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プロローグですか?

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「ようこそおいでくださいました、勇者さまっ」
  
 暗闇から弾んだ声が飛んでくる。
 これは異世界召喚だ……よな?
 足元が光始めた時から、覚悟は決めていた。けれど、いざ転移してみると、やっぱり何というかこみ上げて来るものがある。

 淡く輝く小粒が、空気中を舞っている。何度見ても、幻想的だ。
 俺は出所を探るべく、目線を下に落としていった。
 それらは、床に描かれた魔法陣から発せられているようで、この部屋唯一の明かりでもある。
 部屋全体が薄暗い。
 上に行くほどその濃さが増す。天井がどこにあるか見当が付かない。

 これ以上見る物はないな――と上がった顎を引っ込めて、再び視線を足元に向けた。
 目に飛び込んで来たのは、悪寒を誘う置物の数々。改めて見渡すと、あちこちに散布されている。召喚魔法の触媒的な役割を担っているんだな、きっと。

 そして、……俺を含めて五人いる。
 慌てる声と様子から、俺と同じく召喚された側だと考えていい奴らだ。

 そうかそうか。……なら任せてもいいよな。
 幸運なことに辺りは暗く、逃げるには絶好の機会となっている。
 俺は慎重な足取りで、出口へと近づいていった。
 
「えっと、えっと。ありましたっ」
 
 活発な声が響き、俺の野望はいとも簡単に瓦解する。
 理由は単純、部屋の明かりがついたから。
 光を放つ魔法道具が、俺たちを等しく照らし始めた。
  全くもうちょっと探してろよ。

 俺の側で魔法道具へと魔力を注ぐ金髪の少女。
 目が合った。

「こんにちわ。勇者さまっ」
「……お前かっ」

 声色から察するに、さきほど聞こえた声は彼女があげたものだろう。
 ありましたとは魔法道具を見つけたということか。
 
 顔も見られてしまったし、こうなったら逃亡は諦めるしかない。
 やれやれ。俺は後ろを振り返る。
 そして――。

「まじかよ」

 ――ついぼっとんと口から驚愕を落としてしまった。 
 彼・彼女半々の四人。人数は増えても、減ってもいない。
 されど、部屋が明るくなったことにより、俺は新たな情報の入手に成功したためにだ。

 服が違ぇ。
 今の俺は、相当空気の読めない存在になっている。
 俺が着ているのは、芦品あしな高校指定の全体的に青ががった制服。まあ、学内で召喚されたんだから当然か。
 しかし、他の四人の制服(ということにしておこう)は、まず青がない。黒色をベースにして、赤色の縦ラインが入っているという――明らかに俺とは別物だ。 

 おいおい。一対四とか始末悪すぎだろっ。 

「あれれ。人数が多いです?
 勇者は三人のはずですけど」

 召喚した側も不測の事態に陥っているらしい。
 声の主は件の少女だ。艶のある金色の長髪を振り乱して、慌てふためいている。清楚というよりはお転婆オーラを否めない。が、おそらく俺たちを召喚した国の姫様なんだろうな。
 服とか装飾品とか豪勢だし。

  しっかりしてくれよ。
 これじゃあ、完全に俺が仲間外れになるじゃん。……いや待て。これはチャンスなんじゃないか?
 仲間外れになれば、合法的に勇者の任を下りられる。
 これぞ逆転の発想。
 ならば、やることは一つだ。

「すみませ~ん。どうすれば~いいのでしょう~か?」
「はい!
 ステータスと唱えてみてくださいですっ」

 俺は、オーケストラ涙目の美声をかました。
 さらに身振り手振りを加えて、存在感をアピールする。
 結果、何それ美味しいの?
 と、見ての通りに惨敗だ。
 可笑しい。一目で俺が変だとわかるだろっ。
  それにこんな奇行に走るやつと一緒に居たくないよな。っな?

【ステータス】

 仕方ない。ため息交じりの詠唱を行う。
 無機質な画面が現れた。

《和田修平 男 十六歳(爆笑)
 現在の職業:すぐれた勇者
 元枠:英雄王。ダンジョンマスター。商人。etc.
 魔法欄:やってやれないことはない!
 特殊能力:考えるな、感じろ》

 ……。 
 …………。
 …………………。 
 ふーん。だから、嫌だったんだよ!!

