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第三章 武器は"情報"と"連携"
83.地獄から天国への引っ越し
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83.地獄から天国への引っ越し
初めて自分に反抗してきた王太子妃ステラに対し
激怒した王太子カーロスは、
”体罰をする”と脅そうとしたのだ。
しかし小声で言ったはずの恐喝は、
エリザベートが隠し持った魔道具にその音声を拾われ、
ここに集まった人々全員に聞かれてしまった。
「……やっぱり、噂は本当でしたのね」
「実は俺、見たことあるんだ。手を挙げる瞬間を」
「うちの侍従たちも申していましたわ。
王太子妃の部屋に近づくと、聞こえるのは悲鳴か泣き声だって」
眉をひそめながら、ささやき合う人々。
しかしカーロスは動じていなかった。
「しつけがなっていない犬を叩いて何が悪い」
そう言い捨て、周囲に睨みをきかせている。
自分の王太子としての立場が、
ゆるぎないものだと知っているからだ。
どんなに人から嫌われようと、憎まれようと
この国の次期国王は俺なのだ……と。
今、カーロスの中にあるのは、
ステラが自分に反抗したことに対する激しい怒りだけ。
「ふざけるなよ! 馬鹿にしおって!
光属性という以外、なんの取り柄もない女の分際で!」
「そうお思いでしたら、何故私をお選びになったのでしょう?」
「馬鹿か、お前は! 王命に反することなぞ出来るものか!
……俺にはもっと、ふさわしい女がいたのに!」
そう言ってエリザベートを見る。
エリザベートはそんな彼を軽蔑した目で見ながら言う。
「国王に命じられたからと決めるなど……
自分の意志も見せられないほど、
王太子の立場とは弱いものなのでしょうか?」
その言葉と態度に焦った王太子は、
あわてて取り繕うように叫ぶ。
「べ、別に俺の立場は弱くはない!
あの時はどうでも良いと思っただけだ!
こんな決定、いくらでも覆すことができる!」
……よし、良い流れだ。
ゴホン。
緑板を持ったフィオナが咳をする。
するとエリザベートの緑板から
”ステラの咳”が聞こえた。
ステラはあわてて、ワンテンポ遅れて咳をする仕草をする。
実は、さっきからの王太子に対する”強気な物言い”は、
全てフィオナが話していたのだ。
その声をステラの声に変換させて通話し、
エリザベートが隠し持っている緑板から流していただけだ。
ずっと王太子からの暴力を受けていたステラに、
あのような反抗ができるわけがない。
だから代わりにフィオナが、”吹き替え声優”として演じているのだ。
”ステラの中の人”であるフィオナは、
急に悲し気な声でつぶやいた。
「私から王太子妃の地位を奪うおつもりですか?
今までどんな扱いを受けても、
私は必死に耐えてきたというのに……」
コイツの前では、真の望みと反対の事を言うのだ。
王太子妃の座に執着しているように見せなければならない。
王太子はフン、と鼻で笑い、ニヤニヤしながら答えた。
「お前の代わりなどいくらでもいるからなあ。
俺の言うことを聞かぬ妃など要らぬわ!」
フィオナはここが押しどきだ! と思ったのか、
急に生意気な口調に変わって宣言したのだ。
「えー、そうなのですか? 確かにご命令には従いかねますわ。
乗馬も釣りも大好きですし、剣や武術も嗜んで、
魔獣討伐にも挑戦してみたいですわ!
これからは走り回り、飛び上がり……池で泳ぐのですっ!」
……落ち着け、フィオナ。
それは貴族の女性としてはやり過ぎだろう。
案の定、エリザベートの背後でステラの肩が震えていた。
だが、その””脱・エレガント宣言”を聞き、
王太子はとうとうキレたのだ。
「離縁だ! お前とは離縁してやる!
