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番外編「鳥のように羽ばたく蝶」前編
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胡蝶に父親はいなかった。いや、実際戸籍上はいるのだが、家にいることは全くなかった。
幼少期、たまに帰ってくる父親に胡蝶が恋しさのあまり駆け寄り、抱きつこうとして、勢いよく蹴り飛ばされた。柱の角に頭をぶつけて、流血し、胡蝶がぐったりしているときにこれ幸いと父親が母親の財布から札を抜くのは何度も見たが。
近所のヤブ医者に近い外科で6針縫った傷跡はまだ胡蝶の後頭部に残っている。
母親も母親で「あの人は、私がいないとダメだから」と言って暴力を全く咎めることなく、見窄らしい格好で夜のパートへ出て父親のギャンブル代を稼ぐためにせっせと働いていた。
当時から胡蝶は小学生なりにも「馬鹿らしい」と思って、冷たい目で見ていた。
不幸中の幸いか、母親は胡蝶が学校を休んでも、母親は文句を言わなかった。ただ、資料費や給食費を払わず、父親に渡してるのを見てから完全に母と喋ることはなくなった。
中学になっても、学校には通わず、学校に行くふりをして、電車を乗り継ぎ、遠くの街の公園で煙草を吹かしていた。当時、まだ煙草は証明書がなくても自販機で買える時代だった。
着慣れないセーラー服に身を包み、煙草の紫煙を燻らせ、まだ春にしては寒い誰も居ない公園で今後のことを考える。
ギャンブラーの父親。
父親に金を渡すのを何処か誇っている母親。
家を出よう、という考えに辿り着くのも時間は掛からなかった。
家出は母親がパートに出ている時に決行した。
持っていくのは、当時流行っていたガラケー、財布、煙草だけ。母親の買う、安い上に吐き気を催す香りの柔軟剤の洋服は全て置いておくことにした。ただ、唯一持って行こうと思ったのは、母が箪笥に入れている「お父さんへ」と書いてある封筒に入った札束だ。
取り出すと、かなりの厚みだった。
父親は金がないと暴れるのは知っていた。このお金がないことで、母親を殴ればいい。喧嘩して、離婚でもすればいい。
いや、邪魔なコブがいなくなったから、復縁するかもしれない。
(なんだ、私が取った方法は強ち間違っていないじゃないか)
玄関を出てから、一度も家は振り返らなかった。人が汚物から目を逸らすのと、同じ原理だった。
電車に乗って、終着駅まで行き、降りる。
近くのビジネスホテルに部屋をとり、食事がない素泊まりのため、興味本位で近くの繁華街に行く。
息を飲んだ。
ネオンが街全体を照らしているようで、暗いところなど、一つもない。建物もおしゃれで、自分の実家の周りでは見られないデザインだ。何もかもが違う。俯いている人などいない。すれ違う人は皆、高級な香水の香りがする。
歩く女性は綺麗に髪を結い、綺麗なドレスを着ている。
(ああ、私もそうなりたいな…)
食事を摂るために出かけたのに、胡蝶は光に群がる虫のように、あるキャバクラへ入っていった。
数日後、黒かった髪をコンビニで売っている安価なブリーチ剤で染めて失敗して斑になった金髪で通販で買った安いドレスに身を包み、キャバ嬢となった胡蝶がいた。
唯一褒められたのは化粧だ。実家にいた時、本屋で立ち読みした雑誌に載っていた方法と独自のセンスで施したメイクは、他のキャバ嬢も羨むほど、美しかった。
しかし、それも長くは続かない。
元々、コミュニケーションがうまく取れないのと、客としてくる男性が自分の父親のように見えて、上手く喋れなくなってしまうのだ。
店をクビになり、入店の時のために、自己投資したせいで所持金は、ほとんどない。
服装も顔つきも見窄らしいと卑下した母親のような状態だった。
(生きてちゃ…ダメなのかなぁ…なんで、私のすること全部上手くいかないんだろう…)
