13 / 31
2章
第6話 追う者たち
しおりを挟む
マラブの村の村長ヴォラン・ウォーンがイリス大公国女王マギエールに奏上した内容は、王城に驚愕と危機感をもたらし、その話はすぐに、女王の身辺を警護する近衛騎士団にも伝わった。
近衛騎士団の右隊長『アデル・ブルール』は、それを聞くやいなや、取るものもとりあえず、イリスの英雄オルガが座する団長室へと駆け込んだのであった。
***
「なんでやっ! なんでワイに行かせてくれんのや?」
「アデルよ、お前さんは自分の責務を忘れたんかの?」
わかっとるわ!
近衛騎士団の右隊長の本分を忘れるなっちゅーんやろ?
せやかてな、ワイにも譲れんもんがあるっちゅーもんだ
「せやけど、オヤッサン! ワイは、ワイはよ……ずっとガルミアをよ……」
「わかっておるよ。お前さんが、ずっとガルミアを追い続けていたのは知っておる。だがアデルよ、お前さんは近衛騎士団右隊長だろうが。陛下のお側を離れることを許すわけにはいかんぞ?」
イリス大公国の近衛騎士団の団長室、つまりオルガ・イェールドの部屋で、ワイは自分の要求をぶちかましとった。
なんでも、ドワーフと魔族が手を組んで、極北のど田舎にあるっちゅー『プルタンの森』に攻め入ってくるらしいんや。
アホか!? てな話やけど、それを奏上しにきたヤツは魔物の死体を連れていたってんやから、眉唾ってわけでもないんやわな。
ほんでワイらイリス大公国は、プルタンの森に軍を派遣することになったちゅーわけなんやが……。
「ガルミアのアホは、絶対にプルタンの森にいるんや! アイツは死んでへん!!」
「その話はもう何回も聞いたわい」
呆れたようにオルガ団長がため息をついとる
「何度でも言うわ! アイツが北に向かったの<<見た>>って奴がぎょーさんおったんやで? 間違いあらへん! 未だ見つからんちゅーことは、アイツは迷いの森に逃げたんに違いないんや!!」
「だったらなんだというのかのう? たとえガルミアが生きていたとして、それがなんだというのだ」
「なにって、そら……」
「陛下に捧げた忠誠を反故にして逃げた者のことなんぞ、儂は知らぬ! そんな者は死んだも同然よ。そうは思わんかのぉ? アデルよ」
「そら……そうかもしれへんけど……せやけど……」
「グフ……グゥアッハッハ!!」
「な、なんやねんな!?」
突然笑いだしたオヤッサンは、それを押さえ込むように茶を飲み干しよる
「お前は、本当に……ガルミアのことが好きなんだのぉ」
「なんでやねん! 好きちゃうわ! 気色悪いこと言うなや!!」
ワイはガルミアのことが大嫌いやった。
アイツはワイと同い年やったけど、いっつもワイの一歩先を進みよったんや。
ワイが近衛騎士団右隊の副隊長になったとき、ガルミアはもう隊長になっとった。
定例の武術大会でも、ワイがアイツより上位になったことは一度もない……まさに目の上のたんこぶちゅーやつやった。
ガルミアがおらんかったら、『天才』の二つ名はワイのもんやったんや!
そんなガルミアをワイが好いとる?
アホぬかせ!
ホンマに大っっっ嫌いや!!
「ガルミアを追いかけてどうする? ガルミアに会ってどうするのかのう?」
「知れたことや、今度こそアイツに勝つ! それだけや」
「ほほぅ。そのために、誉れ高き近衛騎士を<<辞める>>覚悟があるのだな?」
「……え?」
「え? じゃないわい。お前が陛下のお側を離れてプルタンの森へ行くというのなら、儂はお前を騎士団から除名せんとならぬ。当然のことだと思わんかのう?」
「そ、そら、確かにそうかもしれへんけど……」
「お前が一兵卒となってイリスの軍に身を置く、というなら儂は止はせん。好きにするがよいわい」
「ホンマか? オヤッサン!!」
「うむ、本当だとも。だが、二度とここには戻れぬ覚悟が必要だぞ?」
「そんな覚悟あるかい! ワイはオヤッサンの下がいいんや。ガルミアをぶん殴ったら、一緒に戻ってくるで、そんときゃ二人してまた世話になるで?」
「全く……本当にお前は勝手なやつだのぉ」
オヤッサンは、ニコニコしながら、結局はワイの我が儘を聞いていてくれよった
「仕方がないのぉ。従軍する手筈は特別に整えておいてやる。せいぜい武功を立てるがよい」
「うっす! 有難う存じます。任せといてくださいや!」
待っていろ、ガルミア・ハイルヘル!
