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激怒ですか?

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 俺は、宛がわれた部屋に入る。
 古臭さはあるが、しっかり清掃が行き届いている。布団も丁寧に畳まれていたりと、不衛生さは感じない一室だった。

 少なくとも外れじゃないな。
 鍵も配備されているため、ある程度安心できる。
 まあ、俺なら簡単に突破できるけど。
 おいおい。俺はいったい何を考えているんだ?
 夜這いなんてする気はない。
 
 一人頷いて、……俺は壁に耳を張り付けた。
 よしっ。防音体制も整っている。服が掠れる音とか――って服はあの一枚しか持ってなくね?
 下着、どうするのかな。
 
 俺は壁から離れて、隅に押し込まれた布団へとダイブする。
 目を閉じた。

「ちょっといい?」

 妄想に浸ってい……何でもない。
 ともかく、扉が叩かれた。
 扉越しに麗奈の安らぐ声がする。本当に夜這いだというのか?
 冗談です。

「鍵、開いてるから入っていいぞ」
「物騒だよ?」
「俺から奪えるものなんてないよ」
「そう?
 今着ている制服を売って、お金を手に入れるのが定番だと思うけど」

 定番か。麗奈も最近流行りのそういった小説を読んでいたらしい。
 どおりで順応力が高いわけだ。

 そんな些細なことは置いておこう。
 オーケーナビゲート。
 俺が彼女の制服を手に入れられる方法を教えてくれ。

【服を奪ってから、記憶を改竄すればいいっしょ】
(本気にするな)

 もし売られたら買い戻すけど、彼女の手の内にある間に奪うつもりはない。
 大事なことだからもう一度……売られたら買い戻すけど。

「まさか、相談ってそれか?」
「違いますっ」
「ならなんだ?」
「出かけてくるから荷物を見ていてほしいなって」
「わかった」

 服だな。
 俺なら魔法でいかようにもなるが、彼女には必要だろう。

 俺は銀貨二枚を麗奈に投げた。足りるかな?
 けれど、彼女は俺の行動を予期していなかったらしい。首を傾げて、困惑を体現している。

「ええと。何これ?」
「お金が必要じゃないのか?」
「えっ」
「えっ」

 考えが噛み合っていない。
 膠着した俺と麗奈。そんな風に固まった空気を溶かしたのは、第三者の幼げな声である。

「水浴びは銅貨一枚だよー。今ならウェルが手伝ってあげる――」
「ぜひおねが……」
「そうそう。汗かいたから水浴びしようと思ったんだよ。宿代には入っていなかったんだねっ」

 俺の懇願は、早口でまくし立てる麗奈の声にかき消されてしまった。
 水浴びなら言いにくそうにするのも無理はないな。

「さあ、行きましょう」
「任せて――」

 勢いそのままに、二人は出て行ってしまった。
 完全に置いてけぼりをくらってしまった俺だが、別に後でもいいか。

 ああ。盗賊団を壊滅させた後、ゆっくり堪能するとしよう。
 頬を叩いて、意識を切り替える。

(盗賊団のアジトまでの案内を頼む)
【りょうかいしたし――】

 相変わらずの矢印。
 それとご丁寧に距離まで表示されている。

 あまり時間を掛けたくない。
 荷物を預かっている身だから、居なくなるのは不自然だろう。
 瞬時に往復できる方法はないか?
 転移魔法なら使った記憶があるけど、でも、見た所にしかとべなかったっけ。

【それなら幸運あげて、めっちゃ繰り返して、転移で大丈夫っしょ】

 幸運を上げる魔法?
 記憶にない。

(何にせよ、早く行けるならそれでいい)
【ラッキーアップ】【メトロノーム99】【ランダムトランスティション】

 空間がひずむ。
 俺は、洞窟の入り口に降り立っていた。


====== ====== ======


「何だて」「おい仲間を」
【ショック】

 この森は麗奈にとっていい練習場になる。
 盗賊団なんかに邪魔されるわけにはいかない。危険は排除しておかないとな。
 奥へと進んで行く。

 短剣が二つ落ちていた。
 そして、気を失った二人のおっさん。
 無意識に魔法を発動させていたようだ。
 気絶しているからといって、放置という選択肢はない。
 
(拘束魔法もセットで頼む)
【バインド】

 虚空から出現した縄が、ひとりでに盗賊団を縛っていった。
 Bランク程度に解かれる心配はない。

 さぁ、侵攻を再開しよう。

「何だてめー」「おい、仲間をよんでこい」「わっかりやした」
【ショック】【バインド】

 ずっとこれしかないんだけど。
 大丈夫か? 主に盗賊団の頭が。
 歯向かう身の程知らずも、命令する雑魚も、逃げる屑も、……皆拘束だ。 

「そろそろ飽きてきた所だったんだ。ちょうど良かった」
「へへ。ここまでよく来たじゃねえか。だがこの人数を相手できるかな?」
「残念だったな」

 遂にたどり着いた奥深。
 そこには生きる価値のない虫けらども。お金になりそうな品々。そして、檻の中に閉じ込められた少女たちがいた。
 少女たちは皆、黒い首輪を嵌めさせられている。
 奴隷という対場を如実に語る、最凶の魔法道具だ。
 
【ディスイズ・ザ・キリングタイム】

 皆殺しだ。
 脳が狂気に浸食されていく。
 やば。怒りに任せて、よくわからない魔法を発動してしまった。

 でも、仕方ないよな。
 だって俺が盗賊として召喚された目的は、呪われた王族の宝を盗みだしてほしいだぜ。このままでは王族の血が途絶えてしまうとか涙ながらに言われて、引き受けたけどな。
 成功したまでは良かったんだけど、退場の仕方が他ならぬ王族の近衛に殺されるとか、笑えるだろっ。
 今思い出しても泣けてくる。
 全く盗賊ライフをエンジョイできなかった。

 それがなんだ、こいつらは。
 俺がやりたかったことベスト1、捕まえた少女を……何でもない。
 盗賊たちの顔が恐怖に染まる。
 
 それ以降、数分の記憶が俺にはない。

「ひひ、ごめんなさい」「許してください」「殺さないで」

 屑どもは一掃されたようだ。鮮血をまき散らし、物言わぬ屍になり果てている。
 だというのに、助けてという声が一つもない。
 何をしたかは覚えていないが、オーバーキルだったのは一目瞭然だ。
 奴隷少女たちの表情も怯え一色だし。
 安心させようと、俺は檻に手を伸ばす。

 その時、急に足元がぐら付いた。
 抗えない力に襲われる。俺は背中から倒れこんだ。


====== ====== ====== 


 俺の頭は柔らかいクッションに受け止められる。

「おはよう?」
「ああ。一つ聞いていいか」
「いい?」
「何で召喚魔法には逆らえないんだ?」
「しらない?」

 俺が聞いているんだが。
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