君の敵

なとみ

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第三章 真実

巣立ち-①

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「うーん、難しいですねぇ~」

 特に特徴のない応接室。木佐と柚琉の前に座っているのは、四十歳になりたてだという、どこか軽薄そうな弁護士だ。
 高梨たかなしという名のその男は、二人の話を聞き、第一声にそう答えた。

「具体的には、どういった点がでしょうか」

 柚琉はメモを取りながら、淡々と尋ねる。
 彼の答えに驚きはない。なぜなら、これが二人が訪ねる三人目の弁護士だからだ。
 第一印象だけでいえば、前に会った二人の弁護士のほうがずっと信用できる。
 だが、柚琉の本命はこの高梨だった。

「そもそも医療訴訟というものは、患者側が勝てる見込みが低いと言われておりまして~……」
「七割以上が敗訴ですね。理解しています」

 柚琉の言葉に、高梨はにっこりと微笑んでから言った。

「今回のお話が事実であれば、当時、その当該医師の認知症がどこまで進行しており、その手術を行える状態だったのか客観的な証明を行う必要がありますね。当時診断は出ていたのか、病院側がどこまでそれを把握していたのか」

 柚琉は頷く。

「業務上過失致死……いや、無理だろうな。周囲がどこまでその医師の状態を知っていたかにより……いやぁ~、難しいかな……。当時の看護師の方が証人になってくださるとのことですが、ほかの関係者が否定されれば、病院側に非を認めさせるのは難しい。今回は『カルテの開示を必要とする相当な理由』とみなされるかとは思いますが、許されないことですが、内容が病院ぐるみで伏せられていれば、形としての証拠には期待できない。先ほどお話されていたとおり、せめて解剖されていたら……と思わずにはいられませんねぇ」
「……やはりそうですか」

 細かい違いはあれど、三人の弁護士の主張はほぼ同じだ。
 このままでは、まともな闘いにすることも難しい。
 だが、柚琉の心は決まっていた。

(やっぱりこの人に頼みたいな)

 高梨は、柚琉がMR時代に関わった医療関係者を駆け回り見つけた弁護士だ。
 一見やる気のなさそうな男だが、こういった微妙な案件も担当してくれるという噂を辿ってやって来た。
 弁護士と信念が一致することは大切だ。それに、闘える実績と実力。それらを鑑みると、選べる対象は多くはない。
 彼を最後に回したのは、弁護士とのやり取りの経験を積んでからこの場に臨みたかったからだ。

(でも、断られてしまうかもしれない……)
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