君の敵

なとみ

文字の大きさ
85 / 110
第三章 真実

空振り-③

しおりを挟む
「先生の……木佐先生が、医者として働ける場所を……探したくて」
「はぁ~?」

 明石が呆れた声を出す。そして聡に向けて言った。

「もうさ~。ちょっと俺外でたばこ吸ってきていい~?」
「ここ、外ももう喫煙所閉鎖されてますよ」
「最悪~」

 明石はまた天井を仰ぎ見て、そしてぐいと前のめりになる。

「椎名さん、お前、巻き込んだ責任がとれるとでも思ってる?」

 とれない。きゅ、と唇を噛む。

「そういうの全部分かって、あんなアホな手段とったんじゃないの?」

 詰めてくる明石に、何を言い返すこともできない。

「あ、そーだそーだ、あの先生が絶対嫌がりそうなど田舎だったら紹介できるけど」

 明石がにやにやと笑みを浮かべる。それをつい睨み返した。
 東京でしか生きたことのない彼が、行けるはずがない。

「毎日往診してやらないといけない高齢者ばっかりのとこ。若い奴はだーれも行きたがらないようなとこでさー、昔からの先生が引退するってんで困ってんの」

 柚琉の顔を見て、はっ、と馬鹿にしたように息を吐く。

「都落ち」
「明石さん」
「それぐらいの覚悟、できてたんでしょ? 違うの?」

 柚琉は唇を噛んだ。

「負け犬らしく生きるしかないんじゃないの」

 木佐に、自分がそれを話すのか。
 彼は絶望するだろうか、怒るだろうか。

「そこ以外は今は無理でしょ。人が多いとこでなんか働けないし。そもそもどこも雇わないし。まぁ、田舎でも噂されまくるだろうけどねぇ~。家でこもってるより健全なんじゃない?」

 明石が馬鹿にしたような笑顔で言うのを見つめながら、柚琉は俯いた。 
 自分のことよりも、苦しかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

処理中です...