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【第九話・波乱愛憎渦巻く前世編①】
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自身の腹に子が宿る。
その事を、世話役の下女に気付かれ、父へと伝った。
凄い剣幕で怒号し、相手の男は誰だと問う父。
ーーーー私は明かすつもりはない。
「透夜か?」
「違います」
「では誰だと言うのだ!お前の近くに居る男など、透夜以外に居る訳が無かろうが!!」
「違うと申しております」
「嘘を付けっ!今すぐ透夜を呼べ!」
*****
舞の父である青葉城の当主に呼ばれ、透夜は武士二人に上から押さえつけられ、尋問を受ける。
透夜は、否定も肯定も一切しない。
それを当主は肯定と受け取る。
「私の娘によくも手を出してくれたな。お前を信頼して、舞の側に置いていたと言うのに」
「処罰はいかようにも受ける覚悟です」
透夜は、彼の身代わりになるつもりなのだと、舞は絶望する。
だからと、真実を語り、透夜の潔白を晴らす手段も、舞は持ち合わせていない。
「お父様、本当に透夜ではございません!信じて下さいっ」
自身の声など、傲慢で独裁的な父には聞き入れて貰えないと分かっている。
けれど、訴え叫ばずにはいられないのだ。
自分の感情が抑え切れず、招いた事態の仕末を透夜が付けるなど、舞には許容出来る訳もない。
そこに、ガラッと襖が開く音。
「舞姫に宿る子の父は俺です、お館様。どうぞ、透夜を放してやって下さいませ」
こんな時にまで、明るい口調でゆったりと口を開く彼。
「か、おる・・・どうして、」
娘を過激な程に溺愛する当主にそんな事を言えば、自身の今後がどうなるかなど分かりきっているだろう。
透夜は解放され・・・架織は、その場に居た武士二人により、何処かへ連れて行かれる。
「舞の懐妊は、透夜、お前が虫除けをきちんとしなかった不手際でもある。二度と、同じ過ちを起こす事は許さなぬ、良いな」
そう当主に言われ、頭を踏みつけられても、透夜は決して頷く事はなかった。
*****
「舞、これを飲みなさい」
「・・・それは?」
父から出されか粉が何なのか、舞には既に検討が付いていた。
「子が流れる」
「・・・」
「諦めなさい」
「・・・」
「聞き分けのない子だ。良かろう、では、お前が素直に子を流すと言うのであれば、あの男は城を追放するだけで命だけは助けてやろう。どうだ?」
「・・・本当ですか?」
「あぁ」
「っ、分かりました」
舞は、自身に宿った子に何度も何度も心内で謝り、粉を口に含む。
涙を零しながら、それを飲み込んだ。
けれど、父が舞との約束を守る事はなかった。
後日、架織に降った罰は、打首。
*****
夜分、地下の牢に閉じ込められている架織の元に、透夜が訪れる。
門番は、気を失った様に眠っている。
「やぁ、こんばんわ透夜」
「・・・人相変わってるな」
「さっきまで、こっ酷く竹刀で叩かれていたからね。明日になったら腫れが少しは引いてると良いんだけど」
明日、自分の生が終わるかもしれないのに、どこまでも緩く、いつも通りの架織。
透夜は、牢屋の鍵を開ける。
「舞姫と一緒に、隠し通路から逃げろ」
「遠慮するよ。分かってるだろ、そんな事出来ないって。俺には故郷に家族がいるんだ。俺が逃げたら、どんな報復が向くか分からない」
「舞姫よりも、大事なのかよ」
「比べるものじゃないよ」
「だったら尚更、家族も舞姫もどっちも最後まで守れよ。俺に、罪を被せて置けば良かっただろ!!」
幼くして忍びの里の親元から離され、家族の記憶が乏しい透夜にとって、気付けば自分を弟だと言い、笑顔を向けてくれる舞姫は、誰よりも大切な存在で、誰よりも、幸せになって欲しい人だった。
その幸せに、架織は欠かせない存在だ。
「・・・どうして、名乗り出た。許されぬと、分かっていただろ」
「舞の恋人で、お腹の子の父は俺だよ。その役目は、どんな状況だろうと、透夜にだって、誰にも譲りたくなかったの」
「そんな場合かよっ。姫にとって、お前の代わりは、誰にも務まりはしないんだぞ」
「それは、透夜も同じだよ」
「俺は忍だ。俺の代わりなんて、幾らでも用意出来る。でも、お前は・・・」
「舞を、強く大事に想ってくれる忍は、透夜、君一人だ。君の代わりも居やしないんだよ。それに、そんな馬鹿な事をさっきからほざいてると、舞の怒りに触れるぞ。舞にとって、透夜は掛け替えの無い弟、なんだからね、それを忘れるな。命を、簡単に差し出そうとしては駄目だ」
「・・・明日、甘んじて断罪を受けようとしている奴に、言われる台詞じゃない」
「それもそうだな。透夜、俺の最後の願いだ。俺には、どっちかを選ぶ事も、大事なもの全部守れる自信も、なかった。いつか、舞を鳥籠から出してやって欲しい」
「そこに、架織が居なきゃ、意味がない。舞姫は幸せに慣れない」
「それは否定しないな。でも、俺との幸せには劣るだろうけど、幸せなんて、色んな所に転がってる物だよ」
今、此処で、強引に架織を連れ出した所で、俺への冤罪を回避する為に名乗り出た時と同じ、故郷の家族を思い青葉城に引き返してしまうだろう、架織は。
「舞を頼むな、透夜」
*****
「最後に、申す事はあるか?」
と問われ、既に暴行を受け痣だらけの架織は、下女数人から抑えられ、泣き叫んでいる舞に言う。
それは、いつもの変わらない架織の楽しげな口調で。
「先に行ったあの子が寂しくない様に、俺が側に付いててやるからさ、舞はさ、急がず、のんびりおいでね」
舞の目の前で、架織の首は落とされる。
真っ赤な血が、飛び散る。
架織の心を失った瞳と、目が合う。
その瞬間、父への激しい憎悪が湧き立つ。
ーーーー絶対に許さない。地獄に突き落とす、何年掛かっても。
舞は、自身の泥付いた醜い感情を、透夜にも伝えた。
透夜は静かに「分かった」とだけ答えた。
その事を、世話役の下女に気付かれ、父へと伝った。
凄い剣幕で怒号し、相手の男は誰だと問う父。
ーーーー私は明かすつもりはない。
「透夜か?」
「違います」
「では誰だと言うのだ!お前の近くに居る男など、透夜以外に居る訳が無かろうが!!」
「違うと申しております」
「嘘を付けっ!今すぐ透夜を呼べ!」
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舞の父である青葉城の当主に呼ばれ、透夜は武士二人に上から押さえつけられ、尋問を受ける。
透夜は、否定も肯定も一切しない。
それを当主は肯定と受け取る。
「私の娘によくも手を出してくれたな。お前を信頼して、舞の側に置いていたと言うのに」
「処罰はいかようにも受ける覚悟です」
透夜は、彼の身代わりになるつもりなのだと、舞は絶望する。
だからと、真実を語り、透夜の潔白を晴らす手段も、舞は持ち合わせていない。
「お父様、本当に透夜ではございません!信じて下さいっ」
自身の声など、傲慢で独裁的な父には聞き入れて貰えないと分かっている。
けれど、訴え叫ばずにはいられないのだ。
自分の感情が抑え切れず、招いた事態の仕末を透夜が付けるなど、舞には許容出来る訳もない。
そこに、ガラッと襖が開く音。
「舞姫に宿る子の父は俺です、お館様。どうぞ、透夜を放してやって下さいませ」
こんな時にまで、明るい口調でゆったりと口を開く彼。
「か、おる・・・どうして、」
娘を過激な程に溺愛する当主にそんな事を言えば、自身の今後がどうなるかなど分かりきっているだろう。
透夜は解放され・・・架織は、その場に居た武士二人により、何処かへ連れて行かれる。
「舞の懐妊は、透夜、お前が虫除けをきちんとしなかった不手際でもある。二度と、同じ過ちを起こす事は許さなぬ、良いな」
そう当主に言われ、頭を踏みつけられても、透夜は決して頷く事はなかった。
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「舞、これを飲みなさい」
「・・・それは?」
父から出されか粉が何なのか、舞には既に検討が付いていた。
「子が流れる」
「・・・」
「諦めなさい」
「・・・」
「聞き分けのない子だ。良かろう、では、お前が素直に子を流すと言うのであれば、あの男は城を追放するだけで命だけは助けてやろう。どうだ?」
「・・・本当ですか?」
「あぁ」
「っ、分かりました」
舞は、自身に宿った子に何度も何度も心内で謝り、粉を口に含む。
涙を零しながら、それを飲み込んだ。
けれど、父が舞との約束を守る事はなかった。
後日、架織に降った罰は、打首。
*****
夜分、地下の牢に閉じ込められている架織の元に、透夜が訪れる。
門番は、気を失った様に眠っている。
「やぁ、こんばんわ透夜」
「・・・人相変わってるな」
「さっきまで、こっ酷く竹刀で叩かれていたからね。明日になったら腫れが少しは引いてると良いんだけど」
明日、自分の生が終わるかもしれないのに、どこまでも緩く、いつも通りの架織。
透夜は、牢屋の鍵を開ける。
「舞姫と一緒に、隠し通路から逃げろ」
「遠慮するよ。分かってるだろ、そんな事出来ないって。俺には故郷に家族がいるんだ。俺が逃げたら、どんな報復が向くか分からない」
「舞姫よりも、大事なのかよ」
「比べるものじゃないよ」
「だったら尚更、家族も舞姫もどっちも最後まで守れよ。俺に、罪を被せて置けば良かっただろ!!」
幼くして忍びの里の親元から離され、家族の記憶が乏しい透夜にとって、気付けば自分を弟だと言い、笑顔を向けてくれる舞姫は、誰よりも大切な存在で、誰よりも、幸せになって欲しい人だった。
その幸せに、架織は欠かせない存在だ。
「・・・どうして、名乗り出た。許されぬと、分かっていただろ」
「舞の恋人で、お腹の子の父は俺だよ。その役目は、どんな状況だろうと、透夜にだって、誰にも譲りたくなかったの」
「そんな場合かよっ。姫にとって、お前の代わりは、誰にも務まりはしないんだぞ」
「それは、透夜も同じだよ」
「俺は忍だ。俺の代わりなんて、幾らでも用意出来る。でも、お前は・・・」
「舞を、強く大事に想ってくれる忍は、透夜、君一人だ。君の代わりも居やしないんだよ。それに、そんな馬鹿な事をさっきからほざいてると、舞の怒りに触れるぞ。舞にとって、透夜は掛け替えの無い弟、なんだからね、それを忘れるな。命を、簡単に差し出そうとしては駄目だ」
「・・・明日、甘んじて断罪を受けようとしている奴に、言われる台詞じゃない」
「それもそうだな。透夜、俺の最後の願いだ。俺には、どっちかを選ぶ事も、大事なもの全部守れる自信も、なかった。いつか、舞を鳥籠から出してやって欲しい」
「そこに、架織が居なきゃ、意味がない。舞姫は幸せに慣れない」
「それは否定しないな。でも、俺との幸せには劣るだろうけど、幸せなんて、色んな所に転がってる物だよ」
今、此処で、強引に架織を連れ出した所で、俺への冤罪を回避する為に名乗り出た時と同じ、故郷の家族を思い青葉城に引き返してしまうだろう、架織は。
「舞を頼むな、透夜」
*****
「最後に、申す事はあるか?」
と問われ、既に暴行を受け痣だらけの架織は、下女数人から抑えられ、泣き叫んでいる舞に言う。
それは、いつもの変わらない架織の楽しげな口調で。
「先に行ったあの子が寂しくない様に、俺が側に付いててやるからさ、舞はさ、急がず、のんびりおいでね」
舞の目の前で、架織の首は落とされる。
真っ赤な血が、飛び散る。
架織の心を失った瞳と、目が合う。
その瞬間、父への激しい憎悪が湧き立つ。
ーーーー絶対に許さない。地獄に突き落とす、何年掛かっても。
舞は、自身の泥付いた醜い感情を、透夜にも伝えた。
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