今すぐ、ここから出て行け!」
公衆の面前で、王族が宣言したのだ。
すかさずフィオナが返事をしようとした時。
「はい。私など王太子様にはふさわしくありません。
今日を持って王太子妃を退きたいと存じます」
ステラ自身がエリザベートの背後から顔を出し、
初めて王太子に言い返したのだ。
彼女と目が合った王太子は一瞬、動揺を見せた。
離縁が現実化すれば、国王の怒りを買うのは間違いない。
「ま、まあ父上にまずはお伺いを立てねばならんが……」
”結局、自分の意見は無いのかよ”
ここにいる全員が思っただろう。
その時。
「その必要はありませんわ。今すぐ離縁しなさい」
王妃が現れて言う。
……案の定、出てきやがったか。
俺はあの後、彼らがどうなったか緑板で調べた。
発作が収まった王妃を国王は見舞い、
母上の遺品を手元に置く理由を語ったらしい。
あの弓が強い光属性を持っていることや
ステラの力は頼りなく、また祭事の代わりをさせるのも
そろそろ限界であることを。
さらに国王は、俺の王位継承権を復活させた理由も明かした。
”ただの貴族ではない、王位継承権を持つ者を、
民衆に断罪させなくては意味が無いのだ”、と。
そうでなくては、たまりに溜まった王族に対する
国民の不満は解消されないだろう……そう説明したのだ。
”一度は安心し、喜んだレオナルドが
絶望し惨めな死を迎えるところを見たくはないか?”
そう言って国王は哂い、王妃は歓喜し笑顔でうなずいた、
緑板の検索結果にあった。
つくづくアイツらは、本当に残酷で、卑劣だ。
俺は別に王族の仲間入りなどしたくはないが、
国王が一瞬見せた、父親のような顔に動揺したのは事実だ。
もし母上を思い出すことによって、
俺を再び息子の一人だと思ったのなら
……倒しにくいではないか。
まあ相手がその気なら、思う存分、こちらもできるけどな。
「それでは、手続きをすぐに始めなさい。
ステラ、貴女は国外追放といたします。
……彼女を助ける者もまた同罪とします」
そう言って俺やエリザベートを見る。
念には念を入れた意地の悪さには呆れるが、
こちらも念には念をいれた作戦を練ってあるのだ。
着の身着のまま追い出されると知り、
貴族の令嬢たちは小さな悲鳴をあげ、
ステラは悲し気にうつむく。
そしてステラは王妃と王太子に向かって礼をする。
「至らぬ者で申し訳ございませんでした。
……それでは失礼いたします」
侍従とともにステラが去って行く。
念のため、隠れていたジェラルドが彼女についていった。
カーロスは憮然とそれを見送っていたが、
突然嬉しそうに、振り返ってエリザベートに叫んだ。
「さあ、新しい王太子妃を探さなくてはな!
もっと美しく、この国の力になる者を!」
エリザベートは面倒くさそうに横を向いて言う。
「良い方が見つかるよう、お祈りしておりますわ」
それを聞き、カーロスはニヤニヤしながら彼女に近づく。
「すぐに見つかると思うぞ?
俺にふさわしい女など、限られているからな!」
するとエリザベートは薔薇のような笑顔を見せた。
それを勘違いしたカーロスは顔を赤らめ、
笑顔で彼女に手を差し出した。
それを丸無視してエリザベートが言い放つ。
「まあ、私は今回、全ての種目で一番ですし。
ステラ様の比ではないほど暴れまわりましたから。
最も王太子妃には、ふさわしくない娘ですわね」
手を伸ばしたまま王太子は何も言えずに固まる。
ステラを追放した理由がそれである以上、
もっと”お転婆”な娘を選ぶのは矛盾しているからだ。
「”決して走らず優雅に歩け、姿勢正しく座れ”?
私には絶対に無理ですわ。守るつもりもございません」
ハッキリと言い切ったエリザベートに対し、
王太子はあごをひき、ぐぬぬ……固まっている。
見守る令息や令嬢から失笑が漏れ始めていた。
「本当にそのとおりね。男のように走り回った挙句、
汗まみれで髪も乱れて……なんとみっともない。
そのような女に、王太子妃が務まるわけはないでしょう」
王妃は汚いものを見るように、彼女に言った。
そんな母親を悲しそうに、カーロスが見ている。
王妃としては、公衆の面前で自分の息子が
手厳しくフラれるほうが耐えられないのだろう。
さらに王妃は全体を見渡して言い放った。
「このような、くだらぬ催しは今すぐにおやめなさい。
大庭園だけでなく、この国内において、
全ての集まりや遊戯を禁じます」
若い令息や令嬢から不満の声が上がった。
ローマンエヤール家の侍従が跪いて述べた。
「恐れながら申し上げます。
クリケットや釣りは”貴族の嗜み”ともいえるものでございます。
また交流の機会も必要であり……」
「それを禁ずると言ったのよ?
