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第三章 武器は"情報"と"連携"
82.王太子妃の解放
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82.王太子妃の解放
”本日は良いお天気に恵まれ……”
司会役の侍従が語る”開会の挨拶”が聞こえてくる。
「……運動会を思い出すな」
俺がつぶやくと、目の前でくるりと振り返ったフィオナが
こぶしをマイク代わりに語り出した。
「えー、ここ城内の大庭園にて、
初の競闘遊戯会が開催されました!
退屈を紛らわせようと多くの貴族の令息、令嬢が
次々と集まっております! みんなヒマ人ですね!
……現場からは以上です」
レポーターごっこをしているフィオナの後ろには
本当に多くの人々が集まっていた。
急な開催だったのに、よく集まったな。
これだけの人数が騒いでりゃ、アイツも出てくるだろう。
この競闘遊戯会の表向きの開催目的は
”貴族間の交流と魔道具の実地テスト”であり、
主催者はもちろんローマンエヤール公爵家だ。
最初から俺たちが企画したものではなく、
彼らが普段から楽しんでいる”貴族の遊び”を
いくつか同時開催しただけだ。
紳士・淑女のスポーツである”クリケット”や、
ニジマスなどを釣る”フィッシング”、そして”乗馬”など。
今回は、それらに加えて。
「キャア! 可愛いっ」
女性の歓声が向こうから聞こえてくる。
そこにいたのは、ガウールから連れて来たファルたちだった。
巨大なポメラニアンのような、
まん丸いふさふさのボディから伸びる短い手足。
三角の耳に、黒くて丸い小さな目。
鼻は目立たないけど、代わりに一本線の眉毛がある。
オメガの小文字”ω”みたいな口。
「これがあの珍獣ファルファーサ?!」
「カッワイイ! 真ん丸い目をしているのね」
「ぱう!」
「今、吠えたの? 全然、威嚇になってないわね」
みんなにいろいろ言われながらも、
ファルとイチゴー、ニゴー、サンゴーは
いつも通りキリッ、とした顔で並んでいる。
彼らは新しい種目である”ファーサ狩り”のために連れて来たのだ。
参加者は、紐でつながれたファルファーサのおもちゃをひきずって走る。
それをファルファーサに取られたら終わり。
ファルファーサたちに捕まらず、
大庭園の真ん中に立てたフラッグを取ったものが勝者だ。
つまりファルファーサたちと”泥棒と警察、通称ドロケイ”をするのだ。
もちろんファルファーサが本気で走れば神速だが
彼らは今回、短い尾の付け根に大きなリボンを付けている。
これがあると彼らは気になるのか、
走るのがかなり遅くなってしまうのだ。
ルールを聞いた令息、令嬢たちが
配られたひも付きのおもちゃを手に、庭園を広がっていく。
ファルファーサの俊敏さを知らないせいか、
多くの者がフラッグが見える位置で立ち止まっていた。
俺とジェラルド、フィオナは少し小高い位置にあるテラスで
それを眺めることにする。
「スタート!」
侍従が叫ぶ開始の挨拶とともに、
ファルファーサたちが解き放たれた。
子ファルたちはゴムまりのように弾み、
周囲に散らばる参加者へと向かっていった。
広がっていく歓声や笑い声。
さっそくオモチャを取られた令嬢が笑いながら
得意げなイチゴーを撫でている。
足の速そうな令息がダッシュし、うまく逃げ切った。
見守る人々は手をたたいて声援を送る。
「良かった。盛り上がってきたな」
俺はつぶやくが、一人の爆走する令嬢を見つけて絶句する。
真っ黒な長い髪をポニーテールに結い上げ、
丈が短めのシンプルな赤茶のドレスで
エリザベートは誰よりも早く移動しているのだ。
