【完結】吉祥天姫~地味な無能と馬鹿にしてますが実は完全無敵のラッキーガールです。悪意は全部跳ね返し最強のイケメンに溺愛されてます~

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第二章

33 退学命令

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 いくら努力を重ねても、終わりが見えない辛さ。
 それをひた隠しにしていたセーランを
 アイレンはねぎらい、その身を案じただけなのだが。

 後ろから現れたセーランの乳母は、
 怒りを隠さずアイレンを怒鳴りつける。

「責務を放り出すよう、姫様をいざなうなど
 東王門家に対する謀反にほかなりません!」

 アイレンは少し驚いたが、すぐに頭を下げて答える。
「そのようなことは一言も申しておりません。
 ただ誤解を招いてしまったことは、
 深くお詫びいたします」

 その場にいる、セーランを含む全員が、
 困惑したまま見ていた。

 しかしジュアンが心配そうに口を挟む。
「恐れながら申し上げます。アイレンはただ、
 セーラン様の御身を気遣って述べたまでです。
 舞踊の稽古の際、倒れかけたこと、
 皆が心配しておりましたので」

 ”心配した理由”まで添えることで、
 アイレンの発言の正当性を主張したのだ。
 案の定、他の女生徒も深くうなずいている。

「……姫様が、倒れかけたですって?
 そのようなこと、聞いておりませんが?」
 そして責めるような目でセーランを見た。

「心配させると思って……」
 ひるみながらもセーランが返すと、
 乳母は眉間にしわを寄せて責め立てる。

「不調を表に出すなど、未来の王妃として
 あり得ぬ様でございます!
 ましてや、このような下位の者たちに気遣われるなど!」
 傲慢な物言いに、女学生たちが不快な表情をする。

「私が至らなかったわ……これからは気をつけます。
 だからもう、この話は終わりにしましょう」
 クラスメイトたちの出す冷ややかな空気を察し
 この場をなんとか治めるためにセーランが懇願する。

 それでも乳母は、アイレンを見据えて怒鳴り散らした。
「下賤の者の心配など、何の役にも立ちません。
 この方はお前などとは違うのよ。
 大国の妃になられる、尊いお方なのです。
 下らぬ進言で、姫様の努力を無にするなど無礼千万」

 アイレンはセーランを気遣うように、さらに詫びた。
「確かに私が姫様のお力になれることなどございません。
 貴く、また責務に誠実で素敵な方だというのも
 十分に承知しております」

 しかしアイレンにしてはめずらしく強い口調で訴えたのだ。
「セーラン様が努力をして得たものは全て、
 私だけでなく誰にも奪えず、無にすることなどできません。
 そんなことが出来るのは”病”や”心痛”くらいのものでしょう」

 つまり、病気や精神的な疲労こそ、
 セーランの努力を無にする可能性がある、と告げているのだ。
 その場にいた誰もが納得したが。

「黙れ! 姫様が軟弱だと申したな?!
 この無礼者め! 我ら東王門家に逆らうつもりか!」
 乳母は見下している華族の娘の反論を、
 権力を行使して押さえつけようとしたのだ。

 アイレンは静かに、首を横に振った。
「そのようなお話、この場の誰もしておりません。
 ……これ以上はセーラン様に申し訳が立ちません。
 重ねてお詫び申し上げます故お許しください」

 しかし乳母は引かなかった。
 セーランに”遊べ”だの”休め”だの言い出す人間が
 二度と現れないようにしなくてはならないから。

 唇の端をニヤリと上げ、乳母は言い放った。
「では命じます。お前は即刻、この学校から去りなさい」
 女生徒の間から悲鳴が上がった。
 あまりにも理不尽だが、四天王家に逆らえるはずもない。

 アイレンは頭を下げ、静かに答えた。
「東王門家からそのような命を受けた旨、
 しかと承知いたしました」

 勝ち誇った顔で見下す乳母と、
 焦ってオロオロするが何も言えないセーラン。
 彼女は今まで乳母に逆らったことなどないのだ。

 そんな二人に対し、アイレンは冷静に言葉を続ける。
「ただ、私の今後につきましては、
 学校長と両親とご相談し、決定させていただきます。
 その結果、御意向に添えぬ場合はお詫び申し上げます」

 目を見開いた乳母が何か言う前に、
 今度はジュアンが淡々と述べた。

「帝都の審議会や法律院にもご相談しなくては。
 学校の随所にある防犯用魔道具を提出すれば、
 経緯をいろんな方に確認していただけるわ」
 彼女は相手が誰であろうと、常にアイレンの味方だ。