ワイが必ずお前をぶん殴ったるでな……オヤッサンを悲しませた理由を聞かせてもらうで!
ワイがいつまでも、お前の影を踏むだけの存在や無いっちゅーところを見せたるわ!!
***
そして、イリス大公国にもたらされた急報は、早馬に乗って皇帝ルキウル・ヴァイハルトのもとに届く。
――14年待った……。
イリスの使者からもたらされた報を聞いて、俺は感慨深くそう思った。
<<マギーエルを追求するな。罪過の子を追うな>>
腹心のアルーカによる卜に従い、ヴァイハルト皇国の皇帝たる俺は、イリス大公国に生まれ、その直後に火中に葬られたという罪過の子の生死を決して追わなかった。
罪過の子は殺さねばならぬ。
その絶対的な法を破ったかもしれぬマギエール女王を、俺は14年間放置したのだ。
――なるほど、こういうことか
14年前に行われた卜は、断片的だがこうも告げていた。
<<14年後>><<魔女>><<マラブの村>>と。
そして先頃もたらせれた急報に曰く<<マラブの村にドワーフと魔族が攻めてくる>>と、いうわけだ。
おそらく……だ。
今回のドワーフと魔族によるイリスへの侵攻は、魔女グリマラが影で操っているのであろう。
そして、グリマラの目的は無論、罪過の子なのだ。
「と、予は思うのが、お前はどう思うか? アルーカよ」
「あくまで推測の域は超えませんが、ルキウル様の推論は、理にかなっているかと存じます」
「いや、そうではない。予はお前自身の考えが聞きたいのだ」
アルーカはしばし瞑目し、静かに語りだした
「魔族はウラノス山の向こう側に棲まうとされております。そして魔女グリマラもまた、その地に居を構えていると……なれば、今回の魔族の侵攻にグリマラの意が介していないとは考えにくいと、拙は愚考いたします」
「ふむ。つづけよ」
「ただ、魔女の目的が罪過の子、というのは早計かと。産まれたばかりの赤子が、その存在を世に知られることなく、14年もの歳月を生きるというのは些か無理のある話です。罪過の子が生きていると判断するには、実際にその存在を確認する以外には無いかと思います」
「たしかに……な」
「もし、罪過の子が生きているとするならば……」
「イリス女王、マギエールの関与……だな」
「はい。イリスの魔具を用いたのだとすれば、罪過の子が生き延びることも可能かもしれません」、
「ならば、魔女の目的が罪過の子という話も通るのではないか?」
「いえ、それでも、そのために魔族の軍勢を派兵する、というところに違和感がございます。魔女グリマラの伝え聞く力を思えば、彼女個人の能力で罪過の子などいかようにもできましょう」
「なるほど……な。罪過の子の件と、魔女グリマラの意思については別個考えていたほうが良い、ということか」
「はい。その2つが関連する可能性も大いにありますが、まずは別々に考えて処した方がよろしいかと存じます」
「ならばまずは、魔族の軍勢を打ち破ることを優先しよう。それで敵の将の一人でも捕らえることができれば、グリマラの狙いも知れよう」
「はい。良いお考えかと存じます」
「それにお前の卜は、そもそも罪過の子の生死所在を占ったものだ。その結果として<<マラブの村>>と出たのだから、案外今回の戦の中に罪過の子の所在も明らかになるのかもしれんな」
「その可能性もございますね」
「よし。では今回の戦い、考えうる最高の将を派遣することとしよう……」
俺は、アルーカと議論を行ったその夜、17歳になる長子を自室に呼び出した。
<<考えうる最高の将>>とは、すなわちヴァイハルト皇国の皇子モルドリヒ・ヴァイハルトのことであった。
俺は、世に<<英雄ゼルフの再来>>などと持て囃されているが、その称号は恐らく我が息子にこそ相応しい。
無論、親の贔屓目では断じてないことは、一言添えさせてもらおう。
「陛下、お呼びでしょうか」
モルドリヒが緊張気味な面持ちで俺の部屋に入ってくる。
そもそも、俺が子供らと顔を合わせることは僅かしかないのだから、その緊張は当然といえよう
「用がなければ呼びはせぬ」
「も、申し訳ございません……」
モルドリヒの表情に寂寥の影が入る
「よい。それと畏まる必要はない。今ここには、予とお前しかいないのだ。親子として語り合えば良い」
「そ、それは、大変嬉しく思いますが……」
「まだ堅いな。もう一度言う、親子として語り合う……よいな?」
「は、はい!」
「うむ」
モルドリヒは、少しぎこちなくも笑みを浮かべた。