「なんであいつ……あんなに本気出して……」
そこまで言って、俺はハッと気づき、
目を閉じ唇をかみしめ、こぶしを額に当てる。
「どうかしましたか? 王子」
問いかけるジェラルドに、俺は答える。
「エリザベートは何事も本気で取り組む。
勉強も、魔力の修練も、ダンスも……」
そしておそらく、遊びも。
************
ファルたちの位置を見極め、走り出す我が婚約者どの。
ドレスを両手でつまみ上げ、美しく走っていく。
その後ろをキャアキャア笑いながら、
たくさんの令嬢たちが、ドレスをひるがえし走っていた。
エリザベートについていれば安心だと思ったのだろう。
その中にステラの姿を見つけて、俺は安堵する。
彼女は楽しそうに笑い、他の令嬢と手をつないで
時々つまずきながらも走っていた。
エリザベートはひたすら先頭を走る。
「じゃじゃ馬選手権だな。その差、4馬身ってとこだ」
「……怒られますよ」
ジェラルドが笑いながら言う。
その光景を眺めながら。
「エリザベートさんの中の、本物のエリザベートさんは、
幸せを感じていてくれるでしょうか」
フィオナがポツンとつぶやく。
俺とジェラルドが振り返ると、フィオナは言った。
「……王子。私ずっと、後悔していました。
フィオナは、王子に救いを求めていただけでした」
「わかってるよ。オリジナルの王子もな。
レオナルドだって、状況を変えたくて足掻いただけだ」
悲惨な未来を迎える自分と結婚させるのも可哀想だが
さらに自分の母親の死に、彼女の実家が関わっていると知り、
エリザベートを自分から遠ざける決心をしたのだ。
フィオナは顔をゆがめ、強い口調で後悔を叫んだ。
「私たち、彼女を深く傷つけたんです。
”真の絶望”を味わうほどに……!」
天才魔導士キースが仕掛けた、
”大いなる力”を呼び覚ます究極の闇魔法。
それによって俺たちはこの異世界に召喚されたのだ。
その闇魔法が発動する条件は、
俺たちが”真の絶望を感じた時”だった。
ファルたちからうまく隠れるエリザベート。
こちらを見上げて笑う。俺は手を振る。
さらに笑顔になる彼女。
ああ、エリザベートが笑っている。
ジェラルドの視線を感じ、俺は慌てて笑顔で言う。
「エリザベート、楽しそうだな!」
ジェラルドは俺に言う。
「王子がいるからですよ」
「なんだよ、それ」
首をかしげる俺に、フィオナが笑いながら言う。
「フリード王子が以前おっしゃったではありませんか。
王子が現れてからの彼女は別人のように、
生き生きとして、可憐で、本当に可愛らしかったって」
……よく覚えてるな。
普段の彼女は、冷静で完璧な、最強の公爵令嬢だ。
しかし俺にとってエリザベートの魅力は、
その絶世の美貌でも、卓越した能力でもない。
その”ひたむきさ”だ。
何かを守るため、誰かのために動くその姿の、
なんと健気で可憐で、愛くるしいことか。
俺の心を読んだように、ジェラルドが言う。
「本当に可愛らしい方ですね。
普段は女王然としているのに、ポロっと感情をもらす時
幼い少女のような、か弱さを漂わせます」
フィオナも嬉しそうにうなずいて言う。
「時々、ギュッ! ってしたくなるほどです!
いつもは女王様か女神様みたいなのに
王子の一言に赤くなったりプクッとふくれたり。
本人に自覚がないところが、余計に愛らしいんですよね」
……彼らが言いたいことは分かっている。
もう、何も問題はないはずだった。
何より、俺は知っている。
オリジナル・レオナルドの本音を。
彼が人生の最後を共にしたかったのは、彼女だったのだ。
でも。
俺もあいつも、中身は転移者なんだよ。
そんなに単純な問題ではないのだろう?
************
「試合終了!
