君の敵

なとみ

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第三章 真実

巣立ち-②

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 不利な案件を受けることは、彼にとってもプラスではない。狭い世界だから噂も回り、その後の商売にも影響する。
 その時、隣にかけた木佐が口を開いた。

「……同じような患者はいないかな」
「いる……かもしれませんが、見つける手段、ありますかね」

 病院で管理されている個人情報は当然入手できない。しかも七年も前のことだ。難しいだろう。
 木佐は腕を組んで、まるで何事でもないかのように言った。

「日本の記者じゃなく、海外の記者クラブに持ち込もうかなって」
「え……!? メディアにということですか? それは病院への迷惑にもなるからやりたくないと」
「そんなこと、もう言ってる状況じゃなくない?」

 柚琉はぐっと詰まる。
 
「日本は少子高齢化のトップを走る国だ。それに伴い医療にどういった弊害が出るのか、注目の対象になればいいなと思って。先生。こういった場合、法律的にはどういった罪に問われますかね」
「うーん、椎名さんを情報元として話すのであれば別に……。本当なら、正式に訴訟してからのほうが強いかもしれませんけど、紙カルテなら証拠保全か……だいぶ先になりますねぇ」

 木佐はこの場で話すことで、こちらの本気度を伝え、高梨の協力を得ようとしているのだろうか。
 だがそれでも、やりたくはない。

「何か勘違いしてるかもしれないけど、表に出るのは俺だよ」
「それは……」
「君より目立つでしょ。君は拡散されるように頑張ってよ」

 自意識過剰な言葉だが、認めざるを得ない。
 画面映えする若い医者。
 SNSでの拡散にはもってこいだろう。

「当然、契約して報酬はお支払いします。どうですか?」
「構いませんよ」
「ちょっ……」

 木佐が勝手に話を進め、柚琉は慌てた。

「プライバシーも何もかも、めちゃくちゃになりますよ」
「このままだと俺は、全てを失って終わりだ。勝負に出るしかない」

 柚琉はその言葉に目を丸くした。

「何かあったんですか」
「昨日、病院から呼び出されたよ。手を引くようにって」

 ああ、と声が出て、柚琉は両手で顔を覆った。分かっていたことだ。やはり、現実は汚い。

「この案件から手を引くまで、手術にまともに入らせてもらえなくなった。もっとひどいやり方はいくらでもあるだろうから、まだ配慮されてるだろうけど」
「先生」
「やっぱり悲しくなるものだね」

 自分のこれまでの医者としての働きぶりも実力も、評価の対象ではない。
 病院の利権と、その秩序に逆らおうとするかどうか。そこで決められてしまう。

「……上手く話題になったとしても、めちゃくちゃなことを書かれます」
「どうかな、耐性はあるほうだと思うけど」
「話は進めてもよろしいですかね?」
「ええ、よろしくお願いします」

 高梨の言葉に木佐は頷いたが、柚琉は即答できなかった。
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