【完結】リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と底辺兵士と共に、最低最悪のシナリオを書き換える〜

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第三章 武器は"情報"と"連携"

70.フリュンベルグ国の要請

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 70.フリュンベルグ国の要請

 王太子カーロスはしばらくの間、
 醤油を作ろうと悪戦苦闘していたらしい。

 しかしどうやっても出来ないとなると、悔しさのあまり
 ”ショーユの販売”自体を差し止めようと議会で提案したのだ。

 しかしそんな駄案は、わが国の2大公爵家の反対にあい、
 あえなくボツとなった。
 ローマンエヤール公爵家もシュバイツ公爵家も意見は同じ。
「代替品も用意せず、そんなことをしたら
 国民感情を逆なでし、不満を爆発させるだろう」

 まったくもってその通りだし、
 貴族の間でもショーユは人気があったため誰も支持せず
 カーロスはあきらめざるを得なかった。

 俺も議会には呼び出されたが、
 工場をまるごと兄に取り上げられ
 もはや携わっていないのは周知のことだ。

「今はガウールのものが主流となりましたね。
 あれには勝てそうもありませんね。
 早めに手を引いて良かったです」
 そう言って笑顔を見せると、
 カーロスは憤怒の表情を見せて俺を睨んでいた。

 この件で、”優秀で才能あふれる”という触れ込みだったカーロスは
 隠しきれないほどの多大な損失を出したことを
 貴族にも平民の富豪にも知られ、その評価を大きく下げたようだ。

 本人はそれを挽回しようと、
 さらに必死になって投資するという悪循環を起こしている。

 実は緑板スマホで調べると
 ”王太子カーロスは多額の借金を抱え、
 国庫にまで手を出し始めた”と出てくるのだ。
 ”老舗企業のダメ息子”は、そうでなくっちゃな。

 不満そうな兄に適当な礼をし、俺はさっさとその場を去った。
 こんなところに長居は無用だ。

 会議の後、宮殿を出て歩いていたら。

「確かに、には勝てないな」
 ふいに後ろから声がかかった。
 エリザベートの母、ライザ・ローマンエヤール公爵夫人が
 いたずらっぽい笑みを浮かべて立っている。

 ショートボブの黒髪に切れ長の大きな黒い瞳。
 元・世界の歌劇団にいたら、かなりの人気を博しそうな美人だ。
 銀色の胸甲をつけ、常に戦いやすい格好をしている。

 この間、俺たちの成果を王族や貴族に
 ”ガラクタばっかり”とけなされた際に助けてくれて以来だが
 不在がちの彼女にしては、国内にいる期間が長いな。

 俺は彼女に礼をし、ふいに思いつく。
 そういや、エリザベートに醤油の製造を協力してもらっているが
 そんな魔力の使い方を、公爵家は怒らないのだろうか。
 とりあえず私益も得ているわけだし。
 念の為、確認してみると。

 ローマンエヤール公爵夫人は口元をほころばせて言った。
「万人に幸福をもたらす使い方だ。問題ない。
 それに利益は全て、乱世を収めるために使われるのだろう?」

 そうだ。この混乱し腐敗した国を回復させ、
 あの悲惨な結末を回避するための軍資金となるのだ。
 俺が公爵夫人にうなずくと、彼女は満足そうな笑みをみせた。

 ************

 公爵夫人が俺を呼び止めたのは、
 ジェラルドの新しい任務についてだった。
「フリュンベルグ国の情勢は知っているな?」
 彼女に問われ、俺はうなずく。

 ”エリザベートを側妃に迎えたい”、
 などとほざいたフリード王子の国だ。
 とはいえ、べつだん彼はそんなに嫌な奴ではない。
 とにかく合理的で実利主義なだけだ。

 ”ローマンエヤールの切り札”と呼ばれるエリザベートが
 すぐに必要なくらい、フリュンベルグ国は
 大変な事態に陥っているのだ。

「フリュンベルグ国の東側にある火山地帯や西側の湿地帯から
 以前より多くの魔獣が押し寄せていたが、
 今、問題となっているのは北側だ」
 公爵夫人は無表情のまま腕を組む。

「北側? 確か大渓谷ですよね?」
 深い深い、底が見えぬほどの断崖絶壁。
 ”世界の果て”と呼ばれているところでもある。

 公爵夫人はうなずき、話を続けた。
「そこから時おり、すさまじい突風が沸き上がるそうだ。
 それも、強い魔力を含んだ」
「……属性は?」
 すかさず俺が尋ねると、公爵夫人はすぐに答えた。
「”光”だ」

 俺たちは押し黙った。
 ”光ならいいじゃん”というわけではない。
 確かに光魔法は、人間にとって有益なものが多いが、
 それが意味もなく唐突に浴びせられるのは、異常でしかない。

 公爵夫人が続きを話し出す。
「そこで、フリュンベルグ国より各国に要請があった。
 あの国がそれを調査する期間だけでも
 ”西側と東側の魔獣制圧にご協力いただきたい”、と」