勝者、エリザベート・ローマンエヤール公爵令嬢!」
エリザベートは見事、最後まで完走し、
ファルたちの隙をついて、広場中央のフラッグを手にしたのだ。
「ぱうぱうぱう!」
「さすがですわ! エリザベート様!」
「いやあ~俺も最後の方まで残ったんだがなあ」
「ドキドキしましたわ、でも珍獣が可愛くって」
俺たちはその場へと向かい、エリザベートを祝福した。
「優勝おめでとう」
ふりかえったエリザベートは一瞬、その赤い瞳を輝かせ
嬉しそうに、そして恥ずかしそうに笑った。
……その時、大庭園にものすごい怒号が響き渡った。
「ステラぁ! 何をしているっ!」
やっと来たか。
俺たちは視線を交わし、そいつに向きなおった。
そこにはあごを上げ、口角をさげたまま
彼女を睨みつけながら歩いてくる王太子カーロスがみえた。
彼は後ろに侍従を従え、ずかずかとステラに近づく。
あらかじめ決めていた通り、
ステラはエリザベートの背後に回り込み、
その背中にすがった。
王太子は仁王立ちし、怒鳴りつける。
「お前! 俺の定めた規則を破ったな!」
「……”全ての娯楽を禁ずる”というものでしょうか?」
エリザベートの背後に隠れたまま、ステラは答える。
それを聞き、カーロスはイライラと片ひざをふるわせ、
厳しい口調で責め立てる。
「当たり前だろう! そもそもお前は
母上からも”王太子妃らしくふるまうよう”に
言われていたではないか! それも破ったのだぞ!
すぐに部屋に戻れ! 俺が説教をしてやる!」
ステラはエリザベートにしがみついたまま答える。
「いつもの体罰ですよね? お断りですわ
これ以上殴られたら、死んでしまいます」
ざわめく観衆。まあ、噂にはなっていたからな。
あまりにもハッキリと断ったことに
カーロスは暴力を否定するのも忘れて驚いていた。
「な、な、なんという生意気なっ!
俺に口ごたえするとはっ! お前ごときが!」
そのままの体制で、ステラはハッキリと言い放つ。
「王太子妃として他の貴族と交流を持つことは必要です。
適度な運動も、書物で知識を得ることも」
「うるさい! 黙れ! 能無しのくせに!
お前はおとなしく俺に従っていれば良いのだ!」
口は流ちょうに動くのに、ステラはまったく動かない。
どこか不自然だったが、
王太子妃が初めて反抗しているという事態に
周囲の者は緊迫していて気付かなかった。
動かぬステラに業をにやし、王太子はずかずかと近づき、
彼女の腕をつかんでひっぱった。
そして彼女の耳元でささやいたのだ。
「……よくも口ごたえをしたな? 後で半殺しにしてやるぞ。
いつも以上にぶん殴って顔が腫れあがり、
両手と両足が折れるくらい蹴り上げてやる」
『……よくも口ごたえをしたな? 後で半殺しにしてやるぞ。
いつも以上にぶん殴って顔が腫れあがり、
両手と両足が折れるくらい蹴り上げてやる』
ワンテンポ遅れて、彼の発言が拡声器のように広がる。
その場に集う多くの人々の間から、悲鳴や怒号がわきあがった。
「わ! な、なんだ?!」
『わ! な、なんだ?!』
「どうして俺の声が……」
『どうして俺の声が……』
そこでさすがに気が付き、エリザベートから離れる。
エリザベートは王太子を見据えながら淡々と告げる。
「この競技会の開催目的は、貴族間の親交を深めることと……
わが公爵家が開発した魔道具の実地テストですわ。
戦場において、大声を出さずとも多くの兵に指示を出せるための」
そう言って、手に持った小さな物体をかかげた。
王太子は何も言えず、ぼうぜんと突っ立っている。
そしてエリザベートは、冷酷非情な女王の面持ちで言い放つ。
「この魔道具は、
”醜悪で卑劣な真相を周知するのにも役立つ”と、
お父様にお伝えしますわ」
”本日は良いお天気に恵まれ……”
司会役の侍従が語る”開会の挨拶”が聞こえてくる。
「……運動会を思い出すな」
俺がつぶやくと、目の前でくるりと振り返ったフィオナが
こぶしをマイク代わりに語り出した。
「えー、ここ城内の大庭園にて、
初の競闘遊戯会が開催されました!
