ザ・ネクスト・テラ - The Next Terra -

戶村

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災厄編第1章 災厄の始まり

第1節3款 災厄の日

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 明久と四藏と話していたらノックもなく、突如として開いたドア。
 ドアから入ってきたのはダンジョンに出ていた部隊の隊長だった。
あつし! 無事でよかった。そっか…… そっちの方はどういう状況!?」一守は実行部隊がダンジョン攻略を行なっていたのを思い出して状況を慌てて尋ねた。
「どうにかダンジョンの外まで撤収は出来た。清水に隊長代理を任せて北千葉に撤収中だ。損害は正確ではないが十八人をロスト、二十人程度が負傷した。それより光郁、どうなってんだよこりゃ」

 三文字淳さんもんじあつしは幼馴染の一人だ。一守明久の親友である。
 二人とは同じ学区内に住んでいて、幼小中高大と全て同じ所に通った何でも話せる親友である。悪友と言うか鎖縁。三人の誰か一人が離れようとしても結局またつるんでしまう。そんな仲だった。
 この情勢下でそう言った友人が居た事は唯一の救いだった。

「僕も明久も四藏も。誰も状況は把握できていない。今把握の為に理事全員で情報収集のために出払ってる。」
「そっか…… そうだよな……」そう言うと、三文字は黙り俯いてしまった。
淳くんあっくん、どうしたの」この異常事態とは言え、今まで見た事のない悲しい表情をしていた。それこそ今にも泣きそうなくらいに。
「晶郁の事なんだけど……」
 唐突に淳の口から弟の名前が出た。そして思い出した、弟もダンジョン攻略の作戦に参加していた事を。
「…… 晶郁も巻き込まれてたか…… で、晶郁が何だって?」
 表向きは平静を装おうとしたが『まさか死んだのか?』と言う考えが一瞬頭を過ぎり、腰が抜け椅子に座りこんでしまった。
「頭部を小鬼に殴られたみたいで…… 意識が戻らない。脚も…… 骨折していそうな感じで。一応固定して北千葉に撤収中だ」
「そっか…… 死んではないんだな。良かった…… 治癒魔法でどうにかならないのか?」
 この世界には治癒を含め魔法が存在した。
 様々な魔法が存在し、それこそWIKIの更新が追いつかない程度に。
 ダンジョンに出る際には大体六人に一人くらいの割合で治癒魔法を使える所謂ヒーラーと呼ばれる人員が配置するのが定石だった。
「治癒魔法も使ったけど、顔色が良くなったくらいで解決しなかった。俺も気にかけてあげてれば……、俺自身の事と撤退の指示で手一杯だった。守れなくてすまなかった」三文字が涙を眼に蓄えながら自分に深々頭を下げていた。
「淳くん、この状況だから気にしないで良いよ……」しょうがない。
 自分も何も出来ていない…… むしろ部隊の撤収を指示出来た淳くんの方が優秀で勇敢だ。それよりも気になる事があった。
「おい三文字、転移石は使わなかったのか?」四藏がそういえばと呟きながら質問した。
 このゲームには〈転移石〉と呼ばれる緊急撤退や拠点間移動などに使えるアイテムがあった。
「転移石は使えなかった。と言うかどこを探しても見つからない。誰一人として持っていなかった」淳くんがそう答えるものだから一守は驚いたような顔に、四藏も「マジかー」と呟きながら頭を抱えていた。
 転移石が使えないと言う事は緊急撤退も、通常移動では時間がかかる場所への移動に制限がかかると言う事だ。
 羽田ゲートの消失と合わせて考えれば転移系の魔法が使えなくなったと言う事だ。

 項垂れていてもしょうがない。現時点での戦闘経験の感想は貴重だ。
「モンスターへの攻撃はどんな感じだった?」淳くんに戦闘時の状況について質問したら大まかな状況が見えて来た。

 三文字自身も詳しく状況は把握しきれいていないが、剣を当てれば切れるし、魔法についても使いたい物を強くイメージしたりゲーム時代の技名を発音し杖等の魔道具を振えば発動する事が出来たそうだ。ゲーム時代のレベルが高ければ高い出力が出る。元の世界にいた時より走っても疲れないらしい。
「火事場の馬鹿力かも知れないけどな」そう最後に付け加えられた。

