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2章
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「この騒ぎはいったいなんだ」
訓練場が熱狂的な拍手に包まれる中、入口から鋭い声が飛んできた。
振り返ると、そこには見覚えのある顔、昨日、私を助けてくれた王子が立っていた。後ろには宰相らしき重臣と護衛騎士が控えている。
「殿下!」
騎士たちが一斉に膝をつき、私も慌てて姿勢を正す。
アレクシス王太子は威厳のある足取りで訓練場へ入ってきた。その目は私ではなく、地面にへたり込む神官たちへ向けられている。
「神官たちがどうしてここにいる……これは一体どういう状況だ?」
凛とした声が訓練場に響く。神官たちは俯いたまま答えられずにいた。
「陛下の許可がなければ、この城の敷居を跨げないお前たちが、どうしてここにいる。説明しろ」
王子の視線は氷のように冷たい。神官たちは震え上がり、中には涙を流して嗚咽している者もいた。
「も……申し訳……ございません……」
「私は理由を聞いているのだ。まさか彼女を攫うつもりであったか」
「我々は……間違っていました……」
「なに?」
神官たちの言葉に王子が怪訝な顔をし、兵士たちがざわつく。どうやら彼らは私の癒しの力だけでなく、先程の光によって悪意や驕りが浄化されたらしい。教会の高慢な態度は影を潜め、彼らの顔には罪悪感と後悔が色濃く浮かんでいた。
「あなたが……」
王子が私の前に立つ。美人の、しかも権力者ゆえの迫力ある佇まいに一瞬怯むが、その瞳には純粋な好奇心と畏敬の念が宿っていた。
「貴女が本当に聖女であるということが証明されたようだ。聞けば兵士の骨折を癒し、そして神官たちの様子をみるに、あなたには心を浄化する力があると見える。そして昨日、この国には光り輝く一等星があり、今朝には虹。これほど明確な証拠はない」
「いえ、あの……私にもよく分かりません。ただ……なんとなく出来ただけで……」
「それでいい」
王子は微笑んだ。その笑顔は冷徹な王太子の仮面が外れ、少年の素朴さがあった。
「貴女の力こそが聖女の証。女神の祝福は貴女を選んだのだ」
私は戸惑いながらも頷く。本当にそんな大層なものなのだろうか。なんとなく、出来ただけなのに。
「ですが」
王子の表情が再び引き締まる。
「貴女を巡る争いはこれから激化するだろう。特に教会の旧体制派はこの結果を素直に受け入れない可能性が高い」
「え?」
「今日貴女が浄化したのは末端の神官たちだけだ。教会本部の幹部層や保守派は未だに貴女を排除しようと考えているだろう」
「そんな……」
「安心してほしい」
王子は私の肩に手を置いた。
「この国は貴女を守る。エレンダウム王国は貴女を支持する。聖女の力は王国の安寧のために必要不可欠なものだ」
その言葉に嘘偽りは感じられない。王子の目は真剣だった。
訓練場が熱狂的な拍手に包まれる中、入口から鋭い声が飛んできた。
振り返ると、そこには見覚えのある顔、昨日、私を助けてくれた王子が立っていた。後ろには宰相らしき重臣と護衛騎士が控えている。
「殿下!」
騎士たちが一斉に膝をつき、私も慌てて姿勢を正す。
アレクシス王太子は威厳のある足取りで訓練場へ入ってきた。その目は私ではなく、地面にへたり込む神官たちへ向けられている。
「神官たちがどうしてここにいる……これは一体どういう状況だ?」
凛とした声が訓練場に響く。神官たちは俯いたまま答えられずにいた。
「陛下の許可がなければ、この城の敷居を跨げないお前たちが、どうしてここにいる。説明しろ」
王子の視線は氷のように冷たい。神官たちは震え上がり、中には涙を流して嗚咽している者もいた。
「も……申し訳……ございません……」
「私は理由を聞いているのだ。まさか彼女を攫うつもりであったか」
「我々は……間違っていました……」
「なに?」
神官たちの言葉に王子が怪訝な顔をし、兵士たちがざわつく。どうやら彼らは私の癒しの力だけでなく、先程の光によって悪意や驕りが浄化されたらしい。教会の高慢な態度は影を潜め、彼らの顔には罪悪感と後悔が色濃く浮かんでいた。
「あなたが……」
王子が私の前に立つ。美人の、しかも権力者ゆえの迫力ある佇まいに一瞬怯むが、その瞳には純粋な好奇心と畏敬の念が宿っていた。
「貴女が本当に聖女であるということが証明されたようだ。聞けば兵士の骨折を癒し、そして神官たちの様子をみるに、あなたには心を浄化する力があると見える。そして昨日、この国には光り輝く一等星があり、今朝には虹。これほど明確な証拠はない」
「いえ、あの……私にもよく分かりません。ただ……なんとなく出来ただけで……」
「それでいい」
王子は微笑んだ。その笑顔は冷徹な王太子の仮面が外れ、少年の素朴さがあった。
「貴女の力こそが聖女の証。女神の祝福は貴女を選んだのだ」
私は戸惑いながらも頷く。本当にそんな大層なものなのだろうか。なんとなく、出来ただけなのに。
「ですが」
王子の表情が再び引き締まる。
「貴女を巡る争いはこれから激化するだろう。特に教会の旧体制派はこの結果を素直に受け入れない可能性が高い」
「え?」
「今日貴女が浄化したのは末端の神官たちだけだ。教会本部の幹部層や保守派は未だに貴女を排除しようと考えているだろう」
「そんな……」
「安心してほしい」
王子は私の肩に手を置いた。
「この国は貴女を守る。エレンダウム王国は貴女を支持する。聖女の力は王国の安寧のために必要不可欠なものだ」
その言葉に嘘偽りは感じられない。王子の目は真剣だった。
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