「何ですってえ!? が、学校長は……ともかく
 お前の両親は四天王家に逆らう訳がないでしょう!」
「いいえ、私の両親は論理的に物事を考えますので」

 理不尽な言いがかりなどに屈するわけがない、
 言外にそれを察し、乳母は激昂する。
「お前はどこの家の娘よ! 正直に言いなさい!」

「天満院と申します」

 それを聞き、さすがに乳母は絶句する。
 簡単につぶせる相手だと思っていたら、
 思いのほかやっかいな相手だと知ったのだ。

 それに学校長や法律院まで出てきたら、
 東王門家と言えども不利には違いない。
 乳母は悔しさと焦りに震え、黙り込む。

 その時、凛とした声が響いた。

「いい加減になさい、あなた方。
 四天王家の名をこれ以上けがさないで欲しいわ」

 離れた場所から侍従を引き連れ、
 南王門家のアヤハ姫が足早に歩いてくる。
 その顔は侮蔑と怒りに染まっていた。

「違うのです! この者がセーラン様に対し無礼を……」
 乳母は慌ててその場をごまかそうとした。
 しかしアヤハは露骨に嫌な顔をして片手をふり、
「最初から”上”で聞いていたわ。
 すぐに止めたかったけど、のに時間を要したのよ」

 乳母だけでなく、全員が驚愕する。

 南王門家の象徴は”朱雀”だ。
 その直系は鳥へと変化へんげできる。
 アヤハはちょうど飛んでいたのだろう。

 気まずさに黙り込む乳母にではなく、
 アヤハはセーランに向かい、強い口調で叱責した。
「貴女があの場を収めずに誰がすると言うの?
 四天王家が民を守らず害を成すなど
 呆れてものが言えないわ!
 それも、自分の身を気遣うものを排そうなどとは!」

「……本当にそのとおりね。申し訳ないわ」
 セーランはポロポロと涙をこぼす。
 彼女自身は本来、とても礼儀正しく真面目な人間だった。

 姫が糾弾され、乳母は必死にアヤハに訴える。
「姫様は何も、おっしゃってはいなかったじゃありませんか!
 あの娘が、私を誤解させるような物言いをするから……」

 するとアヤハは乳母をチラリとも見ずに言い捨てる。
「黙りなさい。
 最初から聞いていたと言ってるでしょう。
 彼女は何一つ、誤解を招くようなことは言ってないわ」

「ええ、そうね。本当にごめんなさい、アイレン様。
 ……気遣っていただけて、本当に嬉しかったわ」
 その言葉を聞き、アイレンは
 胸がしめつけられるような気持ちになる。
 彼女はとても優しい人で……
 そして本当に疲れ果てているのだ、と思って。

 アヤハもそれはわかっているようで、
 口調をゆるめてセーランに語り掛ける。
「家門にとって”良い娘”でいるだけでは
 民人は守れないわ。
 私たちは自分で判断して、動かねばならないの」

 四天王家は常に戦場に居る。
 世に溢れかえる悪鬼や妖魔と戦う日々において
 優先すべきは常に一般の人々の命や暮らしだ。

「大変恐れ入りますが……」
 騒ぎを聞きつけた学校の職員が、
 遠慮がちに乳母へと話しかけている。

 ここまで状況が露見している以上、
 アイレンを退学に追い込むことはおろか、
 東王門家にとって不名誉なことになりかねない。

「あらあ、お騒がせしてしまって申し訳ないわ。
 いえ、違うんです、ほんのちょっとの行き違いで……」
「私たちが詳しくご説明させていただきます」
 アヤハの侍従たちが、はっきりと申し出てくる。

 そして職員は彼らと、青い顔をした乳母を連れて行った。
 それを心配そうに見ているセーランに、
 アヤハが小さな声で尋ねた。

「セーラン、大切な事だから答えて。
 北王門家との婚約の話は、御父君から聞いたの?」
 急に何の話か、と困惑しながらもセーランは答えた。
「えっ? それは……まだ内密だから……」
 そして小声で答える。

 アヤハは眉をひそめ、やっぱり、と納得する。
 セーランはその情報を、乳母からしか聞いていないのだ。

 アヤハは少し考え込んだ後、意を決したように言う。
「出来るだけ早く、御父君に連絡を取るのよ。
 貴女は自分の婚姻について、
 詳しく知っておく必要があるわ」

 セーランはあっけに取られつつ、うなずく。

 しかし同時に抵抗を感じていた。
 自分は父に、疎まれていると感じていたからだ。

 何故なら、すでに”朱雀の力”を駆使できるアヤハと異なり
 セーランはいまだに、東王門の象徴である”龍”の力を
 具現できずにいたからだ。

 ”とりあえず、乳母に相談してみましょう。
 連絡や必要な準備は、
 乳母が全部やってくれているのだから”

 先ほどアヤハに”自分で考えて動くこと”
 の重要性を説かれたにも関わらず
 セーランは間違った選択をしてしまったのだ。



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