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しおりを挟む――《世界魔法暦 379年、黒の月の降る日》。
星の死骸より這い出た少年がいた。
天は裂け、空は逆巻き、塔は逆さに沈みゆく。
魔法至上学園カレド・アルヴの正門前には、幾百の契約者(マギア)が列を成し、式典を待っていた。
その中央――
一人、素足で立つ者がいた。
この世界では、魔力こそが人の価値を決める。
魔導は血に宿り、代々貴族が魔術の系譜を独占してきた。
魂の強さは額に刻まれた魔印(グリフ)の数と輝きで決まるとされ、
神骸、精霊、龍脈との契約はその“位階”を保証する。
《カレド・アルヴ》は、そうした“選ばれし者”のみが入ることを許される塔であり、
その頂きでは「神の遺骸」を学び、「魔導神官」へと至る叡智の道が拓かれる。
いわば、世界の中枢。
魂なき者は足を踏み入れることすら許されない。
それゆえに、門前の列にいた誰もが驚愕した。
――その少年に、魔印がない。
漆黒の学生服もなければ、額にグリフも刻まれていない。
代わりに、煤けた袴に学帽を被り、腰に巻いたのは何の変哲もない木刀一本。
蒼き結界を背負って立つ、異様な存在」
「印が……ない……?」
「……あれは、渇きの徒か?」
そこで、ひときわ年嵩のマギアが呟いた。
「渇きの徒(ドレン・イーター)……。
魂を喰われ、魔印を失った漂泊者の末路だ。
魔力の加護を受けぬ彼らは、長く持たぬ。
やがては『虚ろの者』となり、発狂し、魔骸の餌になる。」
一種の呪いだ。
契約に失敗した者。魔導の道に敗れた者。
それらが魂の渇きを抱えたまま彷徨う――それが、渇きの徒。
だが、彼は違った。
魂を喰われた者にはない“重さ”が、立ち姿に宿っていた。
そのとき、空より声が響く。
巨大な五芒星陣――天に浮かぶ式典制御魔法陣より、威厳に満ちた声が放たれる。
式典管制官マギア・プロト
「……無能力者、名乗れ。
ここは神の塔。魂なき者が通る門ではない。」
それはこの式典を統べる意識体、《マギア・プロト》。
300年の時を越えて保存された、かつての“至高導師”の記憶情報体。
各志願者の魂波を測定し、基準に達しない者を即座に焼き尽くす魔法的裁定者だ。
少年に向けられたのは、嘲笑でも、同情でもない。
――純然たる“排除”の意思だった。
だが、少年は、目を細めて微かに笑い、ゆっくりと口を開いた。
「名乗れ言うんは、名を刻む覚悟がある者の言葉じゃ。
……そっちはあるとか?」
空気が変わった。
何百という精霊契約者たちが、思わず後ずさる。
まるで、それが“魔法”以上の何かに感じられたかのように。
式典管制官が、僅かに声を低くする。
「問答無用。
魂印なき者に、名乗る権などない。
貴様は門前に立つことすら、規律違反である。」
「――規律ちゅうもんは、秩序を守るもんやろ。
魂があるかどうかは、おんしらが決めることじゃなかろうもん。」
「黙れ、下郎。
その口で語る資格など貴様には――」
「なら試してみんか?
わしの魂が、“ほんまに無い”かどうかを。」
ざわめきが爆発した。
神官候補生たちは驚愕とともに魔導防壁を展開し、
貴族の子弟たちは顔を青ざめさせる。
そのときだった。
塔門の左右に伏せていた巨大な石像が動いた。
地響きとともに、守護神骸ギアス=ヴォルカスが起動する。
その存在は、人間と契約せずとも単独で行動する“準・神骸”。
門を穢す魂に、試練として牙を向ける最後の砦。
「よかろう。
ならば試練を。
神骸に抗い、生き延びれば――その魂、認めてやろう。」
咆哮。
結界が震え、天が閃光で裂けた。
神骸の尾が振り上げられ、雷を帯びて振り下ろされる――!
「……いっちょ、礼を言うとくわ」
「今日までわしを、無能無能言うてくれた皆にも、な」
――瞬間
「チェストォォォ!!」
爆音。風が砕け、雷が霧散し、塔の門が炸裂する。
神骸の尾は、途中からねじ切れて飛び散り、
その首に――少年の拳がめり込んでいた。
全員が見た。
魔導も召喚も、契約すら用いず。
ただの拳一つで、神骸を殴り倒した男の姿を。
塔が静まる。
式典管制官が、長く沈黙したのち、こう告げた。
「……資格、確認。
西郷 龍馬。
カレド・アルヴ、正規契約者として、入塔を許可する。」
塔門が静かに開く。
魔力の風が袴を揺らし、グリフを持たぬ男の影が、奥へと伸びていく。
――この日、魔法至上主義の世界に、
拳一つで道を拓く“異端”が現れた。
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