1 / 10
プロローグですか?
しおりを挟む
「ようこそおいでくださいました、勇者さまっ」
暗闇から弾んだ声が飛んでくる。
これは異世界召喚だ……よな?
足元が光始めた時から、覚悟は決めていた。けれど、いざ転移してみると、やっぱり何というかこみ上げて来るものがある。
淡く輝く小粒が、空気中を舞っている。何度見ても、幻想的だ。
俺は出所を探るべく、目線を下に落としていった。
それらは、床に描かれた魔法陣から発せられているようで、この部屋唯一の明かりでもある。
部屋全体が薄暗い。
上に行くほどその濃さが増す。天井がどこにあるか見当が付かない。
これ以上見る物はないな――と上がった顎を引っ込めて、再び視線を足元に向けた。
目に飛び込んで来たのは、悪寒を誘う置物の数々。改めて見渡すと、あちこちに散布されている。召喚魔法の触媒的な役割を担っているんだな、きっと。
そして、……俺を含めて五人いる。
慌てる声と様子から、俺と同じく召喚された側だと考えていい奴らだ。
そうかそうか。……なら任せてもいいよな。
幸運なことに辺りは暗く、逃げるには絶好の機会となっている。
俺は慎重な足取りで、出口へと近づいていった。
「えっと、えっと。ありましたっ」
活発な声が響き、俺の野望はいとも簡単に瓦解する。
理由は単純、部屋の明かりがついたから。
光を放つ魔法道具が、俺たちを等しく照らし始めた。
全くもうちょっと探してろよ。
俺の側で魔法道具へと魔力を注ぐ金髪の少女。
目が合った。
「こんにちわ。勇者さまっ」
「……お前かっ」
声色から察するに、さきほど聞こえた声は彼女があげたものだろう。
ありましたとは魔法道具を見つけたということか。
顔も見られてしまったし、こうなったら逃亡は諦めるしかない。
やれやれ。俺は後ろを振り返る。
そして――。
「まじかよ」
――ついぼっとんと口から驚愕を落としてしまった。
彼・彼女半々の四人。人数は増えても、減ってもいない。
されど、部屋が明るくなったことにより、俺は新たな情報の入手に成功したためにだ。
服が違ぇ。
今の俺は、相当空気の読めない存在になっている。
俺が着ているのは、芦品高校指定の全体的に青ががった制服。まあ、学内で召喚されたんだから当然か。
しかし、他の四人の制服(ということにしておこう)は、まず青がない。黒色をベースにして、赤色の縦ラインが入っているという――明らかに俺とは別物だ。
おいおい。一対四とか始末悪すぎだろっ。
「あれれ。人数が多いです?
勇者は三人のはずですけど」
召喚した側も不測の事態に陥っているらしい。
声の主は件の少女だ。艶のある金色の長髪を振り乱して、慌てふためいている。清楚というよりはお転婆オーラを否めない。が、おそらく俺たちを召喚した国の姫様なんだろうな。
服とか装飾品とか豪勢だし。
しっかりしてくれよ。
これじゃあ、完全に俺が仲間外れになるじゃん。……いや待て。これはチャンスなんじゃないか?
仲間外れになれば、合法的に勇者の任を下りられる。
これぞ逆転の発想。
ならば、やることは一つだ。
「すみませ~ん。どうすれば~いいのでしょう~か?」
「はい!
ステータスと唱えてみてくださいですっ」
俺は、オーケストラ涙目の美声をかました。
さらに身振り手振りを加えて、存在感をアピールする。
結果、何それ美味しいの?
と、見ての通りに惨敗だ。
可笑しい。一目で俺が変だとわかるだろっ。
それにこんな奇行に走るやつと一緒に居たくないよな。っな?
【ステータス】
仕方ない。ため息交じりの詠唱を行う。
無機質な画面が現れた。
《和田修平 男 十六歳(爆笑)
現在の職業:すぐれた勇者
元枠:英雄王。ダンジョンマスター。商人。etc.
魔法欄:やってやれないことはない!
特殊能力:考えるな、感じろ》
……。
…………。
…………………。
ふーん。だから、嫌だったんだよ!!
