造花より綺麗な睡蓮を。

細雪あおい

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第六話「小鳥の安らぎは」

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 日が高いため、ブランド物のサングラスを掛けて運転する優兎ゆうと
助手席には美虎みこ、後部座席に火の付いていない煙草を咥えたれん、風景をぼーっと見る西尾にしお、簪を刺し直す胡蝶こちょうが乗っていた。
 美虎は先程の胡蝶の姿が忘れられない。
(いつも温和な胡蝶姐さんがあんなに啖呵を切るなんて。私が頭なんて…それより強くなれるのかな)
「美虎嬢、大丈夫ですか?顔が赤いですけど」
 信号待ちをしていて、助手席の美虎を見て心配そうな顔をした優兎が、熱を測ろうと、美虎が幼い頃にしたように無意識に美虎と額をくっつけた。
 美虎は、突然視界に優兎の色素の薄い瞳がどアップになったことに驚き、優兎は自分の無意識の行動に驚いた。
「すみません、すみません、美虎嬢、申し訳ありません!」
「だだだ、大丈夫!熱、測ろうとしたんだよね!熱出たら、危ないもんね!」
 互いに真っ赤になった2人の顔を見て、胡蝶は頭を抱え、
「恋煩いもここまで来ると、わっちらは何も出来んせん…」
 煉は、照れくさそうに頭を掻き、
「美虎嬢も女なんすねぇ…」
 西尾は全てを諦めたような顔で、
「優兎は気が弱すぎます」
 その声も聞こえない程、2人の鼓動は耳元で高鳴っていたのだ。
(大丈夫、優兎は私の心配をしてくれたんだから…嫌じゃないけど……びっくりしたぁ!)
「優兎、気が変わった。焼肉屋だ」
 実は、この車の中で1番地位が高い煉が、優兎に言い放った。
「…了解しました」
 細く息を吐き、冷静になった優兎はハンドルを切ると、尚虎が気に入っていた焼肉屋へ向きを変えた。


 馴染みの店は、商店街の外れにある。外れと言っても、店も新しいし、商店街で買い物をした客が一杯引っ掛けていく上、尚虎が豪快に組の者に肉を振る舞うため、尚虎が来ると、その店の肉が全て無くなるということもあった。
 そのおかげか、店も順調に廻り、閉店することなく、十周年を迎えることが出来たそうだ。
「こんにちはー」
 美虎が入り口で声をかけると、でっぷりと太った店長が調理場からヒョイ、と顔を出した。
「おお、美虎ちゃんじゃないか!」
「こんにちは、尚虎さんがお世話になりました」
「優兎くんじゃない、いらっしゃい!」
 お盆を持った奥さんが後から入ってきた3人を見て、
「おお、見事に『小鳥遊組』が揃ったわね。奥の座敷がいいでしょ?胡蝶ちゃん、着物だけど、座れる?」
「心配いりんせん、わっちが足をはだけても、こいつらの雄は反応しんせんわ」
 それを聞いて、優兎、煉、西尾は苦笑した。事実だからだ。
「確かに、姐さんは色気より殺気ですからね」
「煉、炭火で焼いてやろうか?お前は筋ばかりで美味しくなさそうでありんすが」
 ヘラヘラ笑う煉の頭を胡蝶が扇子でペシっと叩いた。
 奥にある座敷に通され、胡蝶は着物を見事にはだけて、胡座を掻いた。男たちは見慣れているのか平常心だが、綺麗な太ももまでが露わになって、1番関係ないはずの美虎はドキドキした。
 食べる物を注文して、運転手の優兎は烏龍茶、美虎はコーラ、胡蝶と西尾、煉はビールを頼んだ。
 注文すると、すぐに飲み物が来て、各自がゆっくりと飲み、息を吐いた。
「ねぇ、胡蝶姐さん」
「ん?」
 アルコールで少し赤くなった顔で胡蝶が美虎の方を向く。顔が赤くても騙されてはいけない。胡蝶は酔った風にはなるが、悪酔いはしないという珍しい酒豪なのだ。
「なんでそんなに強いの?」
「わっちが?」
「さっき、男の人言い負かしてたじゃん。どうして、そんなに強くなったの?」
「そうじゃのう…」
 もう一口呑んで、少し考えた後、胡蝶が言った。開いた胸元には蝶の刺青。彼女は一体何故、それを彫ろうと思ったのだろう。
「守りたい物と矜恃を、尚虎さんがくれたからじゃわいなぁ」
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