「それとここに来るまでなんだけど……」戦闘状況の説明が一通り終わった後、淳くんが切り出した。街中の治安の事だ。
 三文字が〈江戸川濕地〉と呼ばれるダンジョンから〈麹町エリア〉現実世界なら東京都千代田区にある日の出財団本館までに来る間、いくつもの探検家同時のトラブルや襲撃等を目撃したとの事だった。
 確かに窓から頻繁に怒号が聞こえてくる。
 欧州風の建物をギルド本部に使用している日の出財団。周辺が二階、高くても三階建の木造建築に囲まれている中、六階建ての本館ビル。その最上階にあるこの会議室。
 そこまで怒号が届くのだから相当の騒ぎだ。

「そうなってくると北千葉に向かってる連中がヤバいかもな……」四藏が要らぬ事をボヤいた。
 負傷者を抱えた一団が街道を歩いている。確かに襲撃するには格好の的だ。

「戻って来たばかりで申し訳ないのだけど……」心を開ける親友を出来れば側に置いておきたい。しかしそうも言っていられる状況ではない。
「淳くんは撤収中の人等と合流して北千葉に戻って拠点防衛に努めて下さい。何が起こるかわからない。他の拠点にも通達を……」とにかく今は、日の出財団と言う組織を立て直さなければならない。
 一通り三文字に指示を出した。各拠点との通信体制確立や拠点防衛計画の策定、装備の補充と備蓄、そして戦闘訓練。

 淳くんには悪いとは思った。ダンジョンから生還し本部まで戻ってきた直後に軍事拠点とも呼べる場所に行ってくれなんて。しかし休んで悩んでいる暇はない。
 約六十名でダンジョンに突入、三十名近い人間が死傷した。そして街中で相次いでいるらしいPK。
 何が起こるか分からない、身を守る行動を最優先にしなければ……
 それに、晶郁の件もある。自分で行きたいがとても抜け出せる状況では無い。淳なら信頼できる。

「三文字さん、ギルド間の抗争に備えて戦闘訓練を行って下さい」四藏君が突然口を開いた。
「ギルド間抗争って……」一守の表情が固まったが四藏は続けて発言した。
「全員が混乱している状況だ、ギルド単位での略奪行為、後先考えず暴動なんて事もあり得る……」四藏は淡々と説明した。
 元はゲームの世界。我々は混乱している中であってもある程度は、現在のところ落ち着いて事に当たれている、
 しかし全員がそういうわけではない。中にはゲーム内の感覚でPKをしている者も居るかもしれない。死ねばホームで生き返るだろうが、死にどの様なリスクがあるのかわかっていない。

「……。承知した」
 少しの間の後、淳くんは自分と四藏の指示を受け入れてくれた。

「財団の備品は財団の予算で揃える。合流前にある程度の資金を両替商から下して構わない。どうせ余らせていたし。大丈夫大丈夫、どうにかなるさ、行った行った」手をヒラヒラさせて自分は淳くんを部屋から追い出した。

 ◆

「どうなってんのよ!」
「あんたネカマだったのかよ!」
「誰か! 誰か! 助けてよ……」
「ふざけんなよっ! おめー、何か知ってんだろ! 教えろよ」

(四藏が居てくれて助かった……。居なかった俺もあいつ等みたいに……)五島はパニックになっている探検家を横目に見ながら思った。

 五島や、伊佐子、優子達は四藏に頼まれた資材や食材の買出しを頼まれ、このゲームの中の街に出ていた。
 小麦や大麦、米等の長期保管 (劣化が設定されていない) が可能なアイテム。今日や明日の食材。消耗品や武具の素材、両替屋に預けた現金の引出し等多岐に渡るものだった。