「おい。何も起きねぇぞ」
「どうなってんだ?」
二人が喚いている。口調・音程から男だろうな。
俺は自分のステータスを隠すように隅の方へ移動したから、はっきりと断定はできないけども。
どうやらステータスを上手く起動できないらしい。
うん?
そういえば――言葉に魔力を込める、詰まるところ詠唱にはコツがいるんだっけ?
できなくて当たり前か。失敗したかもしれない。
くそ。誰かと一緒に召喚されたのは、これが初めてだからな。それにもはや俺の中では、慣れた行為になっちゃっているし。
あの妬ましい過去が、溢れかえってくる。
この際、はっきりいおう。俺は自分が巻き込まれだなんて……微塵も思っていなかったよ。
====== ====== ======
「突然ですが、貴方には英雄の才能が有るんです!!
その力を生かすため、異世界へと召喚されてみませんか」
「……そうですか……」
目の前で、自称女神が口を動かしている。
英雄の才能があるから、異世界召喚……おいおい最高かよ。
異世界なんて全人類共通のユメ……本当に夢じゃないよな?
頬を抓ると、普通に痛かった。
飛び上りたい気持ちで一杯だったが、必死に抑え込む。
そっけない風を装った。
「裏表を使い分ける、その態度っ。商人の適性もあるようです」
「えっ?
普通に育った文明人なら誰でも可能なことだと思いますが。それに商人には」
ばっちり見抜かれていたらしい。
商人に格下げされてしまう。
そんなことさせてたまるかっ。英雄の方が断然いい。
俺は慌てて、強めの拒絶にのりだした。
「はい、神への反抗頂きました!
魔王でも大丈夫そうですね」
「ええっと」
「安心して魔神も任せられます」
なぜか万華鏡のごとく切り替わっていく俺のセカンドライフ。どんなリアクションを起こしても、抑えることはできなかった。
吟遊詩人や盗賊などといった、マイナーなものも挟みながら、話は進んで行く。
「なるほどっ。ダンジョンマスターもお願いできると上に伝えておきましょう」
「…………」
疲れた。反応する気力が起きず、黙りこくる。
「それではそろそろいいですか?」
「はい。やっとか」
職業選択スロットは、ダンジョンマスターで止まった。
英雄に比べると、……考えるのはよそう。
自作ダンジョンで、ゆったりとした生活。うん、ありだ。
「それではいってらっしゃい!
まずは英雄からお願いします」
「えっ。どういうこと?」
驚きが、止まっていた俺の活力タービンをフル回転させる。
だが考える暇もなく、相手から答えが飛んできた。
「勘違いしているようですが、全部ですよ」
「……マジ?」
「はい大マジです。それもいいですがーーと言ってくれたじゃないですか?」
そうじゃねぇよ。確かに言ったけどもっ。
それは英雄の方がいいなってことで、○○もやりたいって意味じゃない。
「違」
「宜しくお願いします」
声を荒げ……できない。
俺の意識が重く、深くへと沈んでいった。
目を開けると、――そこには美少女がいた。
それから俺の召喚ラッシュが始まったんだ。
与えられた指示をこなせば、すぐ新しい職場へと召喚されて、……召喚されて……。
やっと日本に帰ってこれたと思ったんだけど。
何とか落ち着いてきた所、ここに至る。
最悪だ。もう異世界は飽きを通り越して、うんざりなんだよ。
塵積がここにきて、爆発してしまったらしい。
いかんいかん。深呼吸をしよう。
ふ―。さて今はステータス画面に集中するべきだ。
再び目を向ける。
《和田修平 男 十六歳(爆笑)
現在の職業:すぐれた勇者
元枠:英雄王。ダンジョンマスター。魔王。etc.》
まぁ、突っ込みどころ満載なんだけどなっ。
まず年齢で笑われる筋合いはない。確かにもうずっと十六歳のままだけど――。
それは『人の一生ではとうていこなせる仕事量じゃありませんっ。ですのでもうこの際、年齢止めちゃいましょう』ってお前らが言ったからだろ。
ステータスは神が与えた恩恵だったよな?