退屈を紛らわせようと多くの貴族の令息、令嬢が
次々と集まっております! みんなヒマ人ですね!
……現場からは以上です」
レポーターごっこをしているフィオナの後ろには
本当に多くの人々が集まっていた。
急な開催だったのに、よく集まったな。
これだけの人数が騒いでりゃ、アイツも出てくるだろう。
この競闘遊戯会の表向きの開催目的は
”貴族間の交流と魔道具の実地テスト”であり、
主催者はもちろんローマンエヤール公爵家だ。
最初から俺たちが企画したものではなく、
彼らが普段から楽しんでいる”貴族の遊び”を
いくつか同時開催しただけだ。
紳士・淑女のスポーツである”クリケット”や、
ニジマスなどを釣る”フィッシング”、そして”乗馬”など。
今回は、それらに加えて。
「キャア! 可愛いっ」
女性の歓声が向こうから聞こえてくる。
そこにいたのは、ガウールから連れて来たファルたちだった。
巨大なポメラニアンのような、
まん丸いふさふさのボディから伸びる短い手足。
三角の耳に、黒くて丸い小さな目。
鼻は目立たないけど、代わりに一本線の眉毛がある。
オメガの小文字”ω”みたいな口。
「これがあの珍獣ファルファーサ?!」
「カッワイイ! 真ん丸い目をしているのね」
「ぱう!」
「今、吠えたの? 全然、威嚇になってないわね」
みんなにいろいろ言われながらも、
ファルとイチゴー、ニゴー、サンゴーは
いつも通りキリッ、とした顔で並んでいる。
彼らは新しい種目である”ファーサ狩り”のために連れて来たのだ。
参加者は、紐でつながれたファルファーサのおもちゃをひきずって走る。
それをファルファーサに取られたら終わり。
ファルファーサたちに捕まらず、
大庭園の真ん中に立てたフラッグを取ったものが勝者だ。
つまりファルファーサたちと”泥棒と警察、通称ドロケイ”をするのだ。
もちろんファルファーサが本気で走れば神速だが
彼らは今回、短い尾の付け根に大きなリボンを付けている。
これがあると彼らは気になるのか、
走るのがかなり遅くなってしまうのだ。
ルールを聞いた令息、令嬢たちが
配られたひも付きのおもちゃを手に、庭園を広がっていく。
ファルファーサの俊敏さを知らないせいか、
多くの者がフラッグが見える位置で立ち止まっていた。
俺とジェラルド、フィオナは少し小高い位置にあるテラスで
それを眺めることにする。
「スタート!」
侍従が叫ぶ開始の挨拶とともに、
ファルファーサたちが解き放たれた。
子ファルたちはゴムまりのように弾み、
周囲に散らばる参加者へと向かっていった。
広がっていく歓声や笑い声。
さっそくオモチャを取られた令嬢が笑いながら
得意げなイチゴーを撫でている。
足の速そうな令息がダッシュし、うまく逃げ切った。
見守る人々は手をたたいて声援を送る。
「良かった。盛り上がってきたな」
俺はつぶやくが、一人の爆走する令嬢を見つけて絶句する。
真っ黒な長い髪をポニーテールに結い上げ、
丈が短めのシンプルな赤茶のドレスで
エリザベートは誰よりも早く移動しているのだ。
「なんであいつ……あんなに本気出して……」
そこまで言って、俺はハッと気づき、
目を閉じ唇をかみしめ、こぶしを額に当てる。
「どうかしましたか? 王子」
問いかけるジェラルドに、俺は答える。
「エリザベートは何事も本気で取り組む。
勉強も、魔力の修練も、ダンスも……」