「今日一日で終わる量じゃないよなーー」
 五島はそんな事をボヤきながら歩いていた。

 探検家が少ない、どちらかと言うとNPCの商家や民家、地方貴族の出先機関等が集中している麹町でこの状況。探検家向け施設が多い神田や渋谷、池袋なんかはどんな状況になっているのか。
 出来れば向かいたくないが武具や消耗品は神田に行かないと充分な量は手に入らない。

 ふと目に入ったのは意気消沈し地面に座り込んでいる探検家。
 幸いな事に我々は大手ギルドの所属で、しかも指令部は生きている。だからこうして今、メンバーを引き連れ買い出しが出来ている。やる事があると言うことは大変良い事だ。

「なぁ五島さん、買い物してて思ったんよ」
 優子が不安そうな顔をしながら話しかけてきた

「NPCってこんなに自由に動き回って、自由に会話しとったっけ」

 優子の言うとおりだ、NPCが本物の人間のようだ。世間話が成立する。NPC同士で商取引をしている。
 混乱している探検家に対して、あるNPCは困惑する表情を浮かべながら、あるNPCは汚い物を見るように。みんな意思を持ちながら行動している。
 ゲームの世界にしては現実味があり過ぎる。本当にこの世界はゲームなのか……。
 そんな事を五島は考えながら街並みを眺めながら歩いていた。
 濃い灰色の瓦屋根の家や商店が軒を連ね、赤や青の鮮やかな袴や着物姿の女性たちに軒先で仕事をする甚兵衛羽織の男性たち。
 荷物や人を乗せ道を行き交う人力車に馬車や牛車。大人達の間をはしゃぎ回る子供達。
 時代劇のセットの中、又は江戸時代にタイムスリップしたのでは無いかと疑いたくなる様な風景だった。

 しかし異彩を放っていたのは街中で走り回る〈領兵〉と呼ばれる、現代でいう軍人や警察官と呼ばれる公務員だ。この世界において(他所のサーバは分からないが)軍隊と警察隊は区別されておらず、領兵と呼ばれる各領地が運営する軍隊によって治安が守られていた。
 所謂〈軍警察〉や〈憲兵〉と呼ばれる様な組織だ。
 元々PKが多く、NPCへの襲撃も可能であったこのゲーム。何のデメリットも無しに襲撃等が行える訳もなく、この領兵にNPCやプレイヤーを攻撃している所を発見されると直ちに戦闘に突入した。強さは中の上、百レベル中、六十から八十程度のレベルがあり隅に置けない存在である。
 五島は生産系スキルしか持っていないので、領兵と衝突をすれば一瞬で制圧されてしまうだろう。
 更に彼ら領兵は魔法が使える。
 この世界で魔法を使う事が出来るのは体力や生命力を犠牲に魔力を手に入れた探検家と、魔法士と呼ばれる極一部のNPC。そして各地方領地に配属された領兵と呼ばれる兵士達だ。
 探検家は魔法を使えて当然だが、本来であればこの世界において魔法士は貴重な存在だ。
 魔法使いがいる時点で元の世界の中の出来事では無い事は明らかだった。そんな事を考えていると唐突に伊佐子が声をあげた。

「茶屋があるじゃん! 団子食ってこうよ!」

 唐突に大声を上げたから何があるのかと思えば、伊佐子が指さした先にお茶屋があった。茶菓子も店の前に並んでいて食欲がそそられてきた。
 五島が頷き馬車に乗っていた仲間に休憩を指示すると伊佐子はお店にかけて行き、優子が待ってと声を上げながら駆けて行った。

「能天気だなー」
 誰にいうでもなく五島は呟くと頭をかきながら二人の後を追って行った。

 ◆

 テーブルや椅子、届けられた手書きの資料を運び終わり、影山はぼんやりと外を眺めていた。
 路上でうずくまり頭を抱える探検家。
 いつも通り街を動き回るNPCとNPCの馬車や牛車。

「しっかしねー。ゲームじゃワンクリックで家具を運べたのに、なんでこんな重い物を手作業で運ばなきゃならないのよ」
 和泉があからさまに不機嫌そうな顔をしながらボヤいている。

「しゃーねーべ。メニュー開けねーんじゃ……。ただまあ、やん事あるだけマシじゃねーの、外の奴等みてぇにやん事なくて頭抱えてるよりか……」
 影山は恵まれてると思った。大手のギルドに所属していて、その運営陣が優秀であった事。この様な異常事態にも拘わらず、的確に指示を出してもらえた。
 影山亮太郎と和泉志帆はこれからこの大会議室で開かれる協力ギルドとの会合の準備をしていた。
 一つに日の出財団と言っても一つのギルドの中で全てが完結しているわけではない。日本列島 (この世界では日本諸島)の各地に拠点を持ち、全ての拠点で同程度の戦力と生産力を確保しようとすると莫大な費用と労力が必要である。
 なので中小のギルドや商人プレイをメインとする生産系のギルドと協力していた。

『それにしても大変に不便な事になった』と影山は感じていた。

 家具を運ぶにしても手作業で運ばなければならない。
 カバンも物を入れれば重くなる。疲労も感じるのだから移動ペナルティだけでは済まない。とにかく疲れる。
 ミーティングをするにしてもネットが無いから紙ベースで資料を作らなければ話にならないし、その紙もワープロや複合機なんて便利な物は当然存在しないから全て手書きだ。

 そんな事を思いながら影山は外をぼんやり眺めていた。
 ゲームの中に放り込まれてから約三時間が経っていた。探検家の泣き声や怒鳴り声は大方収まったように感じられる。
 そのかわり、引ったくりに似た襲撃や探検家同士の武力を伴う喧嘩、駆け回る領兵等、違った騒がしさになっている。
 外をぼんやり眺め考えてたら勢いよくドアが開いた。

「ごめんあそばせ~! あら貴女が光郁ぼっちゃんが話してた和泉ちゃんね。わたしエヌ・テー町会の町会長の御子柴富子よ!宜しくね!そちらが影山くんかしらね、あら、あらあらあら~、よく見たらイケメンさんじゃない、おねえさんトキメいちゃうわね。もう光郁の坊ちゃんったら、カワイイ女の子にイケメンの男の子に囲まれて憎ったらしいたらありゃしない。いっその事連れ帰っちゃおうかしら。ねぇ、お二人ともうち来ない? 来ないの。じゃあ、私も財団に入れてもらっちゃおうかしら」

 会議室にズカズカ入って来て怒濤の勢いで話しかけてきたドラム缶体型のオバさん。
〈エヌ・テー町会〉と呼ばれるシニア世代の寄集め所帯のギルド。
 その町会長ことギルマスの御子柴富子みこしばとみこさんだ。
 紫色の髪の毛にキツイ花柄ワイシャツ、淡いピンク色のスーツ。気合の入ったおばさん臭いファッション。
『こんなアイテムどこで仕入れて来たのやら……』と影山は思った。
 外見通り中身は今年で七十歳と言う後期高齢者プレイヤーだ。
「富子さん、その辺にしといてやんなさい。二人ともすまんね、面倒な家内で。二關君はどこかね」もう一人老人が、〈タタ技研ぎけん〉と呼ばれる探検家魔法士で構成されたギルドのギルマス、御子柴龍太みこしばりょうたが入って来た。
「二關は一守と四藏と会議前の打合せ中です」影山が答えた。
「そうですか、わかりました」少し不満そうな顔をし答えたがすぐに柔和な表情に戻った。

「家内って言ってましたが、ご夫婦なんですか」
 和泉が興味津々に質問した。
「えぇ、そうなのよ。龍太の妻です」ちょっと誇らしげな顔をしながら富子がこたえた。
「家内と言うより助手の様な感じだがな」龍太が答えると「なによそれ」と富子は少々怒りながら絡んでいた。
 龍太は建築学の教授としているとの事。そして龍太の妻、富子もまた建築家で龍太の研究を手伝ってるとの事だった。
「時間もない、話しはまた今度で。この後の会議の件で話しがあるから二關君の所に案内してくれるかな」龍太が表情を少し固くしながら問うて来た。
 影山は『これは会議室の準備から逃げ出すチャンスだ!』 そんな事を考えながら、龍太のお願いを快諾し会議室を後にした。
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