あれとは違う神さまなのかもしれないが、俺からすれば同罪だ。
それに優れたじゃなくて、はぶられた勇者の方が正しいんじゃないか?
この場で俺を抜擢するとか……ちょっと勘弁してください。
神さま、こたえてよ。
表記もいい加減だし、……これなら誰かに見られても問題ないか?
言うまでもないな。ってことは、ステータス選定の前に退場しなければならない。
仲間外れ感をもっと前面に押し出していくしかないようだ。
「ちっ。どうせ、お前だろ。さっさと薄情しろよ」
「邪魔なんだよ」
「喜んで拝命します」
そんな時、男二人が炙り出しに動いた。
――非常にありがてぇ。気落ちする俺に突き刺さる恵み。
罵倒がこんなに嬉しいなんて、思いもしなかった。さっさとドロンさせていただきます。
ステータス画面を消すと、軽く手を振りながら、出口の方へ歩いて行った。
「無視すんなよ」
「うざ」
何か変だ。俺は満面の笑みでだが、要求にちゃんと応じている。
無視をしているつもりは毛頭ない。
足を止めて、振り向いた俺は事態を正確に理解した。
二人で、女子一人を貶めている模様。顔がこちらに向いていなかった。
いっそここまでくると清々しい。まさかゴーストフラグか?
ゴースト――意外と悪くないな。
自由に過ごせて、誰にも認知されないなら願ってもない。
「さっさと消えろ」
「ははっ、ざまーねーな」
さなか罵詈雑言の弾丸が、少女に放たれ続けている。
標的は整った顔立ちで、背は平均サイズ。サイドテールに結われた黒色の髪が輝いている。四肢は細いが、体型も貧相ということはない。出ている所はしっかりと主張している。
肌の白さも、不健康さを呼び起こすものではない。
誹謗を受けても怯えることなく、彼女からはむしろ凛々しさを感じとれた。黒い瞳は真っすぐに相手を凝視している。
そっと顔の見える位置まで動いた俺。絶賛目を奪われ中だ。
変態かよっ。
助けるべきか?
助けた所で何になる?
そもそも俺助けられるのか?
今さら遅い。
考えるより先に、体が動いてしまった。
俺は彼女を蔑みから守るように、両陣営の間に割って入る。
「……止めた方がいいと思います」
相手は初対面だし、争いは避けたい。
丁寧な言葉遣いになるのは当然だよな。
「何だてめー」
「ってか、こんな奴いたか」
そういえば、――ゴーストルートは消え去ったな。
悔しいけど、今はそれよりもこの美少女。
たとえこの世が美酒逆転世界だとしても、それをさらにひっくり返すだけの魅力が彼女は持っている。
要するに、充実した異世界生活を送れる可能性は十分にある。
それを自覚させなければなるまい。
されど、何を言うべきか。性格は外見だけじゃ判断できないし、強さもわからない。
色々と考える内に、二人がじりじり近づいてくる。
これしかないな。
「彼女は可愛いんだよ」
「…………」
「は?」
「ふざけんな」
俺は強く叫んだ。……言っちゃった。
だが、結果は彼らを煽っただけ。
少女は沈黙を貫き、虐めていた男性二人は怒りむき出しで、接近のスピードを上げる。
数秒後、俺の腹めがけてナックルパンチが発射された。
【与えられたダメージはほとんど魔力に変換されたから安心してちょ。あ、でもちょい待ち。魔力満タンだから、消滅だったわ】
物理攻撃を自分の魔力に変換。
確か……ダンジョンマスターとして召喚された時に受け取った能力と似ている。
もしや、今まで授かってきた魔法・能力が全て使えるのか?
いや、ないな。それなら俺は最強になってしまう。
そんな優しい仕様なはずが無い。
【マジなんですけど――】
俺の脳内に声が響く。
因みにこちらは初仕様だ。
(本当か?)
【そう言ってるし――】
(本当に今までの恩恵全部使えるのか?)