フラフラと歩いている時、ふと手書きの看板が目に止まった。
それは、デリヘルの募集看板だった。
幼少期、たまに帰ってくる父親に胡蝶が恋しさのあまり駆け寄り、抱きつこうとして、勢いよく蹴り飛ばされた。柱の角に頭をぶつけて、流血し、胡蝶がぐったりしているときにこれ幸いと父親が母親の財布から札を抜くのは何度も見たが。
近所のヤブ医者に近い外科で6針縫った傷跡はまだ胡蝶の後頭部に残っている。
母親も母親で「あの人は、私がいないとダメだから」と言って暴力を全く咎めることなく、見窄らしい格好で夜のパートへ出て父親のギャンブル代を稼ぐためにせっせと働いていた。
当時から胡蝶は小学生なりにも「馬鹿らしい」と思って、冷たい目で見ていた。
不幸中の幸いか、母親は胡蝶が学校を休んでも、母親は文句を言わなかった。ただ、資料費や給食費を払わず、父親に渡してるのを見てから完全に母と喋ることはなくなった。
中学になっても、学校には通わず、学校に行くふりをして、電車を乗り継ぎ、遠くの街の公園で煙草を吹かしていた。当時、まだ煙草は証明書がなくても自販機で買える時代だった。
着慣れないセーラー服に身を包み、煙草の紫煙を燻らせ、まだ春にしては寒い誰も居ない公園で今後のことを考える。
ギャンブラーの父親。
父親に金を渡すのを何処か誇っている母親。
家を出よう、という考えに辿り着くのも時間は掛からなかった。
家出は母親がパートに出ている時に決行した。
持っていくのは、当時流行っていたガラケー、財布、煙草だけ。母親の買う、安い上に吐き気を催す香りの柔軟剤の洋服は全て置いておくことにした。ただ、唯一持って行こうと思ったのは、母が箪笥に入れている「お父さんへ」と書いてある封筒に入った札束だ。
取り出すと、かなりの厚みだった。
父親は金がないと暴れるのは知っていた。このお金がないことで、母親を殴ればいい。喧嘩して、離婚でもすればいい。
いや、邪魔なコブがいなくなったから、復縁するかもしれない。
(なんだ、私が取った方法は強ち間違っていないじゃないか)
玄関を出てから、一度も家は振り返らなかった。人が汚物から目を逸らすのと、同じ原理だった。
電車に乗って、終着駅まで行き、降りる。
近くのビジネスホテルに部屋をとり、食事がない素泊まりのため、興味本位で近くの繁華街に行く。
息を飲んだ。
ネオンが街全体を照らしているようで、暗いところなど、一つもない。建物もおしゃれで、自分の実家の周りでは見られないデザインだ。何もかもが違う。俯いている人などいない。すれ違う人は皆、高級な香水の香りがする。
歩く女性は綺麗に髪を結い、綺麗なドレスを着ている。
(ああ、私もそうなりたいな…)
食事を摂るために出かけたのに、胡蝶は光に群がる虫のように、あるキャバクラへ入っていった。
数日後、黒かった髪をコンビニで売っている安価なブリーチ剤で染めて失敗して斑になった金髪で通販で買った安いドレスに身を包み、キャバ嬢となった胡蝶がいた。
唯一褒められたのは化粧だ。実家にいた時、本屋で立ち読みした雑誌に載っていた方法と独自のセンスで施したメイクは、他のキャバ嬢も羨むほど、美しかった。
しかし、それも長くは続かない。
元々、コミュニケーションがうまく取れないのと、客としてくる男性が自分の父親のように見えて、上手く喋れなくなってしまうのだ。
店をクビになり、入店の時のために、自己投資したせいで所持金は、ほとんどない。
服装も顔つきも見窄らしいと卑下した母親のような状態だった。
(生きてちゃ…ダメなのかなぁ…なんで、私のすること全部上手くいかないんだろう…)
フラフラと歩いている時、ふと手書きの看板が目に止まった。
それは、デリヘルの募集看板だった。
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