「おい。何も起きねぇぞ」
「どうなってんだ?」

 二人が喚いている。口調・音程から男だろうな。
 俺は自分のステータスを隠すように隅の方へ移動したから、はっきりと断定はできないけども。
 どうやらステータスを上手く起動できないらしい。
 うん?
 そういえば――言葉に魔力を込める、詰まるところ詠唱にはコツがいるんだっけ?
 できなくて当たり前か。失敗したかもしれない。
 くそ。誰かと一緒に召喚されたのは、これが初めてだからな。それにもはや俺の中では、慣れた行為になっちゃっているし。

 あの妬ましい過去が、溢れかえってくる。
 この際、はっきりいおう。俺は自分が巻き込まれだなんて……微塵も思っていなかったよ。


====== ====== ======


「突然ですが、貴方には英雄の才能が有るんです!!
 その力を生かすため、異世界へと召喚されてみませんか」
「……そうですか……」

 目の前で、自称女神が口を動かしている。
 英雄の才能があるから、異世界召喚……おいおい最高かよ。
 異世界なんて全人類共通のユメ……本当に夢じゃないよな?
 頬を抓ると、普通に痛かった。
 飛び上りたい気持ちで一杯だったが、必死に抑え込む。
 そっけない風を装った。

「裏表を使い分ける、その態度っ。商人の適性もあるようです」
「えっ?
 普通に育った文明人なら誰でも可能なことだと思いますが。それに商人には」
 
 ばっちり見抜かれていたらしい。
 商人に格下げされてしまう。
 そんなことさせてたまるかっ。英雄の方が断然いい。
 俺は慌てて、強めの拒絶にのりだした。

「はい、神への反抗頂きました!
  魔王でも大丈夫そうですね」
「ええっと」
「安心して魔神も任せられます」

 なぜか万華鏡のごとく切り替わっていく俺のセカンドライフ。どんなリアクションを起こしても、抑えることはできなかった。
 吟遊詩人や盗賊などといった、マイナーなものも挟みながら、話は進んで行く。

「なるほどっ。ダンジョンマスターもお願いできると上に伝えておきましょう」
「…………」

  疲れた。反応する気力が起きず、黙りこくる。

「それではそろそろいいですか?」
「はい。やっとか」

 職業選択スロットは、ダンジョンマスターで止まった。
 英雄に比べると、……考えるのはよそう。
 自作ダンジョンで、ゆったりとした生活。うん、ありだ。

「それではいってらっしゃい!
 まずは英雄からお願いします」
「えっ。どういうこと?」

  驚きが、止まっていた俺の活力タービンをフル回転させる。
 だが考える暇もなく、相手から答えが飛んできた。
 
「勘違いしているようですが、全部ですよ」
「……マジ?」
「はい大マジです。それもいいですがーーと言ってくれたじゃないですか?」 

 そうじゃねぇよ。確かに言ったけどもっ。
 それは英雄の方がいいなってことで、○○もやりたいって意味じゃない。

「違」
「宜しくお願いします」

 声を荒げ……できない。
 俺の意識が重く、深くへと沈んでいった。

 目を開けると、――そこには美少女がいた。
 それから俺の召喚ラッシュが始まったんだ。
 与えられた指示をこなせば、すぐ新しい職場へと召喚されて、……召喚されて……。

 やっと日本に帰ってこれたと思ったんだけど。
 何とか落ち着いてきた所、ここに至る。
 最悪だ。もう異世界は飽きを通り越して、うんざりなんだよ。

 塵積がここにきて、爆発してしまったらしい。
 いかんいかん。深呼吸をしよう。
 ふ―。さて今はステータス画面に集中するべきだ。
 再び目を向ける。

《和田修平 男 十六歳(爆笑)
 現在の職業:すぐれた勇者
 元枠:英雄王。ダンジョンマスター。魔王。etc.》

 まぁ、突っ込みどころ満載なんだけどなっ。
 まず年齢で笑われる筋合いはない。確かにもうずっと十六歳のままだけど――。
 それは『人の一生ではとうていこなせる仕事量じゃありませんっ。ですのでもうこの際、年齢止めちゃいましょう』ってお前らが言ったからだろ。
 ステータスは神が与えた恩恵だったよな?
 あれとは違う神さまなのかもしれないが、俺からすれば同罪だ。

 それに優れたじゃなくて、はぶられた勇者の方が正しいんじゃないか?
 この場で俺を抜擢するとか……ちょっと勘弁してください。
 神さま、こたえてよ。
 
 表記もいい加減だし、……これなら誰かに見られても問題ないか?
 言うまでもないな。ってことは、ステータス選定の前に退場しなければならない。
 仲間外れ感をもっと前面に押し出していくしかないようだ。

「ちっ。どうせ、お前だろ。さっさと薄情しろよ」
「邪魔なんだよ」
「喜んで拝命します」

 そんな時、男二人が炙り出しに動いた。

 ――非常にありがてぇ。気落ちする俺に突き刺さる恵み。
 罵倒がこんなに嬉しいなんて、思いもしなかった。さっさとドロンさせていただきます。
 ステータス画面を消すと、軽く手を振りながら、出口の方へ歩いて行った。

「無視すんなよ」
「うざ」

 何か変だ。俺は満面の笑みでだが、要求にちゃんと応じている。
 無視をしているつもりは毛頭ない。
 足を止めて、振り向いた俺は事態を正確に理解した。
 二人で、女子一人を貶めている模様。顔がこちらに向いていなかった。
 