【そうだし――。さっさと消し飛ばしちゃいなよ】
会話もできるよう。
それと最後の物騒なワードについてだが、断じて否だ。
それでも俺の目的は変わらない。
繰り出された拳は、しょうじき全く痛くない。
されど、俺は影に徹すると決めた。もちろん彼女のサポートをするためにだ。
役目を放棄したいからじゃない。これ以上、余計な職業は増やしたくないからとか、クリアしたら即、また新しい世界に召喚されるんだろとか全然思ってないよ。
「ぐはっ」
逃げるにはいいきっかけだな。
よって、――大げさに痛がった。
「はは、だせー。こいつも無能だな」
「イキってんじゃねえよ。死ね、カス」
腹を抱える俺は、嘲笑を浴びる。
今度は殴ってきたのとは別の男性が蹴りをかましてきた。
むろん避ける理由なし。
確実に物理攻撃を受けたはずが、先ほどのような音声は発生しなかった。
「やめて。私も勇者じゃないから。これで三人でしょ」
他人が傷つけられるのは、我慢ならないのか?
彼女こそ真の勇者だ。
「そうだねっ」
「なら、行こう」
姫様が明るい声で頷いた。
というか居たのか。ずっと黙ってみていたことになるが……よし、残虐姫の称号を授けよう。
彼女の方は、中々アクティブで、強引に俺の腕を引いた。
部屋を抜ける。
「おい待てよ」
「勝手に逃げんな」
扉の向こうから声はする。
しかし、二人が追ってくる気配はなかった。
「詳しい話をしましょうっ」
「今はそれどころじゃねえ」
「おい、貴様。姫様を侮辱するとは何事だ?」
「ひぇすみません」
姫様、――あっとうてき感謝。
残虐姫だなんて俺は何と馬鹿なことをしていたことか。
きっと姫という立場から、勇者が決まるまで下手に動けなかったんだろう。
続く喧騒は、控えていた騎士たちによるものだな。
奴らもさぞビビっているはずだ。
その光景が目に浮かぶ。
別に暴力を振るわれたこと、許したわけじゃないんだからねっ。
……俺は、何をしているんだか。
とにかくお願いします!
召喚されたばかりで力加減がわからない。
全てを引き継いでいた場合、俺にとっての軽くのつもりが脅威になり得る。あっさり殺してしまう可能性もあるからな。
暗闇から弾んだ声が飛んでくる。
これは異世界召喚だ……よな?
足元が光始めた時から、覚悟は決めていた。けれど、いざ転移してみると、やっぱり何というかこみ上げて来るものがある。
淡く輝く小粒が、空気中を舞っている。何度見ても、幻想的だ。
俺は出所を探るべく、目線を下に落としていった。
それらは、床に描かれた魔法陣から発せられているようで、この部屋唯一の明かりでもある。
部屋全体が薄暗い。
上に行くほどその濃さが増す。天井がどこにあるか見当が付かない。
これ以上見る物はないな――と上がった顎を引っ込めて、再び視線を足元に向けた。
目に飛び込んで来たのは、悪寒を誘う置物の数々。改めて見渡すと、あちこちに散布されている。召喚魔法の触媒的な役割を担っているんだな、きっと。
そして、……俺を含めて五人いる。
慌てる声と様子から、俺と同じく召喚された側だと考えていい奴らだ。
そうかそうか。……なら任せてもいいよな。
幸運なことに辺りは暗く、逃げるには絶好の機会となっている。
俺は慎重な足取りで、出口へと近づいていった。
「えっと、えっと。ありましたっ」
活発な声が響き、俺の野望はいとも簡単に瓦解する。
理由は単純、部屋の明かりがついたから。
光を放つ魔法道具が、俺たちを等しく照らし始めた。
全くもうちょっと探してろよ。
俺の側で魔法道具へと魔力を注ぐ金髪の少女。
目が合った。
「こんにちわ。勇者さまっ」
「……お前かっ」
声色から察するに、さきほど聞こえた声は彼女があげたものだろう。
ありましたとは魔法道具を見つけたということか。
顔も見られてしまったし、こうなったら逃亡は諦めるしかない。
やれやれ。俺は後ろを振り返る。
そして――。
「まじかよ」
――ついぼっとんと口から驚愕を落としてしまった。
彼・彼女半々の四人。人数は増えても、減ってもいない。
されど、部屋が明るくなったことにより、俺は新たな情報の入手に成功したためにだ。
服が違ぇ。
今の俺は、相当空気の読めない存在になっている。
俺が着ているのは、芦品高校指定の全体的に青ががった制服。まあ、学内で召喚されたんだから当然か。
しかし、他の四人の制服(ということにしておこう)は、まず青がない。黒色をベースにして、赤色の縦ラインが入っているという――明らかに俺とは別物だ。
おいおい。一対四とか始末悪すぎだろっ。
「あれれ。人数が多いです?
