ザ・ネクスト・テラ - The Next Terra -

戶村

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災厄編第1章 災厄の始まり

第2節2款 ギルド日の出財団

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「会議はどんな感じだったー?」
 食事を運び終え、役員会議室に戻ってきた和泉に伊佐子が尋ねた。
 上の階では協力ギルドが集まって会議が開かれている。
 時刻は天辺。食事をしながらであれば会議が少し柔らかくなるのではないか、そのように考えた二關の指示だった。
「若干ピリピリしてましたね。状況が状況ですし……」テーブルに着きながら和泉が答えた。

 協力ギルドとの会議が始まり、和泉、伊佐子、優子、そして羽田ゲートから戻ってきた桐生と桶口で遅めの昼食を摂り始めていた。
「それよりも、銀剣騎士団ですよ。今まで散々財団に攻撃してきておきながら今更協力要請だなんて。何様って感じ」溜息をつきながら伊佐子がぼやいた。
 ゲーム時代に財団最大のライバルにして敵であった『銀剣騎士団ぎんけんきしだん』と呼ばれるギルドが存在した。
 PKが可能であった特性上、財団職員が何度も銀剣騎士団の襲撃を受け、財団がその報復に攻撃をする。この様な事が続いていた。
 今回の騒動をきっかけとする協力ギルドとの会合が開かれる直前、どこから聞きつけたのか、銀剣騎士団が今回の混乱対応で協力を要請。
 更に財団の協力ギルドを集めた会議に誘われなかった事に対して「遺憾の意」を表明してきた。
 さらには今回開かれたギルド同士の会合の結果の公表、今後開かれる会議への参加、今後収集された情報の共有と公開等々を要求してきた。
「二關君はどうするのでしょうね。うちの方が規模が大きいとは言え、東京圏だけで考えれば銀剣騎士団と大して規模は変わらないから。無視と言う訳にもいかないでしょう」優子が昼食の出し汁で戻した煎餅を啜りながら答えた。

 おそらく、銀剣騎士団も財団と似た状況にあると思う。混乱収拾に既に着手し周囲の状況に目が向く様になっている。
 下手に出て来なかったのも、今までの経緯上自ら財団に協力を求めた様に内外に思われたくない。だからこうして財団にふざけた要求をしてきた。
 上っ面は財団と対等な立場で協力を求め、実情はこの危機下に自前だけでは対応しきれないから協力を求めてきた。その様に和泉は考えていた。

 そして、和泉のこの考えは当たっていた。
 銀剣騎士団はこの騒ぎが起こった時間、今回のゲームアップデートで追加された新規ダンジョンへ遠征に出るために羽田ゲートにいた。しかしゲートへ入場する直前、今回の〈転移〉が起こった。
 銀剣騎士団の本拠地は財団本拠地がある麹町から東へ数キロ、現在の神田にあった。羽田ゲートとは然程遠くはない。
 しかし財団で言う〈北千葉拠点〉と呼ばれている様な武力的な拠点は奥多摩にありかなり遠い上に、神田の本拠地は財団と違いとりあえず構えている程度の拠点で規模もかなり小さい。

 そして銀剣騎士団には下部組織を持たず全て自前で済ませると言うのが特徴であった。ゲーム時代にはそれが一番スムーズに事が運びトラブルも少ない最良の方法だった。しかし今回の混乱でその特徴が災いした。
 組織的にPKを率先して行なっていた事もあり友好的なギルドが皆無に等しい、下部組織がないので江戸内に居場所も無いし情報収集力も乏しいかった。江戸内部に規模に見合った拠点もなかった事から騎士団員を江戸内に抱え込む事が出来ないと考えた。
 そして一時的にどこかの軍門に下ろうにも大手ギルドゆえに銀剣騎士団丸々を抱え込めるギルドは日の出財団程度しか無かった。
 銀剣騎士団の団長、大嶺竜太おおみねりゅうたと幹部達はその様に考えていた。
 しかし、財団へ如何にしてコンタクトを取るかを検討していた矢先、財団と関係のあるギルド間で話合いが行われる事がわかった。
 日本一の規模の日の出財団だけでなく商業系ギルドでは東日本で最も大きいギルドの一つ〈一号商会〉もこの会議に参加する事がわかり、銀剣騎士団はこの会談をキッカケに財団と友好的なギルドが一つの閉鎖的な空間となり、江戸で三位の規模の銀剣騎士団が除け者にされるのでは無いかと考え今回の行動に出たのであった。

 そして、この銀剣騎士団の考えは強ち間違いではなかった。会長の一守や理事長の二關はともかく、この会議を開くきっかけを作った四藏は、財団と友好的なギルドで連合を組み、近い将来財団の枠組みに組み入れ、情報、金銭、技術を囲い込もうと目論んでいた。
 この危機的な状況の中、形振り構っていられなかった。ダンジョンでロストした団員の未だに戻って来ない、メニューは開ない、運営にも繋がらない。世界と魔法だけ残りそれ以外のゲーム時代のシステムが死んでいる。
 オマケに会議中に五島から渡された〈治安悪化〉をキッカケとした〈食料危機〉に関するレポートも四藏を悩ませていた。

