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第二章 新たなる力と仲間
40.過去から抜け出す人々
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40.過去から抜け出す人々
フィオナが手をかざし、意識のないユリウスを回復する。
やがて彼は意識を取り戻し、まっさきに俺を探した。
そして目が合うと、その顔を歪ませる。
しゃがみこんだ俺の顔に片手を当ててつぶやいた。
「ブリュンヒルデ様……」
彼の目から、涙が一筋零れ落ちる。
勇者だった父が行方不明になり、その死亡が断定された時。
母ブリュンヒルデは父との結婚を隠ぺいされ、
”未婚の娘”として、現国王に強制的に召し上げられた。
二人の婚儀に神父として立ち会った僧侶ユリウスは
国と教会に絶望し、行方をくらましたのだ。
それが、こんなところに、こんな形で居たとは。
彼はかすれた声で、俺たちに尋ねた。
「……他の方々はご無事か?」
俺は唐突に、ダルカン大将軍の言葉を思い出す。
”生真面目な僧侶ユリウス、常に優しかった……”
俺たちはうなずき、あの後の経緯を簡単に説明した。
ジェラルドが、自分の上着で包んだメアリーを運んでくる。
メアリーはユリウスの前で膝をつき、手を組み合わせて深く礼をする。
「……神官様。貴方様のおかげでこの数年、
私は罪を重ねることをせずに済んだのです。
感謝してもしきれません」
ユリウスはゆっくり笑って、首を横に振った。
「私は世を捨て、流れ流れてこの地に居ついた。
ここで誰もいなくなった教会に迎えられたが
もはや神には祈らなかった。
ただひたすらに、この治癒や浄化の力を用いて
村人のために生きることにしたのだ」
勇者とともに魔族を一掃した、素晴らしい力。
自分たちを裏切った国や教会のためなどには
決して使いたくなかったのだろう。
「前からこの地に何か潜んでいることは感じていた。
それが村人をときおり襲っていることも。
そして4,5年前の嵐の日、あなたは私のもとに現れたのだ。
”聖なる力”を求めて……そして私を一飲みにした」
「……申し訳ございませんっ!」
メアリーは地に頭が付くほど平伏する。
その肩を両手で支えて起こし上げながら、
僧侶ユリウスは笑った。
「いやいや、あの時は自暴自棄になっていたから、
”やっと死ねる”とすら思っていましたよ」
そう言って、優しく温かい目で彼女をを見る。
「飲まれた後、体内で私は貴方と対話し
その哀れな境遇を知ったのだ。
なんとか貴女を助けてから死にたいと思い、必死に生き延びた。
そして魔物が罪を犯すたび、食された者の命を守り続けたが
やがて意識も虚ろになってしまった……」
ユリウス以降に飲まれた村人は、
彼の力で防御され、魔人の体内で生き永らえていた。
しかし人数が増えるたびに、
ユリウスの負担は膨大なものになっていっただろう。
ユリウスは視線を俺へと移す。
「……しかしあの時、私は勇者殿の魔力を感じて目覚めた。
間違えるわけ無いのだ!
あのような力、他の誰も持つことはない。
暖かく力強く、人を勇気づける特別な力を!」
俺が補助魔法で彼の防御力を付加した時、
彼は目を開いた後、俺の顔に向かって手を伸ばし
何かつぶやいた……おそらく、”ブリュンヒルデ様”と。
俺は執事の話を聞くために別荘に戻った時、
ひそかに緑板で検索をかけていた。
”ガウールの魔人の体内にいる神官は誰か?”と。
それで俺は、彼の正体を知ったのだ。
彼はふたたび、涙をこぼしてつぶやく。
「私はすぐに理解した。この方は間違いなく、
ブリュンヒルデ様と勇者殿の御子だ、と」
そして天を仰いで叫ぶ。
「やはり二人が夫婦だと、神はお認めになったのだ!