勇者は三人のはずですけど」
召喚した側も不測の事態に陥っているらしい。
声の主は件の少女だ。艶のある金色の長髪を振り乱して、慌てふためいている。清楚というよりはお転婆オーラを否めない。が、おそらく俺たちを召喚した国の姫様なんだろうな。
服とか装飾品とか豪勢だし。
しっかりしてくれよ。
これじゃあ、完全に俺が仲間外れになるじゃん。……いや待て。これはチャンスなんじゃないか?
仲間外れになれば、合法的に勇者の任を下りられる。
これぞ逆転の発想。
ならば、やることは一つだ。
「すみませ~ん。どうすれば~いいのでしょう~か?」
「はい!
ステータスと唱えてみてくださいですっ」
俺は、オーケストラ涙目の美声をかました。
さらに身振り手振りを加えて、存在感をアピールする。
結果、何それ美味しいの?
と、見ての通りに惨敗だ。
可笑しい。一目で俺が変だとわかるだろっ。
それにこんな奇行に走るやつと一緒に居たくないよな。っな?
【ステータス】
仕方ない。ため息交じりの詠唱を行う。
無機質な画面が現れた。
《和田修平 男 十六歳(爆笑)
現在の職業:すぐれた勇者
元枠:英雄王。ダンジョンマスター。商人。etc.
魔法欄:やってやれないことはない!
特殊能力:考えるな、感じろ》
……。
…………。
…………………。
ふーん。だから、嫌だったんだよ!!
「おい。何も起きねぇぞ」
「どうなってんだ?」
二人が喚いている。口調・音程から男だろうな。
俺は自分のステータスを隠すように隅の方へ移動したから、はっきりと断定はできないけども。
どうやらステータスを上手く起動できないらしい。
うん?
そういえば――言葉に魔力を込める、詰まるところ詠唱にはコツがいるんだっけ?
できなくて当たり前か。失敗したかもしれない。
くそ。誰かと一緒に召喚されたのは、これが初めてだからな。それにもはや俺の中では、慣れた行為になっちゃっているし。
あの妬ましい過去が、溢れかえってくる。
この際、はっきりいおう。俺は自分が巻き込まれだなんて……微塵も思っていなかったよ。
====== ====== ======
「突然ですが、貴方には英雄の才能が有るんです!!
その力を生かすため、異世界へと召喚されてみませんか」
「……そうですか……」
目の前で、自称女神が口を動かしている。
英雄の才能があるから、異世界召喚……おいおい最高かよ。
異世界なんて全人類共通のユメ……本当に夢じゃないよな?
頬を抓ると、普通に痛かった。
飛び上りたい気持ちで一杯だったが、必死に抑え込む。
そっけない風を装った。
「裏表を使い分ける、その態度っ。商人の適性もあるようです」
「えっ?
普通に育った文明人なら誰でも可能なことだと思いますが。それに商人には」
ばっちり見抜かれていたらしい。
商人に格下げされてしまう。
そんなことさせてたまるかっ。英雄の方が断然いい。
俺は慌てて、強めの拒絶にのりだした。
「はい、神への反抗頂きました!
魔王でも大丈夫そうですね」
「ええっと」
「安心して魔神も任せられます」
なぜか万華鏡のごとく切り替わっていく俺のセカンドライフ。どんなリアクションを起こしても、抑えることはできなかった。
吟遊詩人や盗賊などといった、マイナーなものも挟みながら、話は進んで行く。
「なるほどっ。ダンジョンマスターもお願いできると上に伝えておきましょう」
「…………」
疲れた。反応する気力が起きず、黙りこくる。
「それではそろそろいいですか?」
「はい。やっとか」
職業選択スロットは、ダンジョンマスターで止まった。
英雄に比べると、……考えるのはよそう。
自作ダンジョンで、ゆったりとした生活。うん、ありだ。
「それではいってらっしゃい!
