勇者、英雄、魔王、ダンジョンマスター、商人、領主。これらの共通点を述べよ。――全部俺がこなしてきた職業だな。~勘違いする最強たちは?~

パタパタ

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言い訳ですか?

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「もぉ~。お兄ちゃんがいっぱい出すから、服がべとべとだよぉ~」
「そうだねー。ごめんよー」

 俺はウェルちゃんと――水浴びを満喫する。
 ふっ。疚しいことをしているとでも思ったか。
 ……したくないと言ったら嘘になります。
 お兄ちゃん(俺)が水魔法で、水をたくさん出すから、燥いじゃって服がべとべとなんだそうだ。それを最初と最後以外を省いただけだもんな。
 これぞ天然の怪物や。
 
 されど、妄想にお金が掛からないのもまた事実なり。
 ちょっと水を白く濁らせてみよう……しませんっ。

「動きづらいよぉ~。うんっしょ」
「待て。それはだめだ」
 
 ウェルウェル(俺命名のニックネーム)が唐突に服を脱ぎ始めた。
 露出するおへそ。
 いざ鎌倉っも真っ青にあらゆる煩悩を置き去りにして、すぐに止めに入る。
 いくら水で重くなったからって、それはいけません。
 
「何をしているんですか?」
「やばっ」
「にゅにゅ。擽ったいよぉ~」

 声のする方向に首を動かすと、そこにいたのは毒舌少女ことミラである。
 視線が同じ人間に向けるそれではない。
 彼女の中では、俺=汚物の等式が成り立っているようだ。

「それで何をしているんですか?」
「水浴びを手伝ってもらっていただけだ。だよな?」
「うん。楽し~い!」
 
 俺が目を向けると、ウェルはにっこり破顔した。
 これが天国と地獄というやつか。俺の黒点は二つの世界の間を行き来する。

「死んでください、このロリコン」
「まぁ、信じてくれるわけないか」

 もちろん天国オンリーの方がいいに決まっている。
 その為には地獄を排除しなければならない。だが、とうてい俺の口から出た言葉を信じてくれるとは思えない。
 ウェルちゃんに説明させれば解決するかもしれないが、今までのことからとんだワードが出てくる可能性も否定できない。
 いっぱいかけられたとか……。危険だ。

「カカシさん。何か言ったらどうですか?」
「カカシは悪口じゃないだろっ」
「私は悪口を言ったつもりはありません。やっぱり自覚があるんですね?」

 張り倒してぇ。
 いやいや今のは安易に飛びついた俺が馬鹿だったな。
 何かいい案は……まずは相手を知ることから始めよう。
 俺はじっくりミラを観察する。なるほど上から78、麗奈より少し大きいくらいか。
 ……やめいっ。くそ既に思考が逃避していやがる。 

「気持ち悪い視線を向けないでください」
「ああ、すまん」

 おいおい謝っちゃダメだろ。
 しらを切り続けるべきだった。

「遂に認めましたね。私のウェルにゃんから離れてください」

 ミラは、俺からウェルを分捕っていった。
 ウェルにゃんか。なかなか可愛いあだ名をつけてくれる。
 ……おっ話題発見!

「ウェルにゃんか。まあまあだが、俺のウェルウェルには負ける」
「何を言っているんですか。ただ名前を繰り返しただけの分際で」
「はっ?
 お前こそただ可愛い語尾を付けただけだろっ」

 言い返すと、鼻で笑われた。
 ミラは勝ち誇った笑みを浮かべて、……ウェルの耳たぶを触り始める。
 いいな――。女子同士の特権だよな。

「ふっ。見てなさい」
「おう」
 
 しっかり堪能させてもらおう。
 ウェウの顔が徐々に赤くなっていく。プルプル震えだすと、ある変化が訪れた。

「……まじか――」

 なんと猫耳と尻尾が出現したのだ!
 どうやらウェルは獣人だったらしい。
 きっとむず痒さが、偽装魔法を解除されたんだろうな。
 頭髪と同じ茶色の尻尾が愛嬌のある動きを見せる。耳は心なしか萎れている気がする。

「どう?
 私の勝ちですね」
「あっおおう」
 
 看破系のスキルでも使用したとかか?
 俺だってできるし。ただ使わなかっただけだし。
 もしくはどうせ矢鱈目ったら撫でまわした末の偶然とかだろっ。

「言っておくけど、偶然でも魔法でもないから」
「そうだな。完敗だ」

 何にせよいい感じに話を逸らせてよかった。
 もう十分癒されたからな。
 これ以上面倒ごとを生み出したくない。ここは退散するに限る。
 俺は沐浴場を去ろうと、二人から目を切り、足を踏み出した。
 ところが。

「うわ~ん。嫌いにならないでぇー」
「ちょちょどうした?」

 ――ウェルが飛びついてきた。
 突然のことで、俺の足は止まる。

「ウェルのこと、嫌いにならないで」
「ははっ。俺がウェルちゃんを嫌いになるわけないだろ」
「嘘ついていたのに?」
「ああ」
「獣人だよ」
「かわいいかわいい」
「えへっ褒められちゃった」

 俺が頭を撫でると、ウェルは嬉しそうにほほ笑む。

「お兄ちゃんは獣人のこと嫌いじゃないの?」
「もちろん。こんなにフサフサの耳を邪険できるわけがない」
「擽ったいよ~」

 獣人の王を任されたこともある。最終手段として、俺も尻尾と獣耳を出して仲間をアピールするという方法があったが、その前に落ち着いてくれて良かった。
 麗奈に怪しまれることが目に見えているからな。
 体をくねらせるウェルの姿は、庇護欲をつよく刺激してくる。

「それでね……それでね……」
「大丈夫わかってるよ。誰にも言わないから」

 獣人は差別される傾向にあるようだ。
 周囲には隠して生活しているのだろう。
 むろん俺もばらす気は毛頭ない。
 その胸を伝えると、ウェルは手で俺にしゃがんで合図してきた。
 指示通りに膝を折ると、彼女は俺の耳元に口を寄せる。
 小声で――。

「ありがと。お兄ちゃんの方がお姉ちゃんよりも好きだよ」

 こんなことを宣ってきた。
 お姉ちゃんとは間違いなくミラのことだ。
 俺が勝利を確信した瞬間である。

「そうかそうか――。だけど残念、お兄ちゃんはこのあと用事があるんだ。あれの相手をしてやってくれ」
「ぶー」
「ごめんごめん。またお願いする
「約束だよ」

 金づる。
 俺の脳内にそんな言葉が湧きでてきたが、まあ可愛いから問題なし。
 財布として生きていく未来が視えた。

「じゃあ準備があるから」
「そうか」

 花を満開に咲かせたままで、ウェルは俺から離れていく。
 腰に回った腕が剥がれ、温盛が消えた時は寂しさを禁じえなかった。
 準備と言っていたが、ミラの分のタオルやせっけんを取りに行くんだな。

「命拾いしましたね」
「ああ」

 ウェルがいなくなった今、声を出せる人物は俺以外に一人しかいない。
 立ち上がって、ミラの方に向き直る。

「本当にな。俺じゃなかったら」
「勘違いしないでください。命を拾ったのは貴方ですよ」
「えっ俺か?」
「ええ。もしあなたが私のウェルにゃんを傷つけるようなことをしようとすれば、その前にぼこぼこにしていましたから」

 へへっ私のウェルにゃんだって――。
 お兄ちゃんの方が好きだってよ。残念でした。

「そうか。あんがい俺のことを信頼してているんだな」 
「単に貴方をぼこぼこにする理由が欲しかったかだけです」

 ナニソレコワイ。
 圧倒的に俺の方が強いはずなのに、何だこの恐怖は?

「それは残念だったな」
「ええ」
「なら俺はそろそろ行くよ」
「……待って」

 ミラは急にしおらしい態度になった。
 その変化が俺をその場に留めさせる。

「今度は何だ?」
「笑わないで聞いてくれる?」
「それは話による」

 内心は盛大に嘲笑った後だからな。
 これ以上となると、さすがに外面に影響を及ぼしかねない。

「好きにしてください。笑ったら殺しますので」

 よし。油断せずに行こう。
 表情を固める。

「私が……」
 

 

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