国や教会が認めなくとも、
私はたしかに二人を夫婦と成したのだ!」
そういってメアリーの手を取り、彼女を諭すように言う。
「私はあのまま教会で朽ちていくはずだった。
しかしあなたに囚われたことで、
私はふたたび、神を信じる機会に恵まれたのだ。
ありがとう、聖女メアリーよ」
メアリーは必死で首を振る。
「私は聖女ではありません! 何人も人を……」
「捕らえたのも殺めたのも妖魔の仕業です。
私は内部にいたからわかります」
僧侶ユリウスはそう言って、彼女を見すえて言う。
「私も多くの悔恨を抱えています。
これからは共にそれを償い、
人々のために成せることを探しましょう」
そして、よろけながらもゆっくりと立ち上がった。
「あなたのお名前をお聞かせください」
俺は困惑する。
本来、俺の公的な名はレオナルド・シュニエンダールだ。
でも、もうその名を名乗るのは抵抗しかなかった。
……しかし。
俺の困惑を見透かしたように、エリザベートが耳元で囁く。
「さっさと答えなさい、勇者ダン・マイルズの息子さん」
いつもの事だが、ありがたい。
俺は親父の苗字が思い出せなかったのだ。
「レオナルド・マイルズだ」
ユリウスはクシャっと顔を崩す。
「ブリュンヒルデ様は、二人の御子に
勇者殿の師匠の名を付けたのか……」
そういって俺の顔を両手で包み込んだ。
「母君に瓜二つですな。あの者の血など微塵も感じません」
「ダルカン大将軍も、まったく同じことを言ったよ」
俺の言葉にユリウスは目を見開く。
「なんと! 彼に会ったのか! 彼は今……」
「ロンデルシアの大将軍です。
あなたの行方を案じておられました」
ジェラルドが答える。
僧侶ユリウスはふう、と息をつく。
「彼に会わねばならない。
……我々の戦いは終わってなどいなかった」
彼が言う通りだ。勇者たちは魔族を一掃したが、
この世に蔓延る”悪”はそのまま残されている。
そしてメアリーの件が証明したのは、
魔人は元々人間であり、たとえ聖女であっても
そのような存在へと堕ちる可能性がある、ということだった。
************
俺たちが丘を下ると、
執事を含め多くの村人が心配そうに見ていた。
「この丘に潜んでいた魔人は倒された。
彼らは長年、その魔人に囚われていた人たちだ」
俺の簡潔な説明に村人は戸惑うばかりだったが
すでに幻術は解かれていたため、
戻って来た元・村人を見て、ゆっくり、だんだんと、
驚きと歓喜の気持ちが沸き上がって来たようだった。
「いなくなったことも、別の人物になったことも
なんとなく受け入れてしまっていたが……」
「ああ、違和感は確かに感じていたのになあ」
「まさか村の中央に、魔人が潜んでいたとは!」
人々の中に、農家のピートや漁師のジャン、
牧場主のマイクに薬屋のグレイブもいた。
彼らは訳が分からない、といった顔で見ている。
俺は彼らに近づき、単刀直入に告げる。
「魔人の呪縛からは全員、解放されたんだ。
皆、もうガウールから出られるし、
元々の仕事にも戻れる」
そう言われても、彼らはボーっとしていた。
事実に感情が追い付かない、といったところだろう。
いろいろ説明してあげたかったが、
僧侶ユリウスもメアリーもまだ完全には回復してないため
とりあえず俺たちは別荘に戻ることにした。
************
「我々の先祖たちが犯した許されざる罪が本日、
ひとつの区切りを迎えることができました。
本当に、本当にありがとうございます」
そう言って執事とメイド頭は深く頭を下げた。
「被害が続いている事を知りながら
何も出来ずに月日を重ねて参りました」
メアリーを魔人に変えたのはこの村人たちの先祖だ。
それを討伐してほしいなどと願うのは、
良心が許せなかったのだろう。
「それを、ただ被害を無くすだけでなく、
聖女様を救い出してくださるという
最も望ましい形を迎えることができました。
皆様にはどれだけ感謝の言葉を重ねても足りません」
執事は涙で光る眼で俺たちに笑いかける。
そしてベッドに横たわるメアリーに、
膝をついて頭を下げる。
「ガウールの者が貴女に対して行った仕打ちは
決して許されるものではありません。
村を代表し、深くお詫び申し上げます」
メアリーは何も言わず、天井を見ている。
執事はこの長い年月、彼ら一族が深く悔やみ
その行いを恥じていたこと、
メアリーの死を無駄にしないために、
ガウールの村の存続に命をかけてきたことを語った。
それは罪から逃げず、誠実であろうとする者の姿だった。
メアリーはゆっくりと上体を起こした。
すかさずフィオナがその体を支える。
フィオナが身につけた高度な回復呪文を重ねたことにより
メアリーはだいぶ、その容貌を取り戻していた。
ミイラのようだった顔には肉やハリが戻り、