「それで父上、オレに頼みとはなんですか?」
「イリスの極北にドワーフと魔族の軍勢が現れる可能性がある……という話は聞いているな?」
「はい。オレは今、ヴァイハルトの左右前後の4軍のうち、前軍に身をおいておりますゆえ、その手の情報はいち早く入っております」
「であろうな。それでお前はこの情報を聞いてどう思った?」
「もし、この情報が正しいとするならば、イリスの手には余ります。皇国も軍を派遣すべきだと思います」
「うむ、予もそう考えている。そこで……だ」
「はい」
「予は、今回の討伐軍の総大将をお前に任せようと思っている」
「は? オレが総大将……ですか?」
「ああ、そうだ。二度も言わせるでない」
「す、すいません!」
「どうだ、やれるか?」
「やります……いえ、やれます! 父上のご期待に見事応えてみせましょう!!」
「うむ。頼もしい限りだな。だが、勝つだけでは予は満足せぬ。敵将の一人を捕虜にせよ。やつらの全容を知りたい」
「なるほど……承りました」
「それとな、これは頭の片隅にでも置いておいてくれればよいのだが……」
「なんでしょうか?」
「戦場に『罪過の子』が現れるやもしれん、その際はその者も捕らえよ。殺しても構わんが、必ず遺体は持ち帰ることを命ずる」
「生きながらえた罪過の子が存在する、ということでしょうか?」
「いや、そうと決まったわけではない。あくまで可能性の話だ」
「わかりました。心に留めておきます」
「うむ。それでは我が息子よ……武運を祈るぞ」
「もったいなきお言葉です」
モルドリヒは膝をついて頭を垂れる。
こうして、俺と息子の親子の時間は、僅かにしてその終わりを迎えたのだった。
近衛騎士団の右隊長『アデル・ブルール』は、それを聞くやいなや、取るものもとりあえず、イリスの英雄オルガが座する団長室へと駆け込んだのであった。
***
「なんでやっ! なんでワイに行かせてくれんのや?」
「アデルよ、お前さんは自分の責務を忘れたんかの?」
わかっとるわ!
近衛騎士団の右隊長の本分を忘れるなっちゅーんやろ?
せやかてな、ワイにも譲れんもんがあるっちゅーもんだ
「せやけど、オヤッサン! ワイは、ワイはよ……ずっとガルミアをよ……」
「わかっておるよ。お前さんが、ずっとガルミアを追い続けていたのは知っておる。だがアデルよ、お前さんは近衛騎士団右隊長だろうが。陛下のお側を離れることを許すわけにはいかんぞ?」
イリス大公国の近衛騎士団の団長室、つまりオルガ・イェールドの部屋で、ワイは自分の要求をぶちかましとった。
なんでも、ドワーフと魔族が手を組んで、極北のど田舎にあるっちゅー『プルタンの森』に攻め入ってくるらしいんや。
アホか!? てな話やけど、それを奏上しにきたヤツは魔物の死体を連れていたってんやから、眉唾ってわけでもないんやわな。
ほんでワイらイリス大公国は、プルタンの森に軍を派遣することになったちゅーわけなんやが……。
「ガルミアのアホは、絶対にプルタンの森にいるんや! アイツは死んでへん!!」
「その話はもう何回も聞いたわい」
呆れたようにオルガ団長がため息をついとる
「何度でも言うわ! アイツが北に向かったの<<見た>>って奴がぎょーさんおったんやで? 間違いあらへん! 未だ見つからんちゅーことは、アイツは迷いの森に逃げたんに違いないんや!!」
「だったらなんだというのかのう? たとえガルミアが生きていたとして、それがなんだというのだ」
「なにって、そら……」
「陛下に捧げた忠誠を反故にして逃げた者のことなんぞ、儂は知らぬ! そんな者は死んだも同然よ。そうは思わんかのぉ? アデルよ」
「そら……そうかもしれへんけど……せやけど……」
「グフ……グゥアッハッハ!!」
「な、なんやねんな!?」
突然笑いだしたオヤッサンは、それを押さえ込むように茶を飲み干しよる
「お前は、本当に……ガルミアのことが好きなんだのぉ」
「なんでやねん! 好きちゃうわ! 気色悪いこと言うなや!!」
ワイはガルミアのことが大嫌いやった。
アイツはワイと同い年やったけど、いっつもワイの一歩先を進みよったんや。
ワイが近衛騎士団右隊の副隊長になったとき、ガルミアはもう隊長になっとった。
定例の武術大会でも、ワイがアイツより上位になったことは一度もない……まさに目の上のたんこぶちゅーやつやった。
ガルミアがおらんかったら、『天才』の二つ名はワイのもんやったんや!