「まあ、そんな変な話、世界にとっても問題だからな。
 普通は協力するんだろうが……
 うちのケチな王族はなんと回答を?」

 公爵夫人は少しだけ笑い、肩をすくめた。
「最初は呆れたことに、”第4軍を送る”と返答しようとした」
 想像以上のドケチっぷりに俺はのけぞる。

 この国の第1軍は、言わずもがな、戦闘能力の秀でた者。
 つづく第2軍はそこそこ腕が立つ者で、
 実際は彼らが一番、討伐へとかり出される確率が高い。

 エリザベートの幼馴染が駄々をこねて送られたのは
 歩兵の集まりの第3軍だった。
 活動地域は湿地帯やジャングルで、
 弱い魔獣や暴れる野生動物などだから
 技術や知力など不要の体力勝負な部隊だ。
 ……あいつ、元気かなあ。

 そして第4軍とは。
 ならず者だけでなく、魔力も腕力も無い者など、
 ”兵として使いものにならない奴ら”などと言われている。

 彼らは軍だけでなく、
 国におけるさまざまな”雑事”を担当する。
 やれドブが詰まったから掃除しろ、
 害虫が大量発生したから駆除して来い、
 などと、こき使われているのだ。

 それだけでなく、討伐した魔獣の後処理や
 他の軍が戦う前の露払い、
 さらには事前に敵と戦い、あえなく負けることで
 他国に第1軍や第2軍の強さを知らしめるための
 ”かませ犬”として使われていた。

 汚れ仕事が多いだけでなく、
 捨て駒にされるのだが
 それでも所属する者がいるのは、
 それ以外の仕事がないからだ。

 だからシュニエンダール国内では、
 ”落ちぶれたら盗賊になるか、第4軍になるか”
 と言われているくらい。

「……酷い話だな」
 俺は顔を歪める。
 フリュンベルグ国に出没する魔獣のランクを考えれば
 第4軍はおそらく、生きては帰れないだろう。

 公爵夫人も不快そうな顔をして言う。
「公爵家として当然、反対したのだが……
 そのため国王より命じられたのだ。
 ”ならばローマンエヤールの所有する騎士ナイトを行かせよ”と」

 あちゃー。俺は片手で額を抑えた。
 聖騎士団の入団を断ったことを、こんな形で復讐してくるとは。
 第4軍を出せば、公爵家が反対するとわかっていたのだろう。

国王たちアイツららしい、ズルいやり方だな。
 もしうまく討伐できれば、シュニエンダールの手柄。
 失敗し命を落としても、王家に損失はないし、
 公爵家の戦力を削ぐことができるからな」
 それに、聖騎士団の面々はジェラルドに”ざまあ”できるしな。

 俺は公爵夫人に言う。
「で、俺の護衛はもちろん……」
 彼女は初めて嬉しそうな笑顔を見せてうなずく。

「ああ、即座に快諾したよ。
 ”フリュンベルグ国の、ひいては世界のために
 騎士の称号を保有する者として
 恥じない働きをしてみせます”、と言ってな」

 だよなあ。
 あいつは、そういう奴だ。
 俺は苦笑いし、公爵夫人に告げた。
「彼が行くのなら、俺も行かないと。
 一緒にいないと守ってもらえないからなー」

 すると彼女は首を横に振った。
「殿下には、別の護衛を付ける。
 しばらくの間、了承していただきたい」

 俺は大慌てで反論する。
「何故です?! しかし俺が……」

 俺の補助魔法のことは、エリザベートから聞いているはずだ。
 それが勇者父親ゆずりの種類で、”階乗”の威力を持つことも。

 俺の言葉を途中で制し、彼女はまっすぐに俺を見た。
「殿下。ジェラルドを侮辱してはいけない」
「侮辱なんてしない! 俺ができることをしたいだけだ!」
 俺は思わず声を荒げて言い返す。

 それでも視線をそらさずに俺に言う。
「彼は言ったのだ。
 ”フリュンベルグ国において、
 自分の力のみで騎士の称号を得たい”、と」

 俺は言葉に詰まる。
 彼は本当に強く、素晴らしい実力の持ち主だが、
 今までの称号の手に入れ方は
 ”なし崩しに……”という感じは拭えなかったのだ。

 しかし、案ずる気持ちに変わりはない。
 ジェラルドは大事な存在だ。
 この異世界で、ずっとみんなで頑張ってきたのだ。

 困惑する俺の肩に、ゆっくりと手が置かれる。
「殿下が彼を信じることは
 彼を守り、彼を強くするだろう」

 元・世界でも他人を信じるなんてことはなかったのに。
 異世界転移してから、一番の難題じゃないか?

 しばらくののち、俺はやっと答えることが出来た。
「……そういやあいつ、
 ガウール遠征で制服がボロボロだったな。
 新しい制服を作っておくか」
 三か所、ループがついたやつを。

 なぜなら称号の数だけ、ループが必要だから。


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