まずは英雄からお願いします」
「えっ。どういうこと?」
驚きが、止まっていた俺の活力タービンをフル回転させる。
だが考える暇もなく、相手から答えが飛んできた。
「勘違いしているようですが、全部ですよ」
「……マジ?」
「はい大マジです。それもいいですがーーと言ってくれたじゃないですか?」
そうじゃねぇよ。確かに言ったけどもっ。
それは英雄の方がいいなってことで、○○もやりたいって意味じゃない。
「違」
「宜しくお願いします」
声を荒げ……できない。
俺の意識が重く、深くへと沈んでいった。
目を開けると、――そこには美少女がいた。
それから俺の召喚ラッシュが始まったんだ。
与えられた指示をこなせば、すぐ新しい職場へと召喚されて、……召喚されて……。
やっと日本に帰ってこれたと思ったんだけど。
何とか落ち着いてきた所、ここに至る。
最悪だ。もう異世界は飽きを通り越して、うんざりなんだよ。
塵積がここにきて、爆発してしまったらしい。
いかんいかん。深呼吸をしよう。
ふ―。さて今はステータス画面に集中するべきだ。
再び目を向ける。
《和田修平 男 十六歳(爆笑)
現在の職業:すぐれた勇者
元枠:英雄王。ダンジョンマスター。魔王。etc.》
まぁ、突っ込みどころ満載なんだけどなっ。
まず年齢で笑われる筋合いはない。確かにもうずっと十六歳のままだけど――。
それは『人の一生ではとうていこなせる仕事量じゃありませんっ。ですのでもうこの際、年齢止めちゃいましょう』ってお前らが言ったからだろ。
ステータスは神が与えた恩恵だったよな?
あれとは違う神さまなのかもしれないが、俺からすれば同罪だ。
それに優れたじゃなくて、はぶられた勇者の方が正しいんじゃないか?
この場で俺を抜擢するとか……ちょっと勘弁してください。
神さま、こたえてよ。
表記もいい加減だし、……これなら誰かに見られても問題ないか?
言うまでもないな。ってことは、ステータス選定の前に退場しなければならない。
仲間外れ感をもっと前面に押し出していくしかないようだ。
「ちっ。どうせ、お前だろ。さっさと薄情しろよ」
「邪魔なんだよ」
「喜んで拝命します」
そんな時、男二人が炙り出しに動いた。
――非常にありがてぇ。気落ちする俺に突き刺さる恵み。
罵倒がこんなに嬉しいなんて、思いもしなかった。さっさとドロンさせていただきます。
ステータス画面を消すと、軽く手を振りながら、出口の方へ歩いて行った。
「無視すんなよ」
「うざ」
何か変だ。俺は満面の笑みでだが、要求にちゃんと応じている。
無視をしているつもりは毛頭ない。
足を止めて、振り向いた俺は事態を正確に理解した。
二人で、女子一人を貶めている模様。顔がこちらに向いていなかった。
いっそここまでくると清々しい。まさかゴーストフラグか?
ゴースト――意外と悪くないな。
自由に過ごせて、誰にも認知されないなら願ってもない。
「さっさと消えろ」
「ははっ、ざまーねーな」
さなか罵詈雑言の弾丸が、少女に放たれ続けている。
標的は整った顔立ちで、背は平均サイズ。サイドテールに結われた黒色の髪が輝いている。四肢は細いが、体型も貧相ということはない。出ている所はしっかりと主張している。
肌の白さも、不健康さを呼び起こすものではない。
誹謗を受けても怯えることなく、彼女からはむしろ凛々しさを感じとれた。黒い瞳は真っすぐに相手を凝視している。
そっと顔の見える位置まで動いた俺。絶賛目を奪われ中だ。
変態かよっ。
助けるべきか?
助けた所で何になる?
そもそも俺助けられるのか?