肩で切りそろえられた真っ黒な髪も、
おそらく以前のままなのだろう。
まだ青白い顔色だが、その素顔は
すっきりと切れ長の目元をした美少女だった。
改めて見ると、俺たちよりも年下だったのかもしれない。
メアリーは眉をしかめてつぶやく。
「もっと怒ったり恨み言をぶつけてやろうと思ったけど……」
困惑した笑顔を浮かべて執事を見ながら言う。
「あんな目に合わせたの、あなたじゃないのよね。
もう、誰もいないの、残念ながら」
”許さない”を連呼していた時が嘘のような冷静さだった。
そして両足をシーツから出し、ベッドに腰掛ける。
エリザベートが柔らかな肩掛けを彼女にまとわせた。
メアリーはちょこんと頭を下げて礼を言い。
「私はもう聖女ではないけど、
無関係の人に八つ当たりするほど下劣ではないのよ」
さぞかしクールな少女だったのだろう。
無駄に愛想など振りまかず、冷ややかに対応するような。
村人はそれを見て、生贄としての運命を
粛々として受け入れてくれると思ったのだろう。
……実際は、人を疑うことのない少女だったのに。
「だから、もう良いわ。それよりも……」
そう言って俺を見る。
俺はうなずいて、メイド頭に合図を送った。
涙ぐんで様子を見ていたメイド頭は、
あたふたとドアを出て行く。
そして次々と、テーブルに料理を並べ始めた。
こんがりと焼きあげ、肉汁のソースがかかったチキン。
ホワイトソースがからんだ白身魚のソテー。
焼き目を付け、食べやすくカットされたステーキ。
ジューシーなローストポークや、ラム肉のシチュー。
オードブルにスープ各種、新鮮なサラダ……
ありとあらゆるご馳走が並んでいく。
メアリーはクールな表情を一変させ、
それらを目を輝かせて眺めている。
フィオナが取り皿にどんどん取ってあげて、
ジェラルドが色とりどりの果汁をグラスに注ぐ。
俺たちもそれぞれ、飲み物を手に取った。
そして、一言。
「”人間よりも旨いもの”に乾杯!」
そして。お帰り、メアリー。
フィオナが手をかざし、意識のないユリウスを回復する。
やがて彼は意識を取り戻し、まっさきに俺を探した。
そして目が合うと、その顔を歪ませる。
しゃがみこんだ俺の顔に片手を当ててつぶやいた。
「ブリュンヒルデ様……」
彼の目から、涙が一筋零れ落ちる。
勇者だった父が行方不明になり、その死亡が断定された時。
母ブリュンヒルデは父との結婚を隠ぺいされ、
”未婚の娘”として、現国王に強制的に召し上げられた。
二人の婚儀に神父として立ち会った僧侶ユリウスは
国と教会に絶望し、行方をくらましたのだ。
それが、こんなところに、こんな形で居たとは。
彼はかすれた声で、俺たちに尋ねた。
「……他の方々はご無事か?」
俺は唐突に、ダルカン大将軍の言葉を思い出す。
”生真面目な僧侶ユリウス、常に優しかった……”
俺たちはうなずき、あの後の経緯を簡単に説明した。
ジェラルドが、自分の上着で包んだメアリーを運んでくる。
メアリーはユリウスの前で膝をつき、手を組み合わせて深く礼をする。
「……神官様。貴方様のおかげでこの数年、
私は罪を重ねることをせずに済んだのです。
感謝してもしきれません」
ユリウスはゆっくり笑って、首を横に振った。
「私は世を捨て、流れ流れてこの地に居ついた。
ここで誰もいなくなった教会に迎えられたが
もはや神には祈らなかった。
ただひたすらに、この治癒や浄化の力を用いて
村人のために生きることにしたのだ」
勇者とともに魔族を一掃した、素晴らしい力。
自分たちを裏切った国や教会のためなどには
決して使いたくなかったのだろう。
「前からこの地に何か潜んでいることは感じていた。
それが村人をときおり襲っていることも。
そして4,5年前の嵐の日、あなたは私のもとに現れたのだ。
”聖なる力”を求めて……そして私を一飲みにした」
「……申し訳ございませんっ!」
メアリーは地に頭が付くほど平伏する。
その肩を両手で支えて起こし上げながら、
僧侶ユリウスは笑った。
「いやいや、あの時は自暴自棄になっていたから、
”やっと死ねる”とすら思っていましたよ」
そう言って、優しく温かい目で彼女をを見る。
「飲まれた後、体内で私は貴方と対話し
その哀れな境遇を知ったのだ。
なんとか貴女を助けてから死にたいと思い、必死に生き延びた。
そして魔物が罪を犯すたび、食された者の命を守り続けたが
やがて意識も虚ろになってしまった……」
ユリウス以降に飲まれた村人は、
彼の力で防御され、魔人の体内で生き永らえていた。
しかし人数が増えるたびに、
ユリウスの負担は膨大なものになっていっただろう。
ユリウスは視線を俺へと移す。
「……しかしあの時、私は勇者殿の魔力を感じて目覚めた。
間違えるわけ無いのだ!
あのような力、他の誰も持つことはない。
暖かく力強く、人を勇気づける特別な力を!」
俺が補助魔法で彼の防御力を付加した時、
彼は目を開いた後、俺の顔に向かって手を伸ばし
何かつぶやいた……おそらく、”ブリュンヒルデ様”と。
俺は執事の話を聞くために別荘に戻った時、
ひそかに緑板で検索をかけていた。
”ガウールの魔人の体内にいる神官は誰か?”と。
それで俺は、彼の正体を知ったのだ。
彼はふたたび、涙をこぼしてつぶやく。
「私はすぐに理解した。この方は間違いなく、
ブリュンヒルデ様と勇者殿の御子だ、と」
そして天を仰いで叫ぶ。
「やはり二人が夫婦だと、神はお認めになったのだ!
国や教会が認めなくとも、
私はたしかに二人を夫婦と成したのだ!」
そういってメアリーの手を取り、彼女を諭すように言う。
「私はあのまま教会で朽ちていくはずだった。
しかしあなたに囚われたことで、
私はふたたび、神を信じる機会に恵まれたのだ。
ありがとう、聖女メアリーよ」
メアリーは必死で首を振る。
「私は聖女ではありません! 何人も人を……」
「捕らえたのも殺めたのも妖魔の仕業です。
私は内部にいたからわかります」
僧侶ユリウスはそう言って、彼女を見すえて言う。
「私も多くの悔恨を抱えています。
これからは共にそれを償い、
人々のために成せることを探しましょう」
そして、よろけながらもゆっくりと立ち上がった。
「あなたのお名前をお聞かせください」
俺は困惑する。
本来、俺の公的な名はレオナルド・シュニエンダールだ。
でも、もうその名を名乗るのは抵抗しかなかった。
……しかし。
俺の困惑を見透かしたように、エリザベートが耳元で囁く。
「さっさと答えなさい、勇者ダン・マイルズの息子さん」
いつもの事だが、ありがたい。
俺は親父の苗字が思い出せなかったのだ。
「レオナルド・マイルズだ」
ユリウスはクシャっと顔を崩す。
「ブリュンヒルデ様は、二人の御子に
勇者殿の師匠の名を付けたのか……」
そういって俺の顔を両手で包み込んだ。
「母君に瓜二つですな。あの者の血など微塵も感じません」
「ダルカン大将軍も、まったく同じことを言ったよ」
俺の言葉にユリウスは目を見開く。
「なんと! 彼に会ったのか! 彼は今……」
「ロンデルシアの大将軍です。
あなたの行方を案じておられました」
ジェラルドが答える。
僧侶ユリウスはふう、と息をつく。
「彼に会わねばならない。
……我々の戦いは終わってなどいなかった」
彼が言う通りだ。勇者たちは魔族を一掃したが、
この世に蔓延る”悪”はそのまま残されている。
そしてメアリーの件が証明したのは、
魔人は元々人間であり、たとえ聖女であっても
そのような存在へと堕ちる可能性がある、ということだった。
************
俺たちが丘を下ると、
執事を含め多くの村人が心配そうに見ていた。
「この丘に潜んでいた魔人は倒された。
彼らは長年、その魔人に囚われていた人たちだ」
俺の簡潔な説明に村人は戸惑うばかりだったが
すでに幻術は解かれていたため、
戻って来た元・村人を見て、ゆっくり、だんだんと、
驚きと歓喜の気持ちが沸き上がって来たようだった。
「いなくなったことも、別の人物になったことも
なんとなく受け入れてしまっていたが……」
「ああ、違和感は確かに感じていたのになあ」
「まさか村の中央に、魔人が潜んでいたとは!」
人々の中に、農家のピートや漁師のジャン、
牧場主のマイクに薬屋のグレイブもいた。
彼らは訳が分からない、といった顔で見ている。
俺は彼らに近づき、単刀直入に告げる。
「魔人の呪縛からは全員、解放されたんだ。
皆、もうガウールから出られるし、
元々の仕事にも戻れる」
そう言われても、彼らはボーっとしていた。
事実に感情が追い付かない、といったところだろう。
いろいろ説明してあげたかったが、
僧侶ユリウスもメアリーもまだ完全には回復してないため
とりあえず俺たちは別荘に戻ることにした。
************
「我々の先祖たちが犯した許されざる罪が本日、
ひとつの区切りを迎えることができました。
本当に、本当にありがとうございます」
そう言って執事とメイド頭は深く頭を下げた。
「被害が続いている事を知りながら
何も出来ずに月日を重ねて参りました」
メアリーを魔人に変えたのはこの村人たちの先祖だ。
それを討伐してほしいなどと願うのは、
良心が許せなかったのだろう。
「それを、ただ被害を無くすだけでなく、
聖女様を救い出してくださるという
最も望ましい形を迎えることができました。
皆様にはどれだけ感謝の言葉を重ねても足りません」
執事は涙で光る眼で俺たちに笑いかける。
そしてベッドに横たわるメアリーに、
膝をついて頭を下げる。
「ガウールの者が貴女に対して行った仕打ちは
決して許されるものではありません。
村を代表し、深くお詫び申し上げます」
メアリーは何も言わず、天井を見ている。
執事はこの長い年月、彼ら一族が深く悔やみ
その行いを恥じていたこと、
メアリーの死を無駄にしないために、
ガウールの村の存続に命をかけてきたことを語った。
それは罪から逃げず、誠実であろうとする者の姿だった。
メアリーはゆっくりと上体を起こした。
すかさずフィオナがその体を支える。
フィオナが身につけた高度な回復呪文を重ねたことにより
メアリーはだいぶ、その容貌を取り戻していた。
ミイラのようだった顔には肉やハリが戻り、
肩で切りそろえられた真っ黒な髪も、
おそらく以前のままなのだろう。
まだ青白い顔色だが、その素顔は
すっきりと切れ長の目元をした美少女だった。
改めて見ると、俺たちよりも年下だったのかもしれない。
メアリーは眉をしかめてつぶやく。
「もっと怒ったり恨み言をぶつけてやろうと思ったけど……」
困惑した笑顔を浮かべて執事を見ながら言う。
「あんな目に合わせたの、あなたじゃないのよね。
もう、誰もいないの、残念ながら」
”許さない”を連呼していた時が嘘のような冷静さだった。
そして両足をシーツから出し、ベッドに腰掛ける。
エリザベートが柔らかな肩掛けを彼女にまとわせた。
メアリーはちょこんと頭を下げて礼を言い。
「私はもう聖女ではないけど、
無関係の人に八つ当たりするほど下劣ではないのよ」
さぞかしクールな少女だったのだろう。
無駄に愛想など振りまかず、冷ややかに対応するような。
村人はそれを見て、生贄としての運命を
粛々として受け入れてくれると思ったのだろう。
……実際は、人を疑うことのない少女だったのに。
「だから、もう良いわ。それよりも……」
そう言って俺を見る。
俺はうなずいて、メイド頭に合図を送った。
涙ぐんで様子を見ていたメイド頭は、
あたふたとドアを出て行く。
そして次々と、テーブルに料理を並べ始めた。
こんがりと焼きあげ、肉汁のソースがかかったチキン。
ホワイトソースがからんだ白身魚のソテー。
焼き目を付け、食べやすくカットされたステーキ。
ジューシーなローストポークや、ラム肉のシチュー。
オードブルにスープ各種、新鮮なサラダ……
ありとあらゆるご馳走が並んでいく。
メアリーはクールな表情を一変させ、
それらを目を輝かせて眺めている。
フィオナが取り皿にどんどん取ってあげて、
ジェラルドが色とりどりの果汁をグラスに注ぐ。
俺たちもそれぞれ、飲み物を手に取った。
そして、一言。
「”人間よりも旨いもの”に乾杯!」
そして。お帰り、メアリー。
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