そのような”嗜み”など無くても問題ないでしょう。
交流の機会など良からぬ企みの元になりますわ」
そう言って俺をにらみつけた。
「さあ、カーロス。自室に戻りなさい」
「……はい。母上」
カーロスはちらりとエリザベートを見たが、
しぶしぶと城に向かって歩き始めた。
王妃も彼の後を追うように去って行く。
その姿を、その場の全員が身をかがめながら見送った。
彼らが遠ざかった後、俺たちは笑顔で向き合った。
エリザベートは先ほどの王妃の言葉を気にしたのか
恥じるように目をそらし、必死に身なりを整え始める。
俺は汗まみれの彼女を引き寄せる。
そして目を見張って驚く彼女に言った。
「クズ王子にはもったいないほどの令嬢だ」
俺を眩しそうに見つめる彼女を、ぎゅっと抱きしめる。
令息の口笛、令嬢たちからはため息交じりの歓声が聞こえる。
照れ臭そうに身を離すエリザベートから、ふと視線を逸らす。
……俺は気付く。離れた場所で王妃が、俺たちを見ていたことを。
あごを引き、吊り上がった目で睨みつけ
口は何かの痛みに耐えるかのように真一文字にひきしめている。
凄まじい形相で王妃は、俺たちを凝視していたのだった。
************
「それでは、本当にお世話になりました」
フィオナに体の傷を癒され、
すっかり元気になったステラは
荷物をいっぱい積んだ馬車の前に立っている。
彼女はあの後、チュリーナ国の聖職者たちが
王城の門のところまで迎えに来てくれる算段となっており
ジェラルドが無事に彼女を引き渡してくれた。
大事なものや当座の資金、着替えなどは
先んじて運び出しておいた。
ステラはそれを持って、他国の聖職者たちとともに、
この国から出て行くことになる。
それを妨害する権利は、王妃にはないのだ。
特に大司教が魔物だったこの国は、
世界中の教会から非難と疑惑の視線を集めている。
刺激したくない、と思うのが本音だろう。
「結局、選んだのはチュリーナ国ですか」
ジェラルドの問いにうなずきながらステラは言った。
「チュリーナ国のほうが、素敵な方に出会えそうな気がして」
やっぱりコイツは恋愛体質らしい。
まあ、自分が幸せになる基準を大事にするのは当然のことだ。
俺は彼女に言う。
「チュリーナ国がダメだったら、ガウールに行くのでも良い。
貴女はもう、どこにだって行ける」
彼女は困った顔で笑い、うなずいた。
「やれるかどうかはわかりませんが、
自分が幸せになれるように努力いたします」
彼女を見送った後、俺たちは顔を見合わせる。
「これで国王の側に、光の属性を持つ者はいなくなったわね」
俺はうなずいて笑う。
「母上のあの弓があれば大丈夫、王族はそう思ってるんだろう。
まあ、そう思わせたのはこっちだけどな」
実はあの弓が放つ魔力は、本来微弱なものだ。
俺が補助魔法で最大級に増幅し、
定期的にかけなおすことで継続しているだけなのだ。
だから俺がそれを止めたとたん、
祭事で使えるほどの魔力は得られなくなるだろう。
それだけではない。
王族に対する不信感や不快感は、
もはや民衆だけのものではなかった。
俺が何かすれば、王妃や王太子が禁ずるのは分かっていた。
楽しむことを禁じられ、貴族の不満も益々増長するだろう。
そしてカーロスも王妃もまだ理解していないようだが
理不尽な暴力を受けただけでなく、
反論しただけで、何も持たされずに国外追放されるのだ。
誰があいつに嫁ぎたいと思うだろう。
こうやって少しずつ、この国のパワーバランスを変化させていくのだ。
悲惨な未来をリライトするために。
初めて自分に反抗してきた王太子妃ステラに対し
激怒した王太子カーロスは、
”体罰をする”と脅そうとしたのだ。
しかし小声で言ったはずの恐喝は、
エリザベートが隠し持った魔道具にその音声を拾われ、
ここに集まった人々全員に聞かれてしまった。
「……やっぱり、噂は本当でしたのね」
「実は俺、見たことあるんだ。手を挙げる瞬間を」
「うちの侍従たちも申していましたわ。
王太子妃の部屋に近づくと、聞こえるのは悲鳴か泣き声だって」
眉をひそめながら、ささやき合う人々。
しかしカーロスは動じていなかった。
「しつけがなっていない犬を叩いて何が悪い」
そう言い捨て、周囲に睨みをきかせている。
自分の王太子としての立場が、
ゆるぎないものだと知っているからだ。
どんなに人から嫌われようと、憎まれようと
この国の次期国王は俺なのだ……と。
今、カーロスの中にあるのは、
ステラが自分に反抗したことに対する激しい怒りだけ。
「ふざけるなよ! 馬鹿にしおって!
