勇者、英雄、魔王、ダンジョンマスター、商人、領主。これらの共通点を述べよ。――全部俺がこなしてきた職業だな。~勘違いする最強たちは?~

パタパタ

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強敵ですか?

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 目の前に広がるは、壮大な森林。
 魔物との戦闘も避けられないだろう。
 よしゃ。気をひきしめなければ。
 
 何故なら
【うわ、マジで。やばくなーい?
 消滅魔法とかめっちゃあるんですけど。どうするし――?】

 ――などと、物騒な声が聞こえるからだ。
 承認なんてする訳ないだろ。
 それでも力を抜くと、右手に魔法陣が浮かびあがるんだが。   
 幻覚だよな。
 俺は勇者の職業を降りた身。目立つことは避けたい。

 やっぱり可笑しい。
 ちゃんと拒否したはずだが、落ち着く気配が一向にない。
 食い止めているという表現の方が正しい気がしてきた。
 
  静まれ、俺の右手ッ。

 あれ?
 何か引っかかるんだよな。
 右手に力を入れながら、俺は自分の行動を振り返る。
 
 やばっ。すぐに原因をつきとめた。
  俺、よしって意気込んでたわ。
 
 山が消し飛ぶとか、相当な災害だぞ。
 取り消しを要求する。

「壊すのは駄目だ」
「業とじゃないから。あんなに凄いなんて知らなくて」

 麗奈が俺の声を拾ったらしい。
 異様に慌てているが、大丈夫だろうか。
 何かを壊したらしいが、――くそ、意識を持ってかれる。

 実力がバレる→魔王なんて余裕だねと麗奈に褒められる→魔王城に向かう→討伐に成功→新しい世界がこんにちわ。
 QED。悪夢の方程式が出来上がってしまった。
 魔王城に直行はさすがに言い過ぎだが、同じことだ。
 俺は彼女の成り上がりを支えたいのであって、堕落させたい訳じゃない。
 
 色々考えている内に、素晴らしい解決策を思い付いた。
 右腕で分解したなら、左腕で治せばいいじゃない?

 どちらにせよ意識を反らさなければならないが、麗奈は召喚の塔を気にかけているご様子。ちょこちょこ後ろを振り向いている。
 存分に利用させてもらおう。

「塔に何かいる」【エクスティンクションレイン】
「ええっ?」

 まるで肉を焼くような音がする。腐敗臭が漂ってきた。
 土が、木が、魔物が溶けてるっ。溶けてるっ。
  
 この魔法は魔神の役目を押し付けられたとき、授かった魔法だな。
 よりにもよって雨か。――もっと一瞬で消滅させる魔法とかあったと思うけどな。

【こっちの方が、ヤッテル感触が強いっしょ】

 聞こえないふりをしよう。
 それよりも麗奈だ。確実に知られたな。
 顔色を窺おうと目を向けるが、……そこに麗奈の姿はなかった。

【タイムプールバック】

 姿の見えない彼女を探しにいくべきか、山を直すべきか、悩んだ末のこと。
  俺はその場に止まり、魔法を発動させた。
 荒廃地の時間が遡行していく。
  確か限度は1日だったと思うが、それで十分だ。
  死んだ土地は、みごと息を吹き返した。

「何事もなくて、良かった」
「どこ行ってたんだ?」

 そろそろ本腰を入れて探そうかと歩き始めたところで、麗奈と邂逅した。
 彼女の息は荒れている。
  今のタイミングで、さっきのセリフをお願いします。
『こんなに凄いなんて知らなくて』
 あれ、違ったかな?

 何にせよ、妄想に留めたので問題ない。
 気にかけてくれるのは嬉しいが、俺の方が心配だ。今の俺に勝てる奴なんて、そんないないだろうし。
 俺は岩場に腰かけて、口を動かした。

「一人で行動するのは危ない」
「その危険を排除しようとしたんだけど……何でもない」
「ごめん。最初の方が聞こえなかった」
「何でもないからっ」

 危険を排除しようとしたとか聞こえたんだが……。
 えっと、ゴブリンでも見つけて退治しようとしたのかな?
 なまじ高度な情報取得魔法と、正義感が裏目に出てしまったようだな。
 俺に報告しろ――なんて命令もできない。
 どっちにしろ戦闘は避けられないか。
 
