君の敵

なとみ

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第三章 真実

会見-②

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あの日以降直接会う勇気が出なかったのだが、今日は、顔を合わせて話すべきだったかもしれない。

「なんかもう、ずっと怒ってるけどね」

 柚琉の言葉に、くすくすと翔太が笑う。それが耳をくすぐる。

『顔が見える。正(ただし)さんが俺を家に入れてくれた時も、美津琉さん、ほんとに嫌そうだったもんね』
「そんなことないでしょ」
『いや、あるよ。まぁ、今思えばめちゃくちゃ危ないことだしね。俺はやる気になれば、際限なくゆずの家から奪えたし、ぐちゃぐちゃにできた』

 そうだね、と柚琉は天井を見上げながら返した。
 大人になって、いわゆるネグレクトをされている子どもへの対応への難しさも知った。保護すればいいという簡単な話ではない。あんなふうに翔太の母親とのやり取りもスムーズだったのは、彼女が最低限の常識さを持っていたのもあるし、父の特殊な性格に依るものもあった。運が良かったのだろう。
 今では、当時の母の心労も想像できる。

『それにゆずと付き合ってる時なんか、引き離そうとしてるのがめちゃめちゃ伝わってきてさぁ。別れたって話した時、明らかに安心してたもんね~』

 ごほ、と柚琉は咳き込んだ。
 何事もなかったかのように。
 油断していたところに突然斬り込まれた話題に、柚琉は呼吸を整える。

「それは……」

 ない、とは言えない。真面目で学業に勤しんでいた柚琉に対して、翔太は中学の頃にはとっくに髪を茶色に染め、彼が付き合う友人も決して品行方正とは言えなかった。柚琉自身も、学校の教師から翔太と関わるなと遠回しに止められたこともある。
 いろいろな思い出がある。一緒に大人になってきた。

『ゆずに付け込む隙があれば、俺はなんでもいいのにな』
「……だめだよ」
『残念~』
 
 どこまでが本気か分からなくて、心臓に悪い。
 電話越しなのに、こちらが揺らげば取り込まれる危うさを感じる。

「話、戻すね。……今日、電話した要件だけど」
『いいよ。何?』

 柚琉は強引にそう言った。
 翔太がそれ以上突っ込んでくる様子はない。

「会見の拡散なんだけど、協力……してもらえないかな」
『いいよ~』

 またふわりとした声で、翔太はそう返事をする。予想していたのだろう。
 今日柚琉から翔太に連絡をしたのは、木佐がやろうとしている会見に先んじて、それがネット上で最も効果的に拡散されるよう、協力を求める必要があったからだ。
 木佐も柚琉も、この領域には全く詳しくない。

「ちゃんとお金は払うから、見積……とかあるのか分からないけど、出してもらって欲しい」

 おっけ~、と軽い返事が返ってくる。

『先生スペックいいからね。画面映えするから、ダミーのアカウントいくつか用意したら効果あるんじゃないかな。こっちも稼がせてもらお~』

 ありがとう、と返しながら、柚琉は自分が戻れない道を走っていることを、再び感じさせられた。
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