そんなガルミアをワイが好いとる?
アホぬかせ!
ホンマに大っっっ嫌いや!!
「ガルミアを追いかけてどうする? ガルミアに会ってどうするのかのう?」
「知れたことや、今度こそアイツに勝つ! それだけや」
「ほほぅ。そのために、誉れ高き近衛騎士を<<辞める>>覚悟があるのだな?」
「……え?」
「え? じゃないわい。お前が陛下のお側を離れてプルタンの森へ行くというのなら、儂はお前を騎士団から除名せんとならぬ。当然のことだと思わんかのう?」
「そ、そら、確かにそうかもしれへんけど……」
「お前が一兵卒となってイリスの軍に身を置く、というなら儂は止はせん。好きにするがよいわい」
「ホンマか? オヤッサン!!」
「うむ、本当だとも。だが、二度とここには戻れぬ覚悟が必要だぞ?」
「そんな覚悟あるかい! ワイはオヤッサンの下がいいんや。ガルミアをぶん殴ったら、一緒に戻ってくるで、そんときゃ二人してまた世話になるで?」
「全く……本当にお前は勝手なやつだのぉ」
オヤッサンは、ニコニコしながら、結局はワイの我が儘を聞いていてくれよった
「仕方がないのぉ。従軍する手筈は特別に整えておいてやる。せいぜい武功を立てるがよい」
「うっす! 有難う存じます。任せといてくださいや!」
待っていろ、ガルミア・ハイルヘル!
ワイが必ずお前をぶん殴ったるでな……オヤッサンを悲しませた理由を聞かせてもらうで!
ワイがいつまでも、お前の影を踏むだけの存在や無いっちゅーところを見せたるわ!!
***
そして、イリス大公国にもたらされた急報は、早馬に乗って皇帝ルキウル・ヴァイハルトのもとに届く。
――14年待った……。
イリスの使者からもたらされた報を聞いて、俺は感慨深くそう思った。
<<マギーエルを追求するな。罪過の子を追うな>>
腹心のアルーカによる卜に従い、ヴァイハルト皇国の皇帝たる俺は、イリス大公国に生まれ、その直後に火中に葬られたという罪過の子の生死を決して追わなかった。
罪過の子は殺さねばならぬ。
その絶対的な法を破ったかもしれぬマギエール女王を、俺は14年間放置したのだ。
――なるほど、こういうことか
14年前に行われた卜は、断片的だがこうも告げていた。
<<14年後>><<魔女>><<マラブの村>>と。
そして先頃もたらせれた急報に曰く<<マラブの村にドワーフと魔族が攻めてくる>>と、いうわけだ。
おそらく……だ。
今回のドワーフと魔族によるイリスへの侵攻は、魔女グリマラが影で操っているのであろう。
そして、グリマラの目的は無論、罪過の子なのだ。
「と、予は思うのが、お前はどう思うか? アルーカよ」
「あくまで推測の域は超えませんが、ルキウル様の推論は、理にかなっているかと存じます」
「いや、そうではない。予はお前自身の考えが聞きたいのだ」
アルーカはしばし瞑目し、静かに語りだした
「魔族はウラノス山の向こう側に棲まうとされております。そして魔女グリマラもまた、その地に居を構えていると……なれば、今回の魔族の侵攻にグリマラの意が介していないとは考えにくいと、拙は愚考いたします」
「ふむ。つづけよ」
「ただ、魔女の目的が罪過の子、というのは早計かと。産まれたばかりの赤子が、その存在を世に知られることなく、14年もの歳月を生きるというのは些か無理のある話です。罪過の子が生きていると判断するには、実際にその存在を確認する以外には無いかと思います」
「たしかに……な」
「もし、罪過の子が生きているとするならば……」
「イリス女王、マギエールの関与……だな」
「はい。イリスの魔具を用いたのだとすれば、罪過の子が生き延びることも可能かもしれません」、
「ならば、魔女の目的が罪過の子という話も通るのではないか?」