今さら遅い。
考えるより先に、体が動いてしまった。
俺は彼女を蔑みから守るように、両陣営の間に割って入る。
「……止めた方がいいと思います」
相手は初対面だし、争いは避けたい。
丁寧な言葉遣いになるのは当然だよな。
「何だてめー」
「ってか、こんな奴いたか」
そういえば、――ゴーストルートは消え去ったな。
悔しいけど、今はそれよりもこの美少女。
たとえこの世が美酒逆転世界だとしても、それをさらにひっくり返すだけの魅力が彼女は持っている。
要するに、充実した異世界生活を送れる可能性は十分にある。
それを自覚させなければなるまい。
されど、何を言うべきか。性格は外見だけじゃ判断できないし、強さもわからない。
色々と考える内に、二人がじりじり近づいてくる。
これしかないな。
「彼女は可愛いんだよ」
「…………」
「は?」
「ふざけんな」
俺は強く叫んだ。……言っちゃった。
だが、結果は彼らを煽っただけ。
少女は沈黙を貫き、虐めていた男性二人は怒りむき出しで、接近のスピードを上げる。
数秒後、俺の腹めがけてナックルパンチが発射された。
【与えられたダメージはほとんど魔力に変換されたから安心してちょ。あ、でもちょい待ち。魔力満タンだから、消滅だったわ】
物理攻撃を自分の魔力に変換。
確か……ダンジョンマスターとして召喚された時に受け取った能力と似ている。
もしや、今まで授かってきた魔法・能力が全て使えるのか?
いや、ないな。それなら俺は最強になってしまう。
そんな優しい仕様なはずが無い。
【マジなんですけど――】
俺の脳内に声が響く。
因みにこちらは初仕様だ。
(本当か?)
【そう言ってるし――】
(本当に今までの恩恵全部使えるのか?)
【そうだし――。さっさと消し飛ばしちゃいなよ】
会話もできるよう。
それと最後の物騒なワードについてだが、断じて否だ。
それでも俺の目的は変わらない。
繰り出された拳は、しょうじき全く痛くない。
されど、俺は影に徹すると決めた。もちろん彼女のサポートをするためにだ。
役目を放棄したいからじゃない。これ以上、余計な職業は増やしたくないからとか、クリアしたら即、また新しい世界に召喚されるんだろとか全然思ってないよ。
「ぐはっ」
逃げるにはいいきっかけだな。
よって、――大げさに痛がった。
「はは、だせー。こいつも無能だな」
「イキってんじゃねえよ。死ね、カス」
腹を抱える俺は、嘲笑を浴びる。
今度は殴ってきたのとは別の男性が蹴りをかましてきた。
むろん避ける理由なし。
確実に物理攻撃を受けたはずが、先ほどのような音声は発生しなかった。
「やめて。私も勇者じゃないから。これで三人でしょ」
他人が傷つけられるのは、我慢ならないのか?
彼女こそ真の勇者だ。
「そうだねっ」
「なら、行こう」
姫様が明るい声で頷いた。
というか居たのか。ずっと黙ってみていたことになるが……よし、残虐姫の称号を授けよう。
彼女の方は、中々アクティブで、強引に俺の腕を引いた。
部屋を抜ける。
「おい待てよ」
「勝手に逃げんな」
扉の向こうから声はする。
しかし、二人が追ってくる気配はなかった。
「詳しい話をしましょうっ」
「今はそれどころじゃねえ」
「おい、貴様。姫様を侮辱するとは何事だ?」
「ひぇすみません」
姫様、――あっとうてき感謝。
残虐姫だなんて俺は何と馬鹿なことをしていたことか。
きっと姫という立場から、勇者が決まるまで下手に動けなかったんだろう。
続く喧騒は、控えていた騎士たちによるものだな。
奴らもさぞビビっているはずだ。
その光景が目に浮かぶ。
別に暴力を振るわれたこと、許したわけじゃないんだからねっ。
……俺は、何をしているんだか。
とにかくお願いします!
召喚されたばかりで力加減がわからない。
全てを引き継いでいた場合、俺にとっての軽くのつもりが脅威になり得る。あっさり殺してしまう可能性もあるからな。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
29
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる