私の夫は妹の元婚約者

彼方

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 私の夫ミラーは、妹マリッサの元婚約者である。
 マリッサはまだミラーに未練があるのか、私をおちょくるような口調で言った。

「お姉ちゃん。やっぱりミラーさんには私みたいな活発な女の子が合うと思うの。冷静沈着で大人しい性格の……お姉ちゃんはどう思う?」

 はい?
 鏡を見たわけではないが、今の私の顔は精一杯に歪んでいるだろう。
 確認するように自室の壁にかけられた鏡をチラッとみると、やはり困惑いっぱいの顔をしている自分が映っている。

「マリッサ。あなたの言いたいことが分からないわ。ミラーは私の夫なの。一体何を企んでいるの?」

「別になにも企んでないよぉ……ただ、もしミラーさんがお姉ちゃんに飽きてたら、私だったら放っておかないなって思って……ふふっ」

 笑顔の瞬間だけ切り取れば、なんと美しく純粋無垢な笑顔だろうと賞賛されるだろう。
 しかし、マリッサの言っていることは完全なる悪で、私の夫を奪い取ろうという魂胆は見え見えだった。

「残念ながらミラーは私に飽きてないわ。まだ結婚一年目だし、毎日好きだって言ってくれるし、ちゃんと記念日とプレゼントを大切にしてくれる、素敵な人よ」

「ふーん、でも人の心はすぐに移り変わるよ。昨日まで好きだった人を今日も好きとは限らないよぉ? 私はお姉ちゃんが心配だから言ってるんだよぉ? ね?」

 やはりマリッサは完全なる悪の塊だ。
 動揺することもなく淡々と嘘をつき、しかし蛇のように狡猾にチャンスをいつも狙っている。
 もし私とミラーの仲に少しでもヒビが入れば、彼女は躊躇することなくそこに噛みついてくるだろう。

 このままではマリッサのペースに乗せられてしまうと思った私は、反撃をすることにした。

「マリッサ。私の心配はいいから、自分の心配をしたら? この前、婚約者のロットとは違う男性と街を歩いているのを見たけど……大丈夫かしら?」

「……え?」

 若干、マリッサの瞳が揺れた。
 しかし次の瞬間には、愛想のよい笑みを浮べていた。

「ああ、彼は友達……婚約者がいたら友達と遊んじゃいけないっていう法律はないからね」

「まあ、そうだけど……ふつうはそういうのは慎むべきじゃないかしら。あなたたちも婚約してまだ日が浅いのだし」

「そうかなぁ? でも、皆良い人たちだから大丈夫だよぉ……色んな意味でね」

「へぇ……どういう意味かしら?」

 私たちは顔を見合わせて笑顔を見せあう。
 他の人がこの光景をみたならば、仲睦まじい姉妹の様子が目に映るだろうが、生憎真相は違う。
 そのままにらみ合いが数秒続き、私はため息交じりに口火を切る。

「……マリッサ。あなたのことを心配して言っているのよ。遊ぶのもいいけど、取り返しがつかないことだけはしちゃだめよ。分かった?」

 妹の魂胆は見え透いている。
 しかし、私にとっては世界でたった一人だけの妹なのだ。
 心配になってしまう気持ちが沸き上がるのは当然だ。

「はーい! お姉ちゃんもミラーさんを取られないように気をつけてね。案外身近な人が彼を狙っているかもしれないし……ふふっ」

「ええ、そうね。十分に気をつけるわね。例えば、元婚約者さんとか……ね?」

「「ふふふふふっ……」」 

 私たちは再び微笑み合った。
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