもらうくらいなら
みんな薬草に頼るからね!」
思っていた状況とは違い、俺はとまどう。
思い出したように、ジェラルドが俺に向いて言った。
「そういやクピダス氏は火傷を負ってましたよね?
病院に行ったのでは?」
あ、あいつ。そういやここに駐在する憲兵に
クピダスをつきださないと。
逃げ出す心配はないから放置してたが、
アイツがやったことは犯罪だからな。
俺は兄と妹に頼んだ。
「その病院に案内してくれないか?」
そして近くの井戸で水を浴びて塩水を流した後、
エリザベートに魔法で服を乾かしてもらう。
その一連を兄妹は目を輝かせてみていた。
そして妹が期待しながら尋ねてくる。
「病気は治せないの?」
俺が言いかける前に、フィオナが叫ぶ。
「病気はねー、難しいかなぁー!」
「ふーん」
フィオナの悲し気な目を見て、俺は気が付いた。
彼女は自分の力の弱さを、とても悩み苦しんできた。
もし過剰に期待され、頼られてしまったら、
とてもじゃないが応えられない、そう思ったのだろう。
聖女として祀り上げられ、過大な期待と、
疑惑をかけられる重圧に苦しんできた彼女。
フィオナの今後について考えながら歩いていたら。
「う、うるさい! だから金は払うと」
あ、クピダスの声だ、と思ったら。
「金? お金なんて十分にありますから。
貴方に必要なのは礼儀でしょう?
それから治療してもらえるという感謝の気持ち!
あとそれを行う私に対する尊敬の念もね!」
甲高い女の声がまくし立てて叫ぶ。
角を曲がりのぞいて見ると、
そこにはクピダスとその従者が門前で立たされており、
家の扉の前で中年の女が、
彼らを見下しながら仁王立ちしていた。
「良い? 私はこの村の唯一の医者よ?
誰よりも偉くて、貴重な存在なの、お分かり?
知識も技術も、お金だって充分にあるのよ!
お金しかない貴方のような人に比べたら
ずっと立場が上に決まってるでしょう!」
また、とんでもないのが現れたな。
ぼうぜんと見ている俺に、フィオナがささやく。
「本当にモンスターの宝庫なんですね、この周辺って」
俺たちは動物園で珍しい生き物を見るような目で見てしまう。
しかし不快さは少なかった。
宮廷なぞ上品で優し気な会話の陰で
権謀術数が渦巻いている場所だったしな。
「あそこまでハッキリと攻撃的だなんて
むしろありがたく思っちゃいますね」
フィオナが目を細めて言う。
「不意を突かれることも、
裏切りを感じさせることもないですからね」
ジェラルドもうなずく。
「何を見てるのよ!」
俺たちの生暖かい視線に気が付いたらしく、
マーサはキッ! とこちらに顔を向けて大声を出した。
「これは失礼しました。
我々はシュニエンダールより魔獣の討伐に参りました。
何卒宜しくお願い……」
ジェラルドが挨拶しかけるが、
医者は横目で見ながら片手でさえぎって叫ぶ。
「ああ、あの嘘だらけの国ね?
まあ見るからに弱そうじゃない。
魔獣退治っていうのも嘘なんじゃない?」
そういって口の端をゆがめて笑う。
俺たちが一番、あの国が嘘つきだと知っているので、
4人全員ムカつくどころか、
”わかってるねキミ☆”といった親近感溢れる笑顔を浮かべる。
クピダスの従者だけが焦ったように、
「と、とんでもない! この方たちは本当に強くて、
たくさんの魔物を倒してくれたのです!
2年ぶりですよ? 全員無事に着いたのは!」
と、マーサに向かって反論してくれる。
それを聞いた彼女はフン! と鼻で笑い
「それで今回、うちに来た患者は
礼儀を知らない肥満体だけなのね。
いつもはもっと儲かるのに、商売あがったりだわ!」
おいおい、さっきは”金なら充分にある”って言ってたじゃないか。
思考が取っ散らかっているところを見ると
何か精神的な悩みや問題を抱えているのかもしれない。
クピダスがそれを聞き、財布を取り出して言う。
「いつもの儲け分くらい払ってやるから、さっさと診ろ!」
マーサは一瞬ムッとしたが、黙って家に戻っていく。
そしてドアを開けたままにしてクピダスに言った。
「……さっさとお入りなさい!」
ブツブツ文句を言いながら入っていくクピダスと従者。
それを見ながら、案内してくれた兄妹があきれ顔で言う。
「あーあ。マーサおばさんは、診てもらってからが大変なのに」
「ずーっと言われるの。”ありがとうは?”って何回も。
全然放してくれなくて、おうちに帰れないの」
とんでもない承認欲求だが、何がそんなに不満なんだろう。
「薬屋さんは? 優しいの?」
エリザベートの問いに、
兄弟は見事なシンクロを見せて首を横に振った。
「いつも暗いんだ。何も言わずにお薬を出してくる」
うーん、こっちも問題あり、か。
考え込む俺たちに、兄妹はさらに衝撃的な事を言う。
「まあ、牧場のマイクおじさんよりマシだよね。
殴りかかってこないだけでも」
「えー、私は漁師のジャンのほうがコワイ~
一日中お酒飲んで、ずっと独り言で怒鳴ってるんだもん」
「そんなの、ピート兄ちゃんがブツブツ言いながら
トマトを握りつぶしてるほうがゾッとするだろ」
あっけにとられ声も出ない俺たちの前で、
兄弟はこの村の人々の暗黒面を
子どもの無邪気さ丸出しに、延々と披露していく。
「……嘘でしょ! 見て!」
エリザベートが突然、緑板を片手につぶやく。
俺たちはいっせいにそれを覗き込む。
そこにはかつて、俺たちの悲惨な末路が書かれていた。
しかし”勇者”というキーワードが出たとたん、
全て消失した、はずだったのだが。
「あらすじが……また変わってるの!」
俺たちは新しく浮き出たあらすじを目で追った。
”勇者の息子レオナルドは、
暗黒の魔女と聖女、
そして護衛の兵士とともに、
閉ざされた村ガウールに魔獣退治のため訪れた。
しかしそこは呪われた地であった。
人々は苦しみを抱え、嘆き、憂いている。
そしてレオナルドたちもその憤怒と悲嘆に巻き込まれ
あえなくその命をガウールに捧げることとなった”
黙り込む4人。
さっきまで輝いていた風景が、
なんだか空々しい作り物に思えてくる。
そして俺たちはこの村が
綺麗で豊かなだけではない、
ということを思い知ることになるのだ。
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しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
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