「ありがと。無茶はするなよ」
「えっ、ええ?」

 思っていた反応と違う。
 すみません。こんな奴に心配されるのは嫌ですよね。
 死んでお詫びを……何とか気を取り直して、歩き始める。

「とりあえず行くか」

 倒した生物を蘇らせて、再び討伐するとか魔王の所業そのものだな。
 悪く思わないでくれ。


====== ====== ======

 
「ギャオーー」

 しばらくふら付いて出会った魔物。
 初戦闘の幕開けだ。
 巨体かつ声もどすの聞いたもので、強者感が漂っている。
 体は熊に似ているが、顔は別物だ。ワニに近い。

【よっしゃ。鑑定を発動っ】
《ワニ熊。
 備考欄:ただのカス》

 相変わらずの適当さ。
 そりゃそうだ。俺にとっては上級魔族でもなければ、みんなカスに分類される。
 該当範囲が広いんがだよっ。
 ステータスが漠然としていてどうする?

(せめて麗奈視点での評価にしてくれませんかね)
【わかったわかった。開け、ゴマっ】
《ワニ熊。
 備考欄:雑魚》

 まあ、何だ。熊とワニって可愛いよな。
  マスコットにもなる位だし。

【魔法で一発っしょ】
(拒絶する)

 ギャビゲートに戦闘を任せてはいけない。
 絶対にだ。
  
 ただ魔力を当てるだけ。……それで、様子を見てみるか。
 魔力の籠った生暖かい風を送った。
  すると、ワニ熊は一目散に後退する。
 
 心臓を掴むがごとき威圧はのせていない。
 怯えさせるのみの、殺傷力皆無の攻撃だ。こんなところだろう。
 麗奈にも十分対応ができそうだ。無理なら、同じように追い払えばいいしな。
 ここはいい狩場になりそう。

【案内してやんよ】
(何でヤンキー口調になった?)

 どちらにせよそこまではしなくていい。
 街へ行かずに、もっと奥へと入り込んでいきそうだ。

【なら、近くの街まで案内するし――】
(お願いします)
 
 これなら、大きな問題は起きないだろう。
 提案を了承する。すると、視界に赤色の矢印が追加された。
 ただの怪奇っ。
 麗奈の態度は変化なし。見えていないと忖度できる。
 
 それらの矢印は前進を促していた。
 地面や木に張り付いて、おそらく最短ルートを指示してくれているんだろう。

 それでも、ごめんなさい。
 俺、極力ナビゲートは使わないことを心に決めた。
 気色悪いわ。


====== ====== ======


 晴れ時々雨が降ったこの地。
 そして、その雨はなかったことになる。

 何が言いたいかというと、――おっさんを見つけた(うん、関係ないな)。
 怪我をしているらしく、地面に仰向けで転がっている。

「助けてくれ。回復魔法を」
「大変っ」「そうだな」

 心優しい麗奈は、一目散におっさんの快方に向かった。
 俺も一歩遅れて、後を追う。

「へへっ。かか……」
【ショック】【不可視剣】

 なんとんと愚かなことか。
 おっさんが麗奈にナイフを向けて……許せない。
 疑わしきはばっせよ。俺は魔法を発動させる。
 
 口を開けたまま再び地に伏す罪人。
 俺の詠唱の他にも何か聞こえた気がするが、気のせいだよな。
 詠唱が麗奈にバレないよう、気を使っていたからか?
 どうせ葉が揺れる音を勘違いしたんだろう。
 
「大丈夫なのか?」
「大丈夫、大丈夫だよ。傷は浅いから」

 浅いから。
 そうかそうか。はい、死刑っ。
 彼女の柔肌に鋭利な刃物を突き立てるとか、万死に値する。
 手加減は必要ない。
 俺は咎人に接近する。
 おう、まじか。本当に怪我はしていたようだ。
 丁度いい。突然気絶したのは失血多量だからとでも答えておこう。
 
 何よりも今は、麗奈の手当てが先決だ。
 彼女を観察するが――。

「特に怪我はしていないようだけど」

 無傷。将来に障る痕はおろか赤く滲んでいる箇所さえない。

「えっ私?
 私なら全然大丈夫だよ」
 
 まさか、そんな……有り得ない。
 この期に及んで、このおっさんの事を心配していたというのか?
 天使だ。天使がここにいる。
 盗賊だか何だか知らないが、命拾いしたな。
 せいぜい牢獄の中で、己の罪を悔い改めることだ。

「でも、心配してくれてありがと」
 
 守りたい、この笑顔。

「でも、何で気絶したのかな」
「失血多量とかじゃないのか」
「ごめんなさ――い」

 麗奈はおっさんの肩をブンブン振る。
 なぜ謝るかは知らないが、そういう人なんだろうな。
 
 
 


 

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