君の敵

なとみ

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第二章 クロスゲーム

本当に?-①

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 目を閉じて天井を仰いだ。
 にやけた笑いを浮かべた男に視線を戻し、次に出てくる言葉の衝撃に耐える用意をする。

「そのMRが何?」

 声は、自分が出そうと思ったそれよりも低い。
 須田は正臣の様子に何かいつもと違うものを感じ、笑いを引っ込めた。

「え……? なんですか? なんかやばい子でした?」
「今時間があまりないんだ。言いたいことは早く言って」
「え、いや、なんも……ていうかめっちゃ顔怖いんですけど」
「さっさと言え」

 とうとう言葉尻を繕うことも出来ず、そんな自分に眉間を揉んだ。正臣に今、柔らかな仮面を作る余裕はない。
 須田が先ほどの表情は打って変わり、恐怖に怯えた顔でこちらを見ている。

「いや、別に、なんも……」

 そう言って彼は一歩下がったが、正臣は逃がすつもりはないと伝えるつもりで、視線を外さなかった。
 見たことのない威圧感、無言の時間に、須田はすぐに白旗を上げた。

「……や、なんか、情報いりませんかってメールが来て」
「何の?」
「……守屋先生の、なんか、悪い噂知ってるって」

 その瞬間、肩から一気に力が抜けた。
 ふー、と細く息を吐いて、そしてまた眉間を揉む。

 自分は、どうかしている。

「え……なんなんですか? いやまずいのは分かってますけど、そういう火元があるってことは問題あるってことじゃないですか、だから別に俺に非は……」

 須田は怯えながらも、虚勢を張って言葉を連ねている。
 本来正臣が気にしなければならないのは、守屋の噂が出回るというその点のみだ。
 先ほどまで押し寄せていた違う感情は、頭の隅に押しやる。

「会うの?」
「えー、いや、どうしよっかな、って、はい」

 圧をかけられて、須田は続きを濁す。
 おそらく、正臣を慌てさせるためだけに、たったそれだけの情報で我慢できずに声をかけたのだろう。
 自分は今、そんな浅はかな人間に乱されたのか。

「どこで会うの?」
「ちょっと待って、めっちゃ怖いんすけど」

 立ち上る苛立ちは、主に自分への怒りによるものだ。だが須田はそれが自分に向けられたものだと思っているのだろう。青白い顔をして、顔の前で何かを防ぐように手を振る。

「俺も行くので」
「え……いやいや、教えませんよ」
「須田先生、中央医療センターのほうに履歴書送ってますよね。俺、あっちに知り合いいますけど」
「えっ、なんっ、は? 脅しですか?」

 無言で見下ろす数秒ののち。
 須田は心底嫌そうな顔をしながらも、もう逃げられないと判断したのか、スマホを取り出した。

「いや、えー、何……?」

 画面に映った内容を自分のスマホにメモをする正臣をひきつった顔で見ながら、心底戸惑う声でそう言った。
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