「いえ、それでも、そのために魔族の軍勢を派兵する、というところに違和感がございます。魔女グリマラの伝え聞く力を思えば、彼女個人の能力で罪過の子などいかようにもできましょう」
「なるほど……な。罪過の子の件と、魔女グリマラの意思については別個考えていたほうが良い、ということか」
「はい。その2つが関連する可能性も大いにありますが、まずは別々に考えて処した方がよろしいかと存じます」
「ならばまずは、魔族の軍勢を打ち破ることを優先しよう。それで敵の将の一人でも捕らえることができれば、グリマラの狙いも知れよう」
「はい。良いお考えかと存じます」
「それにお前の卜は、そもそも罪過の子の生死所在を占ったものだ。その結果として<<マラブの村>>と出たのだから、案外今回の戦の中に罪過の子の所在も明らかになるのかもしれんな」
「その可能性もございますね」
「よし。では今回の戦い、考えうる最高の将を派遣することとしよう……」
俺は、アルーカと議論を行ったその夜、17歳になる長子を自室に呼び出した。
<<考えうる最高の将>>とは、すなわちヴァイハルト皇国の皇子モルドリヒ・ヴァイハルトのことであった。
俺は、世に<<英雄ゼルフの再来>>などと持て囃されているが、その称号は恐らく我が息子にこそ相応しい。
無論、親の贔屓目では断じてないことは、一言添えさせてもらおう。
「陛下、お呼びでしょうか」
モルドリヒが緊張気味な面持ちで俺の部屋に入ってくる。
そもそも、俺が子供らと顔を合わせることは僅かしかないのだから、その緊張は当然といえよう
「用がなければ呼びはせぬ」
「も、申し訳ございません……」
モルドリヒの表情に寂寥の影が入る
「よい。それと畏まる必要はない。今ここには、予とお前しかいないのだ。親子として語り合えば良い」
「そ、それは、大変嬉しく思いますが……」
「まだ堅いな。もう一度言う、親子として語り合う……よいな?」
「は、はい!」
「うむ」
モルドリヒは、少しぎこちなくも笑みを浮かべた。
「それで父上、オレに頼みとはなんですか?」
「イリスの極北にドワーフと魔族の軍勢が現れる可能性がある……という話は聞いているな?」
「はい。オレは今、ヴァイハルトの左右前後の4軍のうち、前軍に身をおいておりますゆえ、その手の情報はいち早く入っております」
「であろうな。それでお前はこの情報を聞いてどう思った?」
「もし、この情報が正しいとするならば、イリスの手には余ります。皇国も軍を派遣すべきだと思います」
「うむ、予もそう考えている。そこで……だ」
「はい」
「予は、今回の討伐軍の総大将をお前に任せようと思っている」
「は? オレが総大将……ですか?」
「ああ、そうだ。二度も言わせるでない」
「す、すいません!」
「どうだ、やれるか?」
「やります……いえ、やれます! 父上のご期待に見事応えてみせましょう!!」
「うむ。頼もしい限りだな。だが、勝つだけでは予は満足せぬ。敵将の一人を捕虜にせよ。やつらの全容を知りたい」
「なるほど……承りました」
「それとな、これは頭の片隅にでも置いておいてくれればよいのだが……」
「なんでしょうか?」
「戦場に『罪過の子』が現れるやもしれん、その際はその者も捕らえよ。殺しても構わんが、必ず遺体は持ち帰ることを命ずる」
「生きながらえた罪過の子が存在する、ということでしょうか?」
「いや、そうと決まったわけではない。あくまで可能性の話だ」
「わかりました。心に留めておきます」
「うむ。それでは我が息子よ……武運を祈るぞ」
「もったいなきお言葉です」
モルドリヒは膝をついて頭を垂れる。
こうして、俺と息子の親子の時間は、僅かにしてその終わりを迎えたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる