俺のうちにもダンジョンができました

天地森羅

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第二章 新たなる出会い

16 出会いは突然に

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「大変、達也、すぐ高田さんとこ行って。」


俺が畑を耕運機で耕していたところに、母さんがあわててやってきた。


「なした。」


「高田さんとこに獣医の木下先生が検診に来ていたらしいけど、ぎっくり腰で動けなくなったんだって。」


「ええー、そりゃ大変だー。」



俺は耕運機を戻し簡単に片づけをしてから、急いで車にのり隣の家の高田家にむかった。
高田家は俺んくらいの農家牧場だが、70代の年寄り夫婦の二人暮らしだ。
そこに、家畜の検診に来たのが、俺の牧場うちにも来てもらっている、獣医の木下先生だ。
木下先生は大きい町で獣医をしている、60代のおじいちゃん先生だ。


高田家まで車で10分の距離にある。納屋の前に二人の年寄りがいた。


「おお、達坊、こっちだ。」


高田家の主人である、御年75歳の高田竜太郎氏が声をかけてきた。


「木下先生、大丈夫かい。」


俺は車から降りると、高田のじいさんのすぐ横に座り込んでいる木下先生に駆け寄った。


「平気だ。、、、


大丈夫ではなさそうだ。


「ところで、なんでこんなところに米があるんだ。」



俺は木村先生のわきに30Kgの米の袋が置いてあるのに気づいた。
高田のじいちゃんが困り顔になって言った。


「いやー、わしが米を運んでいたら、それ見て、木下が運ぶって言い出して、持ったとたんやったんだ。」


「無理すんなよ、二人とも年寄りなんだから。」


「そうだぞ、年なんだから。」



そう言うと、高田のじいちゃんは、ひょいっと30Kgの米袋を持ち上げると、そのままかついで行ってしまった。
75歳高田のじいちゃん、夫婦してうちの水と野菜食べてるから、かなり若返っている。
俺は木下先生が見栄みえはって、米を持ち腰を痛めたんだなと推測する。



「先生どうする?病院行くか家にいくか?」


「くそっ、いててて、とりあえず、病院いってくれ。」


「わかった。歩けるか先生。」


無理そうだな、腰に手を当て痛がっている。
痛めたことないから知らないけど、ぎっくり腰相当痛いらしいし、ほんとは回復薬ポーション飲めばあっという間に治るのだろうが、何も知らない先生に飲ますわけにはいかない。
しかたがない、俺は先生を、お姫様だっこする。
俺に持ち上げられた先生が、痛がりながらも驚いた顔をする。



「な、なんでおまえまで簡単に持ち上げられるんだ。いて。高田のじじいといい、おまえといいどうなってんだ。いててて。もっとやさしく扱え。」


「はいはい。おとなしくしててくれ。ほら、俺の車、車高が高いからこの方が早いよ。」



儲かっているので、黒の4WDの国産車ランドクルーザーを新車・フル装備で購入した。



「じいちゃーん、先生送っていくから。」


俺はこちらに歩いてくる、高田のじいさんに声をかける。


「おー、頼んだぞー。」


高田のじいさんは、片手をあげて返事をしてくれる。





木下先生は、うちから1時間はかかる大きな町に住んでいる。
そこの町の病院に行って、診察してもらった。
医者が他の医者にかかるのは恥だと言っていたが、あんた獣・医・だろうと声に出さずに思うだけにした。
注射してもらうと、だいぶ痛みは落ち着いたみたいだが、動きがおかしい。
生まれたての子牛のような歩みでゆっくり歩く木下先生を、家まで送っていく。



木下先生の家に着く頃には、もう夕方になっていた。
俺は木下先生を、介助しながら玄関を開けた。

「おーい、帰ったぞ。」


「お帰りなさい。遅かったのね。あら、どうしたの。」



木下先生の奥さんが出迎えてくれた。初めて会うがやさしそうな奥様だ。


「腰やった。こっちは神崎牧場の達也だ。送ってもらったんだ。」



木下先生が俺に支えられながら、恥ずかしそうに答えた。


「あらあら、大変。はるかちゃーん。ちょっと来てちょうだい。」



はるかちゃん?
奥様が大声をだし呼んだ。
すると、若そうな長い髪を一つ縛りした、背の高い目の鋭い美人がでてきた。
確か、木下先生は奥様と二人暮らしだったはずだが、誰だろう。
俺たちの様子を見てあわてた女性の一言でわかった。



「どうしたの、おじいちゃん。」



木下先生のお孫さんかな。


「ごめんなさい神崎さん、とりあえずソファまで連れて行ってくださいますか。」



奥様にいわれたので、俺は先生を支えたまま、家にあがった。


「まあまあ、神崎さん本当にありがとうございました。改めまして、木下の家内の里子です。こちらは孫のはるかです。」



奥様は、にこにこ笑顔で挨拶してくれたが、遥さんは、すこし機嫌が悪るそうな顔のまま、軽く頭をさげただけだ。
まあ、祖父がぎっくり腰の上、見知らぬ男がきたから警戒しているんだろう。


「神崎達也です。今日先生が行った高田さんの近所に住んでいます。うちの牧場も木下先生にはお世話になっています。先ほど病院に行って治療はしていただきましたが、当分安静だそうです。」



木下先生は、口をへの字にしながら黙っていて機嫌が悪い。
奥様が、微笑みながら言った。


「ふふふ、ぎっくり腰はもう何回もやっているから扱いには慣れてますよ。もういい年なんだから、無理しないでといっているのに、仕方がないわね。」


「えっ、そうなの。大丈夫なの。私が診ようか。」



遥さんが、またも吃驚した表情で言う。


「いらん。おまえに診てもらうほどひどくない。第一、外科医だろう、おまえは。」


ふたりが言い争っているのをみながら、「遥さんはお医者様なのか。外科医って人・間・のお医者さんだよな。」などと思っていたら、奥様がにこにこしながら説明してくれた。


「ごめんなさいね。遥ちゃんは東京にいる息子の娘で、大学病院の外科医にお勤めしていたのよ。
今度、札幌の大学病院に転勤になったの。いま休暇中で遊びに来ているの。」


「おばあちゃん、勝手に私の事はなさないでよ。」


「ふん、大学で上司とけんかになり、左遷されたんだろうが。」


「ちがうわよ。意見の相違よ。ちっ。思い出させないでよ。あの使えない上司やつの事。」



美人が舌打ちした。また言い争いを始めた二人をみていたら、奥様が言った。




「そうだわ、神崎さんお夕飯はまだでしょう。お寿司でも頼みましょうか、おじいさん。」


「いいですよ。もう遅いから帰ります。」


「達也、遠慮するな。寿司は遥が来たとき食ったから、今度は海鮮丼にしよう。」


「あっそうだ。か、母が野菜とか持たせてくれたので、ちょっと車に荷物をとりにいってきます。」




俺は車に戻り、母さんが持たせてくれた野菜の入った箱3つを先生のお宅に運んだ。
あの短時間によくこれだけ詰め込んだな、母さん。


「これ、うち(ダンジョン)でとれた野菜(マツタケ入り)です。よろしかったらどうぞ。この白い箱は、母が作っているチーズケーキです。たぶん、見た目が型崩れか何かで売れないものですが、味はかわりませんので、こちらもよろしかったらどうぞ。」



俺が玄関に広げた荷物を見て、奥さんと遥さんが目を見開いて驚いている。
すると遥さんが大声で叫んだ。


「こ、こ、このチーズケーキもしかして『幻のカンダンケーキ』じゃない。」



大声に吃驚びっくりして横にいた奥様が、遥さんに語りかけた。


「『幻のカンダンケーキ』ってなあに。」


「今、都内で話題になっている通販専門のケーキで、予約1年待ちのチーズケーキよ。この間大学病院で盲腸で入院した芸能人がお見舞い品でもらって食べれないからって、院長先生に渡されて、病院スタッフ一同で大騒ぎになったの。手に入らないから『幻のチーズケーキ』って呼ばれているのよ。えっ、似てるけど違うケーキ?」



正しくは、ファームKANDANカンダン会社うちの名前です。
いつのまにか都会で『幻のチーズケーキ』とか呼ばれているし。
予約1年待ちって何かな。
たしかに手作りで、1日、数個しか作れないけど。どんな販売戦略なのかな。


「まあ、形はあれだけど、おいしいんで皆さんでどうぞ。」



遥さんがチーズケーキに釘付けです。





結局ごちそうになることにした。海鮮丼を食べながら、木下先生が聞いてきた。


「達也、高田のじいさん、なんであんなに元気なんだ。」


「ほら若い人いなくて、うちで始めた商売の手伝いを皆でしてくれるから、元気なんじゃないかな。」



ダンジョン産野菜たちのおかげですとは言えず、俺は口元をひくひくさせながら答えた。


「神崎さんは牧場をされているんですよね。そこで幻のチーズケーキを作られているんですよね。」



遥さんが聞いてきた。そういえば、若い女性とお話しするのは、1年ぶりだなと少し緊張しながら答えた。


「小さい牧場ですが、母がご近所の主婦たちと、牧場の牛乳や卵でチーズケーキを作って売り出したんです。今は、いちごやブルーベリーなどのケーキを試作中です。手作りだから量産が難しくて、なんとか販売しているんです。チーズもいろいろな種類を作っているので、これも売り出す予定です。あとワインも売る予定で、今はアルコール関連の事務手続き中です。そこらへんは母がやっているので詳しくは知らないんです。あとは、」


「まてまて、”です”多いな。いやそんなことよりおまえのところ、いつの間にそんな手ひろく商売を始めたんだ。おまえの親父おやじが死んで、まだ1年くらいだろうが。」


「ああ、半年前位からですかね。か、母が中心になって始めておかげさまで売れ行きが良くて、今じゃ工場の施設も広げて、ああ、いつも高田さんところの次に、うちの牛たち検診してたから先生はまだ牧場うちに来てないんですね。しばらくこれそうにないですよね、腰大丈夫ですか。」


