造花より綺麗な睡蓮を。

細雪あおい

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第十一話「花と鳥」

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「優…兎、刺青入れてたの?」
「…昔、尚虎さんに許可をもらって、入れた。…似合わない?」
 美虎は、ふらふらとしながら近づき、優兎の背中を撫で、
「すごく、綺麗」
 と呟いた。
 それは本心からだった。胡蝶の胸に入れられた蝶の刺青も綺麗だが、レベルが違う。
ぼかしも線の入れ方も段違いで上手い。今にも風が吹いて、なびきそうだ。
「…私も刺青彫れるようになったら睡蓮彫ろうかな」
「美虎はそんなことしなくていいよ。尚虎さんが悲しむ」
 そう言われたら、逆らえない。渋々を頷き、優兎と共に料理が並んだ食卓についた。
「いただきます」
 好きな人に、料理を食べてもらうのにこんなに緊張するとは思わなかった。もっと、手の込んだ料理にした方が良かっただろうか?
「ん、美味しい」
 親子丼を食べ、味噌汁を啜った優兎が微笑み、安堵する。
「胡蝶姐さんに教えてもらったんだよ」
「そうなんだ、味噌汁の味、ちょうど良くて好き」
「良かったぁー…」
「親子丼の鶏肉もいい感じ」
「あ、これね…」
 美虎も食べながら、優兎に作った料理の説明をする。優兎は、嬉しそうにしながら、たまに質問を交えて聞いてくれた。その時間がたまらなく幸福だった。
「ご馳走様、美味しかったです」
 食器を持って、優兎が立ち上がった。
「あ、いいよ、私がやる」
 美虎が慌てて立ち上がると、
「俺がやるからいいよ」
「でも、優兎疲れてそうだし…」
「じゃあ、半分こしよ。俺が洗うから、美虎が食器拭いて」
「それ、いいね」
 美虎は笑うと、優兎と一緒にキッチンに立ち、優兎が洗った皿を美虎が拭き、戸棚にしまう。
 2人分の食器なので皿洗いは、すぐ終わった。
「私、お風呂入ってくるね」
「行ってらっしゃい」
 
 美虎が優兎から借りたジャージを着て、風呂から上がると、優兎は本を読んでいた。
「…なに読んでるの?漫画?」
 濡れた烏羽色の髪を拭きながら、美虎は優兎の手元を覗き込んだ。
「ん?小説だよ」
 優兎は顔を上げ、ドライヤーを持ってくると、美虎の髪を乾かし始めた。
 入れ替わりのように、優兎が読んでいた本を美虎が読む。
「…『殺人鬼の懺悔参り』…?知らないなぁ…」
「書いたのは子供の頃から小説書いてた小説家。異能力バトルがバチバチでさ。結構面白い」
「ふぅん…」
 パラパラとページをめくっていると、優兎は、
「美虎の髪、本当に綺麗。俺も、黒髪が良かったな…」
「優兎、染めてるんじゃないの?」
「この髪色と目は生まれつき。学生の頃は馬鹿にされたもんだよ…」
 大きくため息を吐きながら、優兎は過去を振り返る。
「突然変異ってあるじゃん?よくペットとか駅にいる色素が薄い鳩とかは『アルビノ』て言って、遺伝子レベルから色素薄いんだよ。俺、人間だけど、なんかそれになったっぽい。だから、美虎の髪には憧れるんだよ」
「そうなんだ…」
 髪を乾かし終えた美虎は良く判らないままでも頷き、
「でも、優兎の髪の色と目の色、綺麗だと思うよ、本当に」
 と、振り返って抱きついた。
「…ありがとう」
 優兎は立ち上がると「おいで」と言って、美虎の手を引き、部屋を出て、自室に向かう。
 ガチャリとドアを開けると、美虎の部屋とは違って、澄んだ香水の香りがするモノクロの部屋が広がっていた。テレビも箪笥たんすも天井も床も白か黒で統一されている。
「一応、掃除はしたんだけど、まぁ男の一人暮らしだったから許してよ」
 部屋の隅にあるダブルベットに腰を据えて、少年のように照れ臭そうに笑う優兎。
 美虎は優兎の過去も一部しかしらない。刺青のこともアルビノのことも初めて聞いた。
 …もっと、優兎のことを知りたい。
 誰よりも、優兎を理解したい。
 美虎はゆっくりと、ベットに腰掛ける。低反発のマットレスが心地いい。
「優兎、今日は一緒に寝ようね。…変なことしたら、怒るから」
「はいはい」
 もぞもぞと潜った温かい羽毛布団に2人は包まれる。
「やっぱ、2人だとあったかいな」
「優兎の体温が高いんだよ」
「…ギュッとしていい?」
「なんで?」
「…暖を取るため」
 照れ臭そうに笑う優兎を見ると、愛おしさが込み上げてきて、
「明日から忙しくなるから、今日は特別に許してやろう」
 と、照れ臭しにふざけて言って、美虎は優兎をギュッと抱きしめた。
 優兎は、温かい体温を感じながら、美虎が穏やかな寝息を立てるまで、手を繋いでいた。
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