造花より綺麗な睡蓮を。

第十話「背中に咲くのは」

　いつの間にか眠りに落ちていた美虎は開いたカーテンから差し込む夕日の光で目が覚めた。
　顔を横に向けると、眠っている優兎がいた。
いつもより穏やかなその顔に安心する。常に気が張ったままじゃ、疲れてしまうだろう。
「…お疲れ様」
　ゆっくりと優兎の髪を梳いてやると、シャンプーのいい香りがした。
「ん…」
　空腹を覚えた美虎は、起き上がり、夕食を作っておこうと思った。
冷蔵庫の中にはレトルトが多いため、少しでも栄養をつけてもらおうと、卵、焼き鳥の缶詰で簡単な親子丼を作ろうと思い立った。
　慣れないキッチンに立ち、卵を割り、白出汁を少し入れて、混ぜる。その間にパックご飯を解凍しておく。
　その音に起きたのか、優兎がゆっくりと立ち上がってやってくると、美虎の背中にくっついた。
「美虎、なにしてんの？」
　少し甘えるような口調で言う優兎。いつもは見せないその声や表情にドキドキしてしまう。
「晩ご飯、作ってるんだよ。優兎、先にお風呂入ってきなよ」
「うん」
　美虎の頭をわしゃわしゃと撫でた優兎が、ベランダに出て、干してあったバスタオルを取って、浴室に向かった。
　微かに聞こえるシャワーの音を聞きながら美虎は味噌汁も作ろうと思いつく。
（お豆腐、あるかな？）
　冷蔵庫を覗くと、豆腐、味噌、乾燥ワカメがあって、ストックの充実さに改めて舌を巻く。
　浄水器から鍋に水を注ぎ、コンロに掛けて火をつける。
横のコンロには小さめのフライパンを軽く油を引いて火にかける。
　フライパンが少し温まると、卵を入れ、火が完全に通る前に焼き鳥缶を開けて、混ぜる。
　元々、焼き鳥缶は火が通っているし、味も付いている。簡易的な料理には便利なのだ。
　湯が沸いた鍋には切った豆腐と、乾燥ワカメを入れる。
ワカメを入れるのは、胡蝶から教えられた。ワカメには栄養素が豊富な上に、髪の毛を美しく見せると言う栄養が入っているのだと科学で証明されたとよく言っていた。（ブリーチを繰り返す髪にいいのかどうかは判らないが）
　パックご飯を丼に盛り、親子丼を完成させる。味噌汁も一旦火を止めて白出汁を入れ、味噌を溶く。そして、味見も忘れない。胡蝶のように出来ただろうか、と少し不安だったが、案外、上手く出来た。
　キッチンから、食卓に料理を持って行こうとした時に、優兎が風呂から上がってきた。
「俺が運ぶから、いいよ」
「じゃあ、私、洗い物しておくね」
　ジャージのズボンだけ履いている優兎に少しドキドキしてしまう。腹筋は綺麗にシックスパックに割れている。
あんまり、見ちゃダメなのかな、と思いつつ、気になって顔を上げて美虎は息が止まった。
　優兎の左胸から背中にかけて、流れるような美しい睡蓮の刺青が彫られていたからだ。