「うー、こんなの、すぐ治る。」


「あらあら、おじいさん、無理したらまた痛めますよ。」


「そうよ。しっかり治さないと。」


「わかっとる。」




「まあ、小さな村なんで総出で、なんとかやっているんですよ。」



緊張して言葉使いがおかしいまま、商売の事を話しながら出前の海鮮丼いただきました。
遥さん、幻のケーキがうちの牧場で作っていると知ると、ものすごくフレンドリーになりました。
花より団子です。
そして、木下先生の家で夕飯をごちそうになり、帰りました。






木下先生を送って2日たちました。俺は、ひとりで近くの(車で20分はかかる)バス停にいます。
昨日の夜、木下先生から電話があり、高田さんちに置きっぱなしの車を、遥さんがとりにくるそうなので、バス停まで迎えに来てほしいとのことです。
タクシーを使おうとしましたが運賃が2万近くかかるそうで、バスを使うことになったそうです。


田舎で交通も不便で、すみません。


俺が迎えに行ければよいのですが、工場の方が忙しくなり、俺もダンジョン探索で時間がとれませんでした。


1日2本しか通らない、バスが到着しました。
中から、遥さんが降りてきます。外出用なのか化粧をしっかりしています。今日も美人さんです。緊張します。


「神崎さん。お忙しいところ、ありがとうございます。」


「いえ、こちらこそ、こんな不便なところで申し訳ないです。とりあえず、車乗ってください。」



道路だとじゃまになるので、バス停の空き地にとめていたランドクルーザーに乗り込む。


「先生の具合はどうですか?」


「歩けるようにはなりましたが、まだ痛みがあるようです。ご迷惑をおかけしました。」


「いいえ、こちらこそ、ごちそうになって、却ってってありがとうございます。」


「私、明後日から札幌の病院の勤務が始まるんです。祖母は運転できないし、今日しか車を取りにくるしかなくて、無理いって迎えに来ていただいて、すみません。」


「そうですか、札幌ですか。木下夫妻せんせいも寂しいでしょうね。あっ、車はうちにあります。」


「神崎さんのお宅という事は、もしかして牧場と工場のあるお宅ですか?」


「はい。高田さんたちも、忙しいので今はうちに手伝いにきてもらってます。」




車なのですぐに着いた。
車から降りると、母さんがあらわれたので紹介する。


「母です。」


「初めまして。木下の孫の木下遥と申します。祖父がお世話になっています。」


「あらあら、達也の母です。美人なお孫さんね。うちの達也のお嫁さんになりませんか?」




「な、なに言ってんだよ。失礼だろう。遥さんは、明後日には札幌市内の病院で仕事する、立派な人間のお医者様なんだぞ。こんなチンケな牧場の嫁になんかなるはずないだろう。」


母さんの暴言に、俺は自分でも何言っているのかわからないほど焦った。


「あら、残念ね。気がかわったら、いつでもお嫁さんに来てね。帰りに失敗といっても、割れがはいっているだけの新作のケーキがあるの。お土産に持っててね。あら、ごめんなさい。
もしもし、神崎です。ああ、その件でしたら・・・」



母さんは、持っていた携帯電話が鳴ったらしく、通話しながら歩いていってしまった。


「すみません。母が変な冗談を言って。」


「いえ、あの新作のケーキって、例の幻シリーズですか?」


「そ、そうだと思いますが」


「楽しみです。」




やはりケーキが気になるのか。
淡い期待をしていたが、見事にスルーされ少しショックだった。
しかたがない、俺はただの平凡な田舎者だしな。




事務所に行くと、いつもの3人のばあさん、いや奥様方がいた。
お茶と幻のチーズケーキが出たので、遥さんは満面の笑みだった。


なぜか、皆して俺の彼女や嫁にならないかと、遥さんに聞いていた。
その都度、遥さんのような美人で立派な職業を持つ女性が、俺なんか平凡男に構うはずはないと、自分で言っては落ち込むことになった。






「ありがとうございます。お土産までいただいて。」



遥さん、終始笑顔だ。


「いえ、こちらこそ、騒がしくてすみません。」


ふと、遥さんが真面目な顔になった。


「私、東京の病院から上司とあわなくて、左遷されたんです。
こちらにきて知り合いは祖父母だけだし、少し落ち込んでいたんです。
でも、幻のケーキは食べれたし、達也さんとも知り合えたし、明日から札幌の病院でいちから出直します。」



俺に会えたことよりも、ケーキが先なんだなあ。


「頑張ってください。何にもないところですが、いつでも歓迎しますよ。また来てください。」


「はい。あっ、携帯、ライン交換しません。」


「喜んで。」 







こうして、遥さんと出会ったが、彼女は札幌に行ってしまった。








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