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第三章 真実
空振り-③
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「先生の……木佐先生が、医者として働ける場所を……探したくて」
「はぁ~?」
明石が呆れた声を出す。そして聡に向けて言った。
「もうさ~。ちょっと俺外でたばこ吸ってきていい~?」
「ここ、外ももう喫煙所閉鎖されてますよ」
「最悪~」
明石はまた天井を仰ぎ見て、そしてぐいと前のめりになる。
「椎名さん、お前、巻き込んだ責任がとれるとでも思ってる?」
とれない。きゅ、と唇を噛む。
「そういうの全部分かって、あんなアホな手段とったんじゃないの?」
詰めてくる明石に、何を言い返すこともできない。
「あ、そーだそーだ、あの先生が絶対嫌がりそうなど田舎だったら紹介できるけど」
明石がにやにやと笑みを浮かべる。それをつい睨み返した。
東京でしか生きたことのない彼が、行けるはずがない。
「毎日往診してやらないといけない高齢者ばっかりのとこ。若い奴はだーれも行きたがらないようなとこでさー、昔からの先生が引退するってんで困ってんの」
柚琉の顔を見て、はっ、と馬鹿にしたように息を吐く。
「都落ち」
「明石さん」
「それぐらいの覚悟、できてたんでしょ? 違うの?」
柚琉は唇を噛んだ。
「負け犬らしく生きるしかないんじゃないの」
木佐に、自分がそれを話すのか。
彼は絶望するだろうか、怒るだろうか。
「そこ以外は今は無理でしょ。人が多いとこでなんか働けないし。そもそもどこも雇わないし。まぁ、田舎でも噂されまくるだろうけどねぇ~。家でこもってるより健全なんじゃない?」
明石が馬鹿にしたような笑顔で言うのを見つめながら、柚琉は俯いた。
自分のことよりも、苦しかった。
「はぁ~?」
明石が呆れた声を出す。そして聡に向けて言った。
「もうさ~。ちょっと俺外でたばこ吸ってきていい~?」
「ここ、外ももう喫煙所閉鎖されてますよ」
「最悪~」
明石はまた天井を仰ぎ見て、そしてぐいと前のめりになる。
「椎名さん、お前、巻き込んだ責任がとれるとでも思ってる?」
とれない。きゅ、と唇を噛む。
「そういうの全部分かって、あんなアホな手段とったんじゃないの?」
詰めてくる明石に、何を言い返すこともできない。
「あ、そーだそーだ、あの先生が絶対嫌がりそうなど田舎だったら紹介できるけど」
明石がにやにやと笑みを浮かべる。それをつい睨み返した。
東京でしか生きたことのない彼が、行けるはずがない。
「毎日往診してやらないといけない高齢者ばっかりのとこ。若い奴はだーれも行きたがらないようなとこでさー、昔からの先生が引退するってんで困ってんの」
柚琉の顔を見て、はっ、と馬鹿にしたように息を吐く。
「都落ち」
「明石さん」
「それぐらいの覚悟、できてたんでしょ? 違うの?」
柚琉は唇を噛んだ。
「負け犬らしく生きるしかないんじゃないの」
木佐に、自分がそれを話すのか。
彼は絶望するだろうか、怒るだろうか。
「そこ以外は今は無理でしょ。人が多いとこでなんか働けないし。そもそもどこも雇わないし。まぁ、田舎でも噂されまくるだろうけどねぇ~。家でこもってるより健全なんじゃない?」
明石が馬鹿にしたような笑顔で言うのを見つめながら、柚琉は俯いた。
自分のことよりも、苦しかった。
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