 いっそここまでくると清々しい。まさかゴーストフラグか?
 ゴースト――意外と悪くないな。
 自由に過ごせて、誰にも認知されないなら願ってもない。

「さっさと消えろ」
「ははっ、ざまーねーな」
 
 さなか罵詈雑言の弾丸が、少女に放たれ続けている。
 標的は整った顔立ちで、背は平均サイズ。サイドテールに結われた黒色の髪が輝いている。四肢は細いが、体型も貧相ということはない。出ている所はしっかりと主張している。
 肌の白さも、不健康さを呼び起こすものではない。
 誹謗を受けても怯えることなく、彼女からはむしろ凛々しさを感じとれた。黒い瞳は真っすぐに相手を凝視している。
 そっと顔の見える位置まで動いた俺。絶賛目を奪われ中だ。

 変態かよっ。
 助けるべきか? 
 助けた所で何になる?
 そもそも俺助けられるのか?
  今さら遅い。
 考えるより先に、体が動いてしまった。
 俺は彼女を蔑みから守るように、両陣営の間に割って入る。

「……止めた方がいいと思います」 

 相手は初対面だし、争いは避けたい。
 丁寧な言葉遣いになるのは当然だよな。

「何だてめー」
「ってか、こんな奴いたか」

 そういえば、――ゴーストルートは消え去ったな。
 悔しいけど、今はそれよりもこの美少女。
 たとえこの世が美酒逆転世界だとしても、それをさらにひっくり返すだけの魅力が彼女は持っている。
 要するに、充実した異世界生活を送れる可能性は十分にある。
 
 それを自覚させなければなるまい。
 されど、何を言うべきか。性格は外見だけじゃ判断できないし、強さもわからない。

 色々と考える内に、二人がじりじり近づいてくる。
 これしかないな。

「彼女は可愛いんだよ」
「…………」
「は?」
「ふざけんな」
 
 俺は強く叫んだ。……言っちゃった。 
 だが、結果は彼らを煽っただけ。
 少女は沈黙を貫き、虐めていた男性二人は怒りむき出しで、接近のスピードを上げる。
 数秒後、俺の腹めがけてナックルパンチが発射された。

【与えられたダメージはほとんど魔力に変換されたから安心してちょ。あ、でもちょい待ち。魔力満タンだから、消滅だったわ】

 物理攻撃を自分の魔力に変換。
 確か……ダンジョンマスターとして召喚された時に受け取った能力と似ている。
 もしや、今まで授かってきた魔法・能力が全て使えるのか?
 いや、ないな。それなら俺は最強になってしまう。
 そんな優しい仕様なはずが無い。

【マジなんですけど――】
 
 俺の脳内に声が響く。
 因みにこちらは初仕様だ。 

(本当か?)
【そう言ってるし――】
(本当に今までの恩恵全部使えるのか?)
【そうだし――。さっさと消し飛ばしちゃいなよ】
 
 会話もできるよう。
 それと最後の物騒なワードについてだが、断じて否だ。
 それでも俺の目的は変わらない。

 繰り出された拳は、しょうじき全く痛くない。
 されど、俺は影に徹すると決めた。もちろん彼女のサポートをするためにだ。
 役目を放棄したいからじゃない。これ以上、余計な職業は増やしたくないからとか、クリアしたら即、また新しい世界に召喚されるんだろとか全然思ってないよ。

「ぐはっ」

 逃げるにはいいきっかけだな。
 よって、――大げさに痛がった。
 
「はは、だせー。こいつも無能だな」
「イキってんじゃねえよ。死ね、カス」
 
 腹を抱える俺は、嘲笑を浴びる。
 今度は殴ってきたのとは別の男性が蹴りをかましてきた。
 むろん避ける理由なし。
 確実に物理攻撃を受けたはずが、先ほどのような音声は発生しなかった。

「やめて。私も勇者じゃないから。これで三人でしょ」
 
 他人が傷つけられるのは、我慢ならないのか?
 彼女こそ真の勇者だ。

「そうだねっ」
「なら、行こう」

 姫様が明るい声で頷いた。
 というか居たのか。ずっと黙ってみていたことになるが……よし、残虐姫の称号を授けよう。

 彼女の方は、中々アクティブで、強引に俺の腕を引いた。
 部屋を抜ける。

「おい待てよ」
「勝手に逃げんな」

 扉の向こうから声はする。
 しかし、二人が追ってくる気配はなかった。

「詳しい話をしましょうっ」
「今はそれどころじゃねえ」
「おい、貴様。姫様を侮辱するとは何事だ?」
「ひぇすみません」

 姫様、――あっとうてき感謝。
 残虐姫だなんて俺は何と馬鹿なことをしていたことか。
 きっと姫という立場から、勇者が決まるまで下手に動けなかったんだろう。
 
 続く喧騒は、控えていた騎士たちによるものだな。
 奴らもさぞビビっているはずだ。
 その光景が目に浮かぶ。
 別に暴力を振るわれたこと、許したわけじゃないんだからねっ。
 ……俺は、何をしているんだか。
 とにかくお願いします!

 召喚されたばかりで力加減がわからない。
 全てを引き継いでいた場合、俺にとっての軽くのつもりが脅威になり得る。あっさり殺してしまう可能性もあるからな。
 
 

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