光属性という以外、なんの取り柄もない女の分際で!」
「そうお思いでしたら、何故私をお選びになったのでしょう?」
「馬鹿か、お前は! 王命に反することなぞ出来るものか!
……俺にはもっと、ふさわしい女がいたのに!」
そう言ってエリザベートを見る。
エリザベートはそんな彼を軽蔑した目で見ながら言う。
「国王に命じられたからと決めるなど……
自分の意志も見せられないほど、
王太子の立場とは弱いものなのでしょうか?」
その言葉と態度に焦った王太子は、
あわてて取り繕うように叫ぶ。
「べ、別に俺の立場は弱くはない!
あの時はどうでも良いと思っただけだ!
こんな決定、いくらでも覆すことができる!」
……よし、良い流れだ。
ゴホン。
緑板を持ったフィオナが咳をする。
するとエリザベートの緑板から
”ステラの咳”が聞こえた。
ステラはあわてて、ワンテンポ遅れて咳をする仕草をする。
実は、さっきからの王太子に対する”強気な物言い”は、
全てフィオナが話していたのだ。
その声をステラの声に変換させて通話し、
エリザベートが隠し持っている緑板から流していただけだ。
ずっと王太子からの暴力を受けていたステラに、
あのような反抗ができるわけがない。
だから代わりにフィオナが、”吹き替え声優”として演じているのだ。
”ステラの中の人”であるフィオナは、
急に悲し気な声でつぶやいた。
「私から王太子妃の地位を奪うおつもりですか?
今までどんな扱いを受けても、
私は必死に耐えてきたというのに……」
コイツの前では、真の望みと反対の事を言うのだ。
王太子妃の座に執着しているように見せなければならない。
王太子はフン、と鼻で笑い、ニヤニヤしながら答えた。
「お前の代わりなどいくらでもいるからなあ。
俺の言うことを聞かぬ妃など要らぬわ!」
フィオナはここが押しどきだ! と思ったのか、
急に生意気な口調に変わって宣言したのだ。
「えー、そうなのですか? 確かにご命令には従いかねますわ。
乗馬も釣りも大好きですし、剣や武術も嗜んで、
魔獣討伐にも挑戦してみたいですわ!
これからは走り回り、飛び上がり……池で泳ぐのですっ!」
……落ち着け、フィオナ。
それは貴族の女性としてはやり過ぎだろう。
案の定、エリザベートの背後でステラの肩が震えていた。
だが、その””脱・エレガント宣言”を聞き、
王太子はとうとうキレたのだ。
「離縁だ! お前とは離縁してやる!