そしておそらく、遊びも。
************
ファルたちの位置を見極め、走り出す我が婚約者どの。
ドレスを両手でつまみ上げ、美しく走っていく。
その後ろをキャアキャア笑いながら、
たくさんの令嬢たちが、ドレスをひるがえし走っていた。
エリザベートについていれば安心だと思ったのだろう。
その中にステラの姿を見つけて、俺は安堵する。
彼女は楽しそうに笑い、他の令嬢と手をつないで
時々つまずきながらも走っていた。
エリザベートはひたすら先頭を走る。
「じゃじゃ馬選手権だな。その差、4馬身ってとこだ」
「……怒られますよ」
ジェラルドが笑いながら言う。
その光景を眺めながら。
「エリザベートさんの中の、本物のエリザベートさんは、
幸せを感じていてくれるでしょうか」
フィオナがポツンとつぶやく。
俺とジェラルドが振り返ると、フィオナは言った。
「……王子。私ずっと、後悔していました。
フィオナは、王子に救いを求めていただけでした」
「わかってるよ。オリジナルの王子もな。
レオナルドだって、状況を変えたくて足掻いただけだ」
悲惨な未来を迎える自分と結婚させるのも可哀想だが
さらに自分の母親の死に、彼女の実家が関わっていると知り、
エリザベートを自分から遠ざける決心をしたのだ。
フィオナは顔をゆがめ、強い口調で後悔を叫んだ。
「私たち、彼女を深く傷つけたんです。
”真の絶望”を味わうほどに……!」
天才魔導士キースが仕掛けた、
”大いなる力”を呼び覚ます究極の闇魔法。
それによって俺たちはこの異世界に召喚されたのだ。
その闇魔法が発動する条件は、
俺たちが”真の絶望を感じた時”だった。
ファルたちからうまく隠れるエリザベート。
こちらを見上げて笑う。俺は手を振る。
さらに笑顔になる彼女。
ああ、エリザベートが笑っている。
ジェラルドの視線を感じ、俺は慌てて笑顔で言う。
「エリザベート、楽しそうだな!」
ジェラルドは俺に言う。
「王子がいるからですよ」
「なんだよ、それ」
首をかしげる俺に、フィオナが笑いながら言う。
「フリード王子が以前おっしゃったではありませんか。
王子が現れてからの彼女は別人のように、
生き生きとして、可憐で、本当に可愛らしかったって」
……よく覚えてるな。
普段の彼女は、冷静で完璧な、最強の公爵令嬢だ。
しかし俺にとってエリザベートの魅力は、
その絶世の美貌でも、卓越した能力でもない。
その”ひたむきさ”だ。
何かを守るため、誰かのために動くその姿の、
なんと健気で可憐で、愛くるしいことか。
俺の心を読んだように、ジェラルドが言う。
「本当に可愛らしい方ですね。
普段は女王然としているのに、ポロっと感情をもらす時
幼い少女のような、か弱さを漂わせます」
フィオナも嬉しそうにうなずいて言う。
「時々、ギュッ! ってしたくなるほどです!
いつもは女王様か女神様みたいなのに
王子の一言に赤くなったりプクッとふくれたり。
本人に自覚がないところが、余計に愛らしいんですよね」
……彼らが言いたいことは分かっている。
もう、何も問題はないはずだった。
何より、俺は知っている。
オリジナル・レオナルドの本音を。
彼が人生の最後を共にしたかったのは、彼女だったのだ。
でも。
俺もあいつも、中身は転移者なんだよ。
そんなに単純な問題ではないのだろう?
************
「試合終了!
勝者、エリザベート・ローマンエヤール公爵令嬢!」
エリザベートは見事、最後まで完走し、
ファルたちの隙をついて、広場中央のフラッグを手にしたのだ。
「ぱうぱうぱう!」
「さすがですわ! エリザベート様!」
「いやあ~俺も最後の方まで残ったんだがなあ」
「ドキドキしましたわ、でも珍獣が可愛くって」
俺たちはその場へと向かい、エリザベートを祝福した。
「優勝おめでとう」
ふりかえったエリザベートは一瞬、その赤い瞳を輝かせ
嬉しそうに、そして恥ずかしそうに笑った。
……その時、大庭園にものすごい怒号が響き渡った。
「ステラぁ! 何をしているっ!」
やっと来たか。
俺たちは視線を交わし、そいつに向きなおった。
そこにはあごを上げ、口角をさげたまま
彼女を睨みつけながら歩いてくる王太子カーロスがみえた。
彼は後ろに侍従を従え、ずかずかとステラに近づく。
あらかじめ決めていた通り、
ステラはエリザベートの背後に回り込み、
その背中にすがった。
王太子は仁王立ちし、怒鳴りつける。
「お前! 俺の定めた規則を破ったな!」
「……”全ての娯楽を禁ずる”というものでしょうか?」
エリザベートの背後に隠れたまま、ステラは答える。
それを聞き、カーロスはイライラと片ひざをふるわせ、
厳しい口調で責め立てる。
「当たり前だろう! そもそもお前は
母上からも”王太子妃らしくふるまうよう”に
言われていたではないか! それも破ったのだぞ!
すぐに部屋に戻れ! 俺が説教をしてやる!」
ステラはエリザベートにしがみついたまま答える。
「いつもの体罰ですよね? お断りですわ
これ以上殴られたら、死んでしまいます」
ざわめく観衆。まあ、噂にはなっていたからな。
あまりにもハッキリと断ったことに
カーロスは暴力を否定するのも忘れて驚いていた。
「な、な、なんという生意気なっ!
俺に口ごたえするとはっ! お前ごときが!」
そのままの体制で、ステラはハッキリと言い放つ。
「王太子妃として他の貴族と交流を持つことは必要です。
適度な運動も、書物で知識を得ることも」
「うるさい! 黙れ! 能無しのくせに!
お前はおとなしく俺に従っていれば良いのだ!」
口は流ちょうに動くのに、ステラはまったく動かない。
どこか不自然だったが、
王太子妃が初めて反抗しているという事態に
周囲の者は緊迫していて気付かなかった。
動かぬステラに業をにやし、王太子はずかずかと近づき、
彼女の腕をつかんでひっぱった。
そして彼女の耳元でささやいたのだ。
「……よくも口ごたえをしたな? 後で半殺しにしてやるぞ。
いつも以上にぶん殴って顔が腫れあがり、
両手と両足が折れるくらい蹴り上げてやる」
『……よくも口ごたえをしたな? 後で半殺しにしてやるぞ。
いつも以上にぶん殴って顔が腫れあがり、
両手と両足が折れるくらい蹴り上げてやる』
ワンテンポ遅れて、彼の発言が拡声器のように広がる。
その場に集う多くの人々の間から、悲鳴や怒号がわきあがった。
「わ! な、なんだ?!」
『わ! な、なんだ?!』
「どうして俺の声が……」
『どうして俺の声が……』
そこでさすがに気が付き、エリザベートから離れる。
エリザベートは王太子を見据えながら淡々と告げる。
「この競技会の開催目的は、貴族間の親交を深めることと……
わが公爵家が開発した魔道具の実地テストですわ。
戦場において、大声を出さずとも多くの兵に指示を出せるための」
そう言って、手に持った小さな物体をかかげた。
王太子は何も言えず、ぼうぜんと突っ立っている。
そしてエリザベートは、冷酷非情な女王の面持ちで言い放つ。
「この魔道具は、
”醜悪で卑劣な真相を周知するのにも役立つ”と、
お父様にお伝えしますわ」
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