 ◆

 ギルド会議が開かれる直前、五島は急ぎ財団本館に帰りレポートを作成していた。

 五島は本館に帰る直前、山本や山崎達と共に買出しに出ていた。神田に入り消耗の激しい武具や材料を買い込んでいた。
 〈新シ橋あたらしばし〉と刻まれた神田川に架かる橋のすぐ目の前。NPCが運営している素材屋があった。財団が集中して利用していた事もあり割安で利用できる店だ。店だった。
 五島達が到着した頃には店は外から分かる程に荒らされ、領兵が内部と調査していた。調査していた領兵に話しを聞けば、探検家と思わしき人間が店主を殺害。店の品物を奪い逃げたらしい。
 この後も、あちらこちらで荒らされた店に、襲撃を受け破壊された荷車や船が多くあり、領兵もあっちへこっちへ走り回っていた。
 そして、NPCの運営する店舗では、店仕舞を始めている場所もあった。
「山本さん、山崎さん。今すぐ本館に戻ります。早急に今後の事を考えなければならない状況です。宜しいですね」
 山本も山崎も静かにうなずいた。山本に至っては涙目になっていた。

 本館三階の通称〈自習室〉、タッチダウンオフィスの様な施設があった。
 例え役員であっても個々に役員室もないし固定のデスクも無い。
 ゲーム内でデスクに向かって仕事をする事なんてなかった。ただしスキル取得のための研究にデスクが必要だった。
 故に財団メンバーが共有で使えるデスクが詰め込まれた自習室があった。
 五島が自習室に入った時、幸いな事に誰も居なかった。恐らく皆は屋上や馬場、会議室に固まってるのだろう。

 買い物時に仕入れて来た紙を鞄から出した。
 元の世界の様に書き心地の良い紙も筆記具も無いが、最低限の物はあった。いわゆる和紙と筆だ。しかし墨汁の入ったボトルなんて便利な物は見つからなかった。
 「これで今後は書類を作るのか……」誰に言うでもなく五島は溜息をついた。
 とにかくこの酷い治安だ、いつ自分自身に何が起こるか分からない。考えは全て書き留めておかなければ。そう五島は考え墨を磨り始めた。

 レポートの内容は街の治安崩壊と、それをきっかけとした物流崩壊だ。
 ゲーム時代から物価の概念が存在していた。そしてゲーム内で起こった騒動によって物価が高騰した事があった。
 簡単に言ってしまえば街道を行く商人や、商船を襲えばレアアイテムがドロップするという噂が流れてしまいゲーム内の物流システムが停止した。
 結果的に急激なインフレが起こり初心者が何も買えなくなるという事が起こり運営が資金をばら撒く結果になった。
 現在の状況はそれに似ている。と言う事は似た事が、それ以上の事が起こるかもしれない。
 5年も前の話しだ、皆どうせ忘れてしまっている。五島はその様に感じていた。

 もうすぐギルド会議が開かれる。そこで問題提起をして少しでも良い方向にもって行かなければ東京が崩壊する。
 財団と他のいくつかの中堅ギルドと協力出来れば事態収拾に向ける事が出来るかもしれない。
 その様に五島は考えていた。

 ◆

 協力ギルドとの会議が始まって早三十分くらい経過していた。
 会長の一守、理事長の二關が席に着き、四藏は背後の控え席に座っていた。
 状況が状況だ。次々と新しい情報が入り、それを四藏は取捨選択し二關や一守に伝えていく。他のギルドも同じだ。
 会議中にも関わらず余りにも出入りが多い物だから、会議室の扉は開け放たれていた。

 基本的に情報を纏めた資料を持ってくるのは、どこのギルドも下っ端だ。正確に言えばゲーム時代にレベルがそんなに高くなかった者たちが使いっ走りをしている。
 そんな中、会議室に役員が直々に情報を持ってくるのは珍しい。
 会議室に入ってきたのは、日の出財団役員の五島敬太だった。片手にはそれなり量の資料が抱えられていた。
「四藏さん、現状考えられる懸念事項をまとめました。会議に出すかは四藏さんに任せます」そう小声で残し、五島は四藏に資料を渡した。
「了解、確認する」四藏は五島から資料を受け取り内容を確認した。
 物流崩壊や物価高騰、都市部での食糧危機、郊外への治安悪化の伝播。ゲーム時代に起こった事件や、実際の歴史上の事件を例に出し、良くない事が羅列されていた。『さて、これを発表するかどうか』四藏は心の中で呟いた。
 現在、会議室は重たい空気に押し潰されそうになっている。ダンジョンで財団職員が死傷、通信機器の機能変化、ゲートの消失。これだけで会議は止まりかかっている。
 この中で、更に悪い知らせを届ければ会議そのものが成り立たなくなる。しかも五島が持ってきたレポートは懸念材料だ。早期に対応しなければならないが今すぐ必要と言う訳でもない。
 それであれば、一時的に保留し調査が済んでから共有するのが吉だろう。
「四藏、それはなんだ?」五島が資料を四藏に渡したのを見ていた一守が振り返り聞いてきた。
「財団の内部問題だから会議とは関係ない。後で話す」四藏は敢えて二、三人隣まで聞こえそうなヒソヒソ声で話した。
 そうして五島のレポートは財団役員内で秘匿される事になった。
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