今すぐ、ここから出て行け!」
公衆の面前で、王族が宣言したのだ。
すかさずフィオナが返事をしようとした時。
「はい。私など王太子様にはふさわしくありません。
今日を持って王太子妃を退きたいと存じます」
ステラ自身がエリザベートの背後から顔を出し、
初めて王太子に言い返したのだ。
彼女と目が合った王太子は一瞬、動揺を見せた。
離縁が現実化すれば、国王の怒りを買うのは間違いない。
「ま、まあ父上にまずはお伺いを立てねばならんが……」
”結局、自分の意見は無いのかよ”
ここにいる全員が思っただろう。
その時。
「その必要はありませんわ。今すぐ離縁しなさい」
王妃が現れて言う。
……案の定、出てきやがったか。
俺はあの後、彼らがどうなったか緑板で調べた。
発作が収まった王妃を国王は見舞い、
母上の遺品を手元に置く理由を語ったらしい。
あの弓が強い光属性を持っていることや
ステラの力は頼りなく、また祭事の代わりをさせるのも
そろそろ限界であることを。
さらに国王は、俺の王位継承権を復活させた理由も明かした。
”ただの貴族ではない、王位継承権を持つ者を、
民衆に断罪させなくては意味が無いのだ”、と。
そうでなくては、たまりに溜まった王族に対する
国民の不満は解消されないだろう……そう説明したのだ。
”一度は安心し、喜んだレオナルドが
絶望し惨めな死を迎えるところを見たくはないか?”
そう言って国王は哂い、王妃は歓喜し笑顔でうなずいた、
緑板の検索結果にあった。
つくづくアイツらは、本当に残酷で、卑劣だ。
俺は別に王族の仲間入りなどしたくはないが、
国王が一瞬見せた、父親のような顔に動揺したのは事実だ。
もし母上を思い出すことによって、
俺を再び息子の一人だと思ったのなら
……倒しにくいではないか。
まあ相手がその気なら、思う存分、こちらもできるけどな。
「それでは、手続きをすぐに始めなさい。
ステラ、貴女は国外追放といたします。
……彼女を助ける者もまた同罪とします」
そう言って俺やエリザベートを見る。
念には念を入れた意地の悪さには呆れるが、
こちらも念には念をいれた作戦を練ってあるのだ。
着の身着のまま追い出されると知り、
貴族の令嬢たちは小さな悲鳴をあげ、
ステラは悲し気にうつむく。
そしてステラは王妃と王太子に向かって礼をする。
「至らぬ者で申し訳ございませんでした。
……それでは失礼いたします」
侍従とともにステラが去って行く。
念のため、隠れていたジェラルドが彼女についていった。
カーロスは憮然とそれを見送っていたが、
突然嬉しそうに、振り返ってエリザベートに叫んだ。
「さあ、新しい王太子妃を探さなくてはな!
もっと美しく、この国の力になる者を!」
エリザベートは面倒くさそうに横を向いて言う。
「良い方が見つかるよう、お祈りしておりますわ」
それを聞き、カーロスはニヤニヤしながら彼女に近づく。
「すぐに見つかると思うぞ?
俺にふさわしい女など、限られているからな!」
するとエリザベートは薔薇のような笑顔を見せた。
それを勘違いしたカーロスは顔を赤らめ、
笑顔で彼女に手を差し出した。
それを丸無視してエリザベートが言い放つ。
「まあ、私は今回、全ての種目で一番ですし。
ステラ様の比ではないほど暴れまわりましたから。
最も王太子妃には、ふさわしくない娘ですわね」
手を伸ばしたまま王太子は何も言えずに固まる。
ステラを追放した理由がそれである以上、
もっと”お転婆”な娘を選ぶのは矛盾しているからだ。
「”決して走らず優雅に歩け、姿勢正しく座れ”?
私には絶対に無理ですわ。守るつもりもございません」
ハッキリと言い切ったエリザベートに対し、
王太子はあごをひき、ぐぬぬ……固まっている。
見守る令息や令嬢から失笑が漏れ始めていた。
「本当にそのとおりね。男のように走り回った挙句、
汗まみれで髪も乱れて……なんとみっともない。
そのような女に、王太子妃が務まるわけはないでしょう」
王妃は汚いものを見るように、彼女に言った。
そんな母親を悲しそうに、カーロスが見ている。
王妃としては、公衆の面前で自分の息子が
手厳しくフラれるほうが耐えられないのだろう。
さらに王妃は全体を見渡して言い放った。
「このような、くだらぬ催しは今すぐにおやめなさい。
大庭園だけでなく、この国内において、
全ての集まりや遊戯を禁じます」
若い令息や令嬢から不満の声が上がった。
ローマンエヤール家の侍従が跪いて述べた。
「恐れながら申し上げます。
クリケットや釣りは”貴族の嗜み”ともいえるものでございます。
また交流の機会も必要であり……」
「それを禁ずると言ったのよ?
そのような”嗜み”など無くても問題ないでしょう。
交流の機会など良からぬ企みの元になりますわ」
そう言って俺をにらみつけた。
「さあ、カーロス。自室に戻りなさい」
「……はい。母上」
カーロスはちらりとエリザベートを見たが、
しぶしぶと城に向かって歩き始めた。
王妃も彼の後を追うように去って行く。
その姿を、その場の全員が身をかがめながら見送った。
彼らが遠ざかった後、俺たちは笑顔で向き合った。
エリザベートは先ほどの王妃の言葉を気にしたのか
恥じるように目をそらし、必死に身なりを整え始める。
俺は汗まみれの彼女を引き寄せる。
そして目を見張って驚く彼女に言った。
「クズ王子にはもったいないほどの令嬢だ」
俺を眩しそうに見つめる彼女を、ぎゅっと抱きしめる。
令息の口笛、令嬢たちからはため息交じりの歓声が聞こえる。
照れ臭そうに身を離すエリザベートから、ふと視線を逸らす。
……俺は気付く。離れた場所で王妃が、俺たちを見ていたことを。
あごを引き、吊り上がった目で睨みつけ
口は何かの痛みに耐えるかのように真一文字にひきしめている。
凄まじい形相で王妃は、俺たちを凝視していたのだった。
************
「それでは、本当にお世話になりました」
フィオナに体の傷を癒され、
すっかり元気になったステラは
荷物をいっぱい積んだ馬車の前に立っている。
彼女はあの後、チュリーナ国の聖職者たちが
王城の門のところまで迎えに来てくれる算段となっており
ジェラルドが無事に彼女を引き渡してくれた。
大事なものや当座の資金、着替えなどは
先んじて運び出しておいた。
ステラはそれを持って、他国の聖職者たちとともに、
この国から出て行くことになる。
それを妨害する権利は、王妃にはないのだ。
特に大司教が魔物だったこの国は、
世界中の教会から非難と疑惑の視線を集めている。
刺激したくない、と思うのが本音だろう。
「結局、選んだのはチュリーナ国ですか」
ジェラルドの問いにうなずきながらステラは言った。
「チュリーナ国のほうが、素敵な方に出会えそうな気がして」
やっぱりコイツは恋愛体質らしい。
まあ、自分が幸せになる基準を大事にするのは当然のことだ。
俺は彼女に言う。
「チュリーナ国がダメだったら、ガウールに行くのでも良い。
貴女はもう、どこにだって行ける」
彼女は困った顔で笑い、うなずいた。
「やれるかどうかはわかりませんが、
自分が幸せになれるように努力いたします」
彼女を見送った後、俺たちは顔を見合わせる。
「これで国王の側に、光の属性を持つ者はいなくなったわね」
俺はうなずいて笑う。
「母上のあの弓があれば大丈夫、王族はそう思ってるんだろう。
まあ、そう思わせたのはこっちだけどな」
実はあの弓が放つ魔力は、本来微弱なものだ。
俺が補助魔法で最大級に増幅し、
定期的にかけなおすことで継続しているだけなのだ。
だから俺がそれを止めたとたん、
祭事で使えるほどの魔力は得られなくなるだろう。
それだけではない。
王族に対する不信感や不快感は、
もはや民衆だけのものではなかった。
俺が何かすれば、王妃や王太子が禁ずるのは分かっていた。
楽しむことを禁じられ、貴族の不満も益々増長するだろう。
そしてカーロスも王妃もまだ理解していないようだが
理不尽な暴力を受けただけでなく、
反論しただけで、何も持たされずに国外追放されるのだ。
誰があいつに嫁ぎたいと思うだろう。
こうやって少しずつ、この国のパワーバランスを変化させていくのだ。
悲惨